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中国国内市場の4PL
淅江省杭州に本社を置く大手日用雑貨品メーカー・
伝化集団が、中国全土を対象にした大規模な物流ネ
ットワークの構築に乗り出している。 新華社によると、
現在同社は八億元(約一二〇億円)を投じて「蘇州
総合物流園」に同州最大規模のトラックターミナルを
建設中で、このほかにも全国六〇都市が同社のターミ
ナル建設を招致しているという。 これに先立つ二〇〇
三年にも、同社は地元杭州に大規模な「物流園区」を
建設している。
中国の物流園区には二種類ある。 一つは港湾隣接
地に設けられた特別保税区で、荷主は荷物の搬入と
同時に、日本の消費税に当たる「増値税」の還付を
受けられる等の優遇措置を得られる。 これとは別に、
民間物流企業や不動産会社が独自に開発した産業団
地もまた「物流園区」と呼ばれている。
その多くは中国各地の卸売市場や高速道路の分岐
点など交通の要衝に立地している。 そこでは中国式の
求車求貨システムが運営されている。 伝化集団傘下の
伝化物流基地が運営する杭州の物流園区もその一つ
だ。 同園区には周辺の貨物仲介業者や倉庫業者、数
百社が参入し、活発な物流取引が行われている。
中国には現在約七三万の運送会社が登録されてい
るが、そのほとんどが保有車両台数一台の個人事業
主、いわゆる?一人親方〞だ。 特定の荷主あるいは物
流企業と専属契約を結び、貸し切り輸送を行ってい
る。 自らは営業力を持たないため、帰り荷の確保に各
地の民間物流園区を利用する。
園区の入り口で、社名・ドライバー名のほか、車両
タイプと復路のルートを登録。 その後、ドライバーは
駐車場に車両を置き、電光掲示板の設置されたマッ
チング室に向かう。 「車両タイプ」と「納品先」、「荷
主番号」が掲示された求車情報のパネル(
写真1)か
ら帰り荷を物色。 条件の合う求車情報が見つかったら、
その荷主番号を運営担当者に伝える。
運賃をはじめ仕事の詳細は荷主と直接詰める。 荷
主と言っても、ほとんどは貨物を仲介するだけの零細
フォワーダー、日本の物流業界で俗に言う?水屋〞だ。
マッチング室にはドライバー向けのパネルとは別に、
フォワーダー向けに求貨情報を掲示したパネルも設置
されている。 そこから必要な車両を探し当て、安い運
賃で運ばせてサヤを抜く。
取引が成立すれば、園区の運営会社も一定のマー
ジンを徴収する。 ただし、マージン率は通常一%を切
る。 そのため運営会社は車両の駐車料金のほか、園区
内に飲食店や床屋、遊戯施設、宿泊施設など様々な
テナントを誘致することで賃料収入を得ている。 帰り
荷を探すドライバーは、ときには数日間を園区内で過
ごすこともある。 そんなドライバーや水屋を対象にした商売が成り立っているのだ。
こうした民間物流園区が現在、中国各地に建設さ
れている。 「ただし、安定的に利益の出ているところ
は、まだほとんどない。 そのなかで伝化集団の取り組
みは数少ない成功事例の一つ。 それだけに伝化集団は、
各自治体から引っ張りだこになっている」と、現地の
事情に詳しい日通総合研究所の陳麗梅経営コンサル
ティング部コンサルタントは説明する。
伝化集団の物流園区の開発コンセプトは、他の不
動産開発会社主導の園区とは全く異なっている。 同
社の最終的な狙いは、全国規模の物流プラットフォー
ムを構築することにある。 そのため園区内には求車求
貨システムだけでなく、混載用のターミナル設備を設
けている。 トラックバースの一つひとつを各方面別の
中国の民間物流企業の台頭が目覚ましい。 しかし、
その実力は単純輸送や庫内作業などの基本的なオペ
レーションさえ、日系企業が求める水準には満たし
てはいない。 3PLと呼ぶにはまだ早い。
(大矢昌浩)
SEPTEMBER 2006 14
第1部中国市場のロジスティクス
現地物流企業
――民間新興勢力の台頭とその限界
15 SEPTEMBER 2006
運送会社に賃貸。 各地の中ロットの荷物を集め、ター
ミナルで方面別に積み替えて出荷する。
同様の混載ターミナル機能を持った大型物流園区
を、伝家集団は今後五年間で国内一〇カ所程度建設
する計画だ。 伝化集団のブランド力を活かした営業活
動も行っていく。 自社では車両やドライバーを抱えず
に、中小運送会社の組織化によって全国規模の混載
輸送ネットワークを構築する。 このビジネスモデルを
伝家集団は「中国式の『4PL』と位置付けている」
と、陳コンサルタントはいう。
日本の花王は二〇〇二年に、この伝化集団との合
弁会社、杭州伝化花王の設立を発表している。 九三
年に上海花王を設立した花王はそれまで、小売りとの
直接取引を基本とする日本と同様のサプライチェーン
を中国でも展開してきた。 しかしその結果、P&Gや
ユニリーバなど欧米系のメーカーに中国市場で大きく
水を空けられることになってしまった。
花王は現地企業をパートナーに
日本流でも都市部では一定の認知を得ることができ
た。 しかし消費者の購買力が上がり、市場が中国全
土に拡がるに従って、コントロールを失い、劣勢が顕
著になってきた。 地方では代金回収等にも問題が発生
した模様で、同社の中国法人は現在も赤字を余儀な
くされている。 事態を重く見た花王は従来の自前主義
を転換。 販売地域をそれまでの一三〇都市から五〇
都市に絞り込むとともに、伝化集団をパートナーに迎
えることで、サプライチェーンを仕切り直した。 伝化
集団の持つ低コストの物流ネットワークは花王にとっ
て大きな魅力だったはずだ。
しかし、現地の物流企業を本格的に活用しようと考えている日系企業はまだ例外的だ。 現地では有力
3PLの一つに数えられている遠成集団でも、日系荷
主の利用は現状ではごく一部の輸送サービスに限られ
ており、3PLと呼べるような案件はないという。 伝
化集団のネットワークにしても、零細企業のリソース
をベースとしているだけに品質面には大きな不安が残
る。 突破口はまだ見当たらない。
それでも欧米系の荷主は、現地の物流企業を従来
からよく利用してきた。 欧米系荷主の多くは、日系の
ニッチ戦略とは異なり、価格競争の激しいボリューム
ゾーンのビジネスに比重を置いてきた。 多少品質には
目をつぶっても、コストを抑える必要がある。 マーケ
ティング戦略の違いは物流パートナーの選別の決定的
な要因となっている。
写真1 伝化集団の運営する物流園区。 ド
ライバーたちが求車情報の掲示されたパネ
ルから帰り荷を物色している
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