ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2006年9号
値段
全日本空輸

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 44 NCAを日本郵船に売却 二〇〇五年に入るまで、ANAは航空貨物 事業に対してどちらかといえば消極的だった。
自社においてはほとんどが旅客機の貨物搭載 室(ベリー)を活用した、いわば「副業」的 な位置づけであり、貨物専用機(フレーター) の保有は二〇〇二年九月に導入した中型機
767Fの僅か一機という体制であった。
もともと航空貨物事業には、日本郵船との 共同出資会社「日本貨物航空(NCA)」を 通じて間接的に参画していたが、その出資比 率は日本郵船への全株売却(二〇〇五年)前 の段階で二七・六%にとどまっていた。
同社 にとっては戦略的事業分野というよりもむし ろ余剰人員、余剰機材の受け皿としての意味 合いが強かったように見受けられる。
しかしながら、同社は二〇〇五年初め頃か ら航空貨物事業、特に国際貨物事業の拡大 方針を鮮明に打ち出してきた。
今年一月に公 表された同社グループ中期経営計画(二〇〇 六〜二〇〇九年度)において同事業は、国際 旅客、国内旅客とともに「成長戦略の三本柱 の一つを担う」と表現されており、その意気 込みの強さが感じられる。
従来の消極路線か ら明らかな方向転換であるといえよう。
方向転換後の動きは早い。
二〇〇五年初に は二〇〇五年度末までに自社フレーター一機 体制から二〜三機体制への拡充方針を打ち出 し、同年八月には保有するNCA株を全て日 本郵船に売却。
一〇月には日本郵政公社と共 同出資で航空貨物新会社「ANA&JPエ クスプレス」設立を表明(二〇〇六年二月発 足、同八月運航開始予定、出資比率五一・ 七%)し、運航フレーターの機材数も二〇〇 八年度までに旅客機の改造も含め計七機体制 に拡充する計画(既に発注済)を発表した。
二〇〇九年度には大型機二機を含む一〇 機体制を目指している。
同社グループの現行 中期経営計画では、二〇〇五年度実績六〇 〇億円弱の国際貨物(郵便を含む)売上高を、 二〇〇九年度には二倍増以上の一三三〇億 円まで拡大させる計画となっている。
同社がここにきて航空貨物事業の積極強化 を打ち出した背景として、まず、?国際航空 貨物市場の期待成長率の高さが挙げられる。
同社では、当面の需要見通しとして、国内線 旅客は年率〇〜三%、国際線旅客は欧米方 面が同〇〜三%、アジア・中国方面で同二〜 八%の成長を見込む一方、国際貨物では特に 日本発、中国発マーケットで同一〇〜一五% の大幅な成長を見込んでいる。
同社の成長戦 略を達成するには、この貨物市場の伸びを取 り込むことが必要である。
また、需要を取り込むためには、供給能力 の拡大とともに同業他社に打ち勝つ商品競争 力(コスト競争力、貨物需要に対応した柔軟 なスケジュールなど)の改善が求められ、フ レーターの拡充は不可欠である。
さらにタイ ミング的には、?二〇〇九年に予定されてい 第24回 板崎王亮 クレディ・スイス証券 運輸担当アナリスト 全日本空輸 中型フレーターを積極投入し 国際貨物収入の八割増目指す 全日本空輸(ANA)が貨物事業の育成に 本腰を入れている。
国内および中国を中心と したアジア路線に中型貨物機を相次いで投入 する計画だ。
旅客の伸び悩みが予想される中、 貨物事業を強化していく戦略は高く評価でき る。
株価の割安感は大きいとはいえないが、 投資対象として考慮するに値する。
45 SEPTEMBER 2006 る羽田空港発着枠拡大への対応、という狙い もありそうだ。
新滑走路供用開始により羽田 空港発着枠は約四〇%拡大する。
需給動向 を考慮すれば、旅客便のみの増便はリスクが 大きいと思われ、旅客、貨物のバランスの取 れた増便が望ましいだろう。
羽田を起点に貨物機を運航 航空貨物では実質最後発となる同社である が、その戦略はユニークである。
まず、フレ ーターは当面、全て中型機材のB767型を 用いるという点。
現在保有している三機と今 年九月導入予定の一機は全て貨物用に設計 されたB767Fであり、その後二〇〇八年 度にかけて導入予定の三機については、現在 使用中のB767型旅客機を貨物用に改造 する計画。
国内のライバルである日本航空 (JAL)と NCAはそれ ぞれフレータ ー十二機を保 有するが、全 て大型のB7 47型を使用 している。
一般的には 搭載貨物の単 位当たりコス トが低い大型 機材を用いる 戦略が優位と 考えられるが、 同社が敢えて中型機材を集中的に投入するの には理由がある。
二〇〇九年の羽田発着枠拡 大を睨み、発着枠拡大後は羽田空港を中心に フレーターを運用したいとの考えが根底にあ るようだ。
大型のB747型機は貨物満載で 飛ばすためには三〇〇〇メートルを超える滑 走路が必要となるが、羽田空港は現行滑走路 が三〇〇〇メートル二本と二五〇〇メートル 一本であり、四本目の新滑走路も二五〇〇で ある。
羽田空港中心の運用とするためにはB 747よりB767が適している。
また、地方空港は、伊丹(大阪)空港、新 千歳(札幌)空港、福岡空港など大型空港も 含め滑走路は全て三〇〇〇メートル以下であ る。
同社では地方空港からの貨物直行便需要 も視野に入れている。
こうしたニーズを開拓 するため、同社では地方に生産拠点を持つ企 業などへの直接営業体制を強化する方針。
航 空貨物ではあまり見られない「企業との中長 期契約による安定収益確保」も狙いの一つと みられる。
羽田空港をハブ空港とすることにより、時 間優先度の高い高付加価値貨物の集荷に優 位性が発揮できると考えられる。
また、同空 港は京浜港にも隣接しているため、メーカー などの顧客が海上輸送か航空輸送かの判断を 機動的に行ううえでも非常に条件の良い空港 であるといえよう。
運航体制に関しては、日本郵政公社との共 同出資会社「ANA&JPエクスプレス(A JE)」の運航開始(二〇〇六年八月の予定) に伴い、全てのフレーター運航をAJEに委 託する方針。
運航乗務員はAJEの直接雇用 とし、低コスト運航体制を構築する。
今回、同社の航空貨物事業にスポットを当 てて解説してきたが、同社グループでは、グ ループ全体の成長戦略として二〇〇九年度ま での中期経営戦略を策定している。
これによ ると、向こう四年間で国際線貨物収入八割増、 国際線旅客収入四割増、国内線旅客収入五% 増、その他事業も含め全体で二割弱の収入増 を計画。
これに対して利益面では、二〇〇九 年度の営業利益一〇〇〇億円を目標としてい るが、これは極めて保守的な数字と思われる。
クレディ・スイス証券では、ジェット燃料価 格が現状レベル(執筆時点で一バレル当たり 八五ドル近辺)で推移することを想定し、二 〇〇八年度で営業利益一一四〇億円を予想 している。
この業績予想を前提に、当社では同社の推定適正株価は四五〇円程度と考えている。
当 面の業績予想から見た場合株価の割安感はそ れほど大きいとはいえないものの、過去の実 績に裏付けられた同社の戦略的マネジメント に対する評価は極めて高く、長期的観点から 見た場合、同社は投資対象として考慮するに 値する企業の一つと言える。
全日空の過去10年間の株価推移

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