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テキサス州では、災害発生に備えた避難計画を図1のように策定して
いる。 その骨子は二段階で構成され
る。 第一段階は、地域住民を「ハ
ブ」と呼ばれる避難場所に集める地
域避難活動である。 日本に比べると
対象地域の広がりが大きいため、徒
歩ではなく非常時契約を結んでいる
民間バスやスクールバスにより被災
民を避難させることが特徴的である。
また、避難対象も住民やその資産だ
事態を乗り切ることができた。 結果
的には、かなりよい体制が構築され
たとのことである。
ここでの連携の準備不足を反省し、
協力体制を明確化し、予算を柔軟
に運用できるような改革を行ってき
た。 軍需品の取得全般を担当してい
る防衛ロジスティクス省(DLA)
では今年から、災害発生に備えた物
資の事前取得・備蓄が行えるよう改
善を進めている。 例えば、有事の際
にガソリンの優先供給を受ける契約
を各地の燃料会社と結び、生活資
材取得についてもウォルマート等の
量販店と協議を行っている。
備蓄政策により迅速かつ安定した
供給体制に移行しつつある点、民間
のサプライチェーンを積極的に取り
込んで国内の物資調達ネットワーク
を再構成しつつある点に、米国の国
内セキュリティのためのロジスティ
クス戦略における変化を見ることが
できる。
とはいえ、そうした制度変更は未
完成の状態で、改革途中に不幸にも
カトリーナに見舞われてしまった。
前回、前々回と、ダラス(米国)
で開催された年次総会「SOLE2
006」の視察結果を報告してきた。
総会報告ラストの今回は、三日目
(最終日)のテーマである災害救助
活動でのロジスティクスと、同時開
催された展示会について報告する。
民間のインフラも活用
二〇〇一年九月にはニューヨーク
等で同時多発テロが発生し、二〇〇
五年八月〜九月には南部をハリケー
ン・カトリーナが襲った。 近年、米
国において人災・天災が立て続けに
発生している。
会議では、米国内でこれらの災害
に対処してきた連邦政府をはじめ、
軍、各自治体や病院、NPO等の
民間団体の組織的活動を紹介し、そ
れらの活動から見えてきた問題点、
新たな連携対処システムの構築など
を討議した。
九・一一発生当時、救助にあた
った各組織間では組織横断的な災
害対処計画は存在していなかったが、
自然発生的に連携体制を構築して
DECEMBER 2006 84
SOLE日本支部フォーラムの報告
九・一一とカトリーナの教訓
災害救助活動のロジスティクス
The International Society of Logistics
災害対処のシミュレーションを実施
し、連携体制もある程度は確立して
きていたものの、実際の被災規模が
予想を大きく上回ってしまったため
に、それらが有効に機能しなかった。
混乱する現場では情報が錯綜してし
まい、情報の真偽が確認できず、指
揮系統も明確でなくなった。 実効性
のある情報伝達や指揮系統の確立に
は、なおいっそうの改善が必要であ
る。 その他、避難行動を優先するあま
り老人ホームや医療機関に弱者が取
り残された問題、ガソリンスタンド
が早々と閉鎖されたために国道上に
数多くの車両が放置され緊急車両の
身動きが取れなくなったこと、MI
L規格(米軍規格)の車両と民間
車両との給油口の形状の違いで街な
かでの給油に苦労したことなど、適
切な避難手順の決定や規格の統一
といった、より詳細な問題が新たに
浮き彫りになった。
地域に根ざした救助計画
最近は日本でも防災の日に自衛
隊と地方自治体とが協同して大規
模な防災訓練を行うことが珍しくな
くなってきたが、米国では各州が独
自に州兵を維持し、各種災害への対
処や暴動鎮圧などの治安維持を行う
体制を長年培ってきた。
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けでなく、飼育されているペットま
でもが明確に含まれている点がいか
にもアメリカ的であると感じられる。
第二段階は更に深刻な事態に対
応するもので、それぞれの地域ハブ
から、より安全な、州が管轄する場
所へと避難させる広域的な避難活動
である。 避難に充てるバスには給油
場所が割り当てられ、またGPSを
取り付けて運行状況を管理すること
で効率的な避難運用が実施できるよ
うに工夫されている。 状況によって
はさらに州のシェルターにまで被災
民を輸送するオプションも用意され
ており、有事に備えるアメリカの真
剣さが垣間見られた。
新たな可視化技術を紹介
会議と並行して、二日間にわたり
ロジスティクス関連企業や大学など
二〇団体による展示会が開催された。
装甲車や戦闘機にセンサーを埋め
込み、それらが異常を感知すること
で自律的に整備要求を発信し修理
を促す「自律的ロジスティクス」が
今後の主流になっていくであろうこ
とは、本誌一〇月号に報告したとお
りである。 こうした仕組みを世界的
規模の物流ネットワークに組み込ん
だ例として、サプライチェーンの可
視化技術「ダッシュボード」が展示
されていた。
ダッシュボードと呼ばれるように
なったそもそもの発端は、あるメー
カーの社長から出された「自分の車
のダッシュボードのようなイメージ
で、サプライチェーンの様子が一目
でわかり、ある項目に問題が生じれ
ば、その項目に関するより詳細な情
報をすぐに引き出すことができて、
問題解決にまで至れるような仕組み
が欲しい」という要請を受けて開発
されたためである。
図2にダッシュボードシステムの
出力イメージを示す。 自動車のメー
ターのようなスタイルで、受注に対
する進行状況や地域ごとの施設利用
率などが視覚的に瞬時に把握できる
ようになっている。
ダッシュボード内の計器で異常値
を示すものがあれば、赤色表示やフ
ラグアイコンによってオペレータに
認識させる。 オペレータのマウス操
作により詳細な情報画面へと展開し、
問題が生じている基データまで表示
して、問題解決を支援する。
世界的に広がるサプライチェーン
各部の情報を統括的に扱うには、受
注や在庫、出荷システムなど、それ
まで単体で独立して機能していたシ
ステム・情報を一元化するための工
夫が必要であった。 これを各システ
図2 サプライチェーン視覚化技術
“ダッシュボード”の出力イメージ
DDEECCEEMBBEERR 22000066 8866
ようになり、より戦略的に原材料や
在庫品の管理が行えるようなメリッ
トも生じつつあるとのことである。
ロジスティシャンを養成するための
プログラムもいくつか紹介されてい
た。 日本では一部の大学でようやく
ロジスティクス幹部教育を提供する
プログラムがスタートしたばかりであ
るが、米国ではその重要性が早くか
ら認識されており、様々な機関から
異なる視点でプログラムが提供され
ている。
軍関係では、防衛調達大学
(Defense Acquisition University)
や、陸軍の基金で設立された防衛・
ビジネス協会(Institute for Defense
& Business)、大学からはテネシー大
学のエグゼクティブ教育センターが
出展していた。 それぞれのプログラ
ムで多少の差はあるようだが、サプ
ライチェーン管理やパフォーマンス・
ベースド・ロジスティクス(PBL)
など最新のロジスティクス関連の題
材も扱っている。 実践的な教育を受
けた後に、最終的にはロジスティク
ス分野のMBAが取得できるように
なっている。
一段高いレベルへの挑戦
センサーやコンピュータといった
情報関連機器の性能向上に伴い、こ
れまで以上に大容量の情報を高速に
扱い、かつ人間の手を介さない、大
規模で自律的なロジスティクスシス
テムが構築されつつある。 これに加
えてロボット工学の進歩や新しいエ
ネルギー源・動力が利用できるよう
技術的な問題が解決されれば、ロジ
スティクスは一段高いレベルへと進
化し、これまで進出しえなかった宇
宙や深海などの新しい領域でロジス
ティクス活動が行えるようになると思われる。 とはいえ、災害救助活動のように
人の手を必要とするロジスティクス
場面も必ず存在し続けるだろう。 そ
うした状況にも効率的に対処できる
よう、人と人とを円滑に結ぶ仕組み
づくりやシステム設計への努力も怠
ってはならない。
また、今回は参加できなかったが、
SOLE総会の前にはCPL
(Certified Professional Logistics)
の試験や有料のワークショップも開
催され、ロジスティクス技術向上の
機会も設けられている。 SOLE総
会はロジスティクスに関する最新の
知識や情報が吸収でき、世界中のロ
ジスティシャンと交流を深められる
場だ。 ロジスティクスを志す人には
貴重な体験が確実にできる一週間で
ある。 来年度の総会は、二〇〇七年
八月にピッツバーグ(米国)での開
催が予定されている。
ムのプロトコルを統一するためのフ
ィルターソフトを適用することで解
決可能になり、従来のシステムやプ
ログラムに手を加えるコストを負担
しなくても情報の一元管理ができる
ようになった。
また、これまで以上に広範なサプ
ライチェーン全体の情報をほぼリア
ルタイムで見る仕組みが整ってきた
ため、近い将来の需要予測も行える
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会議と並行して展示会も開催された。
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