ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年10号
現場改善
建設資材卸T社のセンター移設

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2006 60 本連載がきっかけに T社は名古屋に本社を置く年商約八〇〇億 円の建設資材卸だ。
全国二三カ所に営業所を 設置し、建設会社や二次卸、ホームセンターな どに建設資材を販売している。
取り扱いアイテ ム数は約三万五〇〇〇。
うち輸入品が二〇〇 〇アイテムほどある。
本社建物の一部に倉庫施 設を持ち、全国の営業所経由で顧客に製品を 納めている。
T社が我々日本ロジファクトリー(NLF) とコンタクトをとったのは、本連載の記事がキ ッカケだった。
二〇〇三年九月号で紹介した改 善事例が、T社の物流形態や課題とよく似通 っていたため、記事をずっと保管していたのだ という。
そして今回、T社は手狭になった本社 倉庫を移転するのに伴い、全体最適化を図ろう という狙いから、当社に相談を持ちかけた。
T社側で我々の対応窓口となった取締役業 務部長のM氏は現社長の実子であった。
ゆくゆ くはT社を背負うことになるだろう人物だ。
理 想的な人選だった。
本連載でも私はこれまで繰 り返し「物流改善はトップダウンで行うべきだ」 と訴えてきた。
「部分最適」ではなく、「全体最 適」を目指すならば、これは当然のことである。
物流の改革や改善を押し進めていくと、その 影響は否応なく営業や生産もしくは購買・調 達にまで及んでいく。
その結果、部門間の調整 が必要になる。
具体的には、改革によって物流 コストは下がるが、営業対応力も下がり、客離 れのリスクを伴う場合、あるいは物流コストは 下がっても購買・調達コストの増加する可能性 のある場合など、経営判断の問われる場面が必 ず出てくる。
労務管理上の問題もある。
物流業務のアウト ソーシングを導入したり、オペレーションのム ダをなくして人員削減を図るといった場合に、 既存の従業員をどう処遇するのか。
そうした ?ヒト〞の扱いが、最近の改善では必ずといっ て良いほど問題になる。
これにもやはり経営トップの判断と調整が必要になる。
その意味で、 次期トップであるM取締役は、我々のカウンタ ーパートとしてはうってつけだった。
改革の概要設計からプロジェクトメンバーの 構成、月々のミーティングの進行など、M取締 役は我々NLFに、プロジェクト全般にわたる サポートを求めた。
T社の社内に物流の専門家 がいないことは我々も当初から想定していた。
それに加えてM氏の右腕と言えるような人材も 社内には不在のようで、とりあえず物流現場の 管理者がその役割を担うことになっていた。
またT社では、我々のような外部スタッフを 交えてプロジェクトに取り組むこと自体が初め てであった。
どのように外部スタッフと役割を 第45回 物流センターを移管することになった。
次の経営トップを 期待される社長の実子がプロジェクトリーダーだ。
改革に取 り組む熱意は十分。
しかしリーダーシップを示そうとするあ まり、現場の声をかき消してしまう恐れがあった。
社内の意 見調整が我々コンサルタントの役割だった。
建設資材卸T社のセンター移設 61 OCTOBER 2006 各自が考えるT社の物流の課題、問題点を話 してもらうことにした。
第1回のプロジェクトミーティングには、プ ロジェクトメンバー以外にも営業担当役員や常 務などの経営陣が参加していた。
古参幹部のな かには、これまで会社を支えてきたという自負 のためか、物流改善の重要性やプロジェクトへ の協調性に欠けるものもいた。
残念なことでは あったが、T社の内情を早い時点で理解できた ことは、マイナスではなかった。
また幸いにして社内に強い発言力を持つ常務 は、物流というテーマに大きな関心を持ってい た。
社内の調整役としてM取締役の強力な後ろ 盾になってくれる可能性のあることが分かった。
実際、常務はその後のミーティングにも頻繁に 顔を出すことになった。
出荷頻度によるABC分析は、T社のシステ ム部門のスタッフが担当した。
三万五〇〇〇も のアイテム数を扱っているだけに、暫定的にA ランクと仮設定したものだけでも約三〇〇アイ テムに上った。
それでもシステム部門の担当者 は飲み込みが早く、二〜三回のやり取りを経て、 分析表を提出してくれた。
この出荷頻度ABC分析表と、M取締役が 独自に進めていた新センターのレイアウトプラ ンの図面とを照らし合わせ、庫内ロケーション の作成作業に入った。
庫内ロケーションの詳細 を詰めていく段階では、保管する商品の荷姿や、 重量、ケース物かパレット物かといった要素が 重要となってくる。
そのため現場管理者から運 営面での最適な保管方法などの意見を吸い上げ る必要があった。
分担するのか。
あるいはミーティングにおける 議事録の付け方など、プロジェクト運営の基本 的な進め方まで含めて指導して欲しいとのこと だった。
こうして我々NL Fは、T社の改革プロジェ クトを十二カ月にわたってコンサルティングす ることになった。
改革の目的は大きく三つ。
? 物流センターの移転をスムースに行う。
?新た なシクミづくりによる全体最適化を図る。
?次 のステップとして改善によるコストダウンを図 る、ことにあった。
本来であれば?新たなシクミづくりから着手 し、?物流センターの移転、?現場改善という 順序で進めるべきところだ。
ところが、我々N LFが相談を受けた時点で、既にセンターの移 転時期は決まっていた。
移転は間近に迫ってい た。
時間的な余裕は全くなかった。
そのため三つのテーマのうち、センター移転 後のゾーニング、レイアウト、ロケーション作 成、およびその運営を先に着手しなければなら かった。
事前に済ませておくべきシクミづくり が後回しになってしまうことで、改善の遠回り、 もしくは暫定的な改善にとどまる恐れがあるが、 これは致し方なかった。
レイアウトを詰める 第1回のプロジェクトミーティングで、私は まずプロジェクトの目的を確認した。
次に役割 分担。
そして具体的な作業として、a 全体の 物流フローの作成と、b アイテム別の出荷頻 度分析(ABC分析)から着手することを伝え た。
ミーティングの最後には、各メンバーから 第二回のミーティングは、ロケーションの作 成作業に費やした。
しかし、細部に不明な点が 残り、その場ではどうしても現実的な落とし込 みには至らなかった。
そこで、改めて新センタ ーをプロジェクトメンバー全員で視察すること にした。
新センターは従来の本社兼倉庫から車で一〇 分ほどの距離に位置していた。
建設面積八〇〇 坪の二階建てで、延べ床面積は約一六〇〇坪。
自社正社員十二人のほか、パートと嘱託がそれ ぞれ一人ずつの計十四人で運営する予定になっ ていた。
M氏が作成したレイアウトプランの図面を手 にしながら、現場のチェックを行った。
センタ ー内の細部の寸法や、垂直搬送機二基のスピー ド、エレベーター一基の広さや耐重量など、図 面通りに庫内をレイアウトした時に、オペレー ションに無理が生じることはないか、一つひとつ確認していった。
新センターは賃貸物件だったが、築一〇年弱 と比較的新しいこともあり、効率性を考慮して 柱の太さができるだけ抑えられていたり、天井 の高さも十分にとられているなど、使い勝手は 良さそうだった。
またセキュリティシステムも 貸し主側で最新機種に取り替えてもらえるとい うことだった。
この視察をもとに、再度ロケーション作成に 取りかかった。
この話し合いでは、天井の?高 さ〞を有効利用できないかというアイデアが新 たに提案された。
M氏が作成したレイアウトプ ランを修正することにした。
出荷頻度SAラン クのシート類は当初の二階から一階へ移動。
逆 OCTOBER 2006 62 にAランクのバラ商品ゾーンを一階から二階へ。
それに合わせて一階のフリースペースの位置を 少し中央にシフトさせるなど、現場の実態に即 してプランをブラッシュアップしていった。
途中、他の事業部の商品も加わることになり、 ロケーションの一部変更を余儀なくされたが、 それも五〇坪ほどのスペースが新たに必要にな っただけで、全体には大きな影響は出なかった。
ところが、一連の修正作業にM取締役が反発し た。
現場の意見を聞きながらも、可能な限り自 分の意見を通そうとする。
私のアドバイスが却 下されることさえあった。
社内の意見を調整 M取締役がプロジェクトに率先して取り組ん でいるのは、単に社内に物流人材がいないとい う理由だけでなく、将来に向けて自分のリーダ ーシップを示しておきたいという狙いがあるよ うだった。
実際、M取締役は新センターの賃貸 物件の決定やレイアウトプランの作成だけでな く、ラックの選定などの細部に至るまで自分の 意見にこだわった。
一部現場からは運営面で難しいレイアウトで あるという声も上がっていた。
しかしM取締役 の立場も理解できないわけではなかった。
そこ で我々NLFが仲を取り持つ形で、現場に対し て「移転後のロケーションのメンテナンスでよ りベストな形を作りましょう」と調整を行った。
具体的には、ロケーション設定後の次善策と して以下三点をまとめた。
?移設後のロケーションのメンテナンスでは妥 協を許さない――プランと運営・実施のギャ ップを確実に埋める。
?物量が増加した時の拡張対策――a周辺の屋 外保管場所を一時保管や仮置き場として利 用する。
b従来の本社倉庫を使用する。
c 在庫調整を行う。
?移設時の人的オペレーションに対する余力の 確保――新体制が安定稼働するまでの間、現 場は一時的に労働力不足となる。
その間の臨 時労働力を確保しておく。
このうち?のセンターの移設に伴う一時的な 人手不足は、M取締役も強く危惧するところだ った。
それに念を押す形で我々NLFからも、 自社社員の応援もしくは派遣スタッフの調達が 必要であることを伝えた。
次に移設の詳細なスケジュールを詰めた。
既 にハード関連についてはスケジュール表が作成 されていた。
そこで電話の移設や事務所の増築 工事の完成日をしっかり抑えること。
またラッ クやクレーンなど、マテハン関連設備の納期日 を再度確認するようにアドバイスした。
心配し過ぎのように思われるかも知れない。
しかし、これらの日程がずれてしまうと、スケ ジュールが大きく狂うだけでなく、緊急対応に よるコストアップ、最悪の場合には出荷作業停 止といった事態にも陥りかねない。
スケジュー ルの確定は、センターの移設では最も気を使う ポイントの一つだ。
ソフト面では運営・人員体制計画がまだ作 成されていなかった。
これは単にスタッフの配 置を決めるというだけでは済まない。
従来、T 社の本社倉庫はピッキング、出荷、リフト作業 などの業務を、それぞれ決まったスタッフが処 理する自己完結型の配置をとってきた。
しかし 新センターの作業スペースは、従来の一・七倍 になる。
新たに時間別分業体制をとる必要があった。
作業の進捗に合わせて同じスタッフに複数のエ リアを掛け持ちさせるわけだ。
そのため個々の システムの見直しという新たな課題も浮かび上 がっている。
もともと流通の川下の物流は改善の難易度が 高い。
扱いアイテム数の多い卸系のセンターでは、基本的な在庫管理でさえ徹底が容易ではな い。
とくにT社のような建設関連資材を扱う卸 は、そのほとんどが物流に悩みを抱えていると 言っていい。
建材には長尺物、重量品などの異形物が多 い。
ハンドリングに手間がかかり、トラックの 積載効率も悪い。
加えて納品先が建築現場と いうケースが多く、EDI(電子データ交換) などのシステム化を進めるにも制約がある。
T社の場合は、年々増加する傾向にある輸 入品のハンドリングも課題になっている。
セン ター移管の次のステップとなる「全体最適化」 も、またかなりハードなプロジェクトになりそ うである。
スタッフの適性や能力を考慮して計画を作成し なければならない。
そのフォームを我々NLF が提供して、それを埋める形で現場管理者を中 心に作成してもらった(図1)。
こうして今年七月中旬に移設作業を開始し た。
稼働初日から次々と新センターに商品が入 荷されてくる。
予想通り現場の人手が足らなく なった。
派遣スタッフ八人を手配することにな った。
移設後一〇日間は格納作業に追われた。
ロケーションに添ったオペレーションを実施す るまでにはさらに五日間を要した。
結局、運営 が落ち着くまで、二〇日間ほどかかった。
それ でも想定の範囲内だ。
通常でも新センターを立 ち上げてから安定稼働まで一カ月はかかるとさ れている。
移設から二カ月がたった現在、二回目のロケ ーションメンテナンスに取り組んでいる。
徐々 にオペレーションはこなれてきたが、在庫管理 63 OCTOBER 2006

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