ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年6号
ケース
ビジネスモデル--オイシックス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 32 ほとんど頓挫したネットスーパー インターネットを使って食品を販売するネ ットスーパーは、九〇年代後半の米国で相次 いで設立された。
食品市場の規模の巨大さからビジネスへの期待が膨らみ、株式市場から は多くの資金が流れ込んだ。
各社は先行者利 益を確保しようと物流施設などへの投資を果 敢に進めたが、結局、ほとんどの企業が事業 を採算ラインに乗せることができずに破綻し てしまった。
二〇〇〇年前後の日本でも似たような現象 が起きた。
新奇なビジネスモデルを掲げたネ ットスーパーが相次いで起業し、専用物流セ ンターを構える といった計画が喧伝された。
だが、こうした施設を維持できるだけの販売 量を確保できずに、たいていの試みは頓挫し た。
生き残ったのは利幅の大きい健康食品を 扱う通販サイトや、小売店舗の在庫をネット 販売にも流用する変則的な試みばかり。
純然 たるネットスーパーは、ほとんど姿を消して しまった。
ただし、こうした空騒ぎの一方で、生協 (生活協同組合)をはじめとする日常食材の 通販事業(主にカタログ通販)はジワジワと 支持を広げていた。
かつては市民運動の一つ だった生協の「個配事業」(個別配送事業) や、環境NGОを母体とする「大地を守 る 会」や「らでぃっしゅぼーや」などの宅配事 業が取扱高を伸ばし続けていた。
市民運動の延長線上に位置するこうした事 業は、一週間単位で受発注サイクルを繰り返すという共通点を持つ。
利用者には定期的に 商品カタログが配布され、一週間ごとに注文 書が届く。
その一週間後に商品を発注し、さ らにその一週間後に商品が届くという流れだ。
発注した商品が届く際には、前週に配布され た注文書のピックアップと、翌週のための注 文書の配布も同時に行われる。
利用者への商 品配送は各 社とも「専用便」が中心で、その ためにエリアごとに商品を受け取る曜日が固 定されたり、配送地域が限定されるといった 制約が避けられない構造になっている。
過去にはこうした制約や市民運動的なもの ビジネスモデル オイシックス 食材をヤマトの宅急便で全国配送 実業にこだわりネット通販を黒字化 日常食材のインターネット通販事業(ネットスー パー事業)を軌道に乗せた。
書籍やオフィス用品と 違って、毎日の食卓に上る食材は購入者が商品を手 にとって品定めをするのが普通だ。
そのうえ商品が 劣化しやすく、物流に温度管理を要することから、 ネットに乗せるハードルは高い。
オイシックスは独 自の工夫を重ねて、既存の宅配インフラを活用した ビジネスモデルを構築した。
33 JUNE 2006 への抵抗感が、食品宅配ビジネスから一般の 人々を遠ざけていた。
それが最近では「食の 安心・安全」に対する消費者意識の高まりや、 市民運動の生真面目さがかえって安心感につ ながるように風向きが変わってきた。
ただし、 このような変化はインターネットが普及の途 上にあった二〇〇〇年初頭には、まだ不十分 なものでしかなかった。
こうした事情から、二〇〇〇年六月に設立 されたオイシックスは、一部のIT関連マス コミの注目度は高かったものの、さほど目立 つ存在ではなかった。
しかし、設立から六年 が経過した現在、どうやらオイシックスは先 輩格のネットスーパーが乗り越えられなかっ た?壁〞を突き破ることに成功した ようだ。
同社の二〇〇六年三月期の売上規模はま だ二八億円(前期比四〇%増)と小粒だが、 業績は順調に伸びている。
〇三年度にほぼ採 算ラインに到達してからは利益率の向上が続 いており、〇五年度には七六〇〇万円(同八 一%増)の経常利益を確保。
損益分岐点を超 えると急速に利益率が改善しはじめるネット ビジネスならではの効果が表れつつある。
既存の宅配便ネットワークを活用 先行する食品宅配事業とオイシックスの相 違点は、ネットをビジネスモデルの中核に据 えたところだけではない。
物流戦略にも特徴がある。
生協、「大地」、「らでぃっしゅ」の三 事業が、いずれも専用便による配送を主力と しているのに対し、オイシックスは全面的に ヤマト運輸の「宅急便」を使っている。
そし て、これが成功要因の一つにもなった。
前述したように一週間サイクルで受発注を 繰り返す生協などのやり方は、かつての「共 同購入事業」(五人程度のグループを組んで 共同で商品を購入し、グループ内で仕分け作 業などを行う購買活動)の延長線上にある。
「共同購入」は時代とともに「個配」へ とシ フトしてきたのだが、配送日が基本的に生協 側の都合で決まる構図は依然として従来と変 わらない。
これは配送効率を確保するための 工夫でもあり、専用便で配送している限り多 かれ少なかれつきまとう制約だ。
これに対してオイシックスは、配送を全面 的に外部委託することで利用者の自由度を高 めた。
同社のオンラインカタログは毎週木曜 日にネット上で更新される。
ここに掲載され た商品を発注すると、受け取りは原則として 一週間後で、この点は先行事例と同じだ。
た だしオイシックスの場合は、たとえば木曜日 に注文 した商品の受取日を、翌週の木曜〜 翌々週の火曜までの六日間の中から自由に指 定できる。
ヤマ トの「時間帯お 届けサービス」 を使って受け取 り時間を指定 することも可能 だ。
専業主婦 であっても時間 に縛られたくな いというニーズ に応えた。
また?感動 食品スーパー〞 というキャッチ コピーからも窺えるように、オイシックスは 市民運動の生真面目なイメージとは一線を画 している。
単に生きていくために食料を摂取 するのではなく、健康で明るいライフスタイルのために食材にこだわるというスマートな 印象を育んできた。
巧みなマーケティング活 動の 結果、利用者が宅配便の物流コストを納 得して負担してくれるだけの購買単価の確保 に成功した。
もっとも「宅急便」を使った食材の宅配は 試行錯誤の連続だった。
卵を割らずに届ける 工夫や、温度変化に弱いバナナを守る対策、 打撃によって品質が簡単に劣化するトマトを 傷つけない梱包など、配送面で施してきた工 夫は数知れない。
しかも、新たな取扱品目が 増え続けているため、未知の課題がどんどん ロジスティクスチームの原 田陽平氏 バナナの凍結防止梱包柔らかいチーズを保護 宅急便で食材を運ぶために数々の工夫を凝らしている JUNE 2006 34 に据えている健康志向の強い顧客を数多く抱 え、しかも既存事業で冷蔵設備を持っていた。
食材を販売するための条件としては十分だっ た。
実際、この事業はすでに年商六億円程度 にまで成長している。
ネット通販の利用者が四〇歳代以下の女性が中心なのに対して、「店 舗宅配事業」は六〇歳代を中心とするシニア 層に支持されているのだという。
また、物流センターを自社運営しているこ とからもリアルへのこだわりを感じる。
末端 配送はヤマトに全面委託しているが、顧客ご との仕分けなどを行う配送センター(海老名 市)の運営は基本的に自ら手 掛けている。
ロ ジスティクスチームの二人と、商品開発チー ムの三人が配送センターに常駐して日々の業 務を管理している。
極めて現代的なネットベ ンチャーでありながら、物流の現場管理を重 視している点は注目に値する。
物流現場の破綻が招いた危機 とは言え、オイシックスが物流の現場管理 を自ら手掛け始めたのは、実は苦い経験がき っかけになっている。
かつて同社の配送セン ターは栃木県にあり、物流センターの管理も 配送業務と同様にアウトソーシングしていた。
しかし、この体制は脆弱だった。
創業から二 年ほどしたときに、業務委託先の都合で現場 が完全にストップしてしまい、否応なくそれ を思い知らされた。
このとき次の注文客への発送までの猶予は たった三日間しか残されていなかった。
急遽、 新しい物流体制への移行を余儀なくされたオ イシックスは、たまたま以前から接点のあった中堅 物流業者、サンインテルネットに声を 掛けた。
そして同社の海老名の拠点に入居す ることになり、栃木から海老名に配送センタ ー機能を丸ごと移動した。
当然のことながら、 このときの現場作業は混乱を極めた。
オイシックスの従業員は総出で、夜を徹し て出荷作業に当たった。
幸い配送業務を止め るという最悪の事態は回避できたが、このと きから物流現場を自ら管理する体制が動き出 した。
以降は現在に至るまで、常時三〇〜四 〇人いるパート作業者の管理もオイシックス が直接行っている。
ベテランのパート従業員 出 てくる。
同社のロジスティクスチームの原 田陽平氏は、「今はまだノウハウを蓄積する 時期。
少しずつ改善を進めている」と現状を 説明する。
リアルにこだわるネットベンチャー オイシックスを創業した高島宏平社長は一 九七三年生まれ。
東京大学の大学院で情報工 学を専攻していたときに、早くもネット企業 を設立。
卒業後は戦略系コンサルタント、マ ッキンゼーの日本支社でB to C分野のネット ビジネスを手掛けた。
ここで起業のアイデア を練り、二六歳の若さでオイシックスを創業 した。
ネット時代の申し子のような経歴だが、 実は創業時から徹底してリアル(実業)にこ だわってきた堅実な面も持っている。
同社がネットスーパーとは別に手掛けてい る「店舗宅配事業」にこれが如実にあらわれ ている。
この事業は牛乳販売店のネットワー クを使っ て商品を売る、ネット通販とはまっ たく異なるビジネスだ(本誌二〇〇六年三月 号特集参照)。
ネット関連のインフラがまだ 未整備だった二〇〇〇年の創業時に、「ネッ トの将来性は確信していたものの、それだけ をビジネスの柱にするのは危険だと思い、別 に地に足の着いたビジネスを手掛けようとネ ット以外の販路を開拓した。
コンビニやクリ ーニング屋などをつぶさに調べ、残ったのが 牛乳販売店だった」(広報の三嶋国明氏) 牛乳販売店は、オイシックスがターゲット 35 JUNE 2006 を「スーパーバイザー」と称してまとめ役に 据え、現場作業は原則としてパートだけでま かなっている。
オイシックスの社員の役割は、 センター全体の管理や物流品質の改善だ。
すべてを手探りで構築してきたこともあり、 昨春には現場管理の難しさにも直面した。
四 月の契約更改期に現場が慢性的な人手不足 に陥ってしまったのである。
「通常、物量の ブレには人材派遣会社を使って対応している。
ところがパート社員が予想以上に辞めてしま った。
コストが上がる一方で、作業効率は著 しく悪化し、ベテランのパートさんに大きな 負荷をかけてしまった。
このときの反省を踏 まえて、その後は部 門ごとにリーダーやサブ リーダーを置き、それぞれに責任を持って業 務を手掛けてもらう体制を構築してきた」と ロジスティクスチームの原田氏は述懐する。
言うまでもなくネットスーパーは強い物流 がなければ成立しない。
しかもオイシックス の場合は、市民運動のような特有の連帯意識 とは無縁の、ビジネスライクな世界で事業を成立させる必要がある。
このことを苦い経験 を通じて再認識した同社は、それまで以上に 物流を重視するようになった。
課題は使用済み梱包材の回収 現在、オイシックスのネットスーパーでは 常時一三〇〇品目を扱っている。
季節限定商 品まで含めれば年間の取扱アイテム数は約二 二五〇。
ここに毎月一〇〇品目近いペースで 新たな商品が加わっている。
「常時二六〇〇 品目くらいを品揃えできるようになれば、一 般の食品スーパーと遜色ないレベルになる」 (広報・三嶋氏)と考えて商品の拡充を進め ているのだという。
アイテム数が増え、売り上げが伸びれば、 物流現場にかかる負荷は大きくなる。
これを 限られたスペースと人員で処理するためには、 作業の効率化が欠かせない。
だからこそ現段 階では、3PLなどに物流 業務をアウトソー シングすることは考えていない。
「日常の出 荷作業をこなしながら変化に対応していくこ とが求められている。
自分たちでやっている からこそ、予想外のトラブルにも柔軟に即応 できる」と原田氏は強調する。
海老名の配送センター内では、自動化機器 をほとんど使わずに仕分けや梱包作業をこな している。
室温一〇度に設定された庫内には ?コの字型〞の作業ラインがあり、ここでピ ッキング→検品→梱包→出荷という一連の流 れ作業を手掛けている。
工程はシンプルだが、 作業品質を確保するための工夫が随所に凝ら されている。
過去に配送時のトラブルがあっ た顧客に対応するための工夫もある。
完成さ れた現場ではないからこそ、変化に柔軟に対 応することが可能になっている。
物流面の最大の悩みは、配送後の空容器の 処理だ。
専用便を使う生協などのビジネスモ デルでは、納品時に前回使った空容器を回収 できる。
しかし、宅急便を使うオイシックス にはこれができない。
過去には実験的に回収 物流の仕組みを試したこともあったが、どう してもコストが合わ なかった。
「回収物流を やろうとすれば究極的には自社配送しかない。
そうなれば配送時間やエリアを限定しなけれ ばならず、悩ましい課題だ」と三嶋氏。
しかし、段ボール箱ばかりか、冷凍品のた めの発泡スチロール容器まで一方通行で使っ ている現状のままでは、これからの時代に広 く消費者の支持を得るのは難しいはずだ。
す でにオイシックスの業績は、株式を公開でき るところまできた。
仮に上場となれば社会的 側面への要請はさらに強まる。
ネットスーパ ーというビジネスモデルが本当に日本で根付 くかどうかは、こうした課題のクリアが条件 になる。
(フリーライター・岡山宏之) 大半の作業は紙伝票と人手でジ ャ ガ イ モ 等 の リ パ ッ ク 作 業 コの字型に配した作業ライン ヤマトの端末で入力処理を実施 配送センターは原則として自前で管理している

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