ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
物流産業論
規制緩和で活性化を目指す内航海運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 72 櫓櫂船、漁船以外の船舶による海上 での物品輸送で、船積地および陸揚地 のいずれもが本邦内にあるものを内航 運送といい、これを事業とするものを 内航海運業と呼びます。
内航海運業は 明治維新後の近代産業の発展によって 石炭、その他の工業原料や資材の主要 な国内輸送手段として発達してきまし た。
特に石炭輸送は内航海運の重要な 柱でした。
その後、一九六〇年代以降の高度成 長期にエネルギーが石炭から石油へと 移行したのに伴い、内航海運の輸送需 要も石炭から石油にシフトしました。
第二次オイルショックを契機に、日本 の産業構造は臨海型の素材産業から内 陸型の組み立て産業へ、さらに第三次 産業へと変化。
貨物輸送需要は軽薄短 小化が進展し、トラック輸送が急速に 伸びていきました。
また、近年はグローバリゼーション による企業統合や拠点の再配備・統廃 合が内航海運に大きな影響を与えてい ます。
しかし一方で、環境保護の観点 からモーダルシフトが推奨されており、 このことは内航海運にとって追い風と なっていると言えます。
九〇年ピークに輸送量が減少 二〇〇三年の内航海運による貨物輸 送量は四億四五〇〇万トンでした。
こ れは、外航海運による輸出入貨物量の 約半分です。
内航海運の輸送量は一〇 トントラックで換算すると四四五〇万 台分に相当し、国内貨物輸送全体に占 める割合は八%弱にすぎません。
品目 別では石油製品、非鉄金属、金属、セ メント、砂利、砂、石材、化学製品、 機械、石炭などが輸送量、輸送トンキ ロともに八〇パーセント以上を占めて います。
内航海運の輸送量は一九九〇年の五 億七五二〇万トンをピークに減少に転 じています。
輸送活動量(トンキロ= トン数×距離)で見ると、七五年には 全体の五〇%以上を占めていましたが、 その後はシェアを落とし続けています。
二〇〇三年には四〇%を割り込んでし まいました。
内航船舶数は六二五四隻、三五八万 総トンです。
事業者数は四〇七五社、 船員総数は三万七〇八人。
内航海運事 業者の九九・六%が資本金三億円以下、 従業員三〇〇人以下の中小零細企業で す。
大手二〇社が売上高全体の二〇%、 船腹量の三〇%を占めています。
一事 業者当たりの運航隻数は、一隻が一 九・九%、二隻が一三・七%、三隻が 十二・六%、四隻が十一・三%と、五 隻未満の事業者数が半数以上に達して います。
内航海運市場の特徴の一つにピラミ ッド型構造があります。
内航貨物の大 半が大手企業の原材料、半製品、製品 であり、内航海運事業者と荷主である メーカーとの結びつきが強く、さらに 内航海運事業者の中においても内航運 送事業者(オペレーター)と内航船舶 貸渡業者(オーナー)の関係が緊密で す。
このため、特定荷主の系列化、傭 船や下請け化といった多重的な取引関 係から荷主企業を頂点にしたピラミッ 第6回 エネルギー転換やトラック輸送の台頭を背景に、内航海運の輸送 シェアは減少を続けている。
モーダルシフトの担い手としてシェア 回復が期待されているが、船舶の老朽化や船員不足など克服すべき 課題は山積しているのが実情だ。
規制緩和で活性化を目指す内航海運 ド型の市場構造が出来上がっています。
このことは荷主企業にとって輸送の 安定化、オペレーター・オーナーにと って経営の安定化につながっている面 があります。
しかしその一方で、市場 を閉鎖的にし、競争を妨げているとい う負の側面も指摘されています。
近年 は法改正などを通じて優越的地位の乱 用や不公正な取引に規制を設けるなど 是正措置が講じられています。
内航運送業と内航船舶貸渡業 内航海運はその運航形態によって定 期船(ライナー)と不定期船(トラン パー)に分類できます。
定期船にはコ ンテナ船やRORO(ロールオン・ロ ールオフ)船があり、主に一般貨物を 輸送します。
このほかにフェリーがあ りますが、法令上は内航海運とは別体 系となっています。
内航海運が「内航 海運業法」の適用を受けるのに対して、 フェリーは「海上運送法」の適用を受 けます。
ちなみにフェリーは旅客定員 数によって旅客フェリーと貨物フェリ ーに分けられます。
昭和四〇年代に長距離フェリーが発 達し、雑貨を積んだトラックを積載す るようになりましたが、大量輸送とい う観点からは必ずしも効率がよくない ため、RORO船やコンテナ船が開発 されました。
現在の内航における雑貨 輸送の主役はこのRORO船とコンテ ナ船です。
このうちコンテナ船は主と して外航コンテナ貨物の国内フィーダ ー輸送を専門とする事業者と、国内コ ンテナを専門に扱う事業者に別れてい ます。
不定期船は石油やセメントなど、主 として素材貨物を大量輸送します。
不 定期船では自動車なら自動車専用船、 石油ならタンカーといった具合に、輸 送する品目ごとの専用船舶で輸送され るのが特徴です。
内航海運で輸送され る貨物の八五%は不定期船によって輸 送される素材産業貨物です。
不定期船の多くは大企業の製品や原 材料の輸送を担っており、特定企業と の結びつきが強いため、「インダストリ アルキャリア」とも呼ばれています。
これに対して定期船は不特定多数の顧 客を対象にしていることが多いため、 「コモンキャリア」と呼ばれています。
前ページで少し触れましたが、内航 海運業は内航運送業と内航船舶貸渡業 に分かれます。
内航運送業は他人の需 要に応じて物品を内航運送する事業で す。
一方、内航船舶貸渡業は内航運送に使用する船舶の貸渡事業、つまり所 有する船舶で運送事業を行うのではな く、船舶の運航事業者に船舶を貸し出 すことを事業としています。
一般に内航運送事業者を「オペレー ター」、内航船舶貸渡業者を「オーナ ー」と呼びます。
内航海運事業者の数 は二〇〇五年三月末現在で四九〇六社 です。
このうち休止等事業者が八三一 社あり、営業事業者は四〇七五社とな っています。
その内訳は許可事業者数 で運送事業者が六一三社、貸渡事業者 が二二〇六社の計二八一九社。
一方、 届出事業者では運送事業者が一〇一七 社、貸渡事業者が二三九社の計一二五 六社です。
内航海運業を始めるには地方運輸局 長の許可または届出が必要です。
一〇 〇総トン以上または全長三〇メートル 以上の船舶を使用する場合には許可が 必要で、この条件に満たない船舶の場 合は届出で済みます。
内航運送業では 事業を始める基準として、使用船舶の 自己所有船舶量が一〇〇〇総トンまた は使用船腹量の一五%のいずれか大き い総トン数を超えることが必要とされ ています。
同時に使用船舶三隻以上で、 うち一隻は自己所有であることも条件 です。
一方、内航船舶貸渡業では一〇 〇総トン以上の船舶を三隻または合計 九〇〇総トンもしくは一八〇〇重量ト ン以上の船舶を所有することが必要に なります。
二〇〇五年四月に内航海運業法が改 正、施行されました。
改正内航海運業 法では許可制が登録制へと規制緩和さ れ、許可事業者は登録事業者となりま した。
さらに内航運送業および内航船 舶貸渡業の事業区分も廃止されました。
船腹調整事業の導入と廃止 一九六四年六月に「小型船海運業 法」と「小型船海運組合法」が改正さ れ、「内航海運業法」と「内航海運組合法」が成立しました。
この二つがい わゆる「内航二法」です。
「内航二法」 の目的は「内航海運業の健全な発達を 図り、もって内航運送の円滑な運営と 内航海運業の安定を確保し、国民経済 の健全な発展に資する」こと、つまり 内航海運業界の秩序を確立することで あり、具体的には船腹量の適正化と取 引条件の改善を目指したものです。
その背景として好況期には輸送需要 73 SEPTEMBER 2006 SEPTEMBER 2006 74 が増加し、船腹不足から新造船の建造 が積極的に行われ、逆に景気が低迷し ても簡単に船腹調整ができないことか ら過剰船腹状態に陥るという海運市場 の特徴があります。
六〇年代に入り、 内航海運業界では中小事業者が乱立し、 過当競争と過剰船腹の問題が深刻化し ました。
そして六三年に運輸大臣の私 的諮問機関として設置された「内航海 運問題懇談会」による答申を受けて六 四年に成立したのが「内航二法」です。
「内航海運業法」では事業が許可制 となり、「内航海運組合法」では海運 組合の結成が定められました。
また、 「内航海運業法」における適正船腹量 の策定と、「内航海運組合法」におけ る組合による船腹調整事業によって船 腹量の適正化が図られることが決まり ました。
その後、日本内航海運組合総 連合会が「船腹調整事業」を実施して きましたが、結果として新規参入や自 由な競争を抑制することにもなりまし た。
最近の規制緩和の流れの中で、九八 年五月に「内航海運暫定措置事業」が 実施され、「船腹調整事業」は廃止さ れました。
「内航二法」による「船腹 調整事業」は六六年に実施されて以来、 三〇年以上にわたって内航海運事業を 規制してきたわけです。
「船腹調整事業」についてもう少し 詳しく説明しておきましょう。
「船腹 調整事業」では新たに船舶を建造(ビ ルト)する場合、一定の割合で既存船 の解撤(スクラップ)を義務付けられ ました。
船腹過剰を防ぐ目的で船腹調 整をしようとするものです。
新造船の 建造に対して既存船のスクラップを引 き当てることが条件になっているため、 スクラップ・アンド・ビルト方式と呼 ばれます。
新たに船舶を建造する場合、 既存船がなければならず、結果として 内航海運への新規参入が制限されるこ とになります。
このルールが導入され て以降、スクラップ引き当てが権利と して売買されるようになりました。
しかし九〇年代に入り、「物流二法」 でトラック運送業界の規制緩和が進む 中で、内航海運業界においても船腹調 整によって事業拡大や新規参入が制限 されることを緩和すべきとの声が大き くなりました。
これを受けて、内航海 運の活性化を目的に「船腹調整事業」 の廃止が決定しました。
ただし、スクラップ引き当ての権利 が売買され、財産的価値を有するもの になっている現状から一気に廃止する ことによる混乱を避けるため、「内航 海運暫定措置事業」が緩和措置として 導入されました。
これは新たな船舶建 造に際して、引き当て資格がなくても 一定の建造納付金を支払えば建造が可 能になるというものです。
また、自己所有船を解撤する事業者 は従来であればその権利を売ることが できたわけですが、「船腹調整事業」の 廃止に伴い、それが不可能になりまし た。
そこで解撤する事業者には日本内 航海運組合総連合会から「解撤等交付 金」が支給されることになりました。
同時にモーダルシフトを推進するた め、RORO船(五〇〇キロメートル を超える航路に就航予定の一万総トン 以上)やコンテナ船(六〇〇〇総トン以上)については建造納付金を大幅に 引き下げることで、新船の建造を容易 にしました。
新規参入と自由な競争を 促進することで、内航海運業界の構造 改革を円滑に進めるのが狙いです。
燃料費高騰が経営を圧迫 先に触れたように、規制緩和の流れ を受けて、内航海運の活性化を目的に 九八年にスクラップ・アンド・ビルト 方式による「船腹調整事業」を廃止し、 「内航海運暫定措置事業」が導入され ました。
しかし、この「内航海運暫定 措置事業」自体も自由競争を阻害する 要素があること、あるいはもともと暫 定的な措置であることから撤廃を求め る声が出ています。
既存事業者のこと を考えれば、一気に廃止することは難 しいでしょうが、早急に代替案を打ち 出す必要があるでしょう。
一方で、コスト面からカボタージュ を廃止すべきだとの声も出ています。
内航海運のコスト競争力を高めること は重要ですが、一方で安易に廃止する ことによって国益を損なう危険性もあ ります。
内航海運のコスト競争力とカ ボタージュは別問題です。
きちんと議 75 SEPTEMBER 2006 論していくことが必要です。
環境規制強化も内航海運にとっては 重要な課題の一つです。
船舶からの排 出ガスはこれまで他の交通機関ほど問 題視されてきませんでしたが、今後は 規制強化されるでしょう。
排出ガス抑 制のための技術開発に伴うコストアッ プは避けられません。
長期的な対策を 講じなければなりません。
原油価格上昇による燃料費高騰も懸 念材料の一つです。
すでに燃料費高騰 は内航海運会社の経営を圧迫していま す。
内航海運の六二五四隻が一年間に 消費する燃料油はA重油一〇五万五〇 〇〇キロリットル、C重油が一六八万 九〇〇〇キロリットル。
昨年は一年間 で合計二七四万四〇〇〇キロリットル が消費されました。
日本内航海運組合 総連合会によれば、昨年三月から一〇 月までの間にA重油、C重油とも一キ ロリットル当たり約一万六〇〇〇円値 上がりしたそうです。
その結果、業界 全体では燃料油の負担増が四三八億円 に達しました。
今年に入ってからも燃料油の値上が りが続いています。
しかも原油高は今 後もしばらく続くと見られています。
以前のような原油安の状況は見込めな いことからも、内航海運会社には原油 高の環境に応じた経営の舵取りが求め られています。
トラック運送業界などと同様、人材 確保も大きなテーマとなりつつありま す。
近年、内航海運業界では船員の高 齢化と若年船員不足が目立っています。
厳しい経営環境が続く中で若年船員の 育成にまで手が回っていない内航海運 会社が少なくありません。
さらに昨年 四月には改正船員法が施行されました。
これは船舶運航の安全最少定員を義務 付けたもので、これまで一九九総トン 型の船舶では二人だった安全最少定員 を四人に増員したものです。
ちなみに 四九九総トン型では四人から五人に増 えました。
さらに今年四月からは職員 の当直航海が義務付けられ、海技免状 六級以上の資格が必要になりました。
改正船員法の施行で船員の需要が増 加する一方で、内航海運業界でも他の 産業と同じように団塊世代が大量に定 年退職を迎えます。
海員学校の卒業生 だけでは船員不足となるのは明らかで す。
官民が一体となって長期的な視野 に立って若年船員の育成に向けた取り 組みを強化していく必要があります。
船員だけでなく、?船舶の高齢化〞 という問題も抱えています。
現在、内 航船の六二五四隻のうち、船齢一四年 以上が全体の五四・六%と半数以上を 占めています。
船齢七〜一三年は三 五・九%で、六年以下はわずか九・ 五%にすぎません。
このように内航船 は高齢化が進んでいるにもかかわらず、 ?内航船向けの中小造船所の船台確保 が難しいこと、?船用鋼材の値上がり で船価が上昇したこと――などが理由 で、代替建造が進んでいないのが実情 です。
しかし、昨年あたりから傭船マーケ ットの好転に加えて、金融機関が内航 海運への融資に前向きになったことで 建造資金の調達が容易になりました。
これを受けて、内航船主に代替建造意 欲が出てきたため、内航船の高齢化に 歯止めが掛かると期待されています。
モーダルシフトを後押しするため、 国土交通省を中心に船舶の高速化を実 現するプロジェクトが進められてきま した。
その目玉として期待されていた のはテクノスーパーライナー(TSL) です。
航海速度五〇ノット、積載貨物 量一〇〇〇トンとうい超高速船です。
二〇〇五年に東京・小笠原航路に就航 を予定していましたが、コスト高を理 由に頓挫したままです。
もり・たかゆき流通科学大学商学 部教授。
1975年、大阪商船三井 船舶に入社。
97年、MOL Di stribution GmbH 社長。
2006年4月より現職。
著書 は、「外航海運概論」(成山堂)、「外 航海運のABC」(成山堂)、「外航 海運とコンテナ輸送」(鳥影社)、 「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)、 「戦後日本客船史」(海事プレス社) など。
日本海運経済学会、日本物流 学会、CSCMP(米)等会員。
東 京海洋大学、青山学院大学非常勤 講師。

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