ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年11号
特集
調達物流 良いVMI、悪いVMI DHLジャパン――金融機関と手を組み新サービス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

GEキャピタルが在庫を肩代わり 「サプライチェーン・インベントリー・オーナーシッ プ」(Supply Chain Inventory Ownership)――。
世 界最大の物流企業グループであるドイツポスト傘下の DHLが二〇〇五年一月に販売を開始したVMI向 けの新商品だ。
欧米諸国をはじめ、シンガポールや中 国といったアジア地域で先行販売し、好評を博してい る同商品がいよいよ日本に本格上陸する。
日本での販売窓口はディー・エイチ・エル・ジャパ ン(DHLジャパン)。
対外的なPR活動は展開して いないものの、早くも今年一〇月上旬には「SCI O」の日本における初の受注案件として、外資系メー カーとの契約に漕ぎ着けている。
「滑り出しは上々だ。
この新商品を軸にして日本でもVMI関連ビジネスを 拡大していきたい」と営業開発本部の上村明グローバ ルカスタマーソリューションズ部長は期待する。
第一号案件は中国で生産されたパーツを日本に運 び、保税状態のままVMI倉庫で一時保管。
外資系 メーカーの工場にJIT納入するまでの一連のロジス ティクス業務をDHLジャパンが一括で請け負うとい うものだ。
もっとも、ここまでは従来型のVMIサー ビスと変わらず、目新しさはない。
「SCIO」の特 徴はこうしたロジスティクスのオペレーション機能に 加え、新たに決済・金融機能を提供している点だ。
そ してこの決済・金融機能こそが今回の受注の決め手 となったという。
VMIプロジェクトを推進するにあたって最大のネ ックとなるのはベンダー側の在庫保有リスクが高まっ てしまうことだ。
VMIではバイヤーが倉庫に保管さ れている部品などの在庫を使った分だけ代金を支払う ルールになっている。
そのため、ベンダーにとっては バイヤーが部品を一括で購入していた従来の取引に比 べ、在庫が現金化されるまでのサイトが延びてしまう という不都合があった。
抵抗を試みるものの、最終的 には力関係からバイヤーの意向に押し切られる格好で 導入を強いられるベンダーにしてみれば、VMIは 「百害あって一利なし」のプロジェクトと言える。
こうした問題を解消し、ベンダーとバイヤーの両者 を「Win ―Winの関係」に改めることで、VMI 導入を後押しするのが目的で開発されたソリューショ ンが「SCIO」だ。
具体的には両者の取引の間に 金融機関が介在し、導入の足かせとなっていた在庫リ スクを肩代わりすることで、ベンダーがVMIを受け 入れやすい環境を整える。
まず同商品をDHLと共同開発した金融会社のG Eキャピタルが早い段階でベンダーから在庫を買い取 る。
そしてGEキャピタルはその代金を短いサイトで ベンダーに支払う。
一方、バイヤーは従来通りDHL が運営するVMI倉庫から引き取った分だけGEキャピタルに代金を支払えばいいというスキームだ。
「S CIO」を利用することで、ベンダーは在庫を現金化 するまでのサイクルを大幅に短縮できる。
在庫回転率 が向上し、キャッシュ・フローの改善にもつながる。
DHLはベンダーの工場からVMI倉庫までの輸 配送やVMI倉庫の運営といったロジスティクス業務 を一括受託することで収益を上げる。
一方、GEキャ ピタルは代金支払いサイトの短縮化を条件にベンダー に対して納価引き下げを要求。
バイヤーへの販売価格 との差益でマージンを稼ぐ。
GEキャピタルはバイヤ ーとの間で在庫の「(バイヤーの)全数買い取り責任」 契約を交わすため、実際には在庫リスクを負わないで 済む仕組みになっているという。
「SCIO」を活用することで、ベンダー側にはど DHLジャパン――金融機関と手を組み新サービス DHLがGEキャピタルと組んでファイナンスを切り 口にしたVMIの新商品を開発した。
このサービスを利 用することで、ベンダーは在庫を現金化するまでのサ イクルを大幅に短縮できるという。
VMI導入を後押し するソリューションとして、バイヤー側は今後の普及 に大きな期待を寄せている。
(刈屋大 NOVEMBER 2006 18 第4部ケーススタディ:3PLのVMIサービス れだけのキャッシュ・フロー改善効果がもたらされる のか。
一例を挙げて説明しよう。
わずか二〇日で在庫を現金化 ベンダーA社はバイヤーB社に対して部品を販売し ている。
A社の工場からB社向けVMI倉庫までの 輸送日数は三〇日。
そしてB社から出荷指示が出る (販売が成立する)まで部品が在庫としてVMI倉庫 で眠っている日数を七日とする。
販売が成立してB社 がA社に代金を支払うまでのサイトが四五日に設定さ れている場合、部品在庫が現金化されるまでに掛かる 日数は計八二日となる。
これが「SCIO」を導入す る前の取引状況だ。
これに対して「SCIO」を利用すると、A社はF OB(Free on Board=本船渡し条件)でGEキャピ タルに部品を販売した二〇日後にはキャッシュを手に 入れることができるようになる。
つまり、キャッシ ュ・トゥー・キャッシュ(Cash to Cash)のサイクル を一気に六二日(八二日―二〇日)短縮できるとい うわけだ。
A社の財務諸表上の在庫資産は従来に比 べ四分の一程度に減少する。
これだけ大きな成果が期待できるのであれば、ベン ダー側のVMIに対する抵抗は今後和らいでいく可能 性が高い。
実際、「SCIO」を先行販売している海 外では財務改善の視点から、こうしたスキームを採り 入れる動きが活発化しているという。
翻って日本では 依然として「煩雑な調達業務の効率化を目指すなど オペレーションの改善に重点が置かれた取り組みが圧 倒的に多い。
しかし、いずれ日本でもアプローチの仕 方が変わっていくはずだ。
海外と同様、ファイナンス の観点からVMIを展開したいというニーズが出てく る」と上村部長は指摘する。
DHLジャパンでは今後、主に中堅クラスの企業を ターゲットに「SCIO」の拡販を進めていく構えだ。
潤沢な資金を有する経営規模の大きい企業よりも、中 堅クラスに「SCIO」の需要が潜在していると見て いる。
しかも部品ベンダー&組み立てメーカーといっ た組み合わせの川上部分でのVMIだけでなく、例え ばアパレルメーカー&小売業など川下VMIの領域に も食指を動かす。
セールスを展開していくうえで提携先のGEキャピ タルはDHLジャパンにとって心強い存在となりそう だ。
企業の財務部門と親密な関係を築いているGE キャピタルに、財務改善を目的に「SCIO」の採用 を検討する新たなクライアント候補を紹介してもらえ るからだ。
逆にDHLジャパンは既存の顧客企業をG Eキャピタルに引き合わせることで、新規顧客開拓を 手助けするなどシナジー効果が期待できる。
DHLは有力3PLであった旧・エクセルを傘下 に収めたことで、VMIサービスの主要プレーヤーとして世界的に認知されるようになった。
しかし、日本 で稼働している事例はまだ数少ない。
日本での代表的 な事例は大手電機メーカー向けに展開しているサービ スだが、DHLジャパンが請け負っているのはメーカ ーの調達用倉庫だ。
部品在庫の所有権はメーカー側 にある。
厳密に言えばVMIではなく、「VMI的オ ペレーションを展開している倉庫」だという。
しかし、 「SCIO」を活用すれば、ベンダー側が在庫リスク を負う本来のVMIへと移行しやすくなる。
日本通運や三井物産など決済・金融機能を新たな切 り口としてVMIビジネスの拡大を目指す3PLが日 本でも相次いで登場している。
彼らと同様、DHLジ ャパンも決済・金融機能を武器に、出遅れた感のある 日本のVMI市場での巻き返しを狙っている。
19 NOVEMBER 2006 営業開発本部の上村明 グローバルカスタマー ソリューションズ部長

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