*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
「例えばロジスティクス部門が世界
中の事業計画書を早いタイミングで
吸い上げることができるようになりま
した。 そこに書かれた機種ごとの毎月
の生産台数や各現法の販売計画を、個
数や容積・重量などの物流管理に必
要なデータに変換することで、事前
にロジスティクスの計画が立てられる
ようになった。 グローバルな入札もそ
れで可能になったんです」
――ソニーの国際輸送のグローバル
入札は、IBMと並んで世界的に見
ても先行事例の一つでした。
「他の電機メーカーには随分、うら
やましがられましたよ。 他のメーカー
と違ってソニーでは、トップの後押し
があったことに加え、当時私はロジス
ティクスだけでなく資材調達の担当
役員も務めていたので、数字を集め
やすかった」
――国際輸送の統合は、集中管理なので権限の委譲さえクリアできれば
比較的スムーズに進められます。 し
かし海外の販売物流、国内サプライ
チェーンとなると、国や地域によっ
て環境が全く違うので、結局、現法
に任さざるを得ないのでは。 つまり統
合管理は難しい。
「しかしロジスティクスの管理レベ
ルが上がってきたことで、拠点配置
や配送網の最適化など、専門家でな
SEPTEMBER 2006 2
ソニーのグローバルSCM
――中国やインドなど、新興国の国
内市場における販売物流が、日系企
業の新たな課題になってきました。
「これまで海外の国内販売物流は、
各国に設置した現地法人がそれぞれ
管理するのが普通でした。 管理の方
法もバラバラだった。 それが最近では、
全社横断的なロジスティクス部門や
物流子会社が、世界各地にロジステ
ィクスの専門スタッフを派遣するよう
に変わってきた。 グローバル・ロジス
ティクスの統合管理がそこまで進ん
できたということでしょう」
――これまでグローバル・ロジステ
ィクスのテーマとなっていたのは国際
間輸送でした。
「それも当初は完成品の国際間輸送
を扱っているだけでした。 私自身の経
験を振り返っても、ソニーでロジステ
ィクスの責任者を務めていた九三年
に完成品輸送の国際入札を行ったの
が、グローバルな統合管理という意
味では最初に着手した仕事でした。 そ
れまで各国の現法でバラバラに契約
していた国際輸送業者を幹線ごとに
集約しました。 それによって当時で年
間二百数十億円のコストダウンが実
現しました」
「次のステップとなったのが工場の
調達物流の統合管理です。 私の退任
後の話になりますが、ソニーの場合は
そのために二〇〇三年に物流子会社
のソニーロジスティックスと、部品調
達会社のソニートレーディングインタ
ーナショナルを統合して『ソニーサプ
ライチェーンソリューションズ』を設
立しました」
――ソニーロジは元々、国際物流も
手掛けていたのですか。 一般に家電
メーカーの物流子会社が海外の物流
までカバーするようになったのは最近
のことです。
「昔から通関周りの保管や輸出入業
務は手掛けていました。 しかし一九
八八年に当時の大賀典雄社長が、『そ
れだけではダメだ、ソニーが製造業者
として生き残るためには、物流をロジ
スティクスに進化させる必要がある』
と頑強に主張したことから、グローバ
ル・ロジスティクスの取り組みに拍車
がかかりました。 物流子会社の社名
もソニー倉庫からソニーロジスティッ
クスに変えた。 恐らく日本で初めて
ロジスティクスを社名に付けた会社
だったと思います」
――ロジスティクス・コンセプトの
導入によって、何がもたらされたの
でしょう。
水嶋康雅
多摩大学
研究開発機構
ロジスティクス経営・戦略研究所所長兼教授
「グローバル統合は次のステップへ」
グローバル・ロジスティクスの主要課題が、国際輸送の統合か
ら新興国の国内サプライチェーン構築に移ってきた。 そこにはグ
ローバルな統合管理と、現地の環境に合わせたローカライズとい
う、新たな難問が待ち構えている。 ロジスティクス・マネジャー
の役割がいっそう重くなっていく。
(聞き手・大矢昌浩)
いと扱うことができない課題が増えて
います。 それを現地法人だけで対応
するのは厳しい。 やはり現法にロジス
ティクスの専門家を派遣する必要が
ある。 その担当者が現法の意向と本
社ロジスティクス部門の管理方針を
統合する。 またそのような、各国で国
内向けのサプライチェーン構築に携
わっている担当者が、アイデアや事例
を交換したり、あるいは上手くいった
取り組みを顕彰したりすることで、全
体のレベルアップを図ることができ
る」
中国・インド物流の課題
――しかし、欧米先進国と中国やイ
ンドのような新興国では、国内サプ
ライチェーンの課題があまりにも違
います。
「もちろんです。 欧米先進国であれ
ば、現地の専門業者がいくらでも使
える。 トラブルが起きても英語で対応
できる。 場合によっては外資系企業
が自社でアセットを持つこともできる。
しかし今のところ中国などの新興国
ではそれができない。 物流行政はどこ
の国も保護主義的ですからね。 たと
え管理レベルが低くても荷主は現地
の物流会社を使わざるを得ない。 も
ちろん日系の物流会社も頑張ってそ
の壁を乗り越えようとしているけれど、
外資としての制約がある。 荷主自身
が現地で格闘せざるを得ないところ
がある」
「加えて日系メーカーの多くが現在、
中国の内陸部に入り込もうとしてい
ます。 そこではインフラ整備の進んだ
沿岸部に工場を作って輸出入の管理
をするのとは、また違った難しさと直
面することになる。 内陸部に生産拠
点を作って、果たして調達物流は担
保できるのか。 あるいは沿岸部の拠
点から長距離輸送で内陸部の市場に
供給するのか。 単純な輸送の問題で
はなく、それこそ調達から販売物流
に至るトータルロジスティクスが問わ
れることになります。 内陸部に駒を進
めるほど、ロジスティクスの重要性が
ますます高まることになるわけです」
3 SEPTEMBER 2006
水嶋康雅(みずしま・やすまさ)1966
年、ソニー入社。 同社で人事開発本部長、
パーソナルビデオ事業本部長、物流・調
達統括役員(上席常務)、ソニーロジス
ティックス(現・ソニーサプライチェー
ンソリューションズ)社長等を歴任。
2 0 0 4年、多摩大学大学院教授就任。
2006年、同大ロジスティクス経営・戦
略研究所の設置に伴い所長に就任。 現在
に至る。
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