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ワンストップショッピングを提供
クーネ+ナーゲル(K+N)は急成長中の
ロジスティクス企業だ。 本社はスイスのシン
デレギで、チューリヒからローカル線を二回
乗り換えてたどり着く田舎町に置いている。
二〇〇五年の売上高は一四〇億四九〇〇万ス
イスフラン=CHF(日本円で約一兆二六〇
四億円)、最終利益は三億一五〇〇万CHF
(同二八五億五〇〇〇万円)。 五年前と比べる
と売上高で六六%、最終利益で九七%伸びて
いる計算になる(
図1)。
日本の連結売上高ランキングに当てはめる
と、ちょうど日本通運とヤマトホールディン
グスの間に入るほどの大企業でありながら、高
い成長率を続けているのには驚かされる。 株
価も堅調だ。 二〇〇六年に入ってからは若干
弱含みではあるが、五年前に比べると四倍の
八〇CHF台で推移している(
図2)。
クラウス・ヘルメスCEO(最高経営責任
者)は同社の経営戦略をこう説明する。
「当社の究極の目的は、荷主企業のロジステ
ィクス活動の最初から最後までを請け負える
ような幅広いサービスメニューを揃えること
にある。 K+Nはこれまでフォワーダーとし
て世界各国に拠点を作ってきたし、全業務分
野で使える共通のIT(情報技術)プラット
フォームを整備している。 主力サービスであ
った海上貨物と航空貨物のフォワーディング
業務に加え、トラック輸送や物流センター運
営を軸とした3PL業務に対応することで、
客先への最初と最後の一マイルを含めた荷主
のロジスティクス業務の全工程をカバーして
いく」
つまりK+Nは荷主にとってワン・ストッ
プ・ショッピングが可能となるロジスティク
ス企業を目指しているのだ。 さらにクラウス・
ヘルメスCEOは次のように続ける。 「SCM
クーネ+ナーゲル
脱・フォワーダーを目指して
3PLやトラック輸送を強化
クーネ+ナーゲルといえば、フォワーダーとしてのイメージが強い。 しかし
ここ数年、同社は相次ぐ企業買収によって3PL部門やトラック輸送部門を
強化することで、総合ロジスティクス企業への転換を図っている。 フォワー
ダーとして築いてきたネットワークの上に新しいサービスメニューを追加する
ことで、荷主の需要を取り込もうとしている。
クーネ+ナーゲルの
クラウス・ヘルメスCEO
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全体を外部に委託したいという荷主の動きが
年々強まっている。 同業他社との競争に勝ち
抜くためには、ロジスティクス業務の全メニ
ューを揃えることが必須の条件となっている。
例えば、K+Nが物流センター業務を請け負
えないとすると、荷主はその部分を他社に任せることになる。 もしそのライバル企業が、フ
ォワーディング業務にも対応できるとすると、
荷主がK+Nからその企業に切り替えること
もありうる。 また、サービスメニューが少な
いままだと、価格競争のプレッシャーにさら
され、仕事を失ったり、利益率の低下を余儀
なくされることにもなる」
公開企業かつオーナー企業
K+Nの創業は一八九〇年にさかのぼる。
この年にオーガスト・クーネ氏とフレデリッ
ヒ・ナーゲル氏がドイツ北部の港町・ブレー
メンに海上フォワーディング会社を設立した。
クーネ+ナーゲルの社名は、両氏の名字から
とったものだ。 ナーゲル氏が亡くなった後は、
クーネ家が会社を所有してきた。
現在のクラウス‐マイケル・クーネ会長は、
創業者の孫に当たり、株式公開企業である同
社の株の五七%を保有している。 上場企業で
あると同時に、オーナー企業でもあるのだ。
ロジスティクス企業に限らず、いかなる企
業も買収の対象となりうる現在において、過
半数の株を持つオーナーの存在によって、
K+Nは買収する立場にはあっても、買収さ
れることはないというユニークなポジション
にいる。
創業当初はドイツ国内のフォワーダーであ
った同社が海外展開に乗り出したのは第二次
世界大戦後の一九五〇年代に入ってからのこ
とだ。 まずは欧州大陸からはじめ、その後は
北米、さらにアジアへ拠点網を拡げていき、
現在では一〇〇カ国に計七五〇拠点を持つま
でに至っている。
これまで同社はネットワークを構築してい
く際、できる限り自前主義を貫いてきた。 業
務提携では情報システムの統合がうまくいか
なかったり、サービスレベルに強弱が生じて
しまうからだ。 高品質のサービスを維持する
には自社のネットワークづくりが不可欠だと
いう考え方は現在も受け継がれている。 その
スタンスは同社の海外拠点のほとんどが一〇
〇%子会社であることからも窺い知ることが
できる。
七〇年代に入り、本社をそれまでのブレーメンからクーネ家に縁のあるスイスのシンデ
レギに移し、九四年には株式公開を果たした。
二〇〇四年にはコーポレート・アイデンティ
ティー戦略の一環として、社名表記を従来の
「クーネ&ナーゲル」から現在の「クーネ+ナ
ーゲル」に変更した(ただし発音は「クーネ・
ナーゲル」のまま)。
現在CEOを務めるヘルメス氏は二〇歳で
K+Nに入社し、その後三〇年近く香港を中
心にアジア部門を担当してきた。 八八年から
はアジア部門の最高責任者として日本での業
務立ち上げにもかかわった。
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同社は七〇年代前半に三菱倉庫とジョイン
トベンチャーを立ち上げた。 しかし、八〇年
代に入り、そのジョイントベンチャーを解消
して新たに一〇〇%子会社を用意した。 現在、
日本には東京・名古屋・大阪の三都市に計五
カ所の拠点を持っている。 ヘルメス氏は九九
年に本社に戻りCEOを務めている。
K+Nがサービスメニューの拡充を図る以
前は、売上高における海上貨物と航空貨物が
占める割合は九割前後あった。 それが今では
七割前後に落ちてきている(
図3)。 比率こそ
落ちてきたとはいえ、依然として海上と航空
が大幅に伸びていることがK+Nの強みだ。
「世界の貿易全体を見ると、海上貨物は年
率で八%伸びているのに対して、当社は二
〇%増、航空貨物は全体の三%増に対して、
当社は一〇%増を記録している。 K+Nの伸
びが貿易全体のトレンドを大きく上回ってい
るのは、当社がトラッキングシステムを使い
ビジビリティ(可視性)を提供できるのに加
え、ITをベースにしたロジスティクス商品
をそろえていること、それにこれまでの実績
だ。 海上貨物と航空貨物が、最終利益に大き
く貢献していることに変わりない」とヘルメ
スCEOは分析する。
主力サービスのフォワーディング業務では
オーガニック・グロース(自力成長)を続け
ながら、新規サービスとなる3PL業務やト
ラック輸送についてはM&A(企業の合併・
買収)で補強している点がK+Nの特徴の一
つだ。
3PL買収で特損が発生
二〇〇五年一〇月、K+NはACRロジス
ティクス(旧ヘイズ・ロジスティクス)をア
メリカの投資ファンド会社であるプラチナ・エクイティから四億四〇〇〇万ユーロ(六一
六億円)で買い取った。 ACRはK+Nが買
収した二つ目の3PL企業となる。
ACRはイギリスとフランスを中心に、ヨ
ーロッパ十一カ国に一四〇カ所の拠点を持つ。
物流センターの総延べ床面積は二二〇万平方
メートルで、従業員は一万五〇〇〇人。 直近
の売上高は一二億ユーロ(一六八〇億円)で、
営業利益は六〇〇〇万ユーロ(八四億円)だ
った。
ACRを傘下に収めるまでK+Nの3PL
部門の売り上げは一億五〇〇〇万CHF弱
(一三五億円)にすぎなかった。 「そのままで
は3PLの売上高ランキングで五位にも入ら
ない。 新規事業を成長部門に育てようと思え
ば、一定規模の売上高が欠かせない。 少なく
とも売上高で三本の指に入ることが必要だ。
今回ACRを買い取ったことで、二〇〇六年
にはK+Nの3PL部門の売上高は従来の約
三倍となり、(ドイツポストとTNTに次い
で)第三位となる」とヘルメスCEOは指摘
する。
ただし、ヨーロッパのロジスティクス業界
では、K+NによるACR買収は高い買い物
だったという見方があるのも事実だ。
ACRの元の親会社であるヘイズがそのロ
ジスティクス部門を売りに出したのは二〇〇
三年のことだった。 ヘイズのロジスティクス
部門はティベッツ&ブリテン(後にエクセル
に買収される3PL企業)やエクセル(現在、
ドイツポスト傘下のDHLエクセル)と並ぶ
イギリス屈指の3PL企業だった。 しかしA
CRの親会社は本業である人材開発や人材派
遣に特化するために、ロジスティクス部門の
売却を決めた。
アメリカの投資会社に売却したときの価格
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が一億ポンド(二〇〇億円)だった。 そのヘ
イズ・ロジスティクスがACRに名前を変え
て二年もたたない間に、買収価格が三倍以上
に跳ね上がった。 この取引で利益を上げたの
は投資会社だった、と囁かれている。
しかし、ヘルメスCEOはそうした見方に
反論する。
「ヘイズからACRへと経営主体がかわった
ことで、経営手法もそれまでの旧式のイギリ
ス型の経営から新しいものへと様変わりした。
当社が買収するまでの一八カ月の間に、AC
Rの業績は大幅に改善された。 買収金額は妥
当なものだったと自負している」
ヘイズが二〇〇三年にロジスティクス部門
を売りに出したとき、K+Nは同部門を買い
たくても買うことができなかったのには理由
があった。
K+Nは二〇〇一年にアメリカの大手3P
L企業USCOを三億ドル(三三〇億円)で
買収し3PL部門の土台を作った。 USCO
は北米七〇カ所に一三五万平方メートルの物
流センターを持ち、従業員約三〇〇〇人の未
上場企業だった。 USCOの主な荷主として
は製薬メーカー、小売業、ハイテクメーカー
などがあった。 買収前の三年間は売上高が年
間三〇%以上伸びていた。
しかし買収が完了してから、USCOの経
営内容が、事前に調査した内容とは食い違っ
ていることがわかった。 そのため、二〇〇二
年の決算では、二億CHF(一八〇億円)を
超える特別損益を計上する結果となった。 こ
のため、二〇〇二年は最終利益がゼロとなっ
た。 この特損さえなければ、売上高とともに、
最終利益でも右肩上がりのグラフを作成でき
るはずだった。 つまり、ヘイズ・ロジスティ
クスが売りに出された二〇〇三年はまだ特損
処理の段階で、新たにヘイズを買う余裕がな
かったのだ。
「買収後最初の決算となる第一・四半期の
結果によって、われわれの判断が正しいもの
であったことを確認できた。 ACRの買収で
3PL部門の売上高はほぼ三倍に伸びた。 現
場にも大きな混乱などはない」とヘルメスC
EO。 USCOとACRを手に入れたことに
よって、3PL部門を強化するための買収は
ほぼ完了したという。
買収でドイツの配送網を整備
一方、K+Nがトラック輸送部門の拡充に
本腰を入れ始めたのは二〇〇〇年から。 まず
は同社にとって最も取扱貨物量の多いドイツ
国内の配送網を整備するため、IDSネット
ワークという地場の中小トラック会社が共同
で作った路線便のネットワークに参加。 それ
と同時に、同社の株式を三〇%取得した。
また、IDSネットワークに参加していた
トラック運送会社を合計で四社買収した。 四
つ目となる企業を買収したのは今年四月のこ
とだった。 ドイツ北部のオルデンブルクに本
社を置くF・W・DEUSという会社だ。
K+Nの売上高全体に占めるトラック輸送
部門の収入比率は高くないが、二〇〇五年には前年比三二%増となっている(決算では
「鉄道・トラック貨物」として計上)。 「ドイツ
をヨーロッパにおけるトラック輸送業務の中
核として、EUに加盟している東欧諸国や北
はスカンジナビアまで広げていく。 そこから
南や西に伸ばしていく方法として、新たにト
ラック運送会社の買収を考えているところだ」
とヘルメスCEO。
今後は従来のサービスと新規サービスをど
のように有機的に結びつけて、業績につなげ
ていくかがK+Nの課題となりそうだ。
(
本誌欧州特派員
横田増生)
会社概要
社名クーネ+ナーゲル
(Keuhne+Nagel)
本社スイスシンデレギ
(Schindellegi)
創業1890年
会長クラウス-マイケル・クーネ
CEO クラウス・ヘルメス
売上高140億490万スイスフラン
(1兆2604億円=2005年度)
従業員数2万5607人(2005年度)
クーネ+ナーゲルの本社
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