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AUGUST 2006 34
流通改革に先立ち物流を再編
コクヨロジテムは九九年一〇月に、コクヨ
の物流管理部門が分社し、地域別の物流子会
社五社と統合することによって発足した。 当時、文具業界は地殻変動のただなかにあった。
外国資本の大手文具流通業がメーカーとの直
接取引によって市場参入を果たす一方、通販
事業の「アスクル」が成功を収め、新しいビ
ジネスモデルとして脚光を浴びていた。
こうした環境変化によって、圧倒的なシェ
アを握るトップメーカーとして日本の文具業
界に君臨してきたコクヨも、流通構造改革を
余儀なくされていた。 実際この後、全国に張
り巡らした業界最大の販売網の再編に乗り出
すことになるのだが、それに先んじて着手し
たのが物流組織の再構築だった。
コクヨの物流子会社の歴史は古い。 統合し
た五社の一つ、旧コクヨ物流関西は一九七二
年の設立で、既に三〇年以上の社歴を持つ。
設立時の社名は「コクヨファニチャー」。 こ
の会社が文具と並ぶコクヨのもう一つの主力
事業である、オフィス家具の物流業務をメー
ンにスタートした会社だったことが伺える。
これらの物流子会社は当初、コクヨの製品
を卸や販売店に納めるまでの物流を担当して
いたが、八一年からは、卸や販売店の業務を
代行して、オフィス家具をエンドユーザーの
もとへ配送するサービスにも乗り出した。
オフィス家具は大半が、かさ高で重量もあ
り、一人では運べないものが多い。 しかも販
売店がこれらの商品をエンドユーザーのオフ
ィスなどへ納める際には、ユーザーの指定す
る場所まで搬入して組み立てや設置を行うと
いった付帯サービスを伴う。 販売店にとって
は負荷の大きい業務だ。
コクヨはその負荷を軽減するため、物流子
会社を通じて業務の代行を始めた。 今でこそ、
首都圏など大都市圏ではメーカーがオフィス
家具をエンドユーザーへ直送するのは珍しく
ないが、業界で最初にこれを実施したのがコ
クヨだった。
九九年に物流の組織改革を実施した時点で、
コクヨのオフィス家具製品の物流ネットワー
クは全国にきめ細かく整備されていた。 それ
に対し、もう一方の文具はこれと全く異なる
物流形態をとっていた。
コクヨの販売網は、同社の製品だけを扱う特約卸「専門代理総括店」を通じて築き上げ
られたもので、販売店への物流も総括店が担
っていた。 従って文具については、全国に六
六社あった総括店までの物流をメーカーのコ
クヨが、その先の販売店までの物流を総括店
が、さらに法人顧客を中心とするエンドユー
ザー向け納品を販売店が担当するという形で、
役割を分担していた。
ところが、流通段階を短くして安い商品を
迅速にユーザーのもとへ届ける通販ビジネス
が市場へ浸透するとともに、旧来の流通構造
に則った同社の優位性が揺らぎ始めた。 危機
物流子会社
コクヨロジテム
かさ高品の全国宅配で外販強化
家具店に代わり組立・設置まで
コクヨの物流子会社コクヨロジテムは3年前から、
グループ外の荷主企業を対象に家具などのかさ高商
品の宅配サービスに乗り出している。 コクヨ製品の
全国配送ネットワークを活かして、ツーマン配送で
組み立てや設置、残材の引き取りまで行う。 荷主数
はすでに60社を超えた。 このサービスを足がかりに
アウトソーシング事業を強化し、2年後に外販比率2
割達成を目指している。
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意識を持ったコクヨは、二〇〇〇年に文具の
流通構造改革に乗り出した。 地域ごとに総括
店の統合を行うとともに、従来の総括店制度
を廃止して流通販社体制へ移行。 流通販社は
コクヨ製品だけでなくユーザーのニーズに応
じて他社製品も幅広く品揃えする総合卸売業
へと脱皮を図る、というのがその中身だ。
この改革で、六六社あった旧総括店は〇四
年までに一四の流通販社に再編された(この
うちコクヨの連結対象企業は六社)。 また〇
四年一月からは、コクヨが新しいビジネスモ
デルとして法人向けに開始していたオフィス
関連消耗品購買システム「@office
(あっとオフィス)」の商流も流通販社に一元
化された。
この流通改革に先行するかたちで、コクヨ
は総括店や販売店が担ってきた物流機能の再
編に着手した。 九九年にコクヨロジテムを設
立して、物流部門の分社化と子会社の統合を
行ったことは先に述べたが、このとき同時に、
物流組織改革のもう一つの柱である総括店の
商物分離がスタートしている。 総括店で物流
業務を担当していた部門を分離し、コクヨロ
ジテムの子会社として新たに発足させるとい
うもの。 この子会社を三年間かけて地域ごと
に順次、設立した。 「オフィスサプライロジ
スティクス(OSL)」の頭にそれぞれの地
域名を付けた名称で現在、全国に六社ある。
「OSL」が流通再編に伴う新物流体制の
受け皿となった。 組織の再編にあわせて旧総
括店の拠点集約を行い、ブロックごとに販売
店向けの物流拠点を再構築。 他社製品も含め
て販社が仕入れた商品を、「OSL」が販売
店からの注文に応じて短いリードタイムで届
ける体制が全国に整った。 こうした一連の再編を経て、コクヨグルー
プの物流管理業務は、オフィス家具などの事
業分野だけでなく、文具など消耗品の事業分
野についても、エンドユーザーへの配送まで
含めてすべてコクヨロジテムとその子会社
「OSL」に集約された。 〇三年四月にはコ
クヨの物流戦略部門もコクヨロジテムに移り、
これによって戦略立案から業務管理までの物
流機能が同社に一元化された。 ちなみに
「@office」とコクヨが設立したオフ
ィス用品の通販会社「カウネット」の東日本
地区での配送業務はコクヨロジテムが担当し
ている。
業界最大のインフラを武器に
現在のコクヨグループの物流拠点は、機能
面で大きく「NDC(ナショナルディストリ
ビューションセンター)」、「RDC(リージョ
ナルディストリビューションセンター)」、お
よび「LDC(ローカルディストリビューシ
ョンセンター)」の三タイプに分けられる。
「NDC」は製品別在庫拠点で工場併設型か、
あるいは港湾地区に設けた輸入品の倉庫を指
す。 家具と消耗品それぞれ五カ所ずつある。
「RDC」はブロック別の在庫拠点で全国に
七カ所設けてある。 「LDC」は家具専用の
無在庫型積み替え拠点だ。
家具の在庫は基本的に「NDC」に持つ。
ただし、全二万アイテムのうち売れ筋の二〇
〇アイテムについては「RDC」にも在庫し
ている。 販売店から注文が入ると、「NDC」
から製品別に出荷して、「RDC」で在庫ア
イテムとドッキング・方面別仕分けを行い、
さらに各地の「LDC」でルート別に仕分け
て二〜四トン車でエンドユーザーへ配送する、
というのが基本的な流れになる。 各拠点間を
定期便でリレー輸送しており、通常は受注か
ら納品までのリードタイムが三日かかる。
一方、消耗品は当日または翌日配送が基本
である。 そのため「RDC」に他社製品も含
めた在庫を持ち、「NDC」から補充を行っ
ている。 また「RDC」は「OSL」が管理
する販売店向け配送や、コクヨロジテムが担当する「@office」や「カウネット」
のエンドユーザー向け配送拠点としての機能
も持っている。 これをすべて合わせると、コ
クヨグループの物流拠点の数は五四カ所にの
ぼる。
コクヨロジテムでは、これらの拠点や輸配
送ネットワークを活かして三年前からグルー
プ外の顧客開拓に本格的に乗り出した。 〇三
年四月にコクヨは、翌年の持株会社制への移
行を念頭に置いてカンパニー制を導入。 これ
を機に、先行して分社化を終えていた物流部
門では独立採算制を高めるためにグループ外
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などから家具のインターネット販売へ参入す
る会社も多い。 これらのショップの多くが商
品の配送に悩みを抱えていた。
一般の宅配便で、かさ高品は対象外。 路線
便なら運べるものの、玄関渡しのため設置場
所への搬入や組み立ては商品の購入者が自ら
行うか、店が別途手配しなければならない。
この問題を「全国ツーマンデリバリーサービ
ス」が解決した。 納品に伴う一連の業務がノ
ンストップで行われるため、店の顧客サービ
スは向上する。
配送だけでなく、顧客のニーズによっては
「NDC」または「RDC」での保管・入出
庫・在庫管理業務も受託。 顧客が海外調達
する商品の輸入関連業務を含めて一括受託し
ているケースもある。 家具のほか、マッサー
ジチェアーなどの健康器具もこのサービスの
主要なターゲットだ。 かさ高で重量があり、
通販で売られることの多い商品だが、顧客の
年齢層が比較的高いため、付帯サービスへの
需要がもともと多かった。
こうして需要開拓に成功した「全国ツーマ
ンデリバリーサービス」を中心に、同社の外
部顧客向け売り上げは、〇三年度が一九億円、
〇四年度が二九億円、〇五年度が三七億円
と毎年四〇%前後のペースで着実に伸びてい
る。 グループ外の顧客数は既に六〇社を超え、
今年度は五三億円の売り上げを見込んでいる。
ツーマンデリバリーサービスでは、納品先
での組み立て・セッティングの専門技術や接
客マナーが重要。 コクヨロジテムは自社では
車両を保有せず、配送業務をすべてパートナ
ーの運送会社に委託しているが、ドライバー
に対する技術やマナーの研修は同社が行う。
六年前からは年に二回「CSアンケート」
を実施。 納品マナーなどについて回答しても
らい、運送会社やドライバーの評価・指導に
役立てている。 昨年からは顧客サービスの指
導にあたるスーパーバイザー二〇人を各拠点
に配置して、CS向上に力を入れている。
さらに今年五月には「ツーマンデリバリー」の外部顧客向け事業を対象に、受注から納品
までの業務を一元管理する情報システム「K
L・BUCAS」の運用を開始した。
コクヨグループには生産・販売・物流を管
理する「KOLUS」という基幹システムが
あり、グループ各社が機能に応じて運用を行
い、受注・在庫・輸配送情報を共有している。
家具については、販売店の注文に対して在庫
を引き当て後、「NDC」「RDC」「LDC」
の三カ所をリレー輸送してエンドユーザーに
商品を配送するまでの物流の流れが「KOL
US」で一元管理され、受注時に在庫引き当
をターゲットに新たな事業展開をめざしたの
だ。
目玉は?ツーマンデリバリー〞
まず着目したのが二五年以上の歴史を持つ
家具のエンドユーザー向け配送サービスだっ
た。 もともと卸や販売店の業務を代行するか
たちでスタートしたため、このサービスは当
初から組み立て要員が配送車に同乗する?ツ
ーマンデリバリー体制〞をとり、配送だけで
なく搬入、開梱・設置、組み立て、残材や不
要家具の引き取りなどの付帯サービスを実施
してきた。
「全国でかさ高品のこの宅配サービスを提
供できるところはほかに例がなく、外部の顧
客にもアピールできると思った」とコクヨロ
ジテムの川口幸二郎副社長は振り返る。
こうして同社はこのサービスを「全国ツー
マンデリバリーサービス」と名付け、外部顧
客への営業活動を開始した。
納品業務は「LDC」が担当。 北海道から
沖縄まで全国にあり、コクヨ製品を含め毎日
平均五〇〇台の専属車両で配送する。 コクヨ
製品のネットワークを使って共同配送するた
め、ツーマン配送でもそれほどコスト高にな
らない点が強みだ。
手応えは十分だった。 昨今では、インテリ
ア家具ブームに乗って、団塊ジュニアなどを
ターゲットに高級家具や北欧・アジアなどか
らの輸入家具を扱う店が増えている。 異業種
コクヨロジテムの
川口幸二郎副社長
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てと同時にリレー輸送の定期便の予約までで
きる仕組みになっている。
例えばデスク・イス・ロッカーの注文を受
け、それぞれ別のセンターの在庫から引き当
てが行われても、オーダーを入力した時点で
どこの「NDC」からどの便でいつ「RDC」
に集約され、「LDC」を経ていつ納品され
るかがただちに分かる。
専用の情報システムも稼動
これと同じ物流管理をコクヨ製品以外の一
般貨物についてもできるようにしたのが「K
L・BUCAS」だ。 シーネット製のWeb
版WMSのパッケージソフト「シーエックス
ヒマラヤ」をベースにカスタマイズしたシス
テム。 ASP方式を採用し、サーバーの運用
は関電システムソリューションズのデータセ
ンターに委託している。
通常、WMSでは拠点ごとの入出庫や在庫
管理だけを行うが、このシステムではWMS
の上位に、受注してから拠点間輸送を経て納
品が行われるまでの一連の流れを管理するC
CS(セントラルコントロールシステム)を
設け、CCSとWMSによって物流を一元管
理できるようにした。 受注情報を入力すると
ただちに納品日を算出、各拠点に入出荷リス
トや納品伝票などの帳票類が出力される。 在
庫や輸配送の状況も随時、パソコンで照会で
きる。
七月までに、五四カ所ある拠点のうち家具
を扱う四五カ所のすべての拠点で「KL・B
UCAS」の運用を開始し、荷主との情報共
有ができるようになった。 さらに今年中をめ
どに、ドライバーの携帯電話に配送指示情報
をダウンロードして完了情報を入力してもら
い、インターネット経由で荷主が照会できる
システム(コクヨ製品については大都市圏で
実施済み)も導入する。
川口副社長は「(一般貨物は)これまで荷
主ごとに手作業で管理してきたが、オーダー
からシームレスでデータがつながるようにな
って業務が効率化され、顧客数の増加にも容
易に対応できるようになる」と期待する。
コクヨロジテムの〇六年三月期の売り上げ
は三〇四億円で外販比率は十二%。 二年後
の〇八年三月期は、三五〇億円の売り上げに
対して外販比率二〇%をめざしている。 これ
を達成するために、かさ高品のツーマンデリ
バリーサービスのほか、日用品などを対象に
した3PL事業をもう一つの柱にしていく考
えだ。
同社は〇三年一〇月に、豊田自動織機と
の共同出資で「KTL」を設立した。 消耗品
のピッキングや検品作業に、トヨタ生産方式
を取り入れた高度な物流技術を導入しノウハ
ウの蓄積を行うことを目的とする会社だ。 翌年一月にオープンしたコクヨロジテムの新拠
点「首都圏IDC」で、実際に数万アイテム
もの商品の庫内オペレーションを実践してき
た。
「今後はその実績とノウハウを活かしたアウ
トソーシング事業にも力を入れていきたい」
と川口副社長は意気込む。 すでにこの分野で
顧客から物流業務を全面受託しているケース
も数件あるという。 構造改革を乗り切った業
界トップグループの底力が、物流の領域でジ
ワリと姿を現しつつある。
(
フリージャーナリスト・内田三知代)
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