ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
ケース
物流拠点 横浜ロジスティクス

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

青果物卸らが共同で出資 今年二月、横浜市中央卸売市場南部市場 の青果物卸売場の隣接地に横浜ロジスティク スの「横浜フレッシュセンター」が完成した。
商品に応じて、冷凍・冷蔵・常温のさまざま な温度帯で管理できる設備をもったTC(通 過)型の物流センターだ。
卸売市場内に三温 度帯センターが設けられたのは全国で初めて。
センターの投資総額は十五億円。
建物は鉄 骨造り五階建て(三層)で、延べ床面積九四 〇〇平方メートル。
マイナス二五度までの冷 凍品の保管が可能な自動倉庫棟(収容能力 二一〇〇パレット)も併設している。
青果物 をはじめ水産品・肉などの生鮮品や日配品を 扱う仕分け・配送センターとして三月に稼動 を開始した。
横浜ロジスティクスは市場内の青果物卸・ 横浜丸中青果と、仲卸業者十五社の加入す る横浜南部市場青果卸協同組合、および物流 会社・JCN関東の三者が共同出資して〇 四年十二月に設立した物流会社だ。
設立の発端は六年前の二〇〇〇年にさかの ぼる。
この年、横浜市中央卸売市場では青果 物の卸・仲卸・小売り業者などすべての市場 関係者と横浜市による協議会を設け、農林水 産省の支援によるモデル事業をスタートした。
近い将来、卸売市場のさまざまな規制が緩和 されることを想定し、淘汰の時代に生き残る 道を探ることが目的だった。
近年、青果物の流通は多様化が進み、卸売 市場を経由せずに大手量販店や外食チェーン などが産地から直接仕入れる?市場外流通〞 が拡大している。
二〇〇〇年当時で、その比 率はすでに三割に達していた。
市場での取引 形態も変わり、セリ取引から相対取引への移 行が顕著になっていた。
こうした実態を踏まえ、前年の九九年七月 には卸売市場法が改正されている。
この改正 は、セリによる入札の原則が廃止となり、相 対取引が認められた程度で、現状追認的な見 直しに過ぎなかった。
それでも市場関係者の 間では、いずれ卸売手数料の自由化まで規制 緩和が進むとの見方が広がっていた。
実際、そののちの〇四年六月に成立した改 正卸売市場法では、市場内に現物を搬入せず に取引が可能となる「商物一致原則の緩和」 や、卸が市場外の小売業者に直接販売したり、仲卸が産地から直接仕入れたりできる「取引 範囲の拡大」、「買い付け集荷の容認」、さら に移行までに五年の準備期間を設けたうえで の「卸売手数料の弾力化」など、大胆な規制 緩和策が盛り込まれた。
横浜市中央卸売市場 がモデル事業に取り組んだのは、こうした変 革への助走が始まる時期だった。
横浜市には、本場と南部市場の二つの中央 卸売市場がある。
二カ所を合わせた横浜市中 央卸売市場の〇五年度の青果物取扱数量(野 菜と果物の合計)は四八万トンで、東京都 (大田・築地市場)、大阪市、名古屋市に次ぐ 物流拠点 横浜ロジスティクス 卸売市場内に初の三温度帯センター 一括物流事業で市場流通の復権図る DECEMBER 2006 44 今春、横浜市中央卸売市場に三温度帯管理のでき る物流センターが稼働した。
青果物卸らが共同で建 設したもので、市場内の三温度帯センターは国内初。
外食・中食産業などをターゲットにした一括物流を 事業化することで、市場外流通の拡大を食い止め、 卸売市場の取扱高拡大につなげようという戦略だ。
規模だ。
青果物部門では二社の卸が営業して おり、いずれも大手。
このうち横浜丸中青果 は約六百億円の取扱金額があり、全国でも十 位以内に入る。
産地による卸売市場の選別が 進むなか、これまで上位をキープしてきた。
それでも市場関係者には強い危機感があっ た。
横浜は、東京の大田・築地といった販売 力の大きな中央卸売市場に近い。
卸売市場間 の競争が完全に自由化されれば、従来のポジ ションを維持できるとは限らない。
戦略を誤 れば一気に商圏を奪われ、負け組に転落する 可能性も充分あるとの危惧を抱いていた。
協議会では、競争力を強化し市場を活性化 するための戦略として、物流機能の整備に重 点を置いた。
市場流通の縮小を食い止めるう えで、市場内の物流機能を強化することが不 可欠と考えたからだ。
少子高齢化やライフスタイルの変化などに よって、消費者の食生活は大きく変化してい る。
青果物が収穫時の形のままで販売される ケースは減少しつつあり、総菜などの加工品 やカット野菜の消費が増えている。
すでにそ の比率は五割を超えたともいわれる。
これに 並行して、青果物の主要な販売先も近所の八 百屋さんから、量販店やスーパー、外食・中 食産業へとシフトしている。
商物分離で機能を分ける 卸売市場はこれまで、こうした新たな販売 先のニーズに適う物流機能を供えていなかっ た。
もともと市場は、産地から入荷した商品 をセリにかけて仲卸業者などに引き渡す委託 販売を本来の役割としてきた。
物流機能は仲 卸や八百屋が商流と一体で担っていた。
量販店や外食チェーン、総菜メーカーへの 販売を増やすには、品質保持のための温度管 理をきちんと行ったうえで、低コストで店別 仕分けや配送までできる物流機能が必要にな る。
規制緩和によって、こうした販売先と自 由に取引できるようになっても、物流機能を 持たない市場は競争上不利になる。
モデル事業では、市場内の物流を再構築す るために、物流共同化の実験を行った。
仲卸 が個別に仕分けや配送を行っていた従来の体 制を改め、商物を分離して物流を共同化した 場合のコストを把握することが目的だった。
二つの市場のうち、一七万平方メートルと いう広い敷地を持ち、卸売場などの施設も充 実している南部市場をフィールドにし、場内 にスペースを確保。
物流共同化に合わせて、 市場内の事業者間の会計処理や物流情報の 管理を一元化する情報システムも構築した。
実験とはいえ、将来の事業展開をにらんで、 協議会メンバーの出資で物流業務やコンピュ ーターによる情報処理を行う事業会社をそれ ぞれ設立、実際のビジネスのなかで運用した。
コンピューター処理会社が、卸の荷受け情報 や仲卸の仕分け・配送情報を一括処理して、物流会社に作業指示を出すという流れだ。
実験を通じて、卸や仲卸は営業活動に専念 する代わりに、これらの事業会社に物流など の業務を委託してその費用を負担するという、 市場内の機能分担を明確にした。
「市場の物 流機能を強化するには、前提として商物を分 けてコストをガラス張りにする必要がある。
実験はそのための意識改革でもあった」とモ デル事業のメンバーに当初から加わった横浜 ロジスティクスの中幸雄センター長代行は振 り返る。
外食チェーンなど市場外の顧客を開拓する 45 DECEMBER 2006 中幸雄センター長代行 DECEMBER 2006 46 なる。
単価の安い青果物のセンターフィー収 入だけでコストを吸収していくのは容易では ない。
水産物など青果物とはコスト構造の異 なる品目を組み合わせることで収支バランス をとりやすくなる。
自己資金での建設を決意 ただし、十五億円という規模の資金を自分 達で投じて物流拠点を整備するのはリスクも 大きかった。
研究会では施設整備を行政に委 ねようという意見も出た。
だが過去の事例か らも行政の施設整備には非常に時間がかかる 恐れがある。
「それを待っていたら勝ち組に はなれない」(中センター長代行)という判 断から、あえてリスクをとり自分達の資金で 建設することを決めた。
センターの建設にはもう一つ問題があった。
卸売市場の土地は使用目的の定められた行政 財産となっているため、市が民間の企業に長 期的に貸すことはできない。
そこで横浜市が 民間活力により卸売市場の活性化を進める立 場からこれを支援。
建設エリアの土地の区分 を行政財産から普通財産に変更したうえで、 事業用定期借地方式で横浜ロジスティクスが 市場内の土地を借り、センター建設のために 使用できるようにした。
こうして山積する課 題を乗り越え、センターは〇五年七月に着工 し、今年二月に完成した。
「このタイミング で稼動できたことには大きな意義がある」と 中センター長代行は強調する。
実験も同時に行った。
卸売業者の横浜丸中青 果が実験のために販売会社を設立。
この会社 が顧客を開拓して市場内で共同物流に参加し た。
規制緩和を先取りした実験だった。
〇四年の市場法改正前にあたるこの時期に は、まだ卸の直系販売会社は法的に認められ ていなかった。
そのため、あくまで?実験会 社〞という位置づけにして、市場での取引に は?売買参加者〞の資格で参加した。
卸の直 系販社という存在は市場内に様々な軋轢を生 んだ。
しかし、そこまで踏み込むことで規制 緩和後の市場の姿を見極めようとしたのだ。
二年目からは横浜市の支援も受け、事業期 間は足掛け三年間に及んだ。
国などの支援が 終わった後も、南部市場関係者による業界の 自主的な研究会を発足して事業を継続した。
研究会では、単なる物流業務の効率化からさ らに次のステップへと議論を進め、高機能な 物流センターを市場内で運営することによっ て、外食チェーンなど場外の顧客に対して市 場流通への回帰を促す、という戦略を明確に 打ち出した。
これが、横浜ロジスティクスの 設立による事業化へと発展していった。
外食チェーンなどをターゲットにするには、 幅広い品目を扱う必要がある。
このため青果 物だけでなく水産品や肉、日配品などに事業 対象を広げ、三温度帯のセンターを設けるこ とにした。
これは収支構造上の理由にもよる。
センターの機能を高度化するには、建物やコ ンピューターシステムへ大きな投資が必要と ?店別ピッキング?店別ピッキング?入荷時にバーコードを 添付して作業する ?自動倉庫から冷凍品を パレットごと出庫してピ ッキングが終わるとただ ちに再入庫 ?ドックシェルター7基 バースは19カ所 ?青果物卸売場(左)に 隣接したセンター 47 DECEMBER 2006 現在、同センターは社員食堂や公共施設に 食材を供給する会社など数社の顧客に一括配 送サービスを提供している。
そのほとんどは、 それまで市場外流通や他の卸売市場を利用し ていた顧客だ。
横浜ロジスティクスが新規に 開拓した。
同社では、業務を受託する際に、 南部市場で商品を調達することによってセン ターまでの横待ち輸送が不要になることをア ドバイスする。
その上で市場内の仲卸などを 調達先として紹介している。
「センターが市場外の顧客を開拓して、そ の商流を市場につなげることによって市場の 扱い高を増やすことが事業の目的」と中セン ター長代行は説明する。
まさに狙い通りの展 開となっている。
年度内には大手ファミリー レストラン向けの一括物流もスタートする予 定で、稼働率は七割に達する見込みだ。
センターの三階層のうち、一階は入出荷場 でドックシェルターの付いた入出荷用バース が一九カ所ある。
二、三階では主に商品の一 時保管と店別の仕分け作業を行う。
水産品な ど冷凍品の保管・仕分けには自動倉庫システ ムを利用している。
二四時間三六五日稼動で、 オペレーションや配送業務は、共同出資会社 のJCN関東が担当している。
青果物など市場経由の商品は、産地から到 着したトラックが、相対取引などで確定した 情報をもとに直接センターへ納める。
水産品 などは仲卸が市場から搬入し、そのほかの市 場外の調達品は、工場などからセンターへ納 品される。
入荷時には必ずサンプルをとって商品の品 温を測定する。
センター内では厳密な温度管 理を実施しており、輸送中などの事故で顧客 が設定した管理温度より上昇していないかどうかを確認するためだ。
センター内では、入庫から出庫まで商品の 作業履歴と温度履歴を管理している。
入荷時 にバーコードを添付して入荷情報を登録して おき、この情報に引き当ててピッキングなど の作業を行う。
温度管理は、庫内でエリアご とに室温を制御するシステムでデータを蓄積 することにより行っている。
これらの庫内状況や配送中のステータスを、 インターネット経由で顧客に開示する情報シ ステムもすでに開発を終えており、近く導入 する予定だ。
配送エリアは現在、神奈川を中 心に、山梨・静岡の一部だが、埼玉や千葉を 含む百キロ圏までをターゲットとしている。
二期計画で増設も 横浜ロジスティクスではさらに一、二年後 をめざして二期計画による増設を予定してい る。
完成後の延べ床面積は合わせて一万三〇 〇〇平方メートルの規模になる。
商品を店頭 に陳列するかたちにパッキングする機能も新 たに取り込む考えだ。
現在はこの作業を外部 に委託しているが、センター内で処理するこ とでリードタイムを大幅に短縮できる。
入荷 した当日の夕方に小売り店頭に並べることも 可能となり、鮮度面のメリットをよりアピー ルできる。
市場外流通は今も拡大を続けており、その 比率はすでに四割に迫るとも言われる。
それ でも将来、市場が全く必要とされなくなると いう事態は考えにくい。
平均的なスーパーの 売り場には青果物だけでも四〇〇品目以上を 品揃えしなければ消費者のニーズに応えるこ とができないとされる。
しかし農産物は天候 などの影響で産地ごとに収穫量が大きく変動 する。
それだけの品目を、産地との直接契約 によって安定して確保することは容易ではな い。
変動を吸収するためには、市場の調整機 能に頼らざるを得ない。
市場間のネットワー クを通じて全国の商品を融通しあえる市場の 機能は今後も有効だ。
ただし市場の選別はさらに進むだろう。
そ の要因として物流が大きなウエートを占めることも間違いない。
中センター長代行は、「三 温度帯の物流機能をどこよりも早く整備でき た。
センターの顧客が求めるどんな商品も市 場から調達できるよう、卸や仲卸に品揃えを 強化してもらい、連携を強化しながら市場全 体の力を発揮していくことが理想」と語る。
量販店や外食チェーンなどで生鮮三品を含 めた低温品の物流再構築が進むなか、「物流 の力で市場流通への回帰を図る」ビジネスモ デルによって、どこまで食い込むことができ るか大いに注目される。
(フリージャーナリスト・内田三知代)

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