*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
は、?シャトルに代わるCEV
(Crew Exploration Vehicle:有
人宇宙探索機)を開発する、?並
行してロボット技術を向上させる。
そして、?実際にCEVを製造・
運用して月に再上陸し、さらに?
月に常設基地を構築して、?火星
やより遠くの星への更なる進出を
これからの宇宙進出計画でのロジ
スティクス活動を中心とする報告
に、初めて丸一日が費やされた。
日常的な地上付近でのロジスティ
クス活動からは想像困難な、これ
からの宇宙空間でのロジスティク
ス技術の方法論と、それを実践
的・科学的に立証するシミュレー
ション活動やモデリングについて
報告が行われた。
初期の宇宙進出は、米ソが「と
にかく先に宇宙空間に、あるいは
月に進出しよう」と熾烈な開発競
争を繰り広げるものだった。 しか
し、いまでは成熟期に入り、日本
を含む多国間の協力体制による国
際宇宙ステーション(ISS)や
スペースシャトルの運用、あるい
はより遠い宇宙空間への進出計画
段階へと移行してきている。
人類を月に送り込んだアポロ計
画では、絶対的に信頼できるシス
テムに依存し、飛行途中での燃
料・資材の補給やメンテナンスは
一切行わないことが基本的な運用
方針であった。 これに対しシャト
SOLE日本支部では毎月「フォ
ーラム」を開催し、ロジスティクス
技術・ロジスティクスマネジメント
に関する活発な意見交換・議論を行
い、会員相互の啓発に努めている。
九月のフォーラムでは、ダラス(米
国)で開催された総会「SOLE2
006」の視察報告を行った。 今回
はその報告に基づき、総会二日目の
テーマである宇宙開発のロジスティ
クスの話題を紹介する。
宇宙進出の新たなフェーズ
米国の宇宙進出事業は、二〇〇
三年二月にスペースシャトル、コ
ロンビアが大気圏再突入時に空中
分解した事故以来停滞していたが、
二〇〇五年に再開し、最近ではよ
うやく軌道に乗った感がでてきた。
今回の会議では、二〇年先まで
を見込んだ宇宙進出計画(コンス
テレーション計画)が紹介された。
宇宙関連の話題はこれまでの会議
でも取り上げられてきたが、今年
は米国航空宇宙協会(AIAA)
と共同開催していることもあり、
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SOLE日本支部フォーラムの報告
遠い未来の話ではない
宇宙開発のロジスティクス
The International Society of Logistics
ルやISSでは、
地球低軌道(L
EO)付近での
科学実験や宇宙
望遠鏡の投入、
船外活動、長期
滞在・運用など、
宇宙空間での
様々な人間行動
の可能性を確認
することが目的だ。 実際にこれ
までの運用で、
製造誤差により
要求性能に満た
なかったハッブ
ル望遠鏡の調整
やシャトル本体
の修理、ISS
とのドッキン
グなどを行い、
宇宙空間での
メンテナンス
や補給が可能
であることを証明してきた。
当初の目的をおおむね実証し終
えたNASAでは、現在運用中の
スペースシャトルやISSの事業
を二〇一〇〜二〇一五年ごろまで
に終結し、反省事項も踏まえなが
ら次のフェーズに移行する青写真
を描いている(
図1)。 具体的に
目指す、という壮大な計画である。
日本では宇宙計画が遅れがちで
あるため、夢物語のように聞こえ
るかもしれない。 しかし米国では、
NASAや軍、航空機産業やベン
チャー企業、あるいは大学の研究
者等が精力的にこの国家的事業を
成し遂げようと協調している。 こ
れに伴い、宇宙進出のための本格
的なロジスティクス活動も二〇一
〇〜二〇二〇年代には現実的なも
のになると予想されている。
宇宙ロジスティクス工学
月や太陽系の他の惑星へ進出す
る際には、地球、あるいは地球│
月系の遠心力・重力(あるいはそ
れらの合力)が平衡するいくつか
の位置に、進出に必要な燃料や資
材をあらかじめ集積しておき、そ
こから旅立てば効率的だ。 そのた
めには、こうした位置にISSよ
りも大規模な発着基地を構築する
ことが必要となる。
基地を構築する際には、国際的
な協力体制のもとで機材の標準
化・共通化、インターフェースの
最少化や簡素化、操作性、メンテ
ナンス性、長期運用を考えた機材
のアップグレード可能性などをあ
らかじめ考慮しなければならず、
設計の初期段階からロジスティク
ス工学の専門家が参画し、宇宙工
学の専門家と共同作業を進める必
要がある。 また、宇宙空間に大規
模構造物を構築する際には、人間
の宇宙での行動にかなり制約があ
るため、ロボット支援による自動
化された資材輸送や組み立てが必
須の技術になる。 ロボット技術は、
過酷な宇宙空間へ進出する際の人
間の補完機能としても注目されて
おり、例えば五感を補ったり、作
業を補助したり、苛酷な環境から
画像や鉱物サンプルを届けたりす
る機能が期待されている。
ただし、これらの計画を実現さ
せるには克服すべき問題も極めて
多い。 大規模な建設作業に必要な機材を輸送するために、地上と軌
道間を容易に移動でき、環境に負
担をかけず、燃料問題をクリアし
て、宇宙区間で複数回の燃焼/再
発進が可能であるような画期的な
動力推進システムの開発、再利用
可能な機体・構成要素の開発、宇
宙ゴミの削減・処理、局所的に宇
宙環境を制御する技術などである。
また、従来は国家間の協同により
ISS等の宇宙事業が運営されて
きたが、各国とも財政状況が厳し
いため、今後は民間の参加も期待
され始めている。
宇宙進出のための技術目標や技
術課題は上述のとおりであり、
様々な技術要素の開発に応じて計
画が進行していくため、わずかな
ステップアップにもかなりの時間
を要すると見込まれる。 これに対
して、現有の技術や移動手段で実
現可能な宇宙進出のためのシミュ
レーションが、いくつかのテーマ
に沿って現在進められている。
人間が宇宙空間に進出していく
際には長期・長距離のロジスティ
クス支援体制が確立されなければ
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か、被験者の心身の健康がどのよ
うな影響を受けるかといった生理
的データも記録し、宇宙進出のた
めのロジスティクスの基礎データ
を蓄積している。
宇宙の輸送ネットワークにおけ
る経済的な輸送方法の数値シミュ
レーションも行われている。 地球
上の輸送ネットワークでの効率的
な輸送方法は各ロジスティクス会
社で検討・実施されているが、輸
送効率化のカギを握る要素は地上
ネットワークと宇宙空間とでは大
きく異なる。
図2に地上の輸送ネットワーク
と最も簡単な地球│月系とを示す。
地球の輸送網が多くの都市ノード
間を結ぶ複雑なネットワークであ
るのに対し、宇宙空間ではエネル
ギー的に安定な少数の点がノード
となるため、それらを結ぶネット
ワークも単純である。 地上の輸送
では単一・少数品種の大量輸送の
ケースが多いが、宇宙では多品種
少量輸送である。 輸送コストも、
地上では距離(=燃料)に比例す
るが、宇宙ではわずかなエネルギ
ー噴射のみで慣性により長距離推
進できるため、距離概念よりも時
間制約が重要となる。 搭載燃料を
消費するほど機体が加速するとい
う時間変動のオマケもつく。
地上では考えられない、とても
面白い輸送条件が宇宙にはある。
ヒューリスティク(注)な解法に
基づいてアポロ一七号の例で試算
を行い、コスト最小となる輸送ス
ケジュールが紹介されていた。 月
からさらに遠くの火星以遠への進
出を目指す段階では、確立される
地球│月系のネットワークを含ん
だ形で拡張され、より複雑なサプライチェーンの連結構造となって
いく。
宇宙への進出は、これまでの地
球近傍での短期利用の段階から、
より遠くの、長期利用への実験段
階に差し掛かっている。 工学技術
分野でも解決すべき課題が山積し
ているが、ロジスティシャンも地
上を離れて、立体的な、特殊な環
境下でのロジスティクス概念を構
築していかなければならない。
ある発表者はLEOを海岸線と
説明していた。 LEOまでは空気
抵抗や重力のカベが存在し、移動
や輸送に困難を極めるが、LEO
より遠い宇宙空間では移動の障害
となるそれらの制約は激減する。
LEO以遠には自由に航行できる
大海原が果てしなく広がっている。
宇宙進出を目指す次世代のエンジ
ニアは、宇宙進出を現実のものと
するために、安全性や経済性に十
分配慮してLEO付近でのデポの
建設や地上―デポ間の輸送ネット
ワーク構築を早急に進めねばなら
ない。 より遠くの宇宙まで広がる
三次元のサプライチェーンネット
ワークの構築こそ、これからのロ
ジスティシャンに与えられた課題
である。
次回は、総会三日目のテーマで
あった災害救助活動に関する話題
と、同時開催された展示会の話題
を紹介する。
ならない。 ISSの運用以外での
こうした支援体制のシミュレーシ
ョンとして、南極付近に隔離施設
を作り、あえて輸送困難な補給経
路でのサポートを続ける実験が行
われている。
実際の宇宙空間での運用には及
ばないものの、被験者は少ない頻
度で少量の補給しか受けられない
特殊な環境で長期間生活している。
輸送や通信などの運用データのほ
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注:ヒューリスティク(Heuristic)
人間は物事に対して臨機応変で、問題解
決においても発見的である。 これをヒュ
ーリスティクと呼ぶ。 一方コンピュータ
にはその性質がなく、決められた手順を
高速で機械的に処理するだけである。 こ
れをアルゴリズミック(Algorithmic)と
呼ぶ。
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