*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
AUGUST 2006 46
東欧の新?首都〞プラハで開催
会議はフィンランドの大手製薬会社である
オリオン・ファーマのSCM担当、マルク・
フータ│コイビスト副社長の「ROI(投資
利益率)を高めるSCMとは」という基調講
演で幕を開けた。
「私が入社した三〇年前には社内でサプライ
チェーンという言葉はおろか、ロジスティク
スという言葉もほとんど使われることがなか
ったように記憶している。 当時、製薬会社に
とっては、R&D(研究開発)に投資して優
れた医薬品を作り出すことが経営のほとんど
すべてといってよかった。 時は流れて、国内
の製薬会社のレベルも上がり、また外国の製
薬会社との競争にもさらされるようになった。
さらに業界の規制緩和が進み、ジェネリック
医薬品(成分類似の後発品)の製造も容易に
なったことで、新薬が高い利益を生む期間が
短くなった。 三〇年前に比べると、その期間
は五分の一になったともいわれる。 そんな中、
必要な薬を確実に客先に届ける体制を作るこ
とが、つまり効果的なサプライチェーンの体
制を作り上げることが、今日の製薬会社各社
のROIを大きく左右するようになった」
本誌は今回、ロンドンに本社を置くワール
ド・トレード・グループが主催する「第八回
ヨーロッパ・サプライチェーン&ロジスティ
クス会議」に参加した。 開催地はチェコ共和
国の首都プラハだ。 六月二六日と二七日の二
日間に、ヨーロッパをはじめとする世界各国
からロジスティクスの専門家約三〇〇人が参
加し、約三〇講演が行われた。 チェコのみならず、ロシアやポーランドな
ど各国の成長著しい東欧において、プラハは、
いずれ東欧の?首都〞になるといわれている
急成長中の都市だ。 チェコへはすでに多くの
多国籍企業が進出を果たしており、日系では
松下電器やトヨタ自動車などが工場を構えて
いる。 それに伴い、ロジスティクス企業の進
出も加速している。
荷主中心の会議に鞍替え
今回の会議は、本誌が過去二回にわたって
参加した会議とは主催者が異なる。 これまで
プラハで開かれた欧州SCM会議に参加
荷主企業が最新ロジスティクス戦略を報告
チェコの首都プラハで開かれた「第八回ヨーロッパ・サプライチェーン&
ロジスティクス会議」に参加した。 ヨーロッパの荷主や多国籍企業と呼ばれ
る大企業の講演を中心に構成した会議で、約三〇〇人のロジスティクス専門
家が参加した。
(取材・編集
本誌欧州特派員
横田増生)
ヨーロッパ・サプライチェーン&ロジスティクス会議報告?
47 AUGUST 2006
とは違う会議に出席したのは、ヨーロッパの
荷主企業のロジスティクス戦略に焦点を当て
たかったからだ。 3PL企業中心の会議に二
年連続して出席して、ヨーロッパの3PL業
界の全体像や業界トレンドはつかめた。 次は
荷主企業の攻略だ。 その手がかりとなるよう
な会議を探すうちにたどりついたのが、今回
の「サプライチェーン&ロジスティクス会議」
だった。
とはいえ参加前には、どんな会議なのかは
蓋を開けてみるまではわからないという不安
もあった。 しかし基調講演を聞き終ったとき、
ほぼ予想したとおりの会議であると確信する
に至った。
今回の会議の特徴は大きく分けて二つある。
一つは、発表者のほとんどが荷主であるということ(
図1参照)。 冒頭にあげたオリオン・
ファーマやW・H・Smith(英国の雑誌
や文具の小売り)、Entertainme
nt
UK(CDやDVDなどのネット通販)
といったヨーロッパの荷主企業に加えて、I
BMやヒューレット・パッカード、ブリヂス
トンといった国際企業のSCM担当者も壇上
にあがった。
発表は聞き応えのある内容が数多くあり、
玉石混交との印象を受けたアメリカのCSC
MPとははっきりとした違いがあるように感
じた。 また発表者が持ち時間厳守であったた
め、会議の進行が円滑であったのも印象深い。
スポンサーを全面に
会議の運営を担当するローレンス・アレン
氏はこう説明する。
「講義の内容がいずれも一定レベルを超えた
ものであるのは、過去七年の蓄積によるもの
が大きい。 社内でプロデューサーと呼ばれる
担当者が、これまでの経験に業界の最新動向
を加味して、だれにどんな話をしてもらうか
という交渉をする。 講義の内容は、会議の品質に直結するだけに、発表者の選定には十分
に気をつかっている」(囲み記事参照)
もう一つの特徴は、スポンサーを全面に押
し出す運営方法である。 会議のメイン・スポ
ンサーは、アラップ(Arup)というイギ
リスのコンサルティング会社で、会議の司会
進行を務めるのは同社の物流担当のコンサル
タントである。 また会議の合間に、「スポンサ
ーとの商談会」が設けられている。 会議場の
隣りに会議場より大きなスペースを確保。 三
〇社以上からなるスポンサーの各担当者は指
定されたテーブルにつき、会議に参加した荷
AUGUST 2006 48
主企業とビジネスについて話し合う。
事前に手に入れたスケジュールでは「Prearranged
meetings」と書いてあるだけで、
何のことなのかわからなかった。 会議場では
じめて商談会だとわかった。 そんな商談会に
参加する荷主企業はいるのだろうかと思って
いたが、商談の会場はスポンサーと話し合い
を希望する荷主企業からの参加者で溢れかえ
っていた。
スポンサーを前面に立てたとはいえ、それ
を商談会という空間に限定している。 スポン
サーが会議で発表することもなかった。 その
ため、商談会を除く部分ではスポンサーの影
響を感じることはない。 それが会議のレベル
を高い位置で保つことにもつながっているよ
うに思えた。
「パートナーとの信頼と企業価値」
二日目の発表で説得力があったのは、イギ
リスのクランフィールド大学のリチャード・
ウィルディング教授の講演だった。 「SCMに
おける3Tと3C」と題した講演で、これか
らはサプライチェーンにおけるパートナー同
士のコラボレーションが重要になるという内
容だった。
同教授は「企業の価値や優劣がその企業単
独の行動で決まるという時代はもう過去のも
のになりつつある。 これからはサプライチェ
ーン上のパートナーとどのように協力し合え
るかが問われるようになり、企業価値までを
決定するようになる」と指摘したうえで、「3
T」「3C」の重要性
について次のように解
説した。
「パートナーと協力
するには三つの?T〞が必要だ。 時間(Ti
me)と透明性(Tr
ansparenc
y)、それに信頼(T
rust)――だ。 ロ
ジスティクスの現場で
よく耳にするのは、
『本当は金曜日に必要
な部品だけれど、遅れ
ると困るから月曜日に
持ってくるように言っ
ておこう』とか、『こ
の部品は一〇〇〇個あ
ればいいのだけれど、
念のため一一〇〇個発
注をかけておこう』と
いった話だ。 これは、効率的なサプライチェ
ーンを作る上で重要な信頼が欠けていること
を端的に表している。 そうした発注方法をと
る背景には、モノの動きが不透明なためであ
り、結果として時間のムダが発生している」
「サプライチェーン上のモノの動きをできる
限り透明にして、お互いの時間を尊重するよ
うになると信頼が生まれてくる。 その信頼に
も三つのレベルがあり、はじめは協力(Co
operation)からスタートして、時
間をかけて調和(Coordination)
となり、最後はコラボレーション(Coll
aboration)に進化する。 先に挙げ
た三つの?T〞とこの三つの?C〞が高まれ
ば高まるほど、パートナーとのウィン│ウィ
ンの関係が生まれ、企業価値が高まるように
なる」
会議での講演はいずれも充実した内容だっ
た。 各講演の詳細については次号以降に順次、
報告していくことにする。
昼食会でのネットワーキング300人が参加した講議
会議のプログラムスポンサーとの商談会
欧州SCM会議の様子
49 AUGUST 2006
――まずは会議を運営しているワール
ド・トレード・グループについて教えて
ほしい。
当社の発足は八年前で、ロンドンに本社を置く会議運営の専門会社だ。 シンガ
ポールとカナダのトロントにも支社を構
えている。 会社として最初に手掛けたの
が、この「ヨーロッパ・サプライチェー
ン&ロジスティクス会議」であり、会社
が最も大切にしている会議の一つだ。
――ほかにはどんな会議を手掛けている
のか。
年間一〇件前後の会議を開いており、
そのうち三つが「サプライチェーン&ロ
ジスティクス会議」だ。 そこから派生し
た製造業者のための会議やRFID会議
があり、ほかにはCFO(最高財務責任
者)やCIO(最高情報責任者)のため
の会議も開いている。
――今回の会議にはどんな人たちが参加
しているのか。
参加者三〇〇人のうち、二〇〇人は参
加費を払った一般の参加者で、荷主企業
のサプライチェーンの現場担当者や本社
の部長クラス、担当役員がほとんど。 残
りはサプライヤーと呼ばれるスポンサー
からの参加者だ。 今回の会議のメーン・
スポンサーはコンサルティング会社のア
ラップで、会議の司会はアラップのロジ
スティクス部門の責任者にお願いしてい
る。 そのほかにも三〇社以上の企業がス
ポンサーとして参加している。 コンサル
ティング会社以外にも、i2テクノロジ
ーズや、マニュジスティックスといった
ソフト会社や、シュナイダー・ロジステ
ィクスやキャタピラ・ロジスティクス、
シェンカーといった3PL企業が名を連
ねている。
――この会議の特徴の一つは会議の合間
にスポンサーとの商談会が設けられてい
ることだ。
スポンサーとの商談会は会議の目玉の
一つだ。 初日、二日目ともに三時間近い
時間をとって参加者とスポンサーが会議
の場を利用してビジネスについて話し合
いができるようにしている。 講義を聞い
て、SCMの最新トレンドを吸収するだけでなく、実際にビジネス・ソリューシ
ョンを見つける手助けをするのがわれわ
れの狙いだ。
――最後に、今後開かれるサプライチェ
ーン&ロジスティクス会議の日程を教え
てほしい。
九月にシンガポールで「アジア・サプ
ライチェーン&ロジスティクス会議」を
開き、一二月にはアメリカ・テキサス州
で、「アメリカ・サプライチェーン&ロ
ジスティクス会議」を開く。 いずれの会
議も、各地の荷主企業のSCM担当者を
中心にして発表者の選定を進めている。
会議の運営担当者ローレンス・アレン氏に聞く
「9月にはシンガポールでアジア会議」
アジアの会議についての詳細は、http://
ap.scsummit.com/index.asp、アメリ
カの会議については、http://na.scsum
mit.com/で見ることができる。
|