ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年9号
特集
中国&インドの物流 新興国市場のSCM攻略法

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2006 12 P&Gと宝供物流の3PL 中国市場で米P&Gは現地資本の民間企業・宝供 物流を3PLとして活用している。
宝供物流の設立 は一九九四年。
創業間もない時代にP&Gに起用さ れ、そのオペレーションを担うことで事業領域を拡大 しサービス品質を磨いた。
そこで得たノウハウを武器 に、その後は欧米系荷主を次々に獲得。
今では中国 の代表的3PLとして認知されるに至っている。
同社 の他にも宅急送、遠成集団、佳吉快運、佳宇物流集 団など、中国の有力民間物流企業のなかには、主要 荷主に欧米系企業を抱えているところが多い。
いずれ も創業から一〇年足らずで急成長を遂げたベンチャー 企業で、経営者も三〇代から四〇代と若い。
欧米系の荷主は、社内のロジスティクス担当マネジ ャーにも現地スタッフを積極的に登用する。
彼らの目 で現地の物流企業を選別してアウトソーシングを実施、 パートナーとして鍛え上げるというアプローチをとっている。
リスクは大きい。
しかし成功すれば、コスト 競争力と一定のサービスレベルを兼ね備えた国内サプ ライチェーンが出来上がる。
その効果は着実に現れている。
事実、中国の日雑 市場は現在、米P&Gの独壇場だ。
主力のシャンプ ーでは五割以上のシェアを握っている。
二番手が英蘭 系のユニリーバ。
日雑以外も、家電は韓国サムスン、 携帯電話はフィンランドのノキア、自動車は独系など、 いずれも日系以外のメーカーが牛耳っている。
日系メ ーカーも重厚長大型産業や中間財などのB to B市場 では成功を収めている。
しかし一般消費者を対象とし た最終市場は、他の外資系のはるか後塵を拝している のが現状だ。
中国に匹敵する巨大市場として注目を集めるインド 新興国市場のSCM攻略法 新興国市場の国内サプライチェーン構築には多くの困 難がつきまとう。
販売代理店任せでは市場の実態が見え ない。
直接コントロールしようとすると物流が課題にな る。
しかも市場環境は凄まじい勢いで変化している。
誰 をパートナーに、役割とリスクをどう分担するのか。
ま さしくSCMが問われている。
(大矢昌浩) 解説 13 SEPTEMBER 2006 でも同様だ。
日雑と携帯電話はやはりP&Gとノキア の圧勝。
家電はサムスンとLG。
軽自動車のスズキと オートバイのヒーローホンダを除けば、日系メーカー は消費者市場でほとんど存在感がない。
その原因とし て、及び腰の投資や現地化の遅れと並んで、ロジステ ィクス管理の方法論の欠如が指摘されている。
日系企業はこれまで、新興市場ではリスクを最小限 に抑える方針を採ってきた。
当初は型落ちの製品や廉 価版を代理店経由で投入して様子見。
市場が成長期 に入り、現地企業との価格競争が激しくなると、高付 加価値のニッチ商品に逃げる。
これに伴い現地法人を 設立して日本からスタッフを派遣。
それまでの代理店 任せを改め、直接管理に乗り出す、というやり方だ。
物流面でも気心の知れた日系物流企業や総合商社 をパートナーに選ぶ。
日本市場のロジスティクスをそ のまま現地に持ち込み、高い品質のサービスレベルを 実現する。
それだけコストはかかる。
それでも粗利の 大きな高級品なら、割高な物流コストも吸収できる。
購買力のある都市部に市場を限定し、しかも高級品 だけを扱うニッチなマーケティング戦略には合致した ロジスティクスだ。
しかし、エリアを内陸部まで拡げ、フルラインの商 品を揃えて市場全体をカバーするとなれば、勝手は違 ってくる。
サービスレベルだけでなく、コスト競争力 が必要になる。
日本から中国にスタッフを派遣すれば 一人当たり年間一五〇〇万円以上の費用が発生する。
決定的なコスト要因だ。
現在、日本通運や日新など、中国に強いと言われ る日系物流企業はいずれも百人以上の日本人スタッ フを中国本土に派遣している。
「もっと現地の人間を 幹部に登用して現地化を進めたいところだが、荷主が それを許してくれない。
少なくとも直接やりとりする 担当者には日本人スタッフを求めてくる。
この状況が 続く限り、我々も日本人出向者を減らすことはできな い」と、中国物流の担当者は口をそろえる。
日本人の人件費をコストに含めれば中国国内の物 流事業は赤字を免れない。
それでもドル箱となってい る国際間輸送や、日本国内の物流事業を維持する上 で、中国物流は重要な囲い込みの手段となっている。
出向者のコストを日本側の本社負担にすることで無理 矢理、帳尻を合わせているのが現状だ。
しかし荷主企業の要請が内陸部や流通の川下にま で拡がれば、穴埋めも難しくなる。
中国の国内物流で 先行した三菱商事の物流インフラを事実上吸収、ト ラックを使った路線便事業に手を広げ、国内ネットワ ークの強化に動いている日通でさえ、その事業領域は 今のところ工場の調達物流や拠点間の横持ち輸送に 限られている。
日通の佐谷浩海外企画部中国担当次 長は「中国物流の料金相場は年々、タイトになる一 方だ。
今や現地価格で日本並みのサービスを当然のように要求される。
もちろんコストに見合った料金が収 受できるなら話は別だが、同じことを川下までやれと 言われると厳しい」という。
マーケティングはロジスティクスの前提条件だ。
マ ーケティング戦略の変更は当然、ロジスティクスの修 正を強いる。
しかも先進諸国と違って中国やインドな どの新興国では選択肢は限られている。
現地の同業者 と手を組み、相手先のサプライチェーンに相乗りすれ ば、投資を抑えることはできても、コントロールは失 われる。
取り分の確保にも不安が残る。
3PLをパー トナーにするにも、出来合いのソリューションなどな い。
荷主がリスクを負って新興国の環境に適応した3 PLを育てる必要がある。
しかし、日系荷主の多くが その事実をまだ正視できていない。
日本通運の佐谷浩 海外企画部中国担当次長

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