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オリコン化プロジェクトで苦戦
富士ゼロックスは主力商品である複写機の
補修部品を、東京・越中島に構える物流セン
ターから全国各地に供給している。 最終的な配送先は「サービス拠点」と位置づけている
支店・営業所などで、その数は約五〇〇カ所
に上る。 現在、同センターで取り扱っている
補修部品のアイテム数は約二万。 年間出荷量
は約七六万ケースに達する。
出荷ロットがまとまる東京、大阪、名古屋
といった大都市圏のサービス拠点向けには、
富士ゼロックスの地域倉庫などを経由した後、
専用トラックを仕立ててルート配送している。
エンジニアたちが翌朝から修理作業に取り掛
かれるよう各サービス拠点への納品は原則と
して夜間に実施。 配送ドライバーはあらかじ
め渡されている鍵を使って各サービス拠点に
入り、指定された場所に補修部品を置いてい
く仕組みだ。
一方、遠隔地のサービス拠点向けや出荷ロ
ットの小さい補修部品の供給には、路線便を
活用している。 年間出荷量約七六万ケースの
配送の内訳は専用トラックによるルート配送
分が約四〇万ケース、路線便利用が約三六万
ケース。 このうち近年は多頻度小口化の影響
で、路線便による出荷がやや増加する傾向に
あるという。
従来、同社では各サービス拠点に供給する
補修部品の梱包材として段ボールを活用して
いた。 各サービス拠点では荷受けした段ボー
ルを使用済み部品の返送用に再利用するなど
紙資源の有効活用に努めてきた。 しかし、段
ボールは耐久性の問題で往復二回までの使用
が限界だった。
富士ゼロックスは九〇年代後半にグリーン
調達を本格化したほか、部品の再資源・再利
用化にも熱心に取り組むなど地球環境対策の
先進的企業として知られている。 段ボールの
再利用は物流領域における環境対策の一環と
してスタートした取り組みだったが、段ボール投入量の削減に大きなインパクトを与える
までには至らなかった。
そこで数年前からはルート配送分を対象に
折り畳みコンテナ(オリコン)の導入を開始
した。 何度も繰り返し使用できるオリコンで
の納品に切り替えることで、一気に段ボール
の投入量を減らそうという狙いだ。 オリコン
の導入数は約二〇〇〇個。 しかも廃プラスチ
ックを原料にした、より環境にやさしいオリ
コンを採用した。
ところが、この試みでも大きな成果を上げ
ることはできなかった。 「オリコンがどこに滞
静脈物流
富士ゼロックス
繰り返し使用できる梱包材を開発
回収物流の運用は外部業者に委託
DECEMBER 2006 48
補修部品の供給や使用済み部品の回収に利
用するリターナブル型の梱包材を開発・導入
した。 包材費の削減や、CO2など環境負荷の
軽減が狙いだ。 回収時に発生する物流業務と
梱包材の個数管理はアウトソーシングするこ
とで、初期投資を最小限に抑えた。
ビジネス&サプライチェ
ーン改革部SCM管理グ
ループ環境対応チームの
坂弥雄二チーム長
留しているのか。 その所在をきちんと把握で
きないなど運用面に問題があった」と坂弥雄
二ビジネス&サプライチェーン改革部SCM
管理グループ環境対応チーム長。 結局、段ボ
ールをオリコンに切り替えても、それに伴い
新たに発生する回収物流コストに見合うだけ
のメリットが得られなかったという。
もっとも、オリコン化はルート配送分に限
定された取り組みで、路線便利用分は従来通
り段ボールによる出荷が一〇〇%のままだっ
た。 そのため、たとえルート配送分をすべて
オリコンでの納品に切り替えることができた
としても、劇的な改善効果は期待できない。
段ボール使用量を限りなくゼロに近づけてい
くためには、路線便利用分についても何らか
の対策を講じる必要があった。
一〇〇回以上使える梱包材
路線便利用分の梱包材を段ボールからオリ
コンのような通い箱に切り替えていく場合、
最大のネックとなるのは回収物流に掛かるコ
ストだ。 ルート配送分は納品時に空のオリコ
ンを引き取るため、回収物流のコストを低く
抑えることができる。 これに対して、路線便
利用分は回収の仕組みを新たに用意しなけれ
ばならず、ルート配送分よりもコスト負担が
大きい。 路線便利用分の通い箱化を実現する
ための条件は、段ボール廃止によるコスト削減効果の範囲内に、新たに発生する回収物流
コストをおさめることだった。
対応策を検討してきた富士ゼロックスが段
ボールに代わる梱包材として注目したのは、
ベンチャー企業のスターウェイが開発・販売
している「イースターパック」というリター
ナブル型の包装箱だった。 「イースターパッ
ク」は一〇〇%古紙の板紙である「パスコ」
と特殊フィルムによって構成された耐久性に
優れた包装箱で、一〇〇回以上繰り返し使用
できるという触れ込みだった。
早速、スターウェイから現物を取り寄せて
みたものの、既存の「イースターパック」は
サイズのラインナップに乏しく、富士ゼロッ
クスが展開する補修部品の物流には馴染まな
かった。 ただし、「古紙で作られているにもか
かわらず、高い強度を実現していたり、折り
畳んだ状態の容積がオリコンよりもはるかに
小さいなどイースターパックの機能は魅力的
だった」と山下一彦マネージャー。 そこで両
社は「イースターパック」をベースに、富士
ゼロックスの物流要件に合致する新たな包装
箱の開発に乗り出すことになった。
約一年間の開発期間を経て完成したのが次
ページの写真のような包装箱だ。 最大の特徴
は折り畳みの作業が容易なうえに、折り畳ん
だ後のサイズがコンパクトになるという点だ。
組み立てた状態の包装箱には、折り畳んだ状
態の包装箱が最大で一四個格納できるように
設計されている。 つまり使用済みの包装箱を
一度に一五個回収できるため、その分だけ回
収物流に掛かるコストも低く抑えることがで
きるというわけだ。
両社はこのほかにも、?強度を満たす範囲
内で板紙を薄くすることで包装箱そのものを
49 DECEMBER 2006
ビジネス&サプライチェ
ーン改革部SCM管理グ
ループ環境対応チームの
山下一彦マネージャー
ングしている点だ。 富士ゼロックスはスター
ウェイが構築した回収物流システムを利用し
た分だけ料金を支払う契約になっている。 約
七〇〇〇個の包装箱はすべてスターウェイの
資産として運用されており、富士ゼロックス
は包装箱を一切購入していない。 このスキー
ムを採用したことで、富士ゼロックスは自社
で構築するよりも少ない投資額で回収物流の
仕組みを用意することができた。
「当社は包装箱を使ってサービス拠点に部
品を供給するだけ。 静脈物流はすべてスター
ウェイが管理してくれる。 外部に委託するこ
とで、現場は包装箱の回収作業や個数管理と
いった手間の掛かる業務から解放された。 動
脈物流の仕事に専念できるようになった」と
坂弥チーム長は説明する。
一方、業務委託先のスターウェイは物流イ
ンフラを保有していない。 そのため、各拠点
から空き箱を回収する業務は物流企業にアウ
トソーシングしている。 回収物流の全体のコ
ントロールを3PLに任せ、さらにその3P
Lが路線便業者に回収の実務部分を委託する
体制になっているという。
スターウェイが担当するメーンの業務は各
軽量化、?送り状などの伝票類をきれいに剥
がせる凹凸のある特殊フィルムを箱の上蓋部
分と側面に貼付、?持ち運びを容易にするた
めの取っ手を装着――といった改良を加えて、
オリジナルの包装箱を完成させた。
ICタグで包装箱の所在を管理
富士ゼロックスではこうして新たに開発し
た包装箱を、今年八月から路線便利用分を対
象に順次導入してきた。 現在の運用数は全国
で約七〇〇〇個に上る。 同社では、この包装
箱を使って補修部品を各サービス拠点に供給
し、使用済みとなった包装箱を再び東京・越
中島の物流センターに戻すまでのオペレーシ
ョンを以下のような流れで進めている。
物流センターから路線便を使って各サービ
ス拠点に届けられた包装箱は四パターンで回
収される。 一つは空箱の状態のまま回収する
パターン。 もう一つは箱の中に未使用部品を
入れた状態で物流センターに戻すパターン。
三つ目が箱の中に使用済み部品を入れて「パ
ーツリサイクルセンター」を経由後、物流セ
ンターに戻すパターン。 そして最後が箱の中
に再資源パーツを入れて「地域倉庫」と「再
資源化施設」を経由してから物流センターに
戻すというものだ(
図1)。
特筆すべきは富士ゼロックスが各サービス
拠点、パーツリサイクルセンター、再資源化
施設から空き箱を回収する業務や、包装箱の
個数管理業務をスターウェイにアウトソーシ
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拠点間を行き来する包装箱のトレーサビリテ
ィーだ。 同社ではこの業務をICタグを使っ
て管理している。 包装箱の側面にカード型の
ICタグを貼付。 包装箱が、?物流センター
から出荷されるタイミング、?パーツリサイクルセンターに入荷されるタイミング、?再
び物流センターに入荷されるタイミングで、
ICタグをハンディで読み取りデータを収集。
包装箱の所在を把握している。 包装箱が滞留
している拠点に対しては電子メールでアラー
ム(警告)を送信し、物流センターへの返却
を促している。
スターウェイの竹本直文社長は「当社が富
士ゼロックスさんに提供している回収物流シ
ステムの利用料は、一カ月に包装箱を二回転
させれば、ペイするように設定されている。
これに対して、富士ゼロックスさんの包装箱
は現在、一カ月に三・五回転している。 運用
がうまくいっているだけに、初期投資の回収
期間も短くなるはずだ」と指摘する。
包材費を年間五〇〇〇万円削減
富士ゼロックスでは今回の取り組みを通じ
て段ボール使用量を大幅に削減できると試算
している。 従来通り、段ボールによる納品を
続けていった場合、段ボール投入量は二〇一
〇年までの累計で一八七八トンに達する見通
しだった。 しかし、それがリターナブル化に
よって五八四トンにまで抑制できるとしてい
る(
図2)。
環境負荷の軽減効果も大きい。 同じく二〇
一〇年までの累計で、CO
2
の排出量を六五
八・三トン、NO
X
(窒素酸化物)排出量を
〇・八一九トン削減できると見ている。 段ボ
ールの使用量が減ることで保護される森林の
面積は、一〇年間成長した森林で計算すると、
十三・五ヘクタール分に相当するという。
肝心のコスト面での効果として、同社では
包材費だけで年間に約五〇〇〇万円の削減を
見込んでいる(
図3)。 さらに「包装作業の
簡素化による人件費削減効果や、使用済み段ボールの廃棄費用の削減効果などを含めると、
年間に七〇〇〇〜八〇〇〇万円程度のコス
トダウンが期待できる」と坂弥チーム長は説
明する。
富士ゼロックスでは十二月以降、路線便
利用分だけでなく、ルート配送分についても
新たに開発した包装箱の導入を進める計画
を打ち出している。 包装箱を約八〇〇〇個
追加で投入する予定だという。 対象範囲の
拡大によって、同社はさらなる環境負荷の軽
減とコスト削減の達成を目指している。
(
刈屋大輔)
51 DECEMBER 2006
スターウェイの竹本直文
社長
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