ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年6号
海外Report
汎ヨーロッパの3PLは存在するか3PLとの契約を打ち切る理由とは

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2006 42 慈善活動のロジスティクス 司会(フレイト・トレーダーズ ゲーリー・ マンセル マネジング・ディレクター) パ ネリストの方々の最初の発言として、簡単な 自己紹介をお願いしたいのですが、その前に、 この座談会の司会を務めます私自身のことを 手短に紹介させてもらいます。
私は、フレイ ト・トレーダーズ(Freight Traders )とい うネット上で求貨求車情報を扱う会社のマネ ジング・ディレクターです。
二〇〇〇年にで きたこの会社は、荷主と物流企業の間に立っ て、貨物輸送の契約成立のためのビジネス環 境を提供しています。
二〇〇四年は、約一二 億ユーロ(一六八〇億円)相当の貨物の取引 が、われわれのネット上で成立しました。
仕 事柄、多くの荷主企業と物流企業との付き合 いがあります。
続いて、パネリストの方々に 自己紹介をお願いします。
イン・カインド・ディレクト ロビン・ボ ー ルズ CEO(以下、カインド) イン・カ インド・ディレクト(In Kind Direct )は各 種チャリティーのための物品を提供する慈善 団体で、英国皇太子によって設立されました。
活動の開始は一九九七年で、国内外の製造業 から物品を寄付してもらい、それをチャリテ ィーイベントに提供するというのが活動内容 汎ヨーロッパの3PLは存在するか 3PLとの契約を打ち切る理由とは 3PL企業の大型合従連衡が続くヨーロッパで、荷主はどんなメリットを享受している のだろうか。
3PL企業の規模が大きくなる中、荷主がヨーロッパ全土の業務を任せるこ とができる企業は存在するのか。
また、荷主がこれまで取引のあった3PL企業を捨てて、 新たな取引先を選ぶ理由とは何なのか。
規模や業態も違う、三つの荷主企業・団体が、率 直な意見を交換した。
(取材・編集 本誌欧州特派員 横田増生) 欧州3PL会議2005報告《第4回》 フレイト・トレーダーズのゲーリー・ マンセルマネジング・ディレクター パネリスト イン・カインド・ディレクト ロビン・ボールズ CEO IBM デーブ・リディングトン 輸送・ロジスティクス プロジェクトマネジャー ジレット・イベリア マーク・スラップナー ロジスティクス担当マネジャー 司会者 フレイト・トレーダーズ ゲーリー・マンセル マネジング・ディレクター 荷主座談会 43 JUNE 2006 です。
提供してもらうのは、企業が本来なら 廃棄処分にするような製品で、一例を挙げる と、染料の配合が間違って灰色になったトイ レットペーパーや、香料が蒸発してしまった が、そのほかには問題のないシャンプーとい ったようなものです。
これまでの九年間の活 動で、五五〇社から合計四五〇〇万ポンド (九〇億円)相当の製品の寄付を受け、三七 〇〇のチャリティー活動に提供してきました。
われわれの活動の柱の一つは、製造業者から 受け取った製品を、チャリティー団体に輸 送 することです。
IBM デーブ・リディングトン 輸送・ロ ジスティクス プロジェクトマネジャー(以 下、IBM) 私はIBMで輸送・ロジステ ィクスのプロジェクトマネジャーを務めてい ます。
IBMで働く前は、トラックのドライ バーや倉庫のマネジャー、輸送業務のマネジ ャーといった経験を積んできました。
現在は、 イギリス国内外の輸送業務を担当しています。
この一〇年ほどは、イギリス国内におけるロ ジスティクスに関するアウトソーシングの業 務にかかわってきましたが、その段階に一区 切りがついた現在、ヨーロッパ全土を視野に 入れたアウトソーシングに取り組んで います。
ジレット・イベリア マーク・スラップナー ロジスティクス担当マネジャー(以下、ジレ ット) 私はジレットのイベリア半島(スペイン・ポルトガル)におけるロジスティクス 担当マネジャーをしています。
マネジャーに なって三年目になります。
私がマネジャーに なったとき、社内にはそれまで取引のあった 3PL企業に対して強い不満がありました。
コスト・サービスの両面で、われわれが望ん でいたレベルとは大きく隔たっていました。
マ ネジャーになってから取り組んだ大きな仕事 として、それまでの3PL企業との取引を改 め、コンペを開き、新たな取引 企業として現 在ドイツポストグループに入ったエクセルを 選びました。
私は、コンペの開催、3PL企 業の選定、契約、業務の立ち上げに、その責 任者としてかかわりました。
大企業への委託=成功にはならない 司会 まずは、ロビン・ボールズさんにうか がいますが、イン・カインド・ディレクトは 最近、3PL企業との取引を見直したように うかがっています。
その経験を踏まえて、3 PL企業への提言をお願いしたいのです。
カインド 私たちは、それまで八年半付き合 いのあった3PL企業との取引を打ち切りま した。
新たな3PL企業との取引をスタート して半年が経ちます。
私たちの元には、寄付 の製品が、製造業から貸切便で届くこともあ りますが、大半は小包かパレット単位 で届き ます。
それを物流センターに保管して、チャ リティー団体から要請を受けると、小分けに して出荷するのです。
製品は無料ですが、物 流費は各団体が支払います。
ですから、ロジ スティクス業務に関しては、チャリティー団 体がお客さんになるのです。
これまで取引のあった3PL企業は、いわ ゆる大企業で、世界的にも有名な企業でした。
しかし、事業規模の大きさが必ずしも顧客満 足度とは比例しませんでした。
毎月のように 同じようなクレームが寄せられ、そ れが改善 される見込みがないという状態でした。
われ われのお客さんは、3PL企業にとってもお 客さんであるという認識が不足しているよう に見えました。
世界的に大きなネットワーク を持っていたとしても、それだけでは顧客の 要望にこたえることはできません。
それぞれの荷主には、特有の事情があり、それを満足 させることができなければ、取引は長続きし ません。
IBM 当社が3PL企業との間に求めるも のの中で、一番大切にしているのは信頼関係 です。
IBMはこれまで多くのアウトソーシ ングを経験してきましたが、信頼関係を築く のに大切な時期というのが、われわれが契約 の前段階として設けているデュー・デリジェ ンス(due diligence )と呼ばれるテスト期間 です。
しばしばこのデュー・デリジェンスの 間、受け身になって自分たちからは積極的に イン・カインド・ディレクトのロビ ン・ボールズCEO JUNE 2006 44 われわれにアプローチしてこない3PL企業 が少なくないことに驚かされます。
この期間、 3PL企業はわれわれの要望や業務の実態を 知る必要があり、逆にIBMはきちんと業務 内容を説明する必要があるのです。
契約を結 ぶ前に、相互理解を深め、お互いに誤解のな いようにしようとしているのです。
しかし3 PL企業でこの時期をうまく使いこなしてい ない例が数多く見受けられるのがとても残念 です。
司会 イン・カインド・ディレクトが新たな 3PL企業を選ぶ決め手になったのはどうい う点でし ょうか。
カインド 私たちにとって大切だったことは、 3PL企業がどんなサービスや特徴を持って いるかということよりも、それを使ってどれ だけ私たちの業務プロセスの効率を上げてく れるのか、ということでした。
宣伝文句がど れだけ立派であっても、私たちが毎月のよう に製品を送ったチャリティー団体からのクレ ーム処理に時間をとられてしまっては、意味 がないと考えたからです。
事前に行動を起こすのが肝心 司会 IBMはこれまでも長年、ロジスティ クス業務をアウトソーシングしてきました。
3 PL企業を選ぶときは、どんな能力を考慮に 入れているのですか? アウトソーシングす るのと、インハウスで行った場合の比較は行 っているのでしょうか。
IBM 当社は、コア・コンピタンスでない ロジスティクス業務について、これまで常に アウトソーシングしてきました。
そのため、イ ンハウスの場合との比較は行っていません。
ど んな基準で3PL企業を選んでいるのかにつ いては、第一は業務を行う地域。
現時点ではヨーロッパのほぼ全域をカバーしており、将 来的には世界規模のネットワークに広げる能 力があ る企業を探しています。
もう一つは、わ れわれの立場に立って、業務に取り組んでく れるかどうかという点です。
先ほど、荷主の 顧客は3PL企業の顧客であるという認識を 持ってほしいという意見がありましたが、ま ったく同感です。
同時に、IBMのサプライ チェーン全体を見渡しての、コスト削減提案 ができる能力も考慮に入れています。
司会 ジレットはエクセルを新たなパートナ ーとして選んだばかりですが、3PL企業が 契約を勝ち取るには何が必要でしょうか。
そ の契約を延長したり、さ らに取引内容を拡大 するには何をすればいいのでしょうか。
ジレット 契約を勝ち取るには二つのことが 不可欠です。
一つは、基本的なことですが、 やると約束した業務はきちんとやる、という ことです。
リードタイムやピッキングの精度 など、話し合って決めたことを遂行する能力 です。
基本的なことですが、日々の業務の中 で実行するのは必ずしも簡単なことではあり ません。
もし3PL企業が業務開始後に、約束して いたことを果たせないとわかったら、早急に 話し合ってほしいのです。
われわれが手助け することで問題が解決 することもあるはずで すから。
われわれの顧客である、小売業者や 卸からクレームとなって現われる前に、教え てほしいと思っています。
二つ目に必要なのは、イノベーション、業 務革新です。
3PL企業には常に業務プロセ スを改善してほしいと望んでいます。
それは RFID(ICタグ)などの最新技術を業務 に取り入れる準備をすることでもあるし、ま た、小さな?カイゼン〞を積み重ねて、自分たちの作業効率を上げることでもあります。
荷 主から何かできないのか、と言われてからス タートするようでは、手 遅れになりかねませ ん。
自ら改善できる余地を探して準備するこ とが大切です。
次に契約を更新したり、ビジネスを拡大す るためには、新規のサービスを提供すること が欠かせません。
ジレット・イベリアの場合 では、現在、百貨店などの大手取引先から、 全体の流れとは違った個別のロジスティクス 業務体系を組み立てることが求められていま す。
これを3PL企業自らが、私たちの代わ IBMのデーブ・リディングトン輸 送・ロジスティクスプロジェクトマ ネジャー 45 JUNE 2006 りに考えて実行してくれるのなら、契約更新 やビジネスの拡大につながるでしょう。
大事なことは、事前に行動を起こすという 点だと思っています。
例えば、荷主がある輸 送方法を提案したとしても、その荷主だけに しか通用しないビジネスモデルなら、汎用性 がなく料金も割高になるでしょう。
しかし、他 の荷主も巻き込むことができれば、料金的に も魅力ある新サービスとなるはずです。
繰り 返しになりますが、先手を打って考えること で、いろいろな可能性が広がっていくと思い ます。
成功報酬を独り占めしない 司会 たとえ3PL企業が荷主に魅力あるサ ービスやコスト削減提案をしても、荷主がそ の成功を独り占めしてしまえば、時間をかけ て作った提案も、3PL企業には報いの少な いものになることもある。
3PL企業がいま ひとつ提案営業に本腰が入らない理由はこの あたりにある、という声もあります。
3PL 企業と契約を結ぶ際に、そういった提案に報 いるような条項は入っているのでしょうか。
ジレット いわゆるゲイン・シェアリングと 呼ばれる成功報酬は、ジレットの場合、プロ ジェクト単位 で発生することが多いのです。
あ るプロジェクトに取り組んだ結果、その成果 をどう分けるのか、というように。
ただし、契 約を結ぶ際にはどんなプロジェクトに取り組 むのかはわかっていません。
そのため、契約 後のプロジェクトの成功報酬については、紳 士協定のようなかたちで行っています。
契約 にゲイン・シェアリングやリスク・シェアリ ングまでを含んでいる荷主企業は、まだ少な いと思います。
司会 これまでの議論の中にも出てきましたが、ヨーロッパ全土をカバーするような3P L企業はすでに存在するのでしょうか。
IBM われわれは四年前から、アウトバウ ンドのロジスティクス業務にお いてヨーロッ パ全土をカバーする3PL企業を探してきま した。
われわれが求めたのは、完成品の輸送 と補修部品の輸送業務です。
結論から言えば、 二つの業務は、別々の3PL企業にアウトソ ーシングしています。
両方の業務をわれわれ が期待するレベルと料金でやれる3PL企業 を見つけることはできませんでした。
われわ れが3PL企業を選ぶ際は、今後に業務内容 と業務地域が拡大するのかどうかという点も 大切なポイントでした。
ジレット ジレットはこれまで、ヨーロッパ では地域ごとのロジスティクス体制を組んで きました。
それは、まだ 一つの3PL企業に 全部を任せることができないと考えているか らです。
業界ではよく言われていることです が、地図上ではヨーロッパ全土をカバーして いるような3PL企業でも、国ごとに、隣同 士の国においても、サービスレベルや内容が 大きく隔たっていることがあります。
ヨーロ ッパ全土を安心して任せることができる3P L企業というのは、まだ概念上でしか存在し ないと思っています。
司会 最後の質問になりますが、荷主が3P L企業の業務効率向上のためにできることは 何でしょうか。
ジレット 当社はコンペを開催する際やその 後の日 常業務において、われわれの求めるサ ービスレベルや業務内容を正確に伝えること を心がけています。
そして、われわれのやる ことと、3PL企業のやること、またはわれ われの顧客である小売業者のやることをきち んと区別して考えることも必要だと思っています。
IBM われわれは、3PL企業に要求する ことをきちんと体系立てして説明する責任が あります。
どんな業務が必要なのか、またど んな業務は必要ないのかを含めて、はっきり させる必要があるのです。
3PL企業の業務 内容は、われわれの要求の方法によ って大き く変わってきます。
「全部任せた」というよう な、いい加減な丸投げをするのではなく、事 前にロジスティクス担当者はもちろん、社内 の関連する部門もしっかりと考えることが大 切になります。
ジレット・イベリアのマーク・スラッ プナーロジスティクス担当マネジャ ー

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