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OCTOBER 2006 2
つも報告されました。 ローンを組んで
高い車両を購入させられて開業した
のに、全く仕事を回してもらえない。
ようやく仕事が回ってきても、ほかの
業者から安値で奪った仕事だけに運
賃単価が極端に低い」
「あるいは加盟者を募集する時点では、
一日一万円の仕事を保証しますとい
いながら、いざ開業してみたら一日三
〇〇〇円ぐらいの仕事しかない。 そ
れで本部に文句を言っても、一日は
二四時間なんだから数時間の仕事で
三〇〇〇円なら仕方ないでしょと開
き直られた、などという報告がありま
した」
――それは明らかな詐欺です。
「それでもあくまで報告ですので、事
実を検証する必要があると思って、ア
ンケートで名指しされていた大手フラ
ンチャーズチェーンに出向いて、本部
の幹部社員と二回ほど面談しました。 加盟者一人当たり、どれだけの仕事
が紹介されているのか。 その数値を教
えて欲しかったのですが、資料を作っ
ていないなどと、はぐらかされてしま
った。 結局、発注額の総額さえ教え
てもらえなかった」
――他の個人事業、例えば個人タク
シーなどと比較しても軽トラは劣悪
な環境にあると言えますか。
「フランチャイズの加盟者でなくて
過酷な労働実態を調査
――軽トラックの一人親方の労働実
態を調査した理由は?
「もともとは長距離トラックドライ
バーの労働事情に関心があったんで
す。 学生時代から私は働く人の健康
問題を研究テーマにしてきました。 そ
の一環で、最初は過労死の事例の多
かった長距離トラックに着目しまし
た。 地元の北海道から東京の築地に
海産物を運んで、また帰ってくるト
ラックに同乗するなどして、日本の物
流を支えている人たちの、しんどい労
働実態を調べました」
「その後、調査対象をバスやタクシ
ーなど他の交通機関のドライバーに
も広げていくなかで、軽トラに出会い
ました。 長距離と軽貨物では同じト
ラック輸送でもかなり位置付けが違
う。 運送業界で軽トラは小ロットで
小回りが利いて、一種の隙間産業的
な商売として評価されている。 そのよ
うなニッチな輸送モードとしての機能
を検証する意味も含め、それまであ
まり光を当てられていなかった軽トラ
のドライバーが一体どのような働き方
をしているのか、調べてみようと思っ
たんです」
「アンケート調査のほか、大手宅配
便会社の末端で孫請けとして使われ
ている軽トラの個人事業主に頼んで、
一週間にわたって同乗させてもらい
ました。 その結果、分かったのは、軽
トラの個人事業主はニッチな商売と
いう以前に、社会科学用語で言うと
ころの『不安定就業階層』に当たる。
予想を遥かに超えて過酷な環境に置
かれているということでした」
――不安定就業階層とは?
「その特徴は所得水準が低く、労働
時間が不規則であることです。 軽ト
ラの一人親方は、その典型の一つで
あることを知りました。 私が同乗した
軽トラの就業時間は、一週間のうち
最も少ない日で一〇時間。 多い日に
は一六時間にも及びました(表1)。
これが雇用労働者であれば雇用者側
の責任問題になるところですが、個
人事業者であるために運送会社側は
何も問われない」
――それでも宅配便の下請けは仕事
があるだけマシです。 フランチャイズ
に加盟している一人親方はもっと深
刻な環境に置かれている。
「確かに軽トラを調査していくと、
必ずフランチャイズの問題に行き当
たります。 軽トラの一人親方を対象
に行った昨年のアンケート調査でも、
フランチャイズチェーンの問題がいく
北海学園大学
川村雅則
経済学部講師
「安過ぎるサービスには歪みがある」
働いているのに生活できない――ワーキングプア問題が物流
業界で深刻化している。 軽トラックの一人親方の年収は、長時
間労働にも関わらず二〇〇万円程度にとどまっている。 時給換
算すれば最低賃金を下回る。 不当な労働に支えられた低価格は
長続きするはずがない。
(聞き手・大矢昌浩)
も、例えば郵政公社の『ゆうパック』
の配達でも、北海道で軽トラに支払
われるのは一個当たり一二〇円程度
です。 それも一個の配達が一回で終
わるわけではない。 届出先が留守の
場合には何度も訪問しなければなら
ない。 実際、毎日仕事しても手取り
の年収は二〇〇万円程度にしかなら
ない。 雇用労働者であれば最低賃金
法に觝触するレベルです。 もっとも、
他の個人事業でも『名目的自営業者
層』と言われる階層の手取り収入は
現在、二〇〇万円台で低迷していま
す。 個人タクシーやダンプ運転手な
どがそうです」
――名目的自営業者の意味は?
「一般に自営業者と言うと、自分の
裁量で自由に仕事ができるように聞
こえるけれど全くそうではない。 ダン
プであれば一〇〇〇万円もする車両
を運転手が自分で所有して事業を行
っているわけですが、実際の活動はす
べて元請け会社の指揮命令系統に置
かれている。 そして大方のドライバー
がローンに追われて自由もなく働いて
いる。 つまり自営業者といっても名
目だけで労働者性が強い。 ダンプと
同様に軽トラもドライバーの裁量性
はわずかであって、労働者性が強い
と言えます」
――名目的自営業者の問題点とは?
「あまりにも一日の労働時間が長過ぎ
たり、運賃が低すぎれば、当然そこ
に無理が生じる。 それが事故や労働
災害につながる。 実際、軽トラック
の事故率はここ数年、急激に伸びて
います」
――事故率の増加は一般トラックも
同様だ。
「やはり規制緩和によってドライバ
ーの労働環境が厳しくなっているこ
とが背景にあるはずです。 そもそも行
政は一九九〇年に『物流二法』を施
行した時点で、競争規制の緩和は社
会的規制の強化と一体になって進め
ると明言していました。 ところが実際
には競争規制の緩和だけを進めて社
会的規制のほうは、ほとんど放置してしまった」
「個人的には、はじめからこういう
結果になることを予想していました。
というのも、規制緩和はもともと行
政改革の一環であって、行政の機能
を縮小していくのが原則です。 社会
的規制の強化などははじめから期待
できなかった。 かけ声倒れに終わると
確信していました」
――運送業の規制緩和をどう評価し
ているか。 少なくとも運賃は下がっ
たが。
「確かに政府の資料でも、運賃の下落
が規制緩和のもたらした経済効果と
して宣伝されています。 しかし、例え
ば環境負荷、あるいは安全、事故に
よって失われた命や損害などを加え
て計算していけば、また違った評価
もあり得る。 運賃や流通コストの下
落だけをとって規制緩和は成功した
と判断するのは一面的な見方と言わ
ざるを得ない」
「それなのに最近は軽トラに限らず、
これまで雇用労働者だった人を個人
事業主として独立させて契約を結び、
作業に機械が必要な場合はそれもリ
ースで貸し出す。 そうすることによっ
て、雇用に伴う様々な会社側の負担
を減らす。 そういう方法が新しい人
の使い方として脚光を浴びる傾向に
ある」
――規制緩和が進んで、いずれは日
本でも二トン車以上の普通トラック
でも一人親方が認められることにな
るはずだ。 そうなれば軽トラの問題
が普通トラックにまで波及すること
になる。
「その通りだと思います。 今の状態
で普通トラックの一人親方を解禁し
てしまえば大変なことになる。 規制緩
和が進むほどに、問題は大きくなっ
ていく。 どこかでブレーキを踏む必要があります」
3 OCTOBER 2006
川村雅則(かわむら・まさのり)
北海道岩内町出身。 北海道大学
卒、同大大学院教育学研究科修
士課程、博士後期課程を経て、
2003年に北海学園大学経済学
部講師に就任。 現在に至る。 研究
テーマは交通労働、交通運輸産業
における規制緩和の実証研究、若
者労働など。 北海道のドライバー
の労働実態に関する論文を多数発
表している。
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