ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
ケース
コスト削減黒田電気

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

VMIの普及を追い風に 黒田電気は独立系の電子部品商社だ。
日 系の家電メーカーや自動車メーカーの工場に、 国内外から調達した電子部品を納入している。
二〇〇六年三月期の売上高は連結ベースで一 五三〇億円。
液晶テレビやカーナビの市場規 模拡大を追い風に、五期連続で売上高を伸ば している。
黒田電気が販売を取り扱う部品メ ーカーは現在、約二〇〇〇社。
液晶部品を製 造する自社工場も国内三カ所に構えている。
マスター登録のある部品アイテム数は約一万 点に上る。
そのリストを最終製品の部品構成 と照らし合わせて、代替可能な部品を探し出 してセットメーカーに売り込む。
顧客側で窓口となるのは、製品開発部や資 材部など工場の調達部門。
そのため主要なセ ットメーカーの生産拠点の近隣に営業拠点を 設置するかたちで中国や東南アジア諸国にま で拠点網を拡げてきた。
同社と競合する電子部品商社は主要な会社 だけで現在、国内に二〇社ほどあるという。
組み立てメーカーは昨今、調達物流にVMI (Vendor Managed Inventory:ベンダー主 導型在庫管理)を導入する動きを活発化させ ている。
ベンダーとなる部品メーカーとは従 来以上に綿密な条件交渉が必要になる。
その 手間を軽減するため、扱い量の少ない部品や 中小メーカーとの取引は、部品商社に集約し て取引先数を絞る傾向にある。
黒田電気もその恩恵を受けている。
ただし、 それで売り上げは確保できても利益を捻出す るのは容易ではない。
VMIによる取引の受 託によってベンダー側の在庫リスクは膨らみ、 オペレーションの負担も増す。
従来、同社で は在庫や納品輸送を営業所ごとに管理。
とき には営業マンがハンドルを握って納品するこ ともある典型的な商物一体を続けてきた。
物 流管理の高度化が喫緊の課題だった。
二〇〇三年一〇月、全社的に業務を見直 す社内プロジェクトが立ち上がった。
現在、物流本部でマネージャーを務める高谷敦氏が 改革のリーダーに起用された。
「物流につい ては、ど素人だった。
ただし現場の問題点は 人一倍感じていた」という。
プロジェクトリーダーに選任されるまで、 高谷マネージャーは三重県の津営業所で所長 代理を務めていた。
営業所長の補佐役として、 事務処理から受発注まで営業所の業務全般を 管理するのが役割だ。
プロジェクトリーダー に任命された当時、高谷マネージャーは某大 手家電メーカーの亀山工場稼働に合わせて、 専用の出荷拠点の手当てに追われていた。
コスト削減 黒田電気 物流本部新設と3PL活用で 営業所任せだった管理を統合 NOVEMBER 2006 32 全国の営業所にそれぞれ在庫を抱え、物流管理も 拠点ごとにバラバラだった。
物流コスト削減と在庫 管理の高度化を狙い、統合管理に乗り出した。
本社 に物流スタッフ部門を新設すると同時に3PLを導入。
佐川急便をパートナーに、在庫の集約と物流の見え る化を進めている。
黒田電気の高谷敦マネー ジャー 「倉庫の賃貸物件を探すところから、すべ て一人でやった。
本社はいっさいノータッチ。
そもそも当時は本社に物流部門自体がなかっ た。
拠点のことは全て拠点でやるのが当たり 前で、拠点の業務担当は何でもこなさなけれ ばならない。
そのため規模の小さな拠点ほど、 負担が大きかった」という。
日常の物流管理も拠点ごとに行っていた。
拠点単位で発注し、在庫を管理し、荷揃えや 梱包まで業務担当の社員が処理する。
同社で は、部品メーカーからの仕入れ単位が一万個 の商品でも販売は一個単位から受け付ける。
一万個入りの袋から業務担当者が手作業で五 〇〇〇個数えるような作業も発生していた。
さすがにトラックを使った配送は運送業者 に任せていたが、客先からの急な要請には業 務担当や営業マンが直接納品して対応するこ とも珍しくなかった。
当時の社員数は正社員 だけで約四〇〇人。
そのうち半分が、そうし た後方業務に忙殺されていた。
営業は客先の言いなり。
業務は営業の言い なりだった。
パートアルバイトに任せられる 単純作業や純粋な物流業務を正社員で処理 する体制は、いかにも非効率だ。
全拠点に共通するルーティンワークは集約し、社員でな くてもこなせる仕事はアウトソーシングする。
それによって業務は効率化し、コストを削減 できる。
浮いた正社員のマンパワーを本来の 営業活動に回せるようにもなる。
日頃から感じていたそんな思いを、高谷マ ネージャーは現場にヒアリングに訪れた経営 コンサルタントに聞かれるがままぶつけた。
本社が経営改革を目的に契約したコンサルタ ントだった。
提案は当時の社長の耳にまで届 いた。
社長は即座に業務改革プロジェクトの 発足を命令。
リーダーに高谷マネージャーを 指名した。
実態調査の意外な結果 部門横断的なプロジェクトは、社内では初 の試みだった。
全社にプロジェクトメンバー 公募のお知らせが掲示された。
通常の業務と 兼務させる条件だったが、予想に反して、二 〇人が名乗りをあげた。
高谷マネージャー本 人の意図しないところで、話がどんどん本格 化していった。
もはや引くに引けなくなった。
まずは実態調査に取りかかった。
コンサル と共に、当時国内に約三〇あった拠点を五カ 月かけて回った。
各拠点の運賃料金表、受発 注や入出荷の業務フロー、納品先、取扱商品、 出荷単位などを調査した。
従来は運送会社と の契約も拠点任せだった。
協力物流会社の数 は全国で五〇社にも上った。
同社では、営業所別の採算をベースに各社 員の評価を行っている。
所長は営業所の実質 的な経営者であり、仕入れや販売価格の決定 権から社員の人事まで全ての権限を握ってい る。
営業所の採算には物流コストも、もちろ ん含まれる。
しかし、ほとんどの営業所で物 流費として把握しているのは支払い運賃だけ だった。
料金表がどうなっているのか分から ないという拠点さえ複数あった。
調査で明らかになったのは、意外にも現状 の支払い運賃は相場と比較して高くないとい うことだった。
ただし拠点によるバラツキは 大きかった。
極端な低運賃で仕事を委託して いる拠点がある一方、実態と合わない不利な契約をしている拠点もあった。
3PLを元請けに協力会社を集約 支払い運賃の削減は、プロジェクトの大き な使命の一つだった。
経営陣からは二〇%の 削減という指令を受けていた。
二〇%という 数字に根拠があったわけではない。
しかし、 まずは目に見えるコストダウンを実現して、 物流改革に対する社内の理解を得る必要があ った。
元請けとして国際物流も含め全社的な 輸送管理を委託する3PLパートナーを選ぶ ことにした。
ボリュームをまとめることでデ 33 NOVEMBER 2006 NOVEMBER 2006 34 理を一元化するという提案だった。
社内の意 見は割れたが、最後は役員レベルによる選考 会で佐川急便を選択することが決まった。
営業部門の反発 こうして新たに佐川急便をパートナーに迎 え、二〇〇四年の四月から実態の再調査に入 った。
三、四カ月かけて全国の拠点を回り、 物流管理体制や業務フロー、配送形態をヒア リングした。
ほとんどが月極のルート配送だ った。
納品先の海外移転などによって物流条 件が大きく変化しているにも関わらず、最初 の契約時のままで契約条件の変更をしていな い拠点が少なくなかった。
佐川急便で実態調査を担当した今野伸二 サプライチェーン・ロジスティクス事業部戦 略営業グループ係長は「拠点で把握していな いことが多すぎて驚いた。
月極料金をいくら 払っているのかは分かっても、実際にどれだ けの物量を運んだかは分からない。
当然、荷 物一個あたり運ぶのにいくらかかっているか が分からない。
そもそもコストを単価で管理 するという発想自体がなかった」という。
同じサイズの車両を使ったルート配送でも 二八万円のところもあれば、百万円近く払っ ているところもあった。
料金の適正化と平準 化をねらい、全国一律の運賃レート導入を進 めた。
拠点によっては従来に比べ値上げにな るところもあった。
それでも「トータルでは 一〇%〜一五%の削減が実現できた。
もとも と高い運賃水準ではなかったことを考えれば 御の字だろう」と高谷マネージャーはいう。
拠点集約は二〇〇四年七月から始めた。
ま ずは、業務本部が置かれた大阪に近い関西の 在庫を大阪の千里に集約した。
次に、二〇〇 五年春から関東・東北の在庫を神奈川の川崎 に集約。
今年一〇月には中部と四国の在庫を それぞれ愛知県の小牧と広島に集約した。
千 里、川崎、小牧、広島の四つのセンターの他 に、特定顧客向けの専用拠点を四カ所置いて 即納体制を取っている。
着々と集約を進めてはいるが、着手から二 年以上たった現在も完了はしていない。
最大 の壁は、営業所の反発だ。
高谷マネージャー が話し合いに訪問しても、邪魔者扱いの目で 見られ、何しにきたと追い払われる。
商物一 体がしみ込んでいる営業マンたちは、在庫を 手元から外すことを受け入れようとしない。
同社にとって商物一体は創業以来の伝統だ。
「創業者はリヤカーを引きながら受注と納品 を行っていた。
そのDNAが今も引き継がれ ている。
営業には客先からの急な要請に応え て直接納品することがサービスであるという ィスカウントを得ると同時に、一定の輸送品 質を確保する狙いだった。
同時に専門業者の 提案力を借りることで、物流サービスを黒田 電気の強みにすることを期待した。
当時取引のあった協力物流業者すべてに入 札の案内を出した。
その結果、大手物流企業 から地場の運送業者まで五〇社すべてが入札 に応じた。
プロジェクトメンバーとコンサル メンバーで各社の提案を点数式で評価した。
そこから日立物流、西濃運輸、佐川急便の三 社に絞り込んだ。
選考の過程で横やりが入った。
3PLを導 入することで創業以来つきあってきたような 零細業者の首を切ることは許さないという圧 力だった。
既存の大手国際フォワーダーとの 付き合いを切ることに対する懸念もプロジェ クトメンバーにあった。
実運送とフォワーデ ィングに黒田電気の指定業者を使うことが、 3PL選考の条件に付け加えられた。
三社が最終プレゼンを行った。
日立物流は ソツのない提案をし、すぐには結果は出せな いが、一年目から改革に着手し運用二年目か らは必ず結果を出すと明言した。
西濃運輸の 提案はとりとめのない内容だったが、コスト は群を抜いて安かった。
だが、二社とも指定 業者の利用は拒んだ。
唯一、その条件をのんだのが佐川急便だっ た。
コストは西濃運輸に次いで安く、提案の 内容も黒田電気の事情をよく理解したものだ った。
商物を分離して在庫拠点を集約し、管 佐川急便の今野伸二係長 35 NOVEMBER 2006 意識が根強い。
反発する気持ちも分からない ではない」と高谷マネージャーも理解を示す。
物流改革プロジェクトチームの活動をキッ カケに、二〇〇四年四月には同社初となる本 社の物流スタッフ部門として「業務本部物流 グループ」が誕生。
高谷マネージャーはそれ までの営業所長代理との兼務を外れ、改革に 専念する体制が整った。
その後、今年四月に は物流グループは物流本郡に格上げされ、約 二〇人のスタッフを抱えるに至っている。
しかし、物流部門への風当たりは弱まる気 配はない。
物流部門が発足してから現在まで の三年で、部門長の顔ぶれは毎年変わってい る。
部門長不在で半年間にわたって高谷マネ ージャーが代理を務めた時期もある。
社内に は物流改革の流れを白紙に戻そうという声す らある。
高谷マネージャー自身、何度も辞めたいと 思った。
それでも、一部の理解者や先輩社員からの激励や、新たに物流部門に加わったメ ンバーたちから得る刺激をたよりに苦労と戦 っている。
黒田電気の売上高は、確かに年々 伸びている。
しかし、旧態依然とした営業ス タイルがいつまでも通用するとは限らない。
商社にとって物流は、最も重要な機能の一つ だ。
そして物流は営業活動がそのベースとな っている。
「注文の取り方から変えなければ、 いずれは立ち行かなくなる」と高谷マネージ ャーは危機感を募らせる。
諦めるつもりはな い。
これからまた半年かけて、もう一度拠点 廻りをする計画だ。
物流コストの在庫を見える化 徐々にその効果も出始めている。
もともと 同社は協力運送会社に対する支払い運賃だけ を物流コストとして把握していただけで、そ れを有価証券報告書に記載する「荷造り・運 搬費」にもあててきた。
配送用にリースした 車両も、事務所スペースと一括で賃貸してい る倉庫スペースも営業費用に計上している。
商物を分離し、物流管理をアウトソーシン グしたことで、トータルの物流コストを明確 に、かつ一元的に管理できるようになった。
二〇〇六年三月期の決算に記載された同社の 荷造り・運搬費は、一〇億八二〇〇万円。
こ れに対し現在、物流本部では約一六億円を物 流コストとして把握するようになっている。
佐川急便で同案件のリーダーを務めた上村 聖コンサルティンググループ上席コンサルタ ントは「物流コストを可視化したのは大きな 成果。
従来は自家物流費という概念自体がな かったため、物流費とは支払い運賃だけでは ないという説明からスタートした。
二年半か けて、コストの全体像がやっと掴める状態に なった。
ようやく改革の土台ができた」という。
次の狙いは在庫の削減だ。
拠点は集約し たものの、現状では在庫は減っていない。
そ の前提となる在庫実態の把握ができなかった。
ネックは商品コードだ。
マスター登録がきち んと管理されていないため、一つの商品に対 して複数の商品コードが存在する。
そのため 全社的にその商品がいくつあるのか把握でき ない。
拠点間で在庫を融通することもできな かった。
しかし商品コードの統一も現在、九 割程度までこぎつけた。
これが完了すれば、 在庫の一元管理が可能になり、在庫削減が期 待できる。
( 森泉友恵) 川崎ロジスティックセンターの様子 2000種類以上の電子 部品を取り扱う 庫内作業は佐川物流サ ービスが担当する 佐川急便の上村聖 上席コンサルタント

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