ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
管理会計
施策の貢献度を試算する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SCM時代の 新しい 管理会計 JULY 2005 62 貢献度試算は計画立案に必須 ロジスティクスの中期計画を立案している 企業は、現状ではあまり多くない。
計画どお りに施策を進めて着実に成果を上げている企 業となると、さらにその数は減る。
もっとも八〇年代までの物流計画は、販売 量予測と生産の年間計画から、保管・輸送 の必要キャパシティを計算し、年間の予算を 作成するというだけのものであった。
単年度 計画が主流であり、またこの範囲であれば単 年度計画で事足りたといえる。
九〇年代に入り、物流に在庫を加えたロジ スティクスという範囲で検討する必要が生じ てきた。
ロジスティクス管理における拠点閉 鎖、生産計画サイクルの短期化などは、複数 年にわたり地道に取り組んでいく必要がある。
計画を頓挫させないためにも、三年程度のス パンで、毎年着実な効果を上げながら将来的 な効果をも見据えていかなければならない。
そのために費用対効果ベースでの戦略計画の 立案が必要となったのである。
ここでポイントになるのが、費用対効果の 試算である。
金額の裏付けのない施策は失敗 する可能性が高くなる。
他社が行っている施 策であっても、自社にとっては利益を圧迫す る結果になりかねない。
たとえば今、最寄品 業界で徐々に浸透しつつある「メニュープラ イシング」でも、他社のプライスをそのまま 自社に適用したら赤字になってしまったとい うことが往々にしてある。
ロジスティクス施策の費用対効果の試算は、 損益計算書だけではなく、貸借対照表やキャ ッシュフロー計算書への効果も加味する必要がある。
特に問題となるのが在庫削減である。
在庫削減は、経営上層部からのトップダウン のプロジェクトという形で進めているケース が多く、それにかかる費用と効果を正確に判 断して行っている事例は希だ。
逆にいえば、トップにその意思が無ければ 在庫削減は進まない。
トップが必要性を認識 していない場合には、トップを説得するため の金額的裏付けを提示する必要がある。
多く の場合、それはロジスティクス部門の役割に なる。
経営計画との連携 ロジスティクス計画を立案する場合、最も 施策の貢献度を試算する ロジスティクスの施策は経営にどれほどのインパクトを与えるのか。
経営計画でROAやROE、EVAなどの目標値を設定している場合 には、それを活用することで施策の貢献度を数字で明示することができ る。
その具体的な方法を解説する。
第4回 梶田ひかる アビーム コンサルティング 製造事業部 マネージャー 63 JULY 2005 スマートなのは、それが経営にとってどれく らいのインパクトがあるのかを、経営計画に 連携させて示すことである。
通常、経営計画 では売り上げ、利益などの財務指標の目標値 が提示される。
それを受けてロジスティクスがどれだけ貢献できるかを示すことで、ロジ スティクスに必要となる製造・営業部門との 調整が行いやすくなる。
経営計画にROA(純資産利益率)、RO E(自己資産利益率)、EVA(経済付加価 値)などの財務指標が設定されている場合に は、ロジスティクス計画はより理解されやす くなる。
なぜなら、これらは損益計算書と貸 借対照表の双方を見ることのできる、ロジス ティクスにおいて最も重要となる資本の活用 を推進するものだからである。
経営全体の結果を判断するこれらの指標は、 それぞれ経営の何を見たいものなのか、使用 に際し問題となることは何かなど、厳密に理 解して使いこなすのは容易ではない。
しかし ロジスティクスの財務分析は、設定済みの目 標値から始めれば事足りる。
難しく気構える 必要はない。
費用対効果試算に最適なEVA 在庫削減を主眼に置くロジスティクスでは、 経営指標にEVAが導入されている場合に、 最もすんなりと費用対効果の検討ができる。
EVAでは、予めWACC(加重平均資本 コスト)という率を求め、資本をコストに置 き換えて総合的な判断を行う。
WACCそ のものの算出には財務の知識が要求され、ま たある程度意図的に操作できることが問題 として指摘されている。
しかしながらロジス ティクスで用いる場合は、財務から提示さ れたWACCをそのまま用いて計算すれば よい。
具体的に計算を行ってみよう。
現状で売上 高一〇〇〇億円、総費用九〇〇億円、投下 資本一三〇〇億円、WACCを四%と設定 している企業があるとする。
その企業が何ら かのロジスティクス施策を計画しており、そ れにより売上高一〇〇億円増加、費用五〇 億円削減、在庫一〇〇億円削減が想定され るとする。
その施策のEVA増加効果は九四 億円となる(図1)。
EVAの優位性は、全体額の変化で見て も、差額のみで計算しても、同じように貢献 度が算出できる点にある。
差額のみでも容易 に算出できるところから、部門ごとに貢献度 を算出することが容易であり、また施策ごと の貢献度も算出できる。
ROA、ROEは工夫が必要 EVAでは資本について予めどのくらいの 率で運用すべきかの目安がWACCという率 で示されている。
一方、ROA、ROEは全 体のオペレーションの結果としてどのくらい の経営効率であったかという率が算出され、 その結果として資本がどのくらいの率で運用 60億円 8億円 102億円 94億円 NOPAT 60% 150億円 60% 48億円 4% 1−法人税率 1000億円 売 上 1100億円 850億円 900億円 500億円 200億円 1000億円 流動資産 500億円 固定資産 200億円 無利子流動負債 900億円 費 用 52億円 資本コスト 4% WACC + − − − − − + − × × = = = × = × 90億円 60% −4億円 4% 100億円 −50億円 −100億円 0 0 − − − + = × = × 現 状 現状に対し、102−8=94億円の貢献 現状に対し、94億円の貢献 他の変化要素を固定化して全体で見た場合 差額だけで見た場合 図1  EVAを用いた貢献度試算 ※ ※NOPAT=税引後営業利益 JULY 2005 64 できたかが算出される。
これが在庫削減や自 社倉庫→借庫などの資産削減効果計算を若 干難しくする。
前号で示したように、ROE目標値は自 己資本比率を用いてROA目標値に変換で きる。
自己資本比率はロジスティクスの範疇 では変化させられるものではないため、ここ ではROAを例にとり説明しよう。
図1で用いた企業のROAは現状で四% となる。
この企業が先と同様のロジスティク ス施策を行うとしたら、想定される施策実施 後のROAは十一%となる。
ROAを七% 増加させる効果があるということになる。
これにあるように、ROAへの貢献は、他 部門の値を現状同様と固定化して、ロジステ ィクス施策による変化のみを上乗せする方法 でしか試算できない。
この方法は、説得力に は若干欠ける。
他部門もまた経営に貢献すべ く計画を立てているのであるから、論理的に はこの試算方法で問題はないのであるが、心 理的には抵抗がある。
また、パーセントで算 出されるため、貢献度を感覚的に低めにとら えがちとなる。
施策に何らかの投資が必要になる場合や、 トレードオフ、たとえば在庫は減るが費用が 増えるような場合は、EVAのモデルを流用 して施策ごとの貢献度試算を行う方がわかり やすい。
その場合、EVAモデル上のWAC Cにどのような値を入れるのかが論点となる。
WACCは株主資本コストと負債コストか ら求めることは可能である。
計算式はそのよ うになっている。
しかしながら計算式どおり にWACCを算出しても、それを用いて算出 した資本コストを財務が納得するとは限らな い。
一方でROAの目標値が設定されている のなら、資本をその率で回すことが望まれて いるとも考えられる。
資本コスト低減効果については、最も保守 的にとらえれば負債金利と同率、最も積極的 にとらえればROA目標値となり、それらの 間のどこかの値を使用することとなる。
どの 値にするかは、財務と話し合って決めること になる。
ロジスティクス部門側では、もちろん資本 削減効果を大きく算出したい。
一方、多くの 企業の財務部門は、効果を保守的に見積もりたい。
このようなことから、コスト増加や 投資が必要になる在庫削減の費用対効果計 算を最初に行うときは、算出に用いる利率の 交渉に労力を費やす企業が多い。
当初は低い率が提示されても、財務部門と 継続的に意図や効果を話し合うことにより、 徐々に率を増加させることができる。
ロジス ティクス推進には、日頃からの財務部門との コミュニケーションが必要なのである。
忘れてならない税金の考慮 利益と資本コストを秤にかけるとき、もう 一つ大きな影響を与えるのが税金である。
図 3を参照されたい。
法人税率を仮に四〇%と 図2 ROAを用いた貢献度試算 差額のみでは貢献度の計算できない 60億円 純利益 60億円 税引前利益 1000億円 売 上 900億円 費 用 1000億円 流動資産 500億円 固定資産 税引前利益 売 上 費 用 流動資産 固定資産 40億円 法人税 1500億円 総資産 純利益 ROA ROA 総資産 − − + 4% ÷ 現 状 150億円 250億円 1100億円 850億円 900億円 500億円 100億円 法人税 1400億円 − − + 11% ÷ 他の変化要素を固定化して全体で見た場合 現状に対し、6%の貢献 65 JULY 2005 する。
この場合、コストを一〇億円削減すれ ば、EVAは六億円増加する。
同様のEVA額の増加を在庫削減だけで 行おうとする。
WACCが四%なら在庫を一 五〇億円削減すると同様の効果を生む。
税金を考慮することにより、在庫削減効果は大 きく算出されることになる。
WACCが一 〇%ならさらに、たった六〇億円の在庫削減 でコスト一〇億円削減と同様の効果を達成 できることになる。
企業によっては税引き前利益ベースでのE VAやROAを用いている場合が多く見られ る。
図2で用いた企業は教科書どおりの算出 式ではROAが四%となったが、税引前利益 ベースでROAを算出すれば六・七%となる (図4)。
このようなことから、税引前利益ベ ースでのEVA、ROA、ROEを設定して いる場合は、税引後ベースの企業に比べて高 い目標値を採る傾向となる。
ロジスティクス施策実施可否検討ではたい ていの場合、資本コスト低減効果をどのよう に算出するかが論点となる。
たった一%でも 効果金額が大きく異なることから、在庫削減 を積極的に進めたいのなら、税金による影響 もぜひ効果試算時のポイントとして考慮する ことをお勧めする。
◆ SCM時代の新しい管理会計◆ かじた・ひかる 一九八一年南カリフォルニア大学大 学院
錬匳せ亮萋澄
同年日本アイ・ビー・エム入社。
一九九一年日通総合研究所入社。
二〇〇一年デロイト トーマツコンサルティング(現: アビーム コンサル ティング)入社。
静岡県立大学非常勤講師。
ロジステ ィクスABC、ロジスティクス中長期計画策定、在庫 削減プロジェクトなど、ロジスティクスの企画・管理 に関するコンサルティングと研究を中心に活動中。
図3 コスト削減か、在庫削減か 6億円 6億円 6億円 60% − 60% −6億円 4% − − − −150億円 − − − − − −10億円 − WACC + − − − − − + − × × = = = × = × − 60% −6億円 10% − − −60億円 − − − − − + = × = × 現 状 WACCが4%の場合、 在庫を150億円削減 WACCが10%の場合、 在庫を60億円削減 コストを10億円削減 在庫削減のみでEVAを6億円向上させる場合 流動資産 費用 売上 NOPAT 1−法人税率 資本コスト 固定資産 無利流動負債 6億円 図4 税引き前利益ベースのROA 100億円 6.7% 税引前利益 1000億円 売 上 900億円 費 用 1500億円 総資産 − 1000億円 流動資産 500億円 固定資産 + − ÷

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