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JUNE 2006 76
産学連携を考える(日本編?)
日本
米国
米国に比べ、遅れていると言われる日本の産学連携。 でも、
全く進んでいないわけではありません。 今回は、一歩進んだ取
り組みとして、「学」が進める地域密着型の産学連携と、「産」
による研究・教育の二面的アプローチをご紹介します。
(本誌編集部)
>
前回は、国立情報学研究所の廣瀬弥生さんに、日本における
産学連携の全体像についてインタビューしたね。 お話を伺って、
ロジスティクス分野での産学連携がどのように行われているの
か、実際のところを知りたくなったよ。
Y
ロジスティクスの産学連携について、興味深いお話をしてく
れた方がいらっしゃるの。 東京海洋大学助教授で、今年から多
摩大学大学院の客員教授になられた黒川さん。
S
ゆきちゃんの先生だね。 どんな方なのか楽しみ。
共同研究をきっかけに、銀行から融資も
Y
黒川先生、こんにちは。 先生が、ロジスティクスの中でも得
意とされている研究テーマはどのようなものですか?
K
在庫管理や作業改善に関するものです。 数式を用いて考える
研究が多いのですが、最近は、作業改善研究の一環として、ビ
デオ画像をもとにした動作解析も行っています。
Y
とても具体的で興味深いですね。 ところで、東京海洋大学の
産学連携では、現在どのような動きがあるのでしょうか?
K
地域連携の強化として、地元自治体・金融機関との連携を
深めています。 金融機関との連携では、銀行の顧客と共同研究
を行ったり、技術相談会を開催したりしています。
最近は、この銀行顧客との話が多く、例えば、地元メーカー
からは、商品の欠品や過剰在庫を避けるために、需要予測や在
第7 回
Sawako
Yuki
Sawako
Yuki
Kurokawa
Yuki
Kurokawa
東京海洋大学ホームページ
http://www.kaiyodai.ac.jp
トップページの「地域のみなさまへ」または
「企業のみなさまへ」をクリックし、「研究・社会
連携」の「社会連携推進共同研究センター」にア
クセスすると、センターの案内のほか、具体的な
活動内容を知ることができる。 情報のアクセスの
しやすさからも、社会に開かれた大学という印象
を受ける。
77 JUNE 2006
庫管理をどうすればよいかという相談がきています。
この産学連携がユニークな点は、共同研究の内容によっては、
銀行が顧客に対して研究に必要な資金を新たに融資することも
あるところです。
Y
その銀行の動きは興味深いですね。 産学連携の今後の発展に
向けて、大切だと思われるのはどのようなことでしょうか?
K
企業が共同研究を行うための研究費が減税されるなど、産学
連携を取り巻く環境はよくなっています。 しかし、まだまだ企
業と大学との交流の機会は少なく、大学が何をしているのか、
また、どのような技術相談に応じてもらえるのか知られていな
いように感じます。 先日も、地元企業の方から、地元大学であ
りながらロジスティクスに関する学科があるのを知らなかった
というお話をお聞きしました。
また、産・学の連携を更に強めるために、大学は研究成果を
提出して終わるのではなく、具体的な物流改善に取り組むよう
な場合、ある程度、実際の改善にも関わる必要があるように思
います。 計画(Plan)時の前提や仮定と異なる条件で実行(Do)
しても、期待する成果を得ることはできません。 必要に応じて
PDCA(Plan Do Check Action:計画・実行・結果の確認・
行動)サイクルの全ての場面で大学が協力できるようになると
よいと思います。
Y
なるほど。 確かに、部分的な依頼に基づく改善だけでなく、
全体像として取り組める体制が、双方に必要ですね。
K
この他、中小企業の方の中には、共同研究を行う際の人材や
資金調達の面で苦労されている場合もあり、そうした面を支援
する仕組みがあると、産学連携をもっと活用しやすくなると思
います。 先の銀行からの融資もその一つの方策と言えます。
Y
面白いお話をどうもありがとうございました。 ロジスティク
スの産学連携の実際と新しい側面が垣間見えました。
産学連携には2つの側面がある
S
黒川先生のお話を伺って、産学連携の改善すべき点がより浮
き彫りになったね。 そこで、私の古巣であり、今でもお世話に
なっている、フレームワークス技術顧問で和光大学教授でもあ
る高井さんにお話を伺ったところ、次のように教えてくださっ
たよ。
>>>Forwarded Message(メッセージ転送)>>>
Yuki
Yuki
Yuki
Kurokawa
Kurokawa
Sawako
技術相談会(上)技術研修会(下)の
様子(東京海洋大学ホームページより)
JUNE 2006 78
フレームワークスでは、研究と教育の両面から産学連携を行
っています。 研究の面では、静岡大学工学部と共同で新しい解
法の研究をしており、その他の大学とも共同研究を進めようと
しています。 共同開発した新しい解法は、物流パッケージソフ
トの機能拡張やコンサルティングツールとしての活用を期待し
ています。 また、教育の面では、東海大学に寄付講座を設け、
物流情報システムの授業で社員が講師を務めています。
こうした取り組みを、企業として行っているところに意義が
あります。 今後、より多くの企業が協力し、日本のロジスティ
クスの水準を高めていけたらと思います。
Y
日本では、産学連携に力を入れる企業はまだ少数派だからね。
ところで、ロジスティクスの産学連携を日本で推進するため
に、高井さんは何が必要だとお考えなのかな?
S
それについては、こんなメッセージをくださったよ。
>>>Forwarded Message(メッセージ転送)>>>
まず、「産」の意識改革をすることが、先決で効果的です。
「産」の人たちは、自分たちの仕事に「学」が役立つことをもっ
と認識する必要があります。
もともと、製造業や医学、薬学などでは産学連携がそれなり
に行われて来ました。 最近では、ロジスティクスにおいても、
「学」の持つ価値への認識が生まれつつあります。 例えば、物
流コスト分析や需要予測、統計的手法による在庫最適化、KPI
(重要業績評価指標)、ロジスティクスネットワークの最適化な
どを重視する企業が増えてきています。 これらの重要性・必要
性を、「学」から「産」へと具体的に示していけるといいですね。
Y
確かに、その通りだと思う。 でも、どこにどういう専門学者
がいて、どんな能力をもっているのか、「産」は把握できていな
い。 この現状を変えるには、何をどうすればいいのだろう?
S
「相互理解を進める意欲と機会が大事です」と、高井さんが
よくおっしゃっていた。 具体的には、「ロジスティクス関連企業
が、学会などの活動に参加する。 学者もロジスティクス関連企
業のセミナーや展示会、現場見学に足を運ぶ。 また、JILS(日
本ロジスティクスシステム協会)等の専門機関も積極的に大学
関係者にPRし、現場見学やセミナーの便宜を図る」といった
ことを挙げていらした。
Y
なるほどね。 さわちゃんは、オハイオでそういう活動に参加
したことはある?
S
Yuki
Yuki
Sawako
年1回終日で行われる、CSCMPコロ
ンバスラウンドテーブル主催のセミナ
ーに参加した。 ちなみにラウンドテーブ
ルとは地域支部のようなもので、オハ
イオ州には、コロンバスの他にシン
シナティとクリーブランドにもあ
る。 ラウンドテーブルについては
h t t p : //www.cscmp.org/Website/R
oundtable/Whatis.aspで詳しく説明
されている。
セミナーの参加者は約50名。 ロジス
ティクスプロバイダーの他、製造業者や
コンサルの姿も見られた。 OSUからは、
教授と学生10名ほどが参加。 学生がネ
ットワークづくりをする場所として、
CSCMPはしっかりと定着している模様。
今セミナーは、ロジスティクスのみでな
く、州の経済政策やチェンジマネジメン
トのセミナーもあり、大変充実していた
(次ページ表参照)。
ロジスティクス関連では、WERC(Warehouse
Education and Research
Council)という団体によるメトリック
ス調査のプレゼンや、その創設者(Kenneth
Ackerman氏)による倉庫オー
ディットの話も興味深かった。 倉庫オー
ディットとは、倉庫のパフォーマンスを
診断するもので、顧客からのフィードバ
ック、メトリックス、ハウスキーピング、
損傷の4つの側面から成り立つとKenn
e t h 氏は唱える。 彼は『A u d i t i n g
W a r e h o u s e P e r f o r m a n c e 』と
いう本の著者。 同書の詳細は
http://www.warehousingforum.co
m/bookstore.htmlを参照。
私が個人的に良いと思うのは、
C S C M Pのイベントの1つ1つが学生
料金を設けていること。 例えば、今イベ
ントは一般150ドルのところ学生は50
ドル(朝食・昼食含む)。
人材の育成と団体会員の維持という目
的の下で、CSCMPが企業と学生のネ
ットワークづくりの場として成り立つた
めにされているこの工夫は、日本でもう
まく取り入れることができたらよいなと
思う。
Sawakoメモ
Yuki
Sawako
CSCMPコロンバスラウンドテーブル
スプリングセミナー2006
Sawako
79 JUNE 2006
うん。 CSCMP(サプライチェーンマネジメント・プロフェ
ッショナルズ協会)のコロンバスラウンドテーブル(右ページ
欄外Sawakoメモ参照)で面白いイベントに参加したことがあ
るよ。 OSU(オハイオ州立大学)のロジスティクスの教授5人
が、それぞれの研究テーマをなんと10分という制限時間でプレ
ゼンするというもので、盛況だった。
こうした場の提供で、産業界の人はビジネスのヒントになる
研究領域をもった教授を探しやすくなる。 まさに高井さんがお
っしゃる「これらの活動により、大学関係者が業界の抱えてい
る現実的な問題や技術水準について知識を得ることができる。
また、産業界はどこにどういう専門学者がいて、どんな能力を
もっているか分かる」ということだと思ったよ。
Y
そもそも、産学連携は「手段」であって「目的」ではないの
だけれど、日本ではそこが誤解されている。 そのために、お互
いを有効活用できていない気がするよ。 例えば、学会や研究会
でも「産」の会と「学」の会が別々に存在してしまうね。
S
産学連携のあり方について、高井さんは次のようにもおっし
ゃっていたよ。
>>>Forwarded Message(メッセージ転送)>>>
産学連携の意味を、まずきちんと知ることが大切です。 産学
連携には2つの側面があり、“ 教育と人材育成に対する連携”
と“ 研究開発における連携”とがあることを認識すること。 そ
して、その両側面のネットワークを育てていくことが重要です。
Y
本当にその通りだね。 どちらの連携も大切だし、産学連携を
語るときに、2つの側面のどちらで話をしているのかを明確に
する必要があると思うの。 そして、この両側面で産→学と学→
産の相互理解と有効活用がスパイラル的に発展していくことが
大切だね。
S
産・学が、お互いの歩み寄りによって今後あるべき姿を模索
し、日本のロジスティクスの水準を高めていけるようになり、
それを世界に向けて発信する日が今から待ち遠しい。 私たちも
その一員として活躍できるように、切磋琢磨していかなくちゃ
ね。
(以下、次号に続く)
日本の大学に在学中、米国ワシントン州ゴンザガ
大学、中国北京大学に短期留学。 大学卒業後、日
本通運に入社。 通関士を取得。 米国・サンフラン
シスコ支店で1年間研修。 帰国後、メーカー物流
に携わる傍ら、昨年4月、多摩大学大学院経営情
報学研究科修士課程ロジスティクスコースに入学。
小林由季(こばやし・ゆき)
オハイオ州立大学マーケティング・ロジスティクス
専攻を卒業後、OTEC, Inc. (米国)、フレームワ
ークス(日本)で働いた経験を持つ。 フレームワー
クスでは、新工場・倉庫建設プロジェクトにかか
わった。 昨年9月、オハイオ州立大学大学院ビジネ
スロジスティクス工学修士課程に入学。
岩田佐和子(いわた・さわこ)
東京商船大学商船学部運送工学科卒。 同大学院商
船学研究科修士課程修了、東京大学大学院工学系
研究課博士課程を単位取得退学。 97年工学博士。
東京商船大学助手、専任講師、助教授を経て、現
在、東京海洋大学海洋工学部助教授。
黒川久幸(くろかわ・ひさゆき)
Yuki
Yuki
Sawako
Sawako
Kenneth Ackerman
The Ackerman 社 President
Sources of regional economic growth - Central
Ohio Area(地域経済成長の源─中央オハイオ)
David Powell
CompeteColumbus President
Tim Williams
McGraw Hill社
Sr. Director of Distribution and Logistics
Michael Regan
Tranzact社 CEO
Global Sourcing(グローバル・ソーシング)
Robert Shaunnessey
WERC Executive Director
Dare to be Differen(t 変革への挑戦)
Metrics(メトリックス)
Auditing Warehouse Performance
(倉庫のパフォーマンスオーディット)
CSCMPコロンバスラウンドテーブル
スプリングセミナー2006
トピック及びスピーカー
65年コロンビア大学院経営工学修了。 三菱石油を
経て、94年〜01年静岡大学教授。 01年フレームワ
ークス取締役、現在、同社特別技術顧問。 03年よ
り和光大学教授を兼任。 専門はオペレーションズ
リサーチ。 産学両面の豊富な経験を生かし、多方
面で産学連携を推進している。
高井英造(たかい・えいぞう)
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