ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
管理会計
3PLの契約体系を工夫

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 60 リレーション構築と取引契約 アウトソーシングの対象となる物流業務の 範囲は近年著しく拡大し、その内容も複雑 になっている。
これに伴いサードパーティロ ジスティクス(3PL)と呼ばれる新たなア ウトソーシング形態が進展してきている。
さ らに海外では「LLP(リードロジスティク スプロバイダー)」や「4PL(フォースパ ーティロジスティクス)」等も散見されるよ うになってきた。
このような新しい物流アウトソーシングの 形態は、サービスプロバイダーに自律的に物 流管理を行なってもらいたいという荷主側の ニーズから生まれている。
日々のオペレーシ ョンの運営管理だけでなく、その改善までを もサービスプロバイダーに任せてしまうこと ができれば、荷主はよりコアコンピタンスに 集中した経営が行える。
実際、サービスプロバイダー側に有能かつ 誠実な管理者が存在し、その管理者に自社 センターを担当してもらえる場合には、改善 が自律的に行われることもある。
しかしなが ら、常に荷主側の期待した通りの管理担当 者が確保できるとは限らない。
そもそもオペ レーションの管理水準をサービスプロバイダ ー側の担当者の人選に委ねてしまうのは、他 力本願との誹りを免れない。
3PLを導入するに当たって、荷主はサ ービスプロバイダーの自律的な改善を促す仕 組みを構築しておく必要がある。
その方法の 一つが、本号で取り上げる取引/契約(Dealing / Contract)によるコントロール である。
その代表的なものとしてゲインシェアリン グ(成果配分)が各所で取り上げられてい るが、取引/契約のタイプはそればかりでは ない。
また、どのようなタイプが適している のかは、委託の形態によっても変わってくる。
それぞれのタイプの特徴を理解し、適切なも のを選択することが、コントロールのカギを 握る。
取引/契約タイプの種類と特徴 取引/契約タイプの分類方法は、今のと 3PLの契約体系を工夫する 3PLの活用では、アウトソーシングする業務の内容に適した料 金体系と取引/契約体系を採用する必要がある。
このうち前号では 料金体系について述べた。
本号では取引/契約体系について、その バリエーションとそれぞれの特徴を解説する。
第18回 梶田ひかる アビームコンサルティング 製造・流通事業部 マネージャー 61 SEPTEMBER 2006 ころ調査研究機関等によって異なっている。
たとえば「2005サードパーティロジステ ィクス調査(http://3plstudy.com)」では、 「ジョイントベンチャー」、「リスク/リワー ドシェアリング」、「コストプラス」等の六つ のタイプに分類し、経年でそれぞれの採用状 況を調査している。
また米ガートナー社の資料「BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)」では、 前号で取り上げた3PLの料金体系に加え、 「ゲインシェアリング」、「リスク/リワード シェアリング」、「価値ベース」を、契約タイ プという括りで分類している。
こうした先端的な取引/契約タイプは、事 例を集めて後から分類することになるため、 まだ充分には体系化されていない。
しかし、 先行する複数の研究の中から、ロジスティク スにおいて使用可能なものをピックアップし て以下に紹介しよう( 表1)。
ジョイントベンチャー 物流業務の受託者となる新会社を、荷主 と物流事業者の共同出資で設立する。
新会 社は受託業務を効率的に行うことによって 利益を得て、株主である荷主・物流事業者 に配当を還元することができる。
ジョイントベンチャー(JV)方式は、日 本では過去、物流子会社の設立時に採用す るケースが複数見られた。
荷主企業と物流 専業者の双方が出資して荷主企業の物流子 会社を作る。
これにより、荷主は物流専業 者のノウハウを利用することができる。
一方、 物流専業者はその荷主の業務を優先的に受 託できる。
しかし、この方法で設立された物流子会 社の多くは、現在では荷主の一〇〇パーセ ント子会社に変わっている。
荷主にほぼ一〇 〇%依存する物流子会社のスキームに、J V方式が適さなかったと推測される。
近年、欧米ではこのJV方式が、LLP (リードロジスティクスプロバイダー)や4 PLのスキームの一つとして取り上げられて いる。
その代表的な企業、ベクターSCM は自動車メーカーのGMと3PL事業者の メンロー(CNFグループ)が共同出資して 設立した会社である。
現在、ベクターSCMはGM以外にも複 数の荷主に対し、LLP形態によるサービ スを提供している。
もちろん利益を上げるこ とで、出資企業への貢献も果たしている。
し かし、設立の目的であった3PLとのパート ナーシップ形成のためのJV方式という意味 での効果はまだ流動的であり、今後の企業 事例に注目する必要があると言えよう。
(編集部注:現在、GMはロジスティクス機 能を再び社内に戻し、直接コントロールする ために、ベクターSCMの株式を保有するC NFグループのコン・ウェイに対し、株の買 い戻し交渉を行っている) ゲイン/ペインシェアリング 報酬は人を動かす古典的かつ効果の認め られる方法である。
それを組み込んだ取引タ イプの一つがゲインシェアリングである。
そ して、あまり知られていないが、ゲインシェ SEPTEMBER 2006 62 アリングは「ペインシェアリング」と対にな っている。
ゲイン/ペインシェアリングでは、コスト 低減等について予め基準値と配分割合を定 める(図1)。
一年後の総コストを設定し、 それを下回った場合は、基準から下回った 分の三〇%を委託者が受託者に支払う、と いう具合である。
つまり期待以上にコストが 低減した場合は、受託者はその報酬を得る ことになる。
しかし逆にコストが基準値を上回った場 合には、基準から上回った分の一定の比率 を受託者が委託者に支払う。
つまりペイン (痛み)を受託側でも負担するわけである。
こ のバリエーションとして、報酬とペナルティ の双方に上限を設けることもある。
ゲインシェアリングは物流に限ったもので はない。
例えばトヨタ自動車は新車全面改 良時に、原価低減分の一定の割合を少なく とも初年度は協力部品会社に配分している。
まさにゲインシェアリングの事例であるとい えよう。
物流においてゲインシェアリングが好まれ るのは、そのコスト構造に起因する( 図2)。
一般に物流システムは提案時点でコストを 正確に予測することが難しい。
とりわけ稼動 直後はコストの膨らむ傾向があるので、受託 者側ではそれを回収できるような料金体系 にしておきたい。
一方、システムが安定した らコストは低減する。
そのことを荷主側にも 期待させたい。
そのために、物流事業者としては、稼動 直後は料金を固定せず、発生ベースの料金 体系を採用し、安定期に移った時点で体系 を見直すことが望ましい。
また改善によるコ スト削減効果の見返りも欲しいことから、む しろ物流事業者側が積極的になって採用を 進める場合が多い。
ベンチマーク方式 報酬方式のうち比較的簡単に導入できる のがベンチマーキング方式である。
生産性や 63 SEPTEMBER 2006 サービスレベルに関する特定の指標について 目標値を設け、それを上回ったときに報償 を出す。
これによって受託者側に目標達成 へのモチベーションを与える。
一方で、下回 ったときには受託者がペナルティを支払うと いう条項が盛り込まれることもある。
ベンチマーキング方式は比較的単純であ ることから、一般的な運送業務、倉庫業務 にも適用が可能である。
日本でも導入して いるケースは多く見られる。
もっとも日本で は報償よりも罰則規定を設けている場合が 多いように見受けられる。
報酬とペナルティ に関する過去の複数の研究によると、ペナル ティ設定よりは報酬設定の方が、期待する 方向への誘引効果が高いという結果が出て いる。
そのことに、荷主は留意する必要があ るだろう。
インセンティブ併用コストプラス料金 一般的な料金体系であるコストプラスが、 取引/契約タイプの一つとして挙げられてい るのは、これにインセンティブ制度を付け加 えることがあるからである。
例えばシステム設計においては、想定され ていたよりも前倒しで稼働できた場合にイン センティブとして一定の報酬を加える、とい った条項を契約に盛り込む場合がある。
物 流でも安定稼働の時期が早まったり、ある いはコストが想定よりも下がった場合にイン センティブを適用することができる。
この場合のインセンティブは通常一定で、 ゲインシェアリングの時のように変動はしな い。
またコストプラス方式では受託者はコス トの増加に伴い応分の料金を得ることになるため、インセンティブの金額自体あまり高 額とはならない。
リスク/リワードシェアリング リスク/リワードシェアリングでは、シス テムの初期開発費用を委託者と受託者の双 方で負担する。
それによって得た成果 (Reward)やリスクも双方で配分する。
委 託者・受託者双方にとってゲイン/ペイン シェアリングよりリスクの高い方法であるが、 それだけ大きなリターンが期待できる。
もっとも、このリスク/リワードシェアリ ングは一時注目されたものの、実際に採用 しているケースはあまり増えていない。
その 理由として、?基準の設定が難しいこと、? 売上/コスト増減の要因特定が難しいこと (受託者の努力以外でも変化することがある)、 ?初年度だけの短期的な効果は狙えるが、次 年度以降への適用が難しいこと、等があげ られている。
ここで指摘された問題は、ゲイン/ペイン シェアリングにも当てはまる。
リスク/リワ ードシェアリングと同様にゲイン/ペインシ ェアリングもまた、期待されているほどには 実際には普及していない理由が、そこにある と思われる。
価値ベース 初期費用を受託者側が中心となって負担 し、それによって得たリターンをより多く得 るのが、この価値ベースといわれる方法であ る。
受託者のリスクは著しく高い。
しかしな がら、相応の成果を受け取れるのは魅力的 である。
単純な例を示す。
新たに提案するシステ ムによって毎月一〇〇万円のコスト削減が 可能になるとする。
ランニングで効果が発生 するため、荷主は一年で一二〇〇万円、三 年で三六〇〇万円のコスト低減効果を享受 できる。
一方でこのシステム改修に五〇〇万円か かるとする。
一般的な契約では、この費用は 荷主側で負担する。
これに対して価値ベースの契約では、その五〇〇万円を受託者が 負担する。
その代わり、コスト削減額の一定 割合、たとえば年間コスト低減額の半分、六 〇〇万円を二年間受け取る、というように するのである。
当然ながら期待通りのコスト 低減が実現できない可能性はある。
しかしな がら、うまくいった時に得られるリターンは 大きい。
価値ベースの取引は、その特徴から資本 力のある大手コンサルティング会社が中心と なった案件で検討されている。
実際の導入 例も数年前から資料上では散見されるが、筆 者の知る範囲ではロジスティクス分野の事例 SEPTEMBER 2006 64 はまだ目にしたことがない。
委託形態・料金体系・取引タイプ アウトソーシングの内容によって、それに 適した取引/契約タイプは異なる。
それを説 明するために、まずは物流アウトソーシング の分類方法について簡単に説明しておく。
一 般に欧米では物流アウトソーシングの形態を 次のように分類している。
■キャリア 実運送。
トラック輸送でいえば一般運送、 積み合わせ輸送などの業務 ■フォワーダー 日本の一般的な倉庫業務委託 ■3PL 一拠点、一地域を包括的に委託すること ■LLP ある地域について物流ネットワークや作業 システムの設計、その地域における3PL事 業者も含めた物流事業者の選定と管理、ネ ットワークの組み換えや作業システムの改善 を委託すること(日本において一般的に言わ れている3PLは、海外では3PLとLLP に分類されるようになってきている。
この分 類からすれば、日本の物流子会社は、どちら かといえばLLPを志向しているといえる) ■4PL 複数事業者をコーディネートし、新規事業 を立ち上げてサービスを行なうこと(4PL は海外の資料でも、LLPを同じものとして 扱っているケースが見られる。
しかし4PL という用語が当初アクセンチュアによって定 義されたときの内容からすれば、LLPとは 明確に異なるととらえるべきであろう) これら委託形態と、前号で紹介した料金 体系、今号で取り上げた取引/契約タイプを マッピングしたものが 図3となる。
図では大 まかにマッピングしているので、必ずしもこ の区分けに従って用いられているわけではな い。
取引/契約タイプは料金体系および委託 者と受託者のリスク負担の形と密接に関係し ている。
上手に選定・適用すれば、受託者の 改善への意欲を引き出し、それによりリスク を回避することもできる。
逆にいくらメリッ トがあるからといって無謀な適用を行えば、 かえって損失を被ることになりかねない。
取引/契約タイプは、アウトソーサーを管 理するための重要なテクニックの一つだ。
し かし、その活用法に関する研究は、本格的な 取り組みが始まってからまだ日が浅い。
そのため当面は、ロジスティクスのみではなくB POにも対象範囲を広げ、実際に適用したケ ースにおける工夫、それにより得た効果と問 題点等を収集・チェックする必要があるだろ う。

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