*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
誤出荷ゼロのVMI倉庫
一九六四年に稼働したアルプス物流の横浜営業所。
本社に隣接する同営業所の倉庫スペースの一部は現
在、大手電機メーカー向けのVMI倉庫として機能
している。 部品メーカーや部品商社など数十社から納
入される電子部品を荷受け・検品した後、ラックに格
納して一時保管。 大手電機メーカーからの出荷指示
に従い、ピッキングや通い箱への梱包などを済ませて、
東日本エリアの複数工場に供給している。
入出荷のオペレーションは作業員五人が担当。 午
前中に入荷・格納作業を行い、午後にピッキング・
梱包など出荷作業を処理している。 各工場への納品
は出荷の翌日で、配送には基本的に自社トラック便を
活用する。 他社貨物を混載する共同配送便と貸し切
り便を物量の変動に応じて上手に使い分けることで、
配送コストを抑えている。
このVMI倉庫で取り扱う電子部品のアイテムは
数百点にすぎない。 ただし、アイテムは固定ではなく、
週単位で入れ替わりが激しい。 しかも各工場への出荷
ロットは小さく、リール(小さな部品を数千個束ねた
状態のもの)一本単位から対応している。 それだけに
現場ではかなり複雑で細かな作業が必要とされる。
管理が難しいとはいえ、当然のことながらミスは許
されない。 誤出荷による部品不足の発生は工場の生
産ライン停止につながりかねないからだ。 そのため
「バーコードを活用した入出荷管理システムを導入す
るなどIT化を進めることで、ミスの発生を防いでい
る」と横浜営業所商品課の深津英司課長は説明する。
実際、同倉庫におけるオペレーションの管理レベルは
常に高い水準で維持されており、今年度については四
月以降、誤出荷ゼロを続けているという。
アルプス物流は連結売上高約五五五億円(二〇〇
六年三月期)のうち約七割を電子部品物流で稼いで
いる。 取引実績のある電子部品メーカーおよび部品商
社は国内だけで約一五〇〇社。 納品先として付き合
いのあるセットメーカーは国内約一五〇社、約六〇〇
工場に達する。 これまで同社は複数ベンダーの電子部
品を混載してセットメーカーに納品する共同配送事業
を柱に業績を拡大。 その結果、日本の電子部品物流
市場で圧倒的なシェアを確保することに成功している。
こうした実績が買われてセットメーカーからVMI
倉庫のオペレーションを任されるようになったのは三
〜四年前からだ。 現在、国内では横浜営業所をはじ
め数カ所の営業所でVMI倉庫の運営を受託してい
る。 一方、海外でも日系メーカーが生産拠点の移管を
進める中国を中心にVMI倉庫を展開。 今年一月に
稼働したメキシコの新拠点でも近く、アルプス電気グ
ループ向けVMI倉庫の運用を開始する予定だという。
在庫リスクを回避しようとVMI導入を加速するセットメーカーでのニーズの高まりとともに、アルプス物
流のVMI事業も徐々に拡がりを見せつつある。
電子部品業界の今後の見通しは明るい。 好調な世
界経済を背景に電子部品の需要は当面、回復基調が
続くと目されている。 これを受けて、日通など大手物
流企業やメーカー系物流子会社が電子部品物流の領
域に足を踏み入れるケースが後を絶たない。 これまで
電子部品物流はニッチな市場であったため、プレーヤ
ーの数も限られていたが、ここ数年は新規参入の増加
に伴い競争が激化している。
それでもアルプス物流がこの分野で引き続き優位性
を発揮できているのは、「電子部品の物流に特化して
長年にわたって蓄積してきたセンター運営のノウハウ
と、日々のオペレーションを支えている情報システム
アルプス物流――電子部品物流で圧倒的なシェア
大手物流企業やメーカー系物流子会社による電子部
品物流への参入が相次いでいる。 今後の成長が期待で
きるからだ。 それでもアルプス物流は依然として同分
野で高いシェアを維持している。 長年の経験で培った
現場運営のノウハウや独自開発の情報システムがそれ
を支えているという。 (刈屋大輔)
NOVEMBER 2006 20
第4部ケーススタディ:3PLのVMIサービス
に依る部分が大きい」と営業推進部の須貝俊是部長
は説明する。
同社にとって最大の武器となっているのはWMS
(倉庫管理システム)の「ACCS」だ。 このシステ
ムは電子部品の入荷〜検品〜ピッキング〜梱包〜出
荷といった庫内オペレーションの一連のプロセスを管
理するためのもので、広く普及しているWMSと基本
機能こそ変わらない。 ただし、「単に在庫数を足し算
引き算する機能だけでなく、電子部品それぞれの特性
を加味したうえで『この部品についてはこのように扱
いなさい』といった細かな作業指示を出せるなど独自
の機能が充実している点が他社のWMSとは異なる」
(須貝部長)という。
例えば、通い箱への積み合わせ方法。 電子部品はデ
リケートな製品が多く、積み合わせが不向きなアイテ
ムもある。 製品Aと製品Bの積み合わせはオーケーだ
が、製品Bと製品Cの積み合わせは不可といったケー
スも少なくない。 梱包では納入先のセットメーカーか
らそれぞれ異なる仕様が指定されることもある。 こう
した顧客企業の複雑な物流ニーズへの対応を作業員
の経験や勘に頼るのではなく、「ACCS」でシステ
ム化している。 誰でもミスなく作業を進められるよう
にすることで、高い物流品質を維持している。
前述した通り、同社の倉庫で入出荷される電子部
品のアイテムは頻繁に入れ替わる。 それに合わせて
「ACCS」には細かな改良を加える必要が出てくる。
その作業を外部の情報システム会社に委ねるのではな
く、自社の情報システム開発部隊で処理している。 ス
ピーディーなシステム修正を可能にするためだ。
「現場で問題点や変更点が発生した場合、すぐに情
報システムの開発部隊が駆けつけて改良を施す体制に
なっている。 当社が用意するシステムに合わせてもら
うのではなく、お客さんのニーズの変化に合わせてシ
ステムを何度もカスタマイズしていく。 CS(顧客満
足)を追求する姿勢が取引先から支持されている」と
須貝部長は自負する。
荷主か、それとも納品先か
電子部品物流における過去の実績と情報システム
に支えられた現場力を高く評価し、VMI倉庫の担
い手としてアルプス物流を指名するセットメーカーは
少なくない。 にもかかわらず、アルプス物流が現段階
で受託しているVMI倉庫は国内で数カ所程度にと
どまっている。 物足りなさを感じざるを得ない。
VMI倉庫の設置で大きな恩恵を受けるのはセット
メーカーだ。 一方、部品のサプライヤー側にとってV
MIはセットメーカーごとに専用倉庫を用意すること
を余儀なくされる。 その分、在庫負担が増す。 むしろ
デメリットのほうが多い。 サプライヤー側は取引関係
を維持するため、泣く泣くセットメーカーからの要請に応じているというのが実情だ。
アルプス物流にとっての荷主はあくまでもサプライ
ヤー側だ。 それだけに同社としては既存荷主が不利な
ポジションに立たされがちなVMI倉庫の受託を自ら
積極化していくわけにはいかない。 とはいえ、納品先
であるセットメーカーの意向も無視できない。 VMI
に関して微妙な立場にあることが、受注のハードルの
一つとなっているようだ。
現在、市場では部品サプライヤー側とのしがらみの
少ない物流企業がセットメーカー寄りのスタンスでV
MI倉庫の受託に漕ぎ着けるケースが出始めている。
こうした動きに対してアルプス物流はどう対処してい
くのか。 川上の共配で成長を遂げてきた同社の次の一
手に注目が集まる。
21 NOVEMBER 2006
アルプス物流のVMI倉庫ではリール1本
からの出荷に対応している
営業推進部の
須貝俊是部長
|