ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年6号
判断学
村上ファンド VS 阪神電鉄の闘い

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 第49回 村上ファンド VS 阪神電鉄の闘い JUNE 2006 58 村上ファンドの正体 エンロンが倒産した 村上ファンドが買占めた阪神電鉄株を阪急ホールディン グスが買取る方針を決め、阪神電鉄側もそれを受け入れる という。
村上ファンドは阪神電鉄株の四六・六五%を取得 しているが、これをTOB(株式公開買付け)によって阪 急ホールディングスが取得する。
問題はそのTOB価格で、 村上ファンドの取得価格は平均六〇〇円台だが、時価は一 〇〇〇円前後。
しかし阪急ホールディングスとしては、せ いぜい八〇〇円程度でそれ以上は出せないというが、一方、 村上ファンドは一〇〇〇円前後で買取れという。
いずれこれは交渉によって決まることになるだろうが、 それにしてもこれまでライバル会社として激しく対立して いた阪急電鉄が阪神電鉄を乗取るということが、このよう に簡単に行われてもよいものか。
大阪の財界ではこの乗取 り劇を不審な目で見る向きが多い。
なぜ、こんなことになったのか? 村上ファンドの阪神 電鉄株買占めがこれを起こさせたことは言うまでもないが、 その村上ファンドの株買占めの裏に阪急ホールディングス がいたのではないかという疑いももたれている。
もしそうだとすると、村上ファンドは会社乗取りの手先 だったということになる。
これに対し、そうではなくて村 上ファンドの株買占めに対して驚いた阪神電鉄側が、阪急 ホールディングスに援軍を求めたのだという解釈もある。
その場合は阪神電鉄の経営者がいかに無能であったか、と いうことを証明するようなものである。
いずれにせよ、これで儲けるのは村上ファンドであるが、 そのやり方はかつての「日本的買占め」=グリーンメイラ ーのやり方と同じである。
もしこのようなやり方を放置し ておけば、第二、第三の阪神電鉄が出てくることは間違い ない。
それは株の買占めで会社からカネをせしめるハゲタ カのようなものである。
横井英樹と同じ役割 白木屋は東京の日本橋に本店を持つ百貨店の老舗で、大 丸や高島屋、そごうなどと同じように呉服店から出発して 大きくなった百貨店であった。
その白木屋の株を買占めたのが横井英樹だった。
一九五 三年一月、白木屋の大株主として横井産業、横井英樹など の名義書換えが行われた。
横井英樹は愛知県生まれで、東京に出て繊維問屋の丁稚 をしたあと、戦後はヤミブローカーをしていた。
そんな男が 百貨店の老舗を乗取ろうとしているというので大騒動になっ た。
白木屋側はこれに対して慌てふためいて、対抗策を打ち 出すのだがうまくいかない。
そのうちに横井 側は資金が足りなくなり、東急電鉄の五島慶太社長に支援を求める。
結局、東急電鉄が横井英樹から白木屋株を肩代わりし、さ らに東急自体が買い増しし、最後に白木屋は東急百貨店に 合併された。
その結果、白木屋の店舗は東急百貨店日本橋店となって いたが、のちに取り壊されてしまった。
そして横井英樹はこ の株買占めに味をしめて、その後次つぎと株の買占めを行っ た。
最後はホテルニュージャパンの社長におさまっていたが、 ホテルの火事で罪に問われる身となった。
この横井英樹による白木屋株買占めをモデルにして書か れたのが城山三郎の『乗取 り』である。
これが彼の出世作と なった。
この買占め劇で横井英樹が演じた役割は、村上ファンド が阪神電鉄株を買占めて、それを阪急ホールディングスに肩 代わりすることで儲けるというやり方と同じである。
会社乗取りが目的ではなく、他に肩代わりする目的で株 を買占め、それで儲ける。
その点で村上ファンドは横井英樹 がやったのと同じことをしているといえる。
「日本的買占め屋」の再来とも言える村上ファンドが狙うのは、会社乗取りで はなく株の値ザヤ稼ぎだ。
かつて横井英樹のような「日本的買占め屋」は、財界 の排除と検察の摘発よって没落していった。
さて、村上ファンドの行く末は? 59 JUNE 2006 次は村上ファンドか? 株を買占めて会社を乗取る――これは正常なビジネスと してアメリカやイギリスでは当然のこととされている。
い わゆるM&Aはこれによって行われているのである。
しかし株を買占めて、これを会社側、あるいは他に転売 し、それで儲けるというやり方は正常なビジネスとはされ ていない。
それが単なる値ザヤ稼ぎならよいが、そこでは 恐喝に近いやり方や、あるいは詐欺まがいのやり方が行わ れるからである。
そしてこれによって被害を蒙るのは株を 買占められた会社である。
そのため日本ではかつて日本的買占めに対し、財界がこ れを排除しようとすると同時に、検察がいろいろな理由を つけて摘発をしていった。
その結果、日本的買占め屋はその時は儲かっても結局は没落していくという運命をたどっ た。
横井英樹にしても最後はあわれな目にあった。
これに対し村上ファンドはどうか。
これは投資ファンド であって、もちろん「日本的買占め屋」=グリーンメイラ ーではない。
それは機関投資家や大金持ちの資金を運用し ているファンドである。
しかしこれまでのやり方をみると、株を買占めてこれを 会社側に引取らせるか、あるいは他に肩代わりして儲けて いる。
ニッポン放送株では村上ファンドが買占めた株はラ イブドアに肩代わりされ、それで大儲けしていると言われ た。
そして今回の阪神電鉄株も、阪急ホールディングスに 肩代わりされるとすれば、そのやり方はニッポン放送の場 合と同じということになる。
おそらくこのようなやり方に対し、日本の財界はこれを 放置しておくことはしないだろう。
それによって日本の上 場会社が次から次へと狙われ、巨額のカネをむしり取られ るのを黙って見ているわけにはいかないからだ。
ライブド アの次は村上ファンドが狙われることになるのではないか。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『「まっとうな会社」 とは何か』(太田出版)。
日本版「グリーンメイラー」 アメリカで「グリーンメイル」という新語が生まれたのは 一九八○年代のことである。
ドル紙幣の裏側が緑色である ところから、アメリカではドル紙幣のことを「グリーンバッ ク」という。
そして「ブラックメイル」というのは恐喝とい う意味だが、これを合成してできたのが「グリーンメイル」 である。
それは「カネ目当てのために恐喝に近いやり方をす る」という意味である。
そのグリーンメイラーの代表とされていたのがカール・ア イカーンとブーン・ピケンズである。
彼らは株を買占めて、 それを会社側に引き取らせるか、あるいはそれを他の会社に 肩代わりして、それに会社を乗取らせる。
もちろんその間の 値ザヤを稼いで儲けるというやり方である。
ブーン・ピケンズは一九八三年、当時アメリカで売上高 五位の石油会社であったガルフ・オ イルの株式を買占めた が、それを売上高四位のシェブロン・オイルに肩代わりし、 これでシェブロン・オイルがガルフ・オイルを合併し、そし てピケンズはこの取引によって七億六〇〇〇万ドルもの利 益を得たといわれる。
このほかブーン・ピケンズはいろいろな会社の株を買占め、 それを会社側、あるいは乗取り側に肩代わりすることで儲け た。
自分で会社を乗取るのが目的ではないから、これをグリ ーンメイラーといったのだが、これは先にあげた横井英樹の やり方と同じである。
このような「日本的買占め」は戦後の 日本で大流行していたのだが、それをまねたのがアメリカの グリーンメイラーたちであった。
その後、日本ではバブル崩壊とともにこのような「日本的 買占め」はなくなっていたが、そこへ現れたのが村上ファ ン ドである。
それは日本版「グリーンメイラー」とも言えるが、 それよりも、もともとあった「日本的買占め」の再来と言っ た方がよいかもしれない。

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