ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
SOLE
全日空の機体整備場を見学技術面から顧客満足を追求

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

81 SEPTEMBER 2006 更。
国内線担当会社と組んで国内 の路線を拡大し、七一年には、東 京・香港間で国際チャーター便の運 航を開始。
八六年に東京・グアム間 で国際定期便の運航を開始し、以 降、北米、アジアパシフィック、欧 州、中国と路線を拡大してきた。
現 在、国際線は二四都市・毎週約五 〇〇便、国内線は五〇都市・毎日 約九〇〇便のネットワークを持って いる。
運航機材は、B747が二三機、 B767が五六機 、B777が三 一機、A32Xが三四機の計一四 四機。
ANK&A‐Net を含め たANAグループ全体では計一九二 機を保有している。
これらの一機あ たりの年間飛行時間および回数は、 国内線は二〇〇〇時間・二二〇〇 回、国際線は四五〇〇時間・一〇 〇〇回に及ぶ。
国内では、運航時間 帯には常時約五〇機が飛行している ことになる。
これらの運航を技術面 から支える技術部門の体制は、整備 本部技術部(羽田空港内)をはじめ、 機体メンテナンスセンター、ライン メンテナンスセンター、成田メンテ ナンスセンター、原動機センター、 機装センター、その他グループ整備 会社九社それぞれに配置した生産技 術組織で構成されており、確実な品 質の作りこみや不具合情報の収集・ 分析・発信に重要な役割を果たして いる。
機体整備の原点は顧客満足 航空会社が提供する商品のカタログとも言える時刻表に記載されるの は、機種、出発および到着時刻、目 的地、特別座席機材などである。
機材品質に責任を持つ整備本部 は、お客さまがカタログ(時刻表) に望む通りに飛行機を飛ばすことが 求められるのであり、「こんなこと があったら、お客さまは不満足!」 を機体整備の原点としている。
「不 満足」の例には次のようなものがあ る。
? 急ぎの出張だったのに、機材故 障で出発が遅れ商談がキャンセ ルになった。
? 出発したのに機材故障の修理の ため出発ゲートに引き返した。
? 離陸滑走を始めたが、途中で急 に中止した。
? 離陸した後に、機材故障のため 出発空港に引き返した。
? 機材故障のため、目的地でない 最寄の空港に着陸した。
?飛行中に与圧装置の故障で緊急降 下した。
?トイレが使えない/汚い/臭い。
?座席が汚れている/壊れている。
?読書灯がつかない/消えない。
?オーディオが壊れて聞こえない。
? ポケモン機だと子供が楽しみに していたが、故障のため違う飛 行機になった。
?ファーストクラスでゆっくり休も うと思っていたのに、リクライニ ングが故障した。
? 機内で封切前の映画を楽しみに していたが、故障で音楽さえ聴 けなかった。
世界トップレベルの定時出発率 航空会社の技術者の使命として、 「お客さまの要望に徹底的にこだわ り、満足いただける商品を提供する。
もう一回のりたくなる全日空便、ず 〜っと乗りたくなる飛行機をカタロ グ通りに提供」と、常にお客様の視 点で考えている。
主な機材品質目標 は、?定時出発率:機材の故障事 由による遅発(定刻より一六分以上 の遅れ)・欠航を国内線一〇〇〇 便あたり三便以下、国際線一〇〇 〇便あたり七便以下、?イレギュラ ー運航:離陸滑走中止・離陸後の SOLE日本支部では毎月「フ ォーラム」を開催し、ロジスティ クス技術・ロジスティクスマネジ メントに関する活発な意見交換・ 議論を行い、会員相互の啓発に努 めている。
シリーズ第九回にあた る七月十三日のフォーラムでは、 今年度のテーマ「サービスパーツ のロジスティクス研究」の一環と して、全日本空輸(全日空)の整 備本部を見学し、民間航空機整備 について学んだ。
整備本部技術 部・技術企画チームリーダー黒木 英昭氏に説明を受けた、機体整備 の概要を紹介する。
運航ネットワークと整備体制 全日空は、第二次世界大戦によ り壊滅したわが国の定期航空事業を 再興することを目的に、一九五二年 に「日本ヘリコプター輸送」として 設立された。
翌年にヘリコプターを 使って営業を開始して以降、貨物便、 旅客貨物便と業務を拡大してきた。
五七年に全日本空輸へと社名を変 SOLE日本支部フォーラムの報告 全日空の機体整備場を見学 技術面から顧客満足を追求 The International Society of Logistics SEPTEMBER 2006 82 引き返し・目的地外着陸・緊急着 陸・異常停止は一万便あたり二件 以下、?客室快適性に関する苦情 件数を二万名様あたり三件以下(国 際線)、?エンターテインメント・ サービスに関する不具合席数を提供 座席一〇〇〇あたり七席以下、と 設定している。
?定時出発率と?イ レギュラー運航の実績は、二〇〇一 年以来目標水準を維持している。
こ れは世界トップレベルの水準にある。
機材品質状況は可視化している。
「機材品質ダッシュボード」を導入 し、品質管理項目について、パソコ ンから常時確認できるようにしてい る。
このボードは、グラフィカルな メーターの形にし、針が右の時は目 標達成、左の時は目標未達、これを クリックするとドリルダウンし未達 の原因が把握できる。
原因把握を共 有化・迅速化し、改善への対策を 強化している。
ライフサイクルが二〇〜三〇年と 長く、システムが複雑である航空機 の品質管理には、航空機メーカーと 航空会社の緊密な連携が不可欠で ある。
航空機・エンジンメーカーは 耐空性のある製品を製造する責任が あり、型式証明(設計承認)、耐空 証明(設計どおりに製造)を取得し ている。
また、耐空性維持のための インストラクションである、整備プ ログラム・整備マニュアル・設計変 更・追加点検情報を提供する責任 も有している。
これらに対し、航空会社には製造 後の耐空証明を維持する責任(設 計品質の維持)があり、原則年一回 耐空証明を受ける。
これは車の車検 に相当するものである。
また、公共 交通機関として、定時性の維持・ 快適性の維持・経済性の尊重・事 業に適合した機体使用の維持などの 責任を有している。
これらの責任を 技術的に支援するため、航空会社の 技術者は、整備の体系・整備方式 (整備プログラム・整備の技法)・ 信頼性管理・技術指令・機体仕様 設定および変更を管理・実践してい る。
航空機は、二重、三重の装置と 系統で安全性が守られているが、整 備点検でその二重、三重の装置と系 統の機能を確実に維持しなければな らない。
このため、整備の体系およ び技法(選定ロジック)の確立と維 持が重要である( 図1)。
その信頼 性管理サイクルは、Plan:仕 様・整備要目・整備基準・信頼性 目標値の設定、Do:実運航・定 例作業・非定例作業、Check: 統計的監視・イベント監視・故障 データ収集・分析および解析、Ac tion:整備要目変更・技術基 準変更・設計変更・追加点検、と 確立されている。
この管理サイクルにおいては、故 障データの蓄積とその解析が非常に 重要である(八一年にコンピュータ 管理へ移行した)。
故障解析は、? 故障の的確な発見:乗務員・整備 員からの情報および機上故障記録装 置の情報、?故障内容の把握:不 具合の探求および不具合部位・部 品の特定、?故障モード調査:疲 労・腐食・振動・劣化・外的要因・ 磨耗などの損傷区分、?故障の原 因調査:製造品質・修理品質・破 面の解析、?故障の影響度評価: 耐空性および信頼性・快適性・経 済性への影響度評価、?故障の発 生率評価:使用時間・飛行回数と 故障発生との相関、ワイブル分析、 と徹底して行い、設計品質にフィー ドバックする仕組みを構築している。
こうした仕組みは、航空機のよう にライフサイクルが長いシステムに は特に重要である。
そのため、現在 は、航空機開発の計画段階から航 空機ユーザーが参画し、設計品質の 向上を追求している。
離発着時の影の主役 東京ドームグラウンドの一・八倍 の大きな格納庫で、整備中のB74 7ジャンボ(ポケモン)機とB77 7の傍で説明を受けた。
世界最大級 のエンジンの大きさや、三〇〇トン 近くにもなる機体の離着陸を支える 脚に圧倒された。
脚は、機体の真下で地味ではあるが、非常に大切な装置である。
離着 陸時に出し入れして、最大重量の機 体を離陸速度の高速回転まで支えな ければならない。
離陸時は離陸速度 の風圧に耐えながら機体の中に引っ 張り込まれる。
着陸時は、機速によ る風圧に抗して油圧で機体から引っ 張り出され、タイヤは停止状態から 時速数百キロで接地して、いきなり 高速回転に入り、接地後は重量を 83 SEPTEMBER 2006 支えつつ、強力なブレーキでの制動 に耐えなければならない。
離着陸時 は事故が一番多いと言われるが、そ れを安全に支える脚は実に働き者だ。
六輪のうち後ろの二輪はステアリン グを切ることができる。
メカ・油圧 系は複雑である。
航空機のような複雑なシステムの 整備を半日で理解するのは大変だ。
現場技術の経験と知識が深く、かつ、 品質と経済性のバランスに理解が深い技術企画リーダーの黒木英昭氏が 具体的な事例を引用してくれたおか げで、短時間で多くのことが理解で きた。
民間航空機は公共機関として、 安全性と定時性を合理的なコスト (経済性)で維持・向上する使命が ある。
整備は、まず、安全品質の追 求と確保が重要であり、合理的なコ ストについてはライフサイクルのコ スト改善が重要である。
安全品質の 追求が経済性の維持と向上に最も 良い効果をもたらすのだと理解でき た意義深い見学会であった。
格納庫の広さは東京ドームグラウンドの1.8倍。
B777のエンジンは世界最大級。
300トン近くの重 い機体を支える6輪の 脚。
複雑なメカと油圧 系を備える。

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