ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
特集 
調達物流良いVMI、悪いVMI 日本型ダイレクトモデルの威力

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

非常識なビジネスモデル 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)がパソ コンの直接販売を拡大させている。
同社の直販サイト 「HPダイレクトプラス」の売上高はコンパック合併 後の二〇〇三年以降、前年度比四〇%増のペースで 伸びている。
今期に入っても二桁成長を維持している という。
さすがに伸び率は鈍化してきているものの、 国内のパソコン市場規模の拡大を大きく上回るペース の成長が続いている。
日本HPの直販モデルには二つの特徴がある。
一つ は最終組み立てを東京の自社工場で行っている点だ。
現在、日本で販売されているパソコンの大半は、中国 や台湾で生産されている。
それに対してHPダイレク トプラスで販売されるパソコンやサーバー類には 「Made In Tokyo」のラベルが張られている。
東京と中国では人件費が一桁違う。
その差を埋め るために、パソコンの生産拠点となっている同社の昭 島事業所では、構内レイアウトや作業改善の工夫を 日々重ねている。
それでも製造コストは中国と比較し て三割ほど高い。
「東京で自社生産することが非常識 であることは、よく承知している」と、昭島事業所長 を兼務する宮崎尚人パーソナルシステムズ事業統括P SGサプライチェーン本部長も認める。
実際、昭島事業所は一時期閉鎖が決まりかけてい たともいう。
人件費の安い地域で集中生産し、各地の 消費地に供給するグローバルな適地生産・適地販売 はパソコン業界の常識だ。
さらに近年はOEM(相手 先ブランド生産)メーカーへのアウトソーシングも拡 大している。
外資系メーカーである同社が日系メーカ ーでさえ避ける傾向にあった国内生産に固執する理由 はなかった。
そんな?常識〞を、日本独自の直販モデルを構築す ることで跳ね返した。
中国やアジア諸国でパソコンを 生産しているライバルメーカーは受注から納品までに、 二週間近くのリードタイムをかけている。
ユーザーに 近い日本国内で生産すれば、受注後に組み立てる注文 仕様生産であっても納期を五日に短縮できる。
国内工 場の作業品質の高さに加え、完成品を国際輸送しない で済むため初期不良も低減できる。
売れるはずだ。
問題はコストだった。
世界市場でHPはデルと並ぶ 業界最大手だけに、もともと部品自体の調達価格に は優位性がある。
しかし、部品を海外から日本まで自 分で運ぶとなれば輸送費や在庫が膨らんでしまう。
そ れを避けるためには昭島事業所のそばにVMI倉庫を 持つ必要があった。
調達先は約一〇〇社。
その契約は基本的に米国本 社で集中管理している。
そこで日本HPから本社に働 きかけるとともに、調達先各社との調整に動いた。
「本 来は全てVMIにしたいところだが、相手のある話なのでそうもいかない。
なんとか上位二〇社の協力を取 り付けて、現在までに全体の約七割をVMIに乗せる ことができた」と昭島事業所の調達を担当する井上明 治パーソナルシステムズ事業統括PSGサプライチェ ーン本部調達部部長はいう。
物流インフラも整備する必要があった。
欧米では国 際VMIの運用を、バックスグローバルをはじめとし た3PLに一括してアウトソーシングしている。
その 料金体系も専用インフラを確保するのではなく、利用 した分だけ対価を支払う従量制の契約形態をとること で物流費の変動費化を図っている。
HP社内では「カ ー・パーキング(駐車場)」方式と呼んでいる。
ところが「国内では一括して任せられる3PLが見 当たらなかった。
そのため全体の管理は日本HPの物 日本型ダイレクトモデルの威力 パソコン生産の日本回帰が始まっている。
割安な労働力 を求めて中国をはじめとしたアジア諸国に工場を移管する 動きから一転、納品リードタイムや在庫回転率を重視して 改めて日本国内に拠点を戻す動きが顕著になっている。
そ こではVMIが常套手段となっている。
(大矢昌 浩) NOVEMBER 2006 14 第3部 流本部と我々調達部で直接コントロールする形にして、 フォワーディングや庫内作業など機能別に協力物流会 社を選ぶことにした」と井上部長。
昭島事業所のフロ アの一部をVMI倉庫として活用することにして、保 税倉庫の許可を取得した。
こうして輸入VMIを導入したことで、輸送費は中 国から完成品を輸入した場合と比較して半分以下に なった。
注文から納品までのリードタイムが短い分、 在庫も少なくて済んでいる。
東京の割高な製造人件 費を差し引いても、トータルコストは一五%ほど安く なっている計算だ。
コスト問題は解消した。
むしろ、 お釣りがきた。
販売代理店を味方につける 同社の直販モデルのもう一つの特徴は、国内各地の 販売代理店向けの売り上げが過半を占めている点だ。
ユーザーが自分で直販サイトから発注して日本HPが 直接納品する場合でも、帳合いをユーザーが指定する 販売代理店に回すことのできる仕組みになっている。
メーカー直販専門のデルとは異なり、日本HPをは じめとした他のパソコンメーカーは、店頭販売チャネ ルや法人チャネルの中間流通を担う販売代理店をパー トナーに抱えている。
メーカーが直販に移行すれば販 売代理店はビジネスを失う。
それが従来はメーカー直 販のネックとなっていた。
メーカー直販の売り上げ拡 大が販売代理店にとってもプラスになるような仕組み を作る必要があった。
そこで販売代理店の在庫を不要にして、かつダイレ クトプラス経由の販売でも一定のマージンが販売代理 店に落ちるようにした。
国内各地の文具店と販売代 理店契約を結び、顧客密着型の営業と代金回収を委 託しているアスクルに近いモデルだ。
この工夫によっ て日本HPの販売代理店は顧客から直接契約をとっ たケースでも、ダイレクトプラス経由で発注するよう になった。
価格競争の激しいパソコンは、もともと利の薄い商 品だ。
在庫の陳腐化リスクも大きい。
ユーザーの指定 した仕様のパソコンが五日で納品できるのなら販売代 理店が在庫を持つ理由はない。
一方、流通在庫がな くなることで日本HPは、過剰在庫の発生による値崩 れを防ぐと同時に、市場動向を直接把握することがで きるようになった。
日本型モデルを海外に ダイレクトプラスの開設自体は、旧コンパック時代 の九九年に遡る。
その後二〇〇〇年から本格的な活 動を開始し、手間ひまかけてビジネスモデルを磨いて きた。
調達先や販売代理店などのパートナーとの調整 は絵に描いただけでは終わらない。
生産や物流のオペ レーションも一朝一夕には効率化できない。
地道な改善を積み重ねる時間が必要だった。
「日本のダイレクトプラスが成功事例として社内で 認知されるようになったのは、ようやくこの二〜三年 のこと。
他の地域に抜きん出て、収益が上がるように なってからだ。
それでも当初は我々のやることに懐疑 的だった米本社や海外の担当者が、今ではわざわざ日 本まで見学にくるようになった。
風向きは変わった」 と宮崎本部長は目を細める。
日本で生まれた直販モデルが海外に輸出されようと している。
同時に日系パソコンメーカーの間では、い ったん中国にシフトした生産拠点を改めて国内に戻す 動きが目立ってきている。
いくら人件費が安くても、 それ以上に在庫コストが膨らめば海外シフトは裏目に 出る。
SCMが拠点政策の修正を強いている。
15 NOVEMBER 2006 宮崎尚人パーソナル システムズ事業統括 PSGサプライチェー ン本部長 井上明治パーソナルシ ステムズ事業統括PSG サプライチェーン本部 調達部部長 日本HPの昭島事業所。
フロ アの一部にVMI倉庫を設置。
生産ラインから引っ張るか たちで部品を投入している

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