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かんばん方式
VS
VMI
VMIは、もともと米国の産業界がトヨタ自動車の
かんばん方式に着目し、米国市場でも適用できるかた
ちに再構築したものだとされる。 ウォルマートとP&
Gが、それにいち早く反応した。 小売りの在庫をメー
カー側で管理することで、品切れの防止と在庫削減を
両立させた。 同様にパソコンメーカーのデルもVMI
を活用して在庫を極限まで絞った独自のビジネスモデ
ルを実現し、急成長を遂げた。
一方、本家であるはずの日本の自動車業界では、こ
れまでVMIという言葉があまり使われてこなかった。
むしろ日本では電子部品業界がVMIの主な舞台と
なっている。 「自動車と電子部品では商品のライフサ
イクルが全く違う。 短くなったと言っても自動車は同
じ製品を三年は生産する。 それに対して電子部品は三
カ月。 発売の時点で、かなりの量をまとめて作ってし
まう。 そのためVMIのようなモデルがよく馴染むの
だろう」と、バンテックの小山彰執行役員自動車物流
事業本部長はいう。
実際、日本の電子部品業界ではVMIが普及する
はるか以前から、使った分だけ購入する?富山の薬売
り方式〞の取引が広く行われてきた。 組み立て工場の
敷地内に、部品メーカーの在庫を置かせて、生産ライ
ンに投入した分だけ代金を支払う。 組み立てメーカー
から見れば、水道の蛇口をひねるように、必要な時に
必要なだけ部品を調達できることから「コック方式」
と呼ばれている。
コック方式の取引では、在庫リスクが組み立てメー
カーから部品メーカーに移る。 部品メーカーはコック
倉庫の在庫水準を維持するために納品しても、納期を
確定できない。 現金化のメドも立たない。 そのため日
本では大企業が中小企業から部品を調達する場合に、
コック方式を導入することが下請法で禁じられている。
基本的にコック方式とVMIは、取引構造にほと
んど違いがない。 そのため「組み立て工場の敷地内に
部品メーカーの倉庫がある場合をコック方式。 敷地の
外にある場合をVMIとして、一応の区別をしてい
る」と、ロゼッタネットジャパン(RNJ)の東海枝
隆志クロスボーダーVMIワーキンググループ主査は
説明する。 RNJは、企業間電子商取引の標準化を
推進する国際的な非営利団体・ロゼッタネットの日
本支部だ。 独自のビジネスモデルでパソコン業界を席
巻したデルに対抗するため、日系メーカーを含めた他
のパソコンメーカーがサプライチェーンの効率化で足
並みを揃えるかたちで組織された。
デルが先行したVMIは、ロゼッタネットの重要な
研究テーマの一つ。 とりわけ日本支部では、中国を中
心とした保税VMI倉庫の運用にメンバーの関心が
集まっている。 また二〇〇三年の関税法の改正によって、海外から日本に持ち込んで保税状態で保管する
輸入VMIの活用も新たな研究課題に浮上している。
そのため日本支部では米国本部に先立つ二〇〇三年
八月に、3PLも巻き込んだ国際VMIのワーキング
グループを設置し、標準VMIモデルの策定に取り組
んでいる。
国際VMIは現在進行形のテーマであり、検討課
題は日を追って増加している状態だ。 しかも取引の当
事者だけでなく、税関や国税、3PLなど様々なプレ
ーヤーがそこに絡んでくる。 標準の整備だけでも容易
ではない。 それでもワーキンググループのとりまとめ
役を務める東海枝主査は「国内外にある保税VMI
のオペレーション最適化は今や競争力強化の重要なカ
ギ。 短期間のうちに標準を整備して、すぐに実装・評
富山の薬売り方式では破綻する
調達先に在庫リスクを押し付けるだけでは個別最適に陥
る。 トータル在庫を削減するには、サプライチェーン全体
の活動を同期化する必要がある。 しかし実際のビジネスは
教科書通りには動かない。 その会社の置かれた市場環境に
よって、正解は違ってくる。 (大矢昌浩)
NOVEMBER 2006 12
第2部
価までしなくてはならない」と急いでいる。
メンバー企業も標準モデルの完成を待つわけにはい
かない。 既に日本IBMは九七年にはVMIの導入
に動いていた。 下請法に觝触しない中堅以上の部品メ
ーカーや部品商社を対象に、VMIを活用したパソコ
ンの新たなサプライチェーンの説明会を開催。 徐々に
協力取引先の数を増やし、二〇〇〇年にほぼ狙い通
りのモデルを完成させた。 これによって日本IBMの
在庫は、仕掛品・完成品合わせて四〇日分あったも
のが六日分に激減した。
Win―Evenの工夫
もっとも部品メーカーの協力を得るのは容易ではな
かった。 当時、日本IBMのスタッフとして部品メー
カーとの折衝に当たった現・日本IBMロジスティク
ス(JBL)の辻本昇市社長は「何を言っても部品
メーカーには単なる押しつけとしか受け取ってもらえ
ない。 説得に何度も足を運ぶと同時に、Win
―Wi
nとは言わないまでもWin
―Evenにはなる仕組
みを用意した」と説明する。
インターネットを使ってリアルタイムの情報を共有
できるEDIシステムをJBLで開発。 安価で部品ベ
ンダーに提供するとともに、組み立て工場の生産サイ
クルを一カ月から一週間に短縮して、生産計画の確
度を高めた。 さらにはVMI倉庫の運用費を日本I
BM側で負担することで、ようやく調達先の理解を取
り付けた。
その後、二〇〇五年に米国のIBM本社が全パソ
コン事業を中国のレノボに売却したことで、日本にお
けるIBMのパソコン生産も終了した。 しかし皮肉に
も、同社の開発したVMIモデルは今では他メーカー
や取引先だった部品メーカーにまで広がっている。 顧
客から要請されて嫌々応じていた従来の態度から一転、
VMIを武器にして取引拡大を狙う部品メーカーも
現れている。
「ハードディスクドライブ(HDD)最大手のシー
ゲイトがその一つ。 サプライヤー側からVMIを提案
することで組み立てメーカーを囲い込む戦略だ。 一方
でインテルはいまだにパソコンメーカーのVMIには
応じていない。 最大のパートナーとされるデルであっ
ても、その姿勢は変わらないようだ」と、ハイテク業
界に詳しい関係者はもらす。 コラボレーション(協
働)によるサプライチェーンの効率化という看板の陰
に、商品力や購買力を背景とした取引相手との力関
係が垣間見える。
従来は工場からのJIT納品が基本だった自動車
業界にも変化が起こっている。 日系自動車メーカーの
生産拠点が世界中に分散したことで、組み立てメーカ
ーと一次部品メーカー間、さらには一次部品メーカー
と二次部品メーカー間の取引にVMIが広がっている。 従来、日系自動車メーカーは二次部品メーカーまでを
系列化し、そのオペレーションを直接管理することで
サプライチェーンの同期化を図っていた。 しかし今日、
系列の崩壊とグローバル化の進展によって、VMI倉
庫に代表されるバッファー在庫の保管庫が改めて必要
になってきている。
サプライチェーンの全体最適化という視点から評価
すると、取引先との生産活動の同期化を欠いたVM
Iは必ずしも合理的な施策とは言えない。 しかし実際
のマネジメントは教科書通りにはいかない。 ビジネス
の局面が変われば、有効な打ち手も違ってくる。 顧客
と競争相手、そして自らの所属するサプライチェーン
の力学の三つを基礎とするマーケティング戦略から洗
い直す必要がある。
13 NOVEMBER 2006
バンテックの小山彰
執行役員自動車物流
事業本部長
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