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JUNE 2006 10
コンサルからアウトソーサーへ
経営コンサルティングのグローバルな市場規模は現
在、約一〇兆円と言われる。 そのうち日本はどれだけ
を占めているのか。 残念ながら、それに答える統計資
料は存在しない。 それでも業界関係者の間では、IT
の導入費用を除いた日本国内の純粋なコンサルティン
グ市場は、年間二〇〇〇億円〜三〇〇〇億円規模と
推定されている。 欧米諸国に比べるとまだまだ格段に
小さい。
最大手のアクセンチュアの地域別売上構成を見ても、
二〇〇四年八月期のグローバル売上高約一兆五〇〇
〇億円(一三六億七〇〇〇万ドル)に対し、日本法
人のそれは五〇〇億円あまりに過ぎない。 それだけに
伸び代は大きいと言える。 実際、日本国内のコンサル
ティング市場
の規模は年を追うごとに成長している。
物流ネットワークの構築やロジスティクスの見直し
を中心としたサプライチェーンの業務改革が、現在は
その中心課題となっている。 アクセンチュアの稲垣雅
久エグゼクティブ・パートナーSCM統括は「今や当
社の売り上げの過半を広い意味での物流、SCM関
連の案件が占めている。 しかも、この傾向は今後も続
くと見ている」と説明する。
同社は大手会計事務所のアーサーアンダーセンから
八九年に分離独立したコンサル会社で、当初は生産
管理に使用するMRP(資材所要量計算)システム
の構築をはじめとしたIT系ソリューションをメーン
と
していた。
その後、MRPがERP(統合業務パッケージソフ
ト)に進化し、対象範囲が生産活動から企業活動全
体に拡がったことを受けて、アクセンチュア自身も守
備範囲を拡げていった。 戦略や財務、マーケティング、
人事など、あらゆる経営領域にソリューションを拡大。
その結果、今日では世界四八カ国に約十三万人のコ
ンサルタントを抱える巨大コンサル会社へと成長を遂
げている。
外資系の大手コンサル会社としては珍しく、日本国
内におけるロジスティクス改革にも早い時期から着手
している。 最初はBPR(ビジネス・プロセス・リエ
ンジ
ニアリング)が、そのソリューションだった。 業
務プロセスという視点から事業を分解して、理想的な
構造に組み替えることで飛躍的な効率化を実現すると
いうものだ。
このプロセス改革は、差別化の核(コア・コンピタ
ンス)となる機能に資源を集中し、そのほかのプロセ
スを外注に回す、プロセス・アウトソーシングとセッ
トになっている。 そこから派生するロジスティクス管
理と3PLコンセプトの普及で、アクセンチュアは先
駆的な役割を果たした。
複数の3PLや、ITその他のサービスプロバイダ
ーを荷主企業に代わって統合管理する「4PL
(
Fourth Party Logistics
)」と呼ばれるロジスティク
ス事業のコンセプトも同社が提唱者だ。 そこでアクセ
ンチュアはコンサル会社としてではなく、アウトソー
サーとして機能する。 4PLは、同社自身の事業ビジ
ョンでもあるのだ。
「我々はこれまで戦略の視点から物流オペレーショ
ンにアプローチしてきた。 戦略を実現していく上で最
も不確実性の高い部分が物流だ。 サプライチェーンの
絵は描ける。 ネットワークも作れる。 しかし最後にモ
ノを動かす部分で、我々は既存の物流会社を選別す
るくらいしかできていなかった。 そこにコンサル会社
としての制約を感じていた」と永田満シニア・マネジ
ャーはいう。
サプライチェーンが主戦場
物流やロジスティクスを対象にしたコンサルティング市
場が拡大している。 そのソリューションも、従来の戦略
立案やIT活用から、オペレーションの運営にまで幅を拡げ
ている。 それに対応してコンサル会社は自らのビジネスモ
デルを変化させている。 (大矢昌浩、刈屋大輔)
11 JUNE 2006
現在、多くのメーカーが伝統的な卸経由の販売チャ
ネルにメスを入れ、小売りや消費者への直接販売に乗
り出している。 そのための新しいサプライチェーンの
モデルを提示することは比較的たやすい。 必要なサー
ビスレベルとコストを計算し、その効果を予測するこ
ともできる。 しかし、戦略を実行に移すには、直販に
対応する物流機能を確保する必要がある。 計画の前
提となっている物流機能を提供するプロバイダーが実
在しなければ、戦略は机上の空論に終わる。
クライアント側がコンサル会社に求めているのは企
業としてのあるべき姿や進むべき方向性を絵に描く
こ
と、つまり戦略をデザインするというソリューション
が一つ。 次のステップとして戦略を実行に移すための
仕組みづくりの支援が期待される。 そして最後がその
仕組みを運用することによってもたらされる成果だ。
ところが、コンサル会社が関与するのは仕組みづくり
の段階まで。 成果をコミットメント(約束)するまで
には至っていない。
「クライアント側にはリスクがある。 新しい機能を
開発するには投資も必要だ。 それを当社は顧客とシェ
アする。 密室に籠って報告書を書くだけではなく、当
社にオペレーションをアウトソーシングしてもらう。
それによってクライアントに対して成果を保証し、そ
して実際に成果が上がった場合
にはその一部を報酬と
して受け取る。 それが4PLのビジネスモデルだ」と
稲垣エグゼクティブ・パートナーは説明する。
ロジスティクスだけではない。 IT分野でも同社は
特定の顧客向けの情報システムを、システム構築だけ
でなく運用まで請け負っている。 もちろん自ら投資リ
スクも負う。 一連のソリューションを同社では「BT
O(Business Transformation Outsourcing
)」と呼
んでいる。
現場系から戦略系へ
同社とは逆に物流現場のオペレーション改革から出
発して戦略分野のコンサルティングまで手掛ける動き
も顕著になっている。 日本能率協会コンサルティング
(JMAC)は、これまで物流センターの設計や作業
改善といった現場系ソリューションを中心にしてきた。
しかし、ここ数年はクライアントのニーズが現場系か
ら戦略系にシフトする傾向が見受けられるという。
経営戦略や事業戦略の見直しの一環として、サプ
ライチェーンの再構築やグローバルベースでのロジス
ティクスの仕組みづくりを支援してほしいといった、
従来であれば外資系の大手コンサル会社に持ち込まれ
ていたはずの案件が同社に飛び込んでくる。
「戦略系のソリューションを求められているのは荷
主
企業サイドだけではない。 物流企業からの案件も
M&Aの手助けや自社の3PL化の支援など、より
戦略的な内容になりつつある」と生産・ロジスティクス事業部のマネージャーを務める池田篤彦チーフ・コ
ンサルタントは説明する。
同社の社内にも戦略立案を扱う専門部隊はある。 し
かし他の国内独立系コンサル会社と同様、グローバル
ロジスティクスの専門知識を持ったスタッフとなると、
数も限られてくる。 そのため通関士の資格を持った物
流の実務家などを対象に、コンサルタントの補充を急
いでいる。
外資系コンサル会社がロジスティクス・サービス・
プロバイダーの顔を持ち、国内独立系コン
サル会社が
グローバルビジネスと戦略立案を担う。 そして3PL
もまた戦略レベルのコンサルティング機能まで社内に
取り込もうとしている。 コンサルティングとアウトソ
ーシングの垣根が消えている。
アクセンチュアの
永田満シニア・マ
ネジャー
アクセンチュアの稲垣
雅久エグゼクティブ・
パートナーSCM統括
JMACの池田篤彦
チーフ・コンサル
タント
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