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流通をターゲットに3PL
センコーは自動車、鉄道、船舶などの輸送
モードを有する中堅物流企業である。 かつて
は売上高の約半分を住宅メーカーおよび化学
品メーカーの四社(旭化成、積水化学、積水ホ
ーム、チッソ)向け業務が占めていた。 しか
し、九〇年代後半の長引く不況と内需減少の
影響による業績悪化を機に、本格的な経営改
革と事業ポートフォリオの見直しに着手した。
過去数年を振り返ると、同社が克服しよう
としてきた課題は大きく二つに分けられる。
一つは事業面での課題で、市場が縮小傾向に
ある既存事業への依存からの脱却と新規事業
の育成。 もう一つは財務面での課題で、人件
費や販管費を中心としたコスト構造改革と有
利子負債の削減である。
同社は前者の課題について「情報流通企業
へ」、「創造的ロジスティクスへの挑戦」の二
つをテーマに掲げ、主に流通分野をターゲッ
トにSCM事業の強化・育成を進めてきた。
こうした同社の戦略は物流効率化を模索する
産業界の動きと相俟って、流通分野に限らず、
徐々に同社がカバーする全事業領域に適用さ
れることになった。
具体的には、IT(情報技術)を活用した
物流システム「ベストパートナーシステム」
を導入。 本来は荷主企業側で処理していた調
達、受発注などのオペレーションも積極的に
受託することで、調達〜販売までのサプライ
チェーン上で発生するロジスティクス業務を
一貫して請け負うサービスの提供を始めた。
SCM関連業務のサポートで荷主企業のコス
ト削減に貢献するとともに、各種業務を通じ
て蓄積したノウハウを強みにライバルの物流
企業と差別化を図った同サービスは顧客から
支持され、その結果「流通ロジスティクス事
業」の売上高は二ケタ成長を続けてきた。
同事業の売上高は九七年度に一〇〇億円
だったが、二〇〇三年度には二六〇億円に。
さらに直近の二〇〇五年度は三一〇億円と、
主力事業の一つである石化樹脂事業(二〇〇
五年度売上高は三六〇億円)に迫る規模とな
っている。 また、事業規模の拡大だけでなく、
同サービスを既存顧客にも提案したことで新
たな需要の掘り起こしにも成功。 例えば、住宅事業では新たに手掛けた調達物流業務の売
り上げが二〇〇五年度、住宅事業の売上高全
体の三〇%を占めるまでに至っている。
一方、財務面における健全化や、コスト構
造改革にも着実な進展が見られた。 重要課題
の一つとされてきた有利子負債は九七年度計
画当初に七五九億円(純資産倍率一・四六
倍)まで膨らんでいた。 しかし、総資産の一
五%を占める豊富な手元流動性(現預金+短
期保有有価証券)と各年度の事業利益、加
えて子会社売却による収入を元手に、〇三年
度末には半減となる三八三億円(純資産倍率
〇・八九倍)まで圧縮することに成功した。
二〇〇六年度を最終年度とする現中計目
第25回
一柳創
大和総研
企業調査第一部
アナリスト
センコー
3PLで特定荷主依存から脱却も
利益率の改善が進まず苦戦が続く
3PLへの転身や有利子負債の圧縮に成功
した。 ただし、収受料金の値下げや燃料費高
騰の影響で営業利益の伸び悩みが続いている。
今後は物流センター運営事業や国際物流事業
を強化することで収益力の回復を目指す。
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標である有利子負債比率三〇%は大幅な変更
なく着地できる模様である。 そのほかにも、
グループ会社を含めた人員削減や報酬体型の
見直しによる人件費抑制など、コストのスリ
ム化にも継続的に取り組んできた。
営業利益目標を下方修正
センコーが描く成長路線、目標達成のため
の営業施策、そしてバランスシート健全化へ
の取り組みはいずれも内容が明確であり、こ
れまで相当な実行力を伴って遂行されてきた
ものと思われる。 方向性そのものは納得でき、
主要顧客の動向に業績を左右されていたかつ
ての姿とは異なっている様子は評価できる。
SCM事業拡大と新規事業育成を中心軸
に、新規顧客獲得による事業リスクの分散化、
独自のサプライチェーン・ロジスティクスの
展開に伴う積極的な設備投
資などを通じて、物流ネッ
トワークの拡大と利益創出
能力の強化は着実に進んで
きた。 二〇〇五年度までの
結果を見ると、同社が第三
の収益の柱として位置づけ
てきた流通ロジスティクス
事業は大幅な成長を遂げ、
売上高にして九七年度比で
約三倍、全体売上高に対す
る構成比も六%から一六%
への引き上げに成功した。
もっとも、計画がすべて
順調に推移しているわけで
はない。 セグメント別売上高計画に対する二
〇〇五年度実績を考慮した結果、同社は二〇
〇六年度の業績予想を修正し、内需回復に牽
引された既存事業が計画を上回って着地する
ものの、新規事業はやや未達に終わるとの見
通しを示した。 かつて全体の五割を占めてい
た主要荷主四社の売上高構成比は逓減傾向
にあるが、現在もなお四割程度と比較的高水
準にあることに変わりない。
また、営業利益の推移を見るかぎり、努力
の足跡を確認することは難しい。 営業利益は
九七年度が四四・六億円であったのに対し、
二〇〇五年度は四六・六億円。 三%弱と低
水準にとどまっている営業利益率を引き上げ
るまでには至っていない。 同社は今期初に二
〇〇六年度の営業利益目標を六五億円から
五一億円に減額したが、足元の事業環境を考
慮すれば、修正後の最終年度目標も低いハー
ドルとは言い難い。
背景には、荷主からの物流効率化要請(収
受料金の割引)、燃料価格高騰やそれに伴う
傭車・下払い費用など外注費負担の増加、と
いったトラック運送会社が直面している問題
がある。 同社の資料によると、二〇〇〇〜二
〇〇五年度の六年間の累計で効率化要請に
よる減益要因が六六億円、燃料価格上昇の影
響が十一億円、その他にも傭車費や作業コス
トの負担増が示されており、営業規模の拡大
やコスト削減の成果で相殺し切れていない。
二〇〇六年度計画の中では、料金是正・価
格転嫁が一部進む見通しだが、効率化要請で
三億円、燃料価格上昇で三億円などが引き続
き減益要因として見込まれている。
現在、同社では次期中期経営計画の策定
が進められている模様である。 計画は燃料価
格の高止まりや労働需給タイト化といった厳
しい事業環境の中で、持続的な利益成長をど
うやって実現していくのかが問われることに
なりそうである。
足元では拠点投資を積極化しており、二〇
〇五年度はイオン北海道RDCセンターなど
大型物流センターの竣工で合計十一拠点二一
万平方メートルの能力増強に踏み切った。 二
〇〇六年度もイオン東北RDCセンターなど
計二二万平方メートル程度の拠点能力が新た
に加わる予定である。 これによって物流セン
ターの規模は二〇〇三年度末の一〇〇万平方
メートルから二〇〇六年度末には一五〇万平
方メートルへと拡充され、荷主側の効率化要
請に応えられる体制の整備が進む。
阪急交通社との提携も今後に期待のかかる
分野の一つであろう。 海外ネットワークと国
際フォワーディング機能を有する同社と、国
内のネットワークに強みを持つセンコーは補
完関係にある。 中国をはじめアジアを中心と
した国際物流の基盤強化が進むことで、収益
の拡大が期待できる。
センコーの過去10年間の株価推移
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