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JUNE 2006 28
グループの生販三社を統合
王子ネピアは二〇〇三年四月に、王子製紙
グループの「家庭紙事業」の統合によって発
足した。 それ以前この事業分野には、グループ内に、ネピア、ホクシー、王子製紙家庭用
紙カンパニーという三つの事業体があった。
ネピアは王子製紙の販売子会社。 ホクシーは
旧本州製紙の製造販売子会社で、本州製紙
が新王子製紙と合併したのに伴って王子製紙
グループ入りした。 また、王子製紙の家庭用
紙カンパニーは、名古屋工場・徳島工場の二
つの製造部門を抱えていた。
王子グループでは、これらの三事業体によ
る生産・販売の連携を強化し、市場への迅速
で的確な商品供給とコスト削減を実現しよう
としてきた。 まず、〇一年七月にホクシーの
販
売部門をネピアに統合した。 さらに〇三年
四月には、ネピアを存続・継承会社とする合
併・会社分割によって三つの事業体を統合。
こうして生販一体会社である王子ネピアがス
タートした。
ただし、生販一体になったといっても、発
足当初の管理は従来通りだった。 王子製紙の
二工場で生産するネピアブランドの商品と、
ホクシーの苫小牧工場および東京工場(後に
閉鎖)で生産するホクシーブランドの商品が、
生産から販売までそれぞれに管理されていた。
しかも、合併によって商品アイテム数が一気
に増え、在庫拠点の数も六〇以上に拡大。 需
給業務の効率が著
しく悪化してしま
った。 アイテム数
や拠
点の増加によ
って在庫偏在が起
こりやすくなった
ことから、在庫の
膨張も招いた。
このため王子ネ
ピアは、拠点集約
や商品アイテムの
絞り込みとともに、
需給業務そのもの
を抜本的に見直す
必要に迫られた。
〇三年当時の需給業務は、合併後も二つの
ブランドを別々に管理していたことに加えて、
需給管理が月次サイクルだった点にも問題があった。 月次で計画を立てるため、月の半ば
に欠品が生じても対応できない。 月末のチェ
ックによって、ある商品の在庫が極端に増
え
ているのに初めて気づく。 一方で、工場では
その商品をその時点でも製造中――といった
チグハグな状況がしばしば起こっていた。
そこで同社は〇三年十一月にプロジェクト
を発足して需給業務の改革に乗り出した。
ブランド別の需給管理を一本化して、サイ
クルを月次から週次へ短縮するために需給管
理システムを新たに導入。 販売予測から需給
計画・輸送計画の立案にいたる一連の流れの
SCM
王子ネピア
新需給システムで生販統合を実現
週次管理で在庫日数の半減めざす
王子ネピアは2003年から需給の改善を柱とする業務
改革に取り組んでいる。 組織を見直し、販売予測から
生産・輸送計画作成までの業務を一元化したうえで、
昨秋、週次の需給計画立案を支援するシステムを本格
稼動させた。 グループ内の「家庭紙事業」を統合した
当初は40日分近く抱えていた在庫を、これによって半
減しようとしている。
事業統合のイメージ
【ネピアへの会社分割】 【ネピアとホクシーの合併】
王子製紙 王子製紙
ネピア
名古屋工場
徳島工場
ホクシー
苫小牧工場
東京工場
合併新会社
苫小牧工場、東京工場
名古屋工場、徳島工場
分割 100% 100% 100%
29 JUNE 2006
一元化に乗り出した。 それによって業務の効
率化と需給の最適化を図り、市場への適切な
商品供給体制を確立することで、在庫削減を
狙った。 具体的な数値目標として、需給に関
連する業務日数と在庫日数をともに二分の一にすることを掲げた。
営業本部に業務を集約
王子ネピアの組織は、業務本部・営業本
部・生産本部の三本部からなる。 プロジェク
トは当初、業務本部が実務面を主導していた。
このプロジェクトがスタートした〇三年十一
月当時、需給や物流管理を担当する部署が業
務本部の中に置かれていたためだ。 ただし、
これらの業務は後に、プロジェクトとともに
業務本部から営業本部へと引き継がれること
になる。 この見直しが、業務改革を進める上
で重要な背景となった。
同社は自社工場での生産のほか、協力工場
にもOEM生産を委託している。 ティッシュ
ペーパーやトイレットペーパーなどの家庭紙
は、生活に欠かすことのできない商品だが、
カサ高で運賃
負担力がなく、市場での競争も
激しい。 このような商品を、ユーザーのもと
へ低コストで迅速に配送するため、同社では
消費地近くに細かく在庫拠点(外部倉庫)を
配置する考え方をとっている。 これは家庭紙
メーカーに共通する物流形態でもある。
家庭紙の在庫拠点の数は日用品などと比べ
ると元々多い。 工場で作った商品をこれらの
拠点に在庫し、ユーザーの注文に応じてここ
から配送する。 ちなみに各拠点の物流は、全
国に七カ所ある支店の管轄下にある。
従来の需給業務プロセスは、次のような流
れになっていた。 月に
一度、各支店から上が
ってきた販売予定(販売計画)を営業本部の
営業管理部が取りまとめ、これをもとに業務
本部の生産グループが需給計画を立てて工場
に生産を依頼する。 月次の生産計画が決まる
と今度は、業務本部の物流グループが、生産
計画と支店の販売予定をもとに各地の在庫拠
点に対する月次の輸送計画(在庫補充計画) を策定する。 この流れからも明らかなように、従来は販
売予定と需給・輸送計画を担当する部署がそ
れぞれ異なっていた。 しかも業務本部と営業
本部という二つ
の本部に分かれていた。 業務
効率を高めるためには、こうした
?組織の
壁〞を取り除くことが欠かせなかった。 そこ
で〇四年七月に、まず需給管理と物流管理の
担当セクションを、業務本部から営業本部へ
と移管した。 業務本部にあった「生産グルー
プ」と「物流グループ」をそのまま、営業本
部に新たに設けた物流部に移した形だ。
改革全体のイメージ
(%)
1975 1978 1983 1986 1989 1992 1995
60
50
40
30
20
10
0
量販店本部
卸
店舗
戦略箱
物流
週
販売予測
販売予測
(確定)
週
出荷
生産
在庫
日/週
販売予測
出荷
アイテム(品種)別販売予測
アイテム(品種)別販売予測
銘柄別生販在計画(工場別)
週
システム
需要予測
販売情報
販売予測
生産依頼
ライン別負荷調整
在庫データ
出荷実績データ
需要予測
新製品導入
/終売計画
チェーンストア部
商談
情報収集
営業倉庫入出庫情報、生販在情報、
生産計画、輸送計画(日次・週次)の
共有、確認
在庫把握
在庫分析
配車計画
出荷指示
在庫データ
出荷実績データ
輸送計画
支店
生産日程計画
生産回答
翌週以降の生産計画
生産
週次調達
(W+n週の発注)
資材調達先
工 場 仕入
仕入先
月次PSI
週次見直し
本社、需給統括部
「DP」(Demand Planner=販売予測)
※PSI=Product
Sales Inventory
郡山剛執行役員営業本部
副本部長
JUNE 2006 30
は、出荷量全体に占める特売の比率が八五%
ときわめて高い。 システムによる販売予測の
精度を上げるためには、特売情報をどれだけ
反映できるかが鍵を握っていた。 そこで支店
の営業担当者が販売店と商談を行った際に、その情報を事前に需給システムに取り込むと
いう運用方法をとることにした。 このために
別途「InfoFarm戦略箱」というソフ
トパッケージも導入している。
このような工夫を施したシステムが算出し
た需要予測から需給計画を立てるわけだが、
ここで重要なのが適正な基準在庫の設定だ。
それまでの計画立案は担当者の経験や勘
に
もとづいて行われていた。 市場競争の激しい
商品だけに、欠品を恐れる担当者は、どうし
ても在庫を多めに持とうとしてきた。 「支店
では販売のブレによる欠品を避けようとし、
一方需給の担当者は在庫偏在による欠品を避
けようとして、それぞれが安全在庫を高めに
設定していた。 その結果、トータル在庫が膨
張するという現象が起きていた」とスタート
当初からプロジェクトでシステム構築に携わ
ってきた需給統括部の押田幸雄グループマネ
ージャーは振り返る。
今回のシステム化にあたって同社は、基準
在庫を「回転在庫」と「安全在庫」の二つに
分けて設定する考え方をとった。
「回転在庫」とは工場の生産体制から必要
とされる在庫日数を指す。 家庭紙の生産は、
抄紙などの工程を経てパルプから原紙をつく
り、これをティッシュペーパーやトイレット
ペーパーなどの製品に加工する。 このうち原
紙の製造工程は、銘柄によって期間の違いは
あるものの、おおむね月に一度、集中生産す
るケースが多い。 細かなラインの切り替えを
行うと生産効率が著しく悪化するためだ。 生
産の柔軟性によって市場の変動に対応するに
はかなり制約があり、これを考慮に入れて
一
定数の在庫を持っておく必要がある。 これを
同社では「回転在庫」と定義した。
一方、「安全在庫」というのは出荷の変動
に対応して持つ在庫で、過去の出荷数量の変動率から独自のノウハウによって割り出す。
この「回転在庫」と「安全在庫」を商品ごと
に算出して、需給管理システムのマスターに
登録しておく。 システムでは、予測と実績お
よびこれらの基準在庫をもとに需給計画を立
てて、工場に生産依頼を行う。
さらにこのシステム化によって、輸送計画
の立案まで一元化できるようにした。 従来は、
月末の在庫数量と支店の月
次の販売計画をも
とに、物流部が月単位で支店別の補充数量を
決め、その範囲内で支店が必要に応じて依頼
を出し、各地の物流拠点への輸送計画を実行
このタイミングで、プロジェクトの主導権
も営業本部へと引き継がれた。 新たにプロジ
ェクトの実務上の責任者となった執行役員の
郡山剛営業本部副本部長は、「販売動向をも
とに最適な需給・輸送計画を立てる機能は、
販売の前線に近い組織に置くほうが業務がス
ムーズに流れる」と狙いを強調する。
この一連の組織変更によ
って、王子ネピア
の需給業務は営業本部内に一元化された。 こ
の体制をさらに強化するため、翌〇五年三月
には営業本部の中に「需給統括部」を発足。
それまで同本部の営業管理部と物流部が分担
していた需給関連の業務を、すべて需給統括
部に集約した。 これによって運用を完全に一
本化する体制が組織面で整った。
特売情報を予測システムに反映
ITを活用した仕組みの構築は、日本IB
Mのサーバーとミドルウエアを使って行った。
販売予測と需給計画・輸送計画の立案につ
いては、i2テクノロジーズ・ジャパンの
「DP」と「SCP」というソフトを採用し
た。 過去の実績や最近のトレンドから、まず
「DP」によって週次の販売予測を行い、こ
れをもとに「SCP」で需給・輸送計画を立
案する。 この計画に対する販売・生産・在庫
の実績をもとに、毎週、見直しを行いながら
運用していくという仕組みだ。
とは言え、販売予測は過去の実績データだ
けに基づいて行うわけではない。 同社
の商品
需給統括部の亀松重敬部長
31 JUNE 2006
していた。 これがシステムの導入後は、毎日
の在庫実績と生産予定から自動的に最適な補
充数量を決定できるようになった。
業務日数が八日短縮
需給管理システムは〇五年一〇月に本格稼
動した。 需給統括部の担当者が、支店などと
情報交換を行いながらシステムが算出した予
測値や計画立案の中身をチェックし、毎週、
計画の見直しを行っている。 自社工場だけで
なく、OEM生産を委託する協力工場の需給
についても、システムによって同じように運
用している。
従来、手作業によって月次で生販・在庫計
画を作成していたときには、この業務だけで
二〇日間かかっていた。 それがシステム稼動
後は、週次の計画を三日でこなせるようにな
った。 これを月間で見ると日数は十二日とな
り、計画サイクルを短縮したにもかかわらず
八日
間も削減できたことになる。
「週次で実績を把握できるため、変動に対
する生産の調整も早めにできるようになった。
生産体制の変更に制約はあるが、週次での見
直しに対して、半月後には生産に反映できる
ようになってきた」と亀松重敬需給統括部長
は話す。
需給業務改革がスタートした当初、平均在
庫日数は三八日だった。 これに対して、今年
一〇月にシステムが本格稼動してから十二月までの三カ月間の平均在庫日数は二七〜二八
日に減った。 この在庫水準なら年間で三億円
の保管費用の負担軽減になるという。
もちろんこの在庫削減は、システムの導入
によ
る成果だけではなく、並行して進めた拠
点や商品アイテムの集約との相乗効果による
ものだ。 六〇カ所以上あった在庫拠点の数は、
昨年三月までに二七カ所へ集約された。 今後
もさらにもう二カ所程度の拠点集約を進める
予定だ。 「拠点の数を減らすことで出荷のブ
レ率が小さくなり、安全在庫をそれだけ低め
に設定することができるようになる」と押田
マネージャーは期待する。
また、三年前の事業統合時に八五〇まで膨
れ上がった商品数も、すでに四五〇アイテム
まで絞り込んだ。 「以
前は売れ行きが鈍くな
っているアイテムがあっても、なかなか目が
行き届かなかった。 これからは商品の動きを
見ながら改廃などの見直し策を打てる」と郡
山副本部長は強調する。
この間、物流面では、拠点集約のほかに工
場からユーザーへの直送化も進めた。 現在、
王子ネピアの自社工場は苫小牧・名古屋・徳
島の三カ所だが、販売数量の大きい商品は全
工場で生産して出荷エリアを分けている。 直
送はこれらの商品に限定し、輸送単位が一〇
トン車一台にまとまるユーザーを対象に実施
している。 過去
二年間で直送比率が一〇ポイ
ント上がり、現在ではユーザー配送の四割を
占めるまでになった。 これによって年間に二
億円のコスト削減が可能になったという。
実は、この工場直送の拡大も需給システム
の稼動と密接な関連がある。 直送を行うため
には、販売予測をもとに工場に直送用の在庫
を確保しておく必要がある。 従来はこの数量
も経験と勘で決めていた。 「システムの導入
によって自動的に計算できるようになったこ
とも、直送を拡大するうえで一つの要素にな
っている」(福地裕高物流管理部長)
すでにシステムの本格
稼動から半年が過ぎ
た。 郡山副本部長は「需給業務の円滑化とい
う点では一定の成果が出ている」と評価する。
ただ目標とする在庫日数の半減はまだ達成できていない。 「予測の精度をもっと上げて安
全在庫の設定を見直していく必要がある。 そ
れには(販売ウエートの大きい)特売情報を
営業担当者がきちんと入力することが大切。
システムを理解して需給に対する意識を高め
ることで、精度の高い運用につながる」
三社に分かれていた生販事業の事実上の統
合は、需給システムの稼動によって実現した
といっていい。 目論見通りに統合の成果を出
せるかどうかも、これからのシステムの運用
にかかっている。
(
フリージャーナリスト・内田三知代
)
物流管理部の福地裕高部長
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