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JUNE 2006 12
「劇的な成果は地道な活動から生まれる」
事実に基づくマネジメント
――まずは最近の米国産業界のトピックスに関する意
見から伺いたい。 GMとフォードが苦境に陥っている。
彼らの抱える問題は、SCMの点からも説明できるだ
ろうか。
ゴードン・スチュワート(以下、ゴードン)
彼らが
苦境に陥っている最大の原因は、従業員の健康保険
と退職金のコストだ。 それがレガシーとなり、経営の
足かせになっている。 またサプライチェーンという点
でも、彼らは自分たちと同じような問題を抱えている
取引先、例えば部品メーカーのデルファイなどと長期
契約を結んでいる。 そのために競争力のある調達を行
えないでいる。 もし彼らがどこからでも好きなように
調
達できるのであれば、もっと競争力を持つことがで
きただろう。
――一方でエンロン事件の余震が今も続いている。 エ
ンロンやワールドコムの経営破綻は米国の企業経営に
どのような影響を与えたのか?
マイク・アガジャニアン(以下、マイク)
一つはサ
ーベンス・オクスリー法(SOX法:企業統制法)の
成立だ。 政府が企業に対する監視を強化した。 投資
家の考え方も変わった。 財務的なコントロールの効く
指標よりも、その会社の本業のパフォーマンスを示す
財務状態を知りたがるようになった。 このことは米国
のエグゼクティブたちの仕事のやり方に非常に大きな
インパクトを与えた。 CEOの選び方も変わってきた。
とくにこの一年半余りはオペレーション畑出身のCE
Oが多くなる傾向にある。 日本も同じだろう?
ライ
ブドア事件は、日本版エンロン事件だ。
――オペレーション重視のトレンドはPRTMにとっ
て追い風になるのか。
ゴードン
もちろんだ。 我々は今年創立三〇周年を迎
えたが、創業以来オペレーション管理をメーンのテー
マとしてきた。 他のコンサルティングファームのよう
に財務やマーケティング、人事ではなく、当社は製造、
ロジスティクス、サプライチェーンなどのオペレーシ
ョンの改革に最大の力を注いできた。 そうしたオペレ
ーションの改革こそが、産業を革新すると我々は考え
ている。
――日本企業も今では戦略系のコンサルティングに食
傷気味になっている。
ゴードン
我々は夢物語ではなく事実に基づいたコン
サルティング(ファクト・ベースト・コンサルティン
グ)を行う。 しかも我々は、ただアドバイスを行うだ
けではなく、結果をも
たらす。 まずそのクライアント
のベースラインを測定して現状を把握し、そして改革
によって成し遂げられた成果も測定する。 ほとんどす
べてのケースで、クライアントは自分たちが達成した
ことの大きさに驚く。 それは我々が手助けしなければ達成し得なかった成果だ。
――そのツールとしてベンチマーキングを売り物とし
ていると聞く。 .
マイク
確かにベンチマーキングは、我々の専売ツー
ルだ。 我々はその機能を構築するために、これまで多
大な時間とエネルギーと資金を投じてきた。 当社の他
に誰も同じことはできない。 しかしそれは我々のビジ
ネスのとても小さな一部分に過ぎない。
ゴードン
確かに我々は実によくベンチマーキングか
らプロジェクトを始める。 ファクト・ベースト・コン
サルティングは、『ファクト・ベースト・アナリシス
(事実に基づいた分析)』から始まる。 それが現実的な
業績向上の機会を明確にしてくれるのだ。
――ベンチマーキングなしでオペレーションを改革す
日本企業の現場オペレーションは世界でも最高レベルにある。
しかし、日本企業の収益力は決して高くない。 品質やスペック
に対する過度のこだわりが、自己満足に終わっている可能性が
ある。 何が顧客に価値をもたらしているのか、事実に立脚して
改めて確認する必要がある。 (大矢昌浩、森泉友恵)
PRTM マイク・アガジャニアン共同代表
PRTM ゴードン・スチュワート共同代表
財務戦略より効く業務改革
特集
13 JUNE 2006
るのは難しいのか。 多くの日本の会社はベンチマーキ
ングという手法に対して馴染みが薄い。
マイク
実は目覚しい利益というものは、高度で斬新
な改革ではなく、非常に基本的な改善、基本的なアプ
ローチによって達成されることがほとんどなのだ。 そ
のために何が必要なのかを、我々はよく理解している。
我々はベンチマーキングを、そうした変化を実現する
上での障害物を取り除いてくれるものだと捉えている。
改革プロジェクトではメンバー間やパートナー間の意
見の対立が避けられない。 私の意見とあなたの意見は
違う。 しかし、事実は変わ
らない。
――日本企業の課題は、欧米とは違うのでは?
マイク
かつては確かに違っていた。 しかし今はずっ
と近くなってきている。 政府の規制や文化面、教育水
準、人材の能力などは地域によって常に違う。 しかし、
今日の高度に発展した経済が直面し、格闘しているの
は、そうした地域的な問題ではない。 低コストの生産
を追求することでサプライチェーンはより複雑になっ
ている。 そのオペレーションを遠隔操作することこそ
新たな挑戦だ。 それは日本企業であっても欧米企業で
も全く変わらない。 今や多くの会社がグローバルにビ
ジネスを展開
している。 国籍の違いはあまり意味を持
たなくなってきている。
――しかし日本企業はもともとオペレーションには定
評がある。
ゴードン
そういう認識が一般的なのは知っている。
しかし、それが事実かどうかは分からない。 実際、我々
の関わっている日本のある大手メーカーのベンチマー
キングでは、その会社の日本の工場よりアメリカの工
場の方が、効率性が二〜三割高かった。
マイク
日本の生産オペレーションが優秀であるのは
事実だ。 しかし、日本企業は価値に対する認識に、バ
イアスがかかっていることが多い。 品質やスペックに
こだわるあまり、製品数がいたずらに膨らんでしまう。
それが顧客にとって価値を生
んでいるかどうかが二の
次にされていることがある。
品質は良いのに業績が悪い
――個別最適に走って全体最適になっていない?
マイク
そういう表現はできると思う。 ただし、そこ
でいう全体最適とは、単にサプライチェーンだけの問
題ではない。 マーケット、我々が『カスタマーエクス
ペリエンス』と呼んでいる問題、つまりその会社とつ
き合うことで、顧客はどんな経験ができるのかという
問題も含めて、さらには規模の経済性という観点から
評価した時の効率性の問題も含めて、全体最適にな
っているのかということだ。
――それが全体最適になっていないと、品質は良くて
も業績が悪いということになる。
ゴードン
その通り。 たとえ品質は良くても、製品の種類が豊富でも
、顧客の満足度が低いということにな
る。 基本的にオペレーションには、『有効性(effectiveness
)』と『効率性(efficiency
)』という二つの評
価軸がある。 このうち、従来の日本企業は『有効性』
ばかりを重視し、『効率性』を軽視する傾向にあった
と言えるだろう。
――そこで言っている『効率性』とは、個別のプロセ
スや機能のパフォーマンスではなく、投入したリソー
スに対するアウトプットを評価する尺度のことか。
ゴードン
そうだ。 何をもって経営を測るのか、その
指標のところで、多くの日本企業が問題を抱えている
のではないか。 そのために設計者、あるいは生産に携
わっている人たちの満足度は高いけれど、利益が出せ
ないという事態を招いているのだと思う。
マイク・アガジャニアン(Mike Aghajanian)
PRTM共同代表、太平洋地区統括。 UCLAで
MBA取得。 GE生産管理プログラム修了。 フォ
ーチュン50社および未公開企業の経営を経て
91年にPRTM入社。 ゼロックス社やシンボル・
テクノロジーズ社などのオペレーション改革に
携わる。 2001年より共同代表、現在に至る。
ゴードン・スチュワート(Gordon Steuart)
PRTM共同代表兼COO(最高執行責任者)、大
西洋地区統括。 グラスゴー大卒、公認会計士。
一般企業およびコンサルティング企業を経て
1987年にPRTM入社。 2003年より共同代表、
現在に至る。
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