ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年8号
管理会計
3PLの料金体系を工夫する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

63 AUGUST 2006 アウトソーシングの料金体系 協力運送会社に対する支払い運賃などの 表面化しているコストは、トータル物流コス トのほんの一部に過ぎず、その水面下には膨 大なコストが隠れている││いわゆる?物流 コスト氷山説〞が誕生した当時、物流業務 の九割は荷主企業の自社内で行われている と言われていた。
委託している業務範囲も路 線便や通運などの汎用的なポイント・ツー・ ポイントの輸送、あるいは流通加工を必要 としない単純な保管、工数契約による庫内 作業などがもっぱらであった。
それが今日、様変わりしている。
日本ロジ スティクスシステム協会(JILS)が例年 行っている物流コスト調査によると、すでに 物流コストの四分の三が支払物流費となっ ている。
回答企業が大手企業、メーカー中 心であることを割り引いても、日本全体では 概ね半分のボリュームが委託されていると推 測される。
このことはマクロ物流コストの推 計結果からも裏付けられている。
業務委託の内容も複雑化している。
かつ ての単純な業務委託であれば、料金の妥当 性の評価や代替も容易であった。
ポイント・ ツー・ポイントの輸送の料金が高いかどうか は他社と比較すればすぐにわかる。
料金や品 質に満足がいかなければ事業者を切り替え るのも容易だ。
しかしながら、現状で行われている3PL では、一般に契約期間は三年以上で、かつ 委託事業者を変更する場合には、切り替えのために半年以上のシステム企画・開発を 行わなければならない。
これに応じて、長期 にわたる委託期間中に3PL事業者に継続 的に物流改善を行うように促すための、リレ ーションシップ管理、契約書によるコントロ ールなど各種の試みがなされている。
この長期間にわたる物流業務委託を管理 する手段の一つに、料金体系によるコントロ ールがある。
その代表的な手段の一つで、よ く紙上に取り上げられるものにゲインシェア リング(成果配分)がある。
しかしながら、 ゲインシェアリングのみがコントロールの手 段ではない。
3PLの料金体系を工夫する 前号のトラック運賃体系に続き、本号では3PLの料金体系につ いて解説する。
業務委託の範囲拡大を反映して、3PLの料金体系 には様々なバリエーションが生まれている。
それぞれのメリット・ デメリットを把握して上手に組み合わせて適用することで、円滑な 運営が可能になる。
第17回 梶田ひかる アビームコンサルティング 製造事業部 マネージャー AUGUST 2006 64 サプライチェーン・ロジスティクスにおい て検討すべき外部委託は3PLだけではな い。
依然、旧来型の物流業務委託も行われ ている。
3PLに委託する業務も一つひと つはすべて旧来型のものでしかないとも言え る。
加えて今日では物流のみならず生産、受 注センター、ソフト開発など、あらゆる業務 が外部リソースを活用して行われている。
荷 主企業、サービス提供者とも、良好な関係 を築くためには、料金体系の種類と特徴を 正しく理解し、適切な料金体系の選定とそ の運用が必要になる。
料金体系の種類と特徴 アウトソーシングを広く外部委託ととらえ ると、外部委託で用いられているものを整理 すると、料金体系にも様々なバリエーション がある。
最近は3PL型ということで英語 の名称のものも紙上で散見されるようになっ てきている。
本編ではここにスポットをあて、 各種の料金体系について分類・整理し、そ れぞれの概要、特徴について紹介する( 図1 参照 )。
■トランザクション型料金 入庫、出庫、輸送などのトランザクション あたりで料金を設定しているのがこのタイプ である。
倉庫業務で多く用いられてきた一期 あたり保管料や、特別積み合わせ便などの 混載輸送における「五〇キログラム以内五 〇キロメートルまでいくら」といった料金体 系がこれにあたる。
トランザクション型料金には、利用者にとって分かりやすいというメリットがある。
つ まり、いくらになるのかを、あらかじめ利用 者が簡単に試算できる。
他社比較も容易で ある。
荷主側で物流をコントロールする場合 の汎用的なサービスの料金体系としては、よ く馴染む。
ただし、適用できるサービスは限 定される。
特殊なサービス、例えば流通加工 や輸送時の軒先での追加作業等がある場合 は、以降で取り上げる別の料金体系を用い る必要がある。
■フラットレート型料金 日本語に訳すと「均一料金」となる。
こ れは広義のトランザクション型料金に分類さ れる。
フラットレート型料金をもって3PL における新しい料金体系と紹介されることも あるが、日本でも昔から使われてきた。
例え ば、倉庫業務受託の時に設定する入出庫一 ケースあたり料金、宅配便で企業向けに提 供されている全国一律一個あたり料金、流 通センターの通過金額制料金などがこのタ イプに分類される。
フラットレート型料金は次の手順で設定 される。
まず荷主は作業ボリュームを計算す るための基礎データを提供する。
それに基づ き物流事業者は、年間での想定作業ボリュ ームを計算し、それをベースにして総コスト を試算する。
この総コストを荷主に開示し、 荷主と物流事業者の間で協議して、料金体 系を決定する。
この料金体系の一例である 通過金額制運賃の作成手順は前号の図3で 紹介している。
この料金体系のメリットは、トランザクシ ョン型料金の説明でもあげたように、荷主が 65 AUGUST 2006 支払料金を計算しやすいことにある。
毎月 の入出庫量、輸送量推計から、予算管理も 容易に行える。
しかしながら、複雑な作業に、このタイプ の料金体系を用いると、問題の起きる可能 性がある。
フラットレート型では、物流事業 者はリスクを考慮し、通常時のコストと比べ て高めに料金を設定する必要がある。
リスク を十分に織り込めない場合には、物流事業 者の収益が悪化する可能性がある。
典型的なケースは多頻度小口化の進展で ある。
想定された以上に多頻度小口化が進 展すれば当然、出庫コストは上昇する。
逆 に多頻度小口化が是正されれば出庫コスト は低減する。
ところが、出荷単位ではなく、 通過金額あるいは一定の物量あたりで出庫 料が設定されていると、同じ量が出庫されて いる限り、料金は変化しない。
この場合には、作業内容の変化に応じ、年単位等で定期的 に見直す必要がある。
■リソースベース料金 毎月、委託業務にかかった人、車などの リソースの提供量に、予め定めた単価を乗 じたものを料金とするのがこのタイプである ( 図2)。
この料金体系を用いているケースは、 倉庫内業務委託に多く見られる。
また、3 PLの世界で「コストプラス料金」と言われ ているものもこの料金体系である。
リソースの単価は、そのリソースに直接的 にかかるコスト(パートの場合は雑給+福利 厚生費等)、それにかかる管理費用(募集費、 勤怠管理、給与計算など)、期待される利益、 相場等を考慮して決定する。
そのため必ず しもコスト実態を正確に表すものではないが、 相場があるため実態とかけ離れた設定にはな らない。
この料金体系の場合、物流事業者は着実 に利益を出すことができる。
作業ボリューム が明確でない場合は、この料金体系にして おくことが無難である。
また荷主も、委託物 流業務にどれだけのリソースがかかっている のかを知ることができる。
請求明細に載って いるリソース提供量が実態を正しく提示し ている限り、荷主は物流事業者が適正な利 益の範囲内でその業務を行なっていると判 断することができる。
ただし、これは逆に見れば、荷主側で委託 した業務の生産性を管理する必要があると いうことを意味している。
それがこの料金体 系の問題点でもある。
荷主側の管理なしに、 この料金体系を用いた場合、受託者側には 負のモチベーションが働く。
生産性を落とし たほうが受託する収入が高くなるからである。
そのため3PLの場合には、荷主側と受 託者側であらかじめ「SLA(サービスレベ ル・アグリーメント)」を結び、業務の生産 性が基準に満たない場合は受託者側にペナ ルティを課す、あるいは契約を見直す等を取 り決めて、この欠点を補っていることが多い。
■アクティビティ・ベース料金トランザクション(フラットレート)型料 金とリソースベース料金の中間に位置するの がこのアクティビティ・ベース(活動基準) 料金だ。
料金はトランザクションの量に単価 を乗じることにより計算される。
単価は細か な作業内容ごとに設定される。
このため「メ ニュープライシング」とも呼ばれている。
この料金体系のメリットは多い。
まず、ト ランザクション型料金と同様に、荷主は支 払料金の総額を試算しやすい。
加えて、フ ラットレート型料金の欠点であった作業内 AUGUST 2006 66 容の変化によるコストと料金の乖離という問 題もない。
作業コストにほぼ連動して支払料 金が変わるため、料金改定を頻繁に行なう 必要もない。
量販店と取引のある荷主であれば、近年 増えてきているトラック一車満載単位でのオ ーダーへの対応などに、この料金体系は威力 を発揮する。
納品条件から物流コスト変化 を簡単にシミュレーションできるため、オー ダーをトラックの車両単位にまとめることで、 いくらの値引きができるのかを、営業担当者 が容易に判断できる。
いいこと尽くめのようではあるが、料金設 定には、アクティビティごとのコストの把握 が必要で、それにかなりのワークロードを強 いられるところが、この料金体系の欠点であ る。
メリットが多く各所で紹介されていなが ら、導入している企業が少ないのは、これに 起因している。
■固定料金 総額でいくらと取り決めるタイプの料金体 系である。
コンサルティング料金、システ ム・インテグレーションにおける開発フェー ズ料金、情報システムの保守料金などによ く見られる。
後から料金の変動する可能性 がないため、利用者側は予算化しやすい。
受 託者側にも、業務を効率的に行うことで利 益額が増えるというメリットがある。
しかし、実際の作業内容がどうであれ、料 金総額が固定化されているため、荷主にと ってはサービスレベルを当初の予定よりも落 とされるというリスクが、また受託者にとっ ては作業内容を後から増やされるリスクがあ る。
そのため、この料金体系を適用する場合 は、双方ともリスクを回避できるように、契 約書に詳細に提供サービス内容を明記した り、SLAによりサービスレベルを規定した りする必要が生じる。
■管理型料金 英語でいうマネジメント・フィーである。
管理型料金という呼び方は、日本語として あまり馴染みはないが、リソースベースの料 金体系を用いる場合に上乗せする「一般管 理費」がこれにあたる。
リソースベース料金 やアクティビティ・ベース料金で計算された 料金総額に一定の料率を乗じるかたちで計 算する( 図3)。
67 AUGUST 2006 管理型料金を適用するメリットは二つあげ られる。
まず、荷主、受託者双方にとって料 金計算が容易であること。
次に、受託者は設 定された料金内で作業を行なわなければなら ないため、受託者側の改善努力を引き出しや すいということである。
この料金体系の問題点は、受託者側のみ に指摘されている。
料率を設定するに当たっ て当然、荷主はその内容について契約前に詳 細に説明を求める。
そのため、必要以上に高 額となることはない。
逆に、受託者側はその 内訳を詳細に説明しておかないと、実際には 持ち出しになってしまう恐れがある。
以前にも指摘したように、近年業務委託の 範囲拡大に伴い、物流企業の一般管理費は 膨らむ傾向にある。
提案活動や入札決定後 のシステム開発、稼動後のトラブルの沈静に 費やす追加要員、あるいは運営が安定するま での間の改善活動に投入する要員の費用など が、荷主に直接請求できずに一般管理費とし て計上されている。
これらのコストが一時費用として請求でき ないのであるなら、物流事業者はあらかじめそれを明確に荷主側に説明して管理料として 回収する必要がある。
その交渉を有利に進め るために、どの荷主のどのシステムに、いく らの一般管理費がかかっているのかを、なる べく正確に把握しておくことが望まれる。
組み合わせによる運用 実際の物流料金は、これら料金体系の組 み合わせにより成り立っている(図4)。
例 えば稼動までの準備費用は固定で一時金とし て徴収、倉庫スペースと荷役・保管機器料 金は固定、作業要員の料金はアクティビテ ィ・ベース、輸送料金はトランザクション型、それに管理料を上乗せする、といった具合で ある。
どの費用についてどの料金体系を用いるか に決まりはない。
新しいサービスに取り組ん だ企業が、その経験からこの費用については この体系をこのように使った方が望ましいと 改善を加え、その事例を見た他社が参考にす る、といった形で徐々に広まっていく。
料金 体系を選定する時は、長所と課題を理解し、 また他社における経験や工夫を参考にするこ とが有用であると言えよう。

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