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AUGUST 2006 38
工場直送化で出荷能力が限界に
オカムラ物流は、オフィス家具を中心に店
舗什器や物流機器を製造・販売する岡村製
作所の物流子会社だ。 設立は一九六九年で、二〇〇五年度の売上高は三五一億八五〇〇
万円。 親会社の工場〜物流拠点〜ユーザー間
の輸配送やセンター運営といった物流業務に
加え、家具や什器の組み立て・据付作業など
を行う施工業務を請け負っている。
スーパーや百貨店、ホームセンターの陳列
什器を扱う「商環境事業」の専用物流拠点は
五カ所ある。 「中井」(神奈川県)・「富士」
(静岡県)・「御殿場」(静岡県)の三カ所の
製造工場に隣接した拠点、社外から調達した
製品を保管する「横浜配送センター」(神奈
川県)、西日本向けの出荷の配送拠点である
「摂津配送センター」(大阪府)だ。 このほか、
全事業共通の配送拠点が全国に十五カ所あり、
複数の拠点から出荷された製品の積み合わせ
や小型トラックへの積み替えを行っている。
工場隣接型の拠点からユーザーに直送する
のは、特注品や、標準品の中でも指定納期の
短い製品。 主に特注品を生産する「富士」・
「御殿場」の工場に隣接した各配送センター
は、在庫保管機能をほとんど持たず、出荷準
備のための短期間だけしか製品を保管しない。
標準品の中心工場に隣接した「中井配送セン
ター」は在庫機能を備えており、製品の在庫
管理も行っている。
ここ数年、「商環境事業」では工場隣接型
の拠点からユーザーに直送するパターンが増
えつつあるという。 九〇年代後半の工場直送
比率は出荷量全体のおよそ五割にすぎなかっ
たが、それが現在では八割程度にまで高まっ
ている。
ユーザーから要求される注文〜納品までの
リードタイムが年を追うごとに短くなっており、それに対応してきた結果、工場から直送
するケースが増えていった。 現在の平均リー
ドタイムは一週間。 故障品の代替など緊急オ
ーダーも多く、受注翌日の納品を求められる
ケースも珍しくないという。
さらに、ユーザーへの出荷は多頻度小口化
が進んでいる。 それによって配送拠点ごとに
まとめて製品を出荷してきた工場拠点の庫内
オペレーションは一変し、ユーザー別のピッ
キング、仕分けといった細かな作業を強いら
れることが多くなった。
例えば、二〇〇三年度の出荷量が前年比五
現場改善
オカムラ物流
WMS導入で情報を「見える化」
改善を続ける仕組みが現場に定着
結果が目に見えれば自ずと向上心が刺激される。
異常に気づけば原因を突き止めて改善したくなる。
作業員が自発的に改善していく仕組みづくりを進
め、物流現場の生産性向上を実現した。 IT導入
で収集可能となった作業データを、敢えてアナロ
グ式で書き出す。 それが成功のカギとなった。
オカムラ物流中井配送センター
岡村製作所の生産工場と一体型の拠
点。 建物面積1 0 , 0 0 0 坪のうち
6,000坪をオカムラ物流が使用。 2階
建てで、1階の工場ラインエンドで工
場部分とつながっている。 2階はすべ
てオカムラ物流が使用している。
39 AUGUST 2006
〇%増に膨らんだ中井配送センターでは、「実
際に現場に掛かる作業負荷は小口化の影響も
あって従来の二倍近くにまで増えてしまった。
それまでは五〇件のオーダーを一台のトラッ
クに載せて各地の配送拠点に送ればよかった
が、直送化によって五〇件のオーダーをそれ
ぞれの客先に直接納めることになった。 現場
の仕事量がまるで違ってきた」と中井営業所
の勝又和夫所長は振り返る。
WMSベンダーにコンサルを依頼
商環境事業で扱う製品の出荷は、毎年九月
から十一月末までの三カ月間に集中する。 ス
ーパーや百貨店といったユーザーは、年末商
戦を控えたこの時期に店舗改装を行うケース
が少なくないからだ。 しかも、大安吉日を選
んで店舗をオープンすることが多く、什器の
納品指定は特定日に集中する傾向がある。 こ
の三カ月間の出荷量は、平準月の二倍近くに
まで膨れ上がるという。
これに対し、中井配送センターでは臨時作
業員の数を増やしたり、一時的に外部倉庫の
機能を利用したりして、繁忙期の出荷を処理
してきた。 しかし、この応急措置的な処理方
法には満足していなかった。 作業員の増強や
外部倉庫の利用は当然、追加コストの発生を
意味するからだ。
「中井配送センターの出荷能力を引き上げることで、ピーク時のコスト負担を極力抑え
たい」││。 旧来のオペレーションの仕組み
に限界を感じていたオカムラ物流は、WMS
(倉庫管理システム)ベンダーのレクソルに
コンサルティングを依頼。 二〇〇三年六月か
ら中井配送センターの現場改善に乗り出した。
まず同センターの庫内オペレーションの現
状を分析するため、同年七月に三日間掛けて
ワークサンプリングを実施した。 調査には、
親会社の物流システム営業本部から二人、オ
カムラ物流から六人、センターでのオペレー
ションを担当する日立物流から二人、レクソ
ルから二人の計十二人が参加。 調査結果に基
づいて、八月から具体的な改善策について協
議した。
そこで提案された計三四九件の改善策を一
五件に絞り込み、さらに最終的には、?レイ
アウトおよび在庫管理方式の変更、?工程の
短縮、?保管具や連結台車の導入、?倉庫
管理のIT化││の四つのテーマで改善を進
めていくことにした。
最初に?レイアウトおよび在庫管理方式の
変更に取り掛かった。 従来、同センターでは
入出庫頻度に関係なく、製品群ごとに在庫の
保管場所(ロケーション)を決めていた(
図
1上
)。 どの場所にどの製品が置かれている
かが、作業員にとって分かりやすいと判断したからだった。 しかし、このロケーション管理方法には問
題点が少なくなかった。 「倉庫全体が細かい
ブロックの固まりで、迷路のようだった。 製
品アイテム数の増加とともに、庫内のレイア
ウトはどんどん複雑になっていって、収拾が
つかなくなっていた」と勝又所長。 ピッキン
グ作業を行う従業員の動線は錯綜してしまい、
その分余計な作業時間を要していた。
動線のムダを排除
そこで製品アイテムごとの出荷頻度をチェ
静神支店中井営業所の
勝又和夫所長
AUGUST 2006 40
ング作業後、そのままパッキング(梱包)作
業までを処理するというもの。 改善前はピッ
キングとパッキングの工程をそれぞれ別の担
当者が処理していた。 そのため工程間に滞留
が生じていた。 ?のうち、とりわけユニークなのは、ピッ
キングした商品を載せたパレットの運搬に、連
結可能な搬送台車を導入したことだ。 従来、
ピッキングを行ったフォークマンがパレット
一枚単位でエレベータ前まで運んでいたため、
同じスペースを何度も行き来する必要がある
など作業効率が悪かった。 連結台車を導入し、
搬送担当者が一度に複数のパレットをまとめ
てエレベータ前まで搬送するやり方に改め、ピ
ッキング作業者の生産性が飛躍的に向上した。
?倉庫管理のIT化はWMSの導入で実
現した。 従来は紙ベースでの管理が主流だっ
たが、ハンディターミナル(以下、ハンディ)
とバーコード活用によって、センター内の在
庫量や作業の進捗状況などをリアルタイムで
管理できるようになった。
考えなくても動ける仕組み
入荷から出荷までの基本的な流れは次の通
り。 製品のバーコードをハンディでスキャン
して入荷検品を行うと、保管エリアの大まか
な区分けである「ゾーン」を指示するラベル
が発行される。 保管エリアは、縦二分割×横
三分割の計六つのゾーンに分かれている。 指
示されたゾーン内でどのロケーションに格納
するかは作業者の判断に委ねられている。 格
納したらロケーションのバーコードと製品の
バーコードをスキャンして紐付けし、在庫の
位置データを確定する。
出荷のためのピッキングリストは、まずラ
ベルの状態で発行される。 ラベルに印刷され
たバーコードをスキャンしてハンディにデー
タを取り込む。 印刷されたラベルとハンディ
の画面に表示される作業指示は同じ内容だ。
どちらを見ながら作業を行っても構わない。
ただし、ハンディの画面は小さくて見にくい
ため、実際にはラベルを見ながら作業を行い、
ハンディはデータ送信用の端末として使って
いる。
商品をピッキングして、ロケーションの棚
に貼られたバーコードとピッキングした商品
のバーコードをスキャンする。 スキャンした
バーコードが作業指示と違えば、その場でアラームが鳴って確認を促す。 ピッキングしな
がら出荷検品ができる仕組みだ。
エラーが出なければ、出荷ラベルをピッキ
ングした製品に貼付する。 出荷をすべて箱単
位で行うのであれば、ラベルの貼付は必ずし
も必要ではないように思われる。 しかし、箱
から取り出して単品単位で出荷を行う場合も
あり、その場合、ラベルが貼られていないと
製品が特定できない。 そのため、必ず出荷ラ
ベルを印刷して貼付するという手順を踏んで
いる。
大型商品のピッキングにはフォークリフト
ックするABC分析を実施。 その調査結果を
基にしてセンターのレイアウトを図1下のよ
うに改めた。 これにより、ピッカーの動線は
一筆書きになった。 同時に製品在庫の保管ル
ールとして新たに「A/R管理」という仕組
みを採り入れた。
「A/R管理」とは、在庫を保管するセン
ター二階部分をアクティブ(Active)エリア
とリザーブ(Reserve)エリアに分けたうえ
で、ピッカーが作業で移動する範囲をアクテ
ィブエリア内に収めることで、作業効率を高
めようというものだ。 アクティブエリアの保
管ラックに在庫が無くなったら、リザーブエ
リアから随時補充する。 ただし、一部製品に
ついては、ラックの中段と下段をアクティブ
エリア、上段をリザーブエリアに分けて管理
するようにした。
さらに、一週間から十日後の出荷が確定し
ている製品は、センター一階部分で荷受けし
た後、二階部分の保管エリアに移動せず、一
階部分の出荷エリア近くの「即出荷ロケーシ
ョン」で一時保管して出荷。 また、入荷即日
の出荷が必要な製品は「クロスドック方式」
で処理する体制に改めた。 従来は出荷頻度に
関係なく、一様に入荷(一階部分)→保管
(二階部分)→出荷(一階部分)という手順
で作業を処理していたため、ムダが多かった。
続いて?の具体策として「ピック・アン
ド・パック」というルールを導入した。 「ピッ
ク・アンド・パック」とはピッカーがピッキ
41 AUGUST 2006
を使い、小物のピッキングには手押しの台車
を使っている。 ピッキングした製品は、ピッ
キングエリアの一角に置かれた搬送台車に載
せていく。 搬送担当者が複数の搬送台車を連
結させ、エレベータまで運びこみ、一階に降
ろす。
倉庫内の管理をIT化したことで、作業の
進捗状況と履歴が簡単に把握できるようにな
った。 事務所から各現場の進捗状況を確認し、
状況に応じた指示を出せる。 WMSの「進捗
一覧」の画面では、オーダーごとの進捗状況
が七段階(指示待ち・指示済み・保留・出庫中・出庫完了・検品完了・発送完了)で
示されるほか、該当する出荷用トラックが到
着するとそのオーダーの表示色が変わるよう
になっている。
出荷用のトラックが到着しているにもかか
わらず、出荷準備が整っていないオーダーが
あれば、そのオーダーを優先して処理するよ
う現場に指示して、トラックの待ち時間を短
縮できる。 WMS導入前は、トラックが到着
してから二、三時間経ってから待たせている
ことに気づき、現場まで状況確認に行くこと
もあったという。
いつ、誰が、何を、いくつ出したか、ある
いは入れたか、というデータは、作業者がバ
ーコードをスキャンするたびに蓄積される。
履歴の管理が容易になり、ミス発見時にはデ
ータを遡って原因を突き止められるようにな
った。
作業精度も向上した。 従来のピッキングは、
紙のピッキングリストを片手に、製品コード
を目で確認しながら行っていた。 そのため、
製品違いや数量違いといった作業ミスが絶え
なかった。 バーコードをハンディでスキャンする仕組みに変えたことで、こうしたミスは
激減した。 数量の確認は現在も作業者の目で
行うが、数量違いのミスはほとんどなくなっ
たという。 従来は製品と数量の両方に注意が
必要だったが、現在は数量にだけ集中すれば
よくなったことも作業ミスの防止に役立って
いる。
現場に根付いた改善活動
考えなくても作業を進められる仕組みがで
きたことで、新人でもベテランの七〜八割の
レベルで作業をこなせるようになった。 従来
改善管理板(全体+個人別)
個人別の実績管理表午前・午
後・残業それぞれの入出庫件数
を各自で記入。 作業当たりの所
要時間を計算し、毎日の作業効
率も管理する。
全体の実績管理表入出庫の量や
件数、作業員数、作業時間、作業
効率などを毎日ホワイドボードに
書き出し、現場全体で共有する。
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クルを毎日続けていく。 その習慣づけが良い
現場づくりにつながっていく」(勝又所長)
実際に現場で作業を行うのは、システムで
はなく人間。 WMSを導入したからといって
現場が改善されると考えるのは早計だ。 物流企画部計画担当の山口美徳課長は、「システ
ムを入れるだけ入れて、『じゃ、あとは頑張
って』というのでは、効果は上がらない。 重
要なのは、道具であるシステムをどう活用す
るか」と指摘する。
作業実績を管理するうちに、どのくらいの
作業量に対してどのくらいの要員が必要なの
かが把握できるようになった。 月単位だけで
なく、週単位、日単位でも作業量に応じて必
要な要員を予測できるようになり、柔軟な要
員調整が可能になった。 運営を受託している
日立物流は、中井配送センターの周辺に複数
ある他企業の倉庫でも作業を請け負っており、
臨時的にも要員の融通がしやすい環境にある。
年間三〇〇〇万円を削減
一連の改革プロジェクトの投資額は、シス
テム開発費や設備機器なども含めて四五〇〇
万円。 得られたコスト削減効果は年間三〇〇
〇万円。 作業の効率化で人件費が大幅に削減
でき、輸送の効率化で輸送費も削減できた。
具体的な例として、入出庫一才あたりの総人
件費が着実に下がってきていることが挙げら
れる。 〇三年と〇五年の需要期で比較すると、
四〇円超と約三〇円で三割減だ。 特殊要因
の絡む十二月を除けば、年間を通して安定し
てきた(前ページ
図2)。
中井配送センターでのプロジェクトが成功
したのを受け、オカムラ物流では他拠点にも
WMS導入を展開している。 中井配送センタ
ーで〇四年五月に導入後、同年七月に横浜西
配送センターに導入。 十二月に大阪センター、
翌二〇〇五年には摂津センターに導入した。
さらに今年十二月に竣工予定の鶴見工場(仮
称)にも導入し、来年八月には横浜物流セン
ターに導入する計画が進行している。 「たとえば横浜西センターでは小口の混載
貨物が多く、大阪物流センターでは大きな事
務机や椅子などをまとめて出荷するなど、各
拠点で扱う商品群がそれぞれ異なる。 当然、
物流に求められるサービスも異なる。 それぞ
れの拠点の特性に合わせてWMSを構築しな
ければ、導入効果は上がらない」と、静神支
店の浅田宰輝支店長は話す。
巨額の投資を伴うWMSを、生かすも殺
すもユーザー次第。 導入自体を目的にせず、
導入して何をしたいのかを明確に意識するこ
とが求められる。
(
森泉友恵)
は、ベテラン作業者の経験と勘に頼る部分が
大きかったが、作業員ごとのレベル差が縮小
した。 また工程間の滞留も解消し、全体的な
作業の流れがスムーズになった。
最も大きな効果は、自発的に改善する仕組
みができあがったことだ。 個人レベルで作業
実績を管理できるようになり、各自の明確な
目標設定が可能になった。 目標の設定は各自
に任せている。 実績管理表を現場の掲示板に
張り、半日ごとに入庫件数、出庫件数などの
作業実績を記入していく。 作業者本人が自分
の生産性を管理することで、個々の意識が高
まり、生産性が向上する。 どんなに立派なシ
ステムを導入しても、人の意識が伴わなけれ
ば意味がない。
全体の作業実績と生産性は、前日分を毎朝
ホワイトボードに書き出している。 画面を見
れば分かる情報を敢えて書き出すところに意
味があるのだと勝又所長は力説する。
「測って、記録したものを、見せて、異常
に気づかせる。 異常に気づけば、集団活動の
中で話し合って、良い改善策が出てくる。 そ
れを実際の作業に反映させていくというサイ
物流企画部計画担当の
山口美徳課長
静神支店の浅田宰輝支店長
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