ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年7号
進化のゆくえ
ヤマダ電機の経営革新を紐解く

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JULY 2005 52 のはある意味で当然だし、コンビニエンススト アはフランチャイズ店の展開が中心。
直営店を 展開する専門店であるヤマダの売上高一兆円は、 重みのある数字といえる。
ヤマダの今期の社内目標売上高は一兆三〇〇 〇億円、二〇〇七年三月期は一兆五〇〇〇億 円、そしてその先では売上高二兆円の実現をめ ざしている。
同社の売上高ランキングが今後、 ますます上位になっていく可能性は高い。
専門店で、ヤマダに次いで売上規模が大きい のはカジュアルウエアの「ユニクロ」を展開す るファーストリテイリングの三八〇〇億円だ。
それから実用衣料のしまむらと、ドラッグスト 売上高一兆円グループへの仲間入り 家電販売店最大手のヤマダ電機の売上高は、 二〇〇五年三月期についに一兆円を突破した。
単体の売上高は一兆七二七億円、子会社を含 めた連結売上高は一兆一〇四二億円。
日本の 小売業界において、コンビニエンスストア(直 営店+FC点の店頭売上高ベース)を含めて単 体売上高が一兆円を超えている企業の数は計六 社になった。
その顔ぶれは一位がセブン ―イレブン・ジャ パンで、以下イオン、イトーヨーカ堂、ローソ ン、ダイエー、ヤマダと続く( 図1 )。
専門店 はヤマダ一社だけだ。
GMSの売上高が大きい アのマツモトキヨシが、それぞれ約 三〇〇〇億円で続 いている。
商品単 価や売場規模の違 いは考慮すべきだ が、ヤマダの売上 高がいかに大きな ものであるかが分 かる。
家電専門店業界におけるランキングでも、ヤ マダの売上高は突出している。
二位以下のヨド バシカメラ、コジマ、エディオンの売上規模は、 いずれもヤマダの半分でしかない。
しかも二〇 プリモ・リサーチ・ジャパン 鈴木孝之 代表  第10回 ヤマダ電機の経営革新を紐解く家電販売で他社と違いを出すのは難しい。
横並びの商品を扱っているた め、必然的に?安売り〞で差別化せざるをえない。
現にヤマダ電機は、他 社に先駆けて物流や情報システムの革新を進め、ローコストの仕組みを作 ったことで独り勝ちを実現した。
しかし本当に着目すべきは、同社が家電 販売の本質と課題を冷徹に見抜いていた点だ。
図1 売上高が1兆円を超す小売事業者 1 セブン‐イレブン・ジャパン※ 2,440,853 2 イオン1,830,282 3 イトーヨーカ堂1,473,583 4 ローソン※ 1,329,077 5 ダイエー1,308,149 6 ヤマダ電機1,072,677 企業名 (単位:百万円) 2004年度 売上高 ※店頭売上高 53 JULY 2005 〇五年度の売上計画を見ると、ヤマダとその他 の企業との売上高の差は、さらに広がる見込み だ( 図2 )。
このランキング表を見ていると、もはやラオ ックスやデンコードーの一〇〇〇億円という売 上規模は競合に対する優位性という点でほとん ど意味を持たず、四〇〇〇〜五〇〇〇億円とい えども力不足であることを感じる。
今後はヤマ ダに対抗するため、売上高一兆円連合の結成を めざす業界再編の動きが活発化するであろうこ とが予想される。
一九九六年まで、家電専門店の売上高ナンバ ーワンはベスト電器だった。
ところが翌九七年 には、業界団体のNEBA(日本電気大型店 協会)に加盟しておらず、業界のアウトロー的 存在だったコジマがベストに代わってトップの 座についた。
その意味で、九七年は家電専門店 業界の歴史の中での大きな転換点と位置づけることができる。
しかし、そのコジマも四年後の 二〇〇二年になると、ヤマダに天下を奪われる ことになる。
では、現在のヤマダの天下はいつまで続くの だろうか。
すでに同社は、次の目標を二兆円に 設定している。
この目標は一兆三〇〇〇億円、 一兆五〇〇〇億円という段階を踏んでいくにつ れて実現性の高い数字になるはずだが、少なく とも現時点ではヤマダのトップが揺らぐ要因は 見当たらない。
今後、家電専門店の業界構造は、 トップ企業に売上高が極度に集中していくこと になるはずだ。
家電専門店の売上高ランキングを二〇〇〇年 度に溯って見てみると興味深い( 図3 )。
この 時点でヤマダは、コジマに肉薄してはいるもの の、まだ二位だった。
ランキング上位には、ベ スト電器、上新電機、デオデオ、ラオックス、 エイデンなどが並んでいる。
このなかで現在も ポジションを守っているのはデオデオくらい。
あとは全て後退してしまった。
実はデオデオも 単独ではなく、エイデンとミドリ電化と経営統 合した結果だ。
反対に、最近になって一気に上位に躍り出た のがケーズデンキだ。
ギガス、八千代ムセン (ランキング外)との統合によって売上規模を 急拡大した。
まだ現状ではヤマダの三分の一の 規模に過ぎないが、再編の動きが加速するなか で一つのグループを形成する存在になると目さ れている。
日本の小売業で希有な高い寡占度 ヤマダの売上高が一兆円を突破したことは、 その規模の大きさだけでなく、マーケットにお けるシェアの大きさと、それに伴う影響力・交渉力の強さという意味で重要な意味を持ってい る。
経済産業省の商業統計(二〇〇二年度)に よると、家電量販店の市場規模は約七兆五〇〇 〇億円あった。
このなかでヤマダのシェアは一 四・七%(図2参照)。
世界最大の家電専門店 である米ベストバイの米国内シェアは一五%と なっており、両社はそれぞれの国内マーケット シェアという点では肩を並べたことになる。
一般にマーケットシェア一〇%という数値は、 調達先に対する交渉力が一気に強まる臨界点と 考えられている。
このため寡占化が進んでいる 図2 家電販売店 売上高ランキング(2004年度) ヤマダ電機1 1,102,390 14.7% 1 1,280,000 17.8% ※※(ヨドバシカメラ、04/3) - (545,000) (7.2%) コジマ2 490,694 6.5% 3 527,800 7.0% ※※(ビックカメラ、04/8) - (456,600) (6.1%) エディオン3 437,992 5.8% 2 730,000 9.7% ベスト電器4 357,944 4.8% 5 370,000 4.9% ギガスケーズデンキ5 343,383 4.6% 4 406,000 5.4% 上新電機6 263,216 3.5% 6 280,000 3.7% ラオックス7 129,125 1.7% 7 119,300 1.6% デンコードー8 119,280 1.6% 8 123,700 1.6% 2002年度商業統計、市場規模 7,523,000 100.0% 7,523,000 100.0% 2005年度 計画 マーケット シェア※ マーケット シェア※ (単位:百万円) ※2002年商業統計、市場規模7兆5230億円におけるシェア  ※※未上場 順位 順位 2004年度 図3 2000年度の売上高ランキング 1 コジマ508,053 2 ヤマダ電機471,246 3 ヨドバシカメラ412,812 4 ベスト電器352,780 5 上新電機273,838 6 ビックカメラ250,608 7 デオデオ※ 247,097 8 ラオックス214,111 9 エイデン※ 199,989 10 ミドリ電化※ 181,287 11 ケーズデンキ165,519 12 マツヤデンキ144,450 13 ソフマップ141,926 14 デンコードー118,319 15 和光電気114,328 順位 企業名 売上高 (単位:百万円) ※統合しエディオンとなる。
JULY 2005 54 ?二〇〇一年から取り組みを開始した「SCM (サプライチェーン・マネジメント)商品」の 効果、という三つの視点から、時系列で見ていくことにする( 図4 )。
売上総利益率(粗利率)の推移を見ると、二 〇〇〇年三月期から二〇〇四年三月期まできれ いな右肩上がりのトレンドを描いている。
一方 の販管費率は、二〇〇〇年三月期は横這いだっ たのが以降は上昇傾向を描いている。
これだけ 見ると好ましい傾向ではない。
そして二〇〇五 年三月期になると売上総利益率が低下し、同時 に販管費率も低下している。
次に売上総利益率から販管費率を差し引いた 営業利益率の推移を見なければならないのだが、 ここで家電専門店の損益計算書を見るときに忘 れてはならないことがある。
通常、本業の収益 性を見る場合は、営業利益率から始めて、川上 の売上総利益率と販管費率に遡るのがいい。
と ころが家電専門店の場合は、経常利益率を見る 必要がある。
家電専門店の商習慣には「仕入割引」という ものがある。
これは一般に言うリベートで、仕 入原価の一・一%程度が営業外収入として計 上される。
また「販促協力金」も営業外収入に 計上される。
このため家電専門店の場合は、営 業利益にこの「仕入割引」と「販促協力金」を 加えた経常利益が本業の利益をあらわすことに なる。
ヤマダの経常利益率を見ると、九八年三月期 の一・九%から、九九年三月期は二・七%、そ 自動車や鉄鋼、コンピュータなどの製造業界に おいては、マーケットシェアという物差しは日 常的に使われている。
だが寡占化の進んでいない日本の小売業界で は、家計支出をベースとする特定地域のマーケ ットシェアを物差しに使うことはあっても、特 定業界における全国ベースのシェアが注目され たことは過去にほとんどなかった。
再編が進ん でいないため、それぞれの業界ごとに多数の企 業がひしめいている業界構造があるからだ。
そうした中にあって、売上規模を急拡大して きたヤマダは、七兆五〇〇〇億円市場をベース に全国戦略を構築する巨大企業となっている。
同社のマーケットシェアを都道府県別に見てみ ると、最も高いのが本社所在地である群馬県の 三九・七%。
これに神奈川県の三三・八%、長 野県の三三%と続く。
さらに二〇%台なのが栃 木、千葉、新潟、石川、福井、山形、鳥取とな っている。
この数字を見ると、ヤマダの全国のマーケッ トシェアは、まだまだ伸ばせると考えられる。
現在の一四・七%でも収益に大きな影響を及ぼ しているはずだが、これが今後二〇%、三〇% と高まっていったときのインパクトの大きさは 想像を絶している。
経常利益率三%台の意義 これまでのヤマダの収益性の改善を、?売上 規模の拡大、?一九九七年に稼働した新PO Sシステムと新らたな物流体制の導入、そして 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 売上高(億円) 279 331 363 467 621 879 1,265 1,620 2,428 3,321 4,713 5,609 7,532 9,220 10,727 売上総利益率(%) 19.6 22.3 21.3 17.1 14.7 14.0 13.9 14.2 13.7 14.1 14.6 15.5 16.9 19.6 18.4 販管費率(%) 18.3 21.2 21.9 17.7 14.3 12.9 12.6 13.9 12.4 12.4 12.6 13.7 15.2 18.1 16.1 営業利益率(%) 1.3 1.1 ▲0.6 ▲0.6 0.4 1.1 1.3 0.3 1.3 1.7 2.0 1.8 1.7 1.5 2.3 経常利益率(%) NA NA NA NA NA NA NA 1.9 2.7 3.1 3.5 3.3 3.0 2.7 3.6 図4 ヤマダ電機(単体)の売上高・売上総利益率・販管費率の関係 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 91/3 92/3 93/3 94/3 95/3 96/3 97/3 98/3 99/3 00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 売上高の推移(億円) 売上総利益率と販管費率の推移(%) 売上総利益率 販管比率 55 JULY 2005 して二〇〇〇年三月期に三・一%と初めて三% 台に乗った。
その後、二〇〇四年三月期には 二・七%に低下したものの、二〇〇五年三月期 には再び三・六%に回復。
アップダウンはある ものの、三%台の経常利益率が定着しつつある ように見える。
二〇〇五年三月期に、売上総利 益率が低下したなかで、販管費率が大幅に低下 して過去最高の経常利益率を叩き出したことは 評価に値する。
売上規模と収益性の関係から、スケールメリ ットの影響を明確に読み取るのは難しいが、転 換点となった二〇〇三年三月期の売上高が三三 二一億円ということから、売上高三〇〇〇億円 が一つの転機だったのかもしれない。
二〇〇五 年三月期に経常利益率が過去最高の三・六% に達したことは、売上高が一兆円を突破したこ との影響を感じさせる。
今後の経常利益率が改 善し続けるようであれば、売上高一兆円のスケ ールメリットということができるはずだ。
三・六%という経常利益率は、家電専門店の収益構造を考えると記録的な数値だが、他の小 売業と比較すると高くはない。
スーパーマーケ ットとGMSの経常利益率は平均して一〜二% と低いが、多くの専門店の経常利益率は五〜一 〇%の間に分布している。
商品開発型の製造小 売業(SPA)の場合は、売上総利益率が高い ことから、経常利益率も一〇%前後と高い。
こ れと比べれば家電専門店の経常利益率は低水準 で、ここを構造的に変え、経常利益率四〜五% を達成するのが家電販売店にとって最大の経営 課題となっている。
家電専門店の経常利益率が低いのは、大元の 利益である売上総利益率が、他の専門店にくら べて著しく低いためだ。
家電専門店の売上総利 益率は二〇%を切る。
ここに「仕入割引」を加 算しても二十一%程度が売上総利益率の実体と いうことになり、この数値はスーパーマーケッ トの二四〜二五%と比較しても低い。
そういう 視点で見ると、ヤマダの経常利益率三・六%は 家電専門店にとって特筆すべき水準であること がわかる。
二〇〇四年度(二〇〇五年三月)の家電専 門店の決算を見ると、ヤマダとそれ以外との格 差は一目瞭然だ。
ヤマダ以外の家電専門店の経 常利益を合計しても、ヤマダ一社の経常利益に 達しない。
束になっても利益額で及ばない。
いち早く一括物流体制を構築 ヤマダは家電販売に特有の低い売上総利益を 所与のものとせずに、儲かる仕組みを構築して きた( 図5 )。
だからこそ、同社の現在の高い 利益率がある。
一九九七年六月、ヤマダは「物流一元化シス テム」を稼働させた。
一般に、家電専門店業界 の物流体制は、メーカーの販社が各店に配送す る体制になっている。
小売りは物流センターを 持つ必要がない代わりに、納品のたびに検収作 業を行う。
この体制は、店舗における検収作業 などを増やすことになり、必然的に人時と人件 費の増大につながる。
一括物流の導入によって、ヤマダはこの領域 のコストカットに取り組んだ。
メーカー販社に よる各店への商品配送をやめて、埼玉県の熊谷 の物流センターに一括納品してもらうように変更。
物流センターに検収作業を集約し、ここで 仕分けをしてから全国の店舗に配送するように したのである。
当時の家電業界では、このよう な一括物流を大規模に導入したのはヤマダが初 めてだった。
これによって同社の店舗における 作業は大幅に軽減された。
現在のヤマダは、全国に七カ所(札幌、仙台、 熊谷、厚木、名古屋、加古川、福岡)の物流セ ンターを構えて、ここから各店に商品を配送し ている。
物流業務は地域ごとに各地の物流業者 にアウトソーシングする方針をとり、九七年に 稼働した最初の物流センターでは第一貨物(本 図5 ヤマダ電機の仕組みづくりの沿革 1973 創業(松下の系列店) 1983 (株)ヤマダ電機設立 1986 全店にPOSシステムを導入 1989 株式を店頭公開、NEBAに加盟 1990 パソコンのハード、ソフトの本格販売開始 1993 〜94 営業赤字に転落。
 NEBAを脱退 1997 新POS、新物流システム稼動(自動発注体制スタート) 2000 株式を東証一部に上場 2001 「SCM商品」の投入開始 2002 コジマを抜いて売上高業界1位 2005 売上高が1兆円を超える JULY 2005 56 対象としたが、メーカーの在庫切れが多いパソ コンと季節商品は対象外とした。
このシステム では単品ごとに適正在庫を設定し、自動発注をする。
適正在庫にこだわっており、社内には 「定数担当」と呼ぶ責任者まで任命されている のだという。
こうした在庫コントロールの成果は、明確に 数値に表れている。
九八年三月期には七・三回 転だった商品回転率は、すでに一〇回転を超え るまで改善した。
目標は十二回転だという。
二 〇〇五年三月期の在庫残高からも効果がうかが える。
店舗が大型化しているにもかかわらず、 一店舗当たりの期末在庫は七六〇〇万円減少 している。
二〇〇〇年三月には全店の販売データを蓄積 したデータウエアハウスを構築し、これによる 意思決定支援システムも稼働した。
一時間おき に店舗のPOS情報がここに集約されるように なっており、コンピュータには過去一四カ月分 のデータが蓄積されている。
このシステムを通してヤマダは、一時間単位 で単品レベルの動向を知ることができる。
こう して商品の動向をリアルタイムで把握し、欠品 への対応、在庫の店舗間移動、売価変更などの 指示を出すことが可能になった。
適切な指示や 意思決定を行うことで、売上増大や機会損失の 減少などの効果がある。
ヤマダの創業経営者の 山田昇社長が「最終兵器」とまで呼ぶ、なくて はならないものだという。
経営の意思決定を伝える、社内のコミュニケ 社・山形)に業務委託した。
当初、ヤマダの物流センターは、商品の備蓄 機能を持たず、検品、仕分け、配送のみを行っ ていた。
在庫は店舗で持つという基本的な考え 方を持っていたためだ。
実際、同社の店舗の多 くは、商品を在庫するための広いスペースを持 っている。
ただし、これも物流の高度化に取り 組むなかで改めた。
ヤマダはこれまで計三回、物流体制の改革に 取り組んできた。
第一回は九七年の一括物流体 制のスタート、第二回は土日納品体制のスター ト、そして第三回は店舗網に見合ったセンター での備蓄体制を整えた「第三次物流改革」であ る。
「第三次物流改革」では、店舗在庫を削減す るために、出店地域の状況にあわせた物流体制 づくりに取り組んだ。
ヤマダは県庁所在地をは じめとする都市部に次々と出店したが、店数の 増加によって店舗の商圏と物流網が重なるエリ アが出てきた。
そこで店舗在庫を原則としてき た方針を、地域によっては物流センターに在庫 を集約する体制に切り替えた。
店舗在庫は展示 用と持ち帰り用のみとし、顧客への配送は物流 センターからとなった。
情報システムも積極的に整備 物流の整備と併行して、POSシステムと連 動した自動発注システムも構築した。
九七年に、 メーカーおよびメーカー販社とをオンラインで 結んだ自動発注システムを稼働。
大半の商品を ーション手段についても進化している。
かつて の電話会議が、現在ではテレビ会議に代わった。
週一回のテレビ会議が効果的に機能しているこ とも、前述した経営の意思決定システムを補足 する仕組みの一つといえる。
成長を支える強固な財務体質 現在のヤマダの財務体質はすこぶる良い。
株 主資本当期利益率(ROE)、総資本経常利益 率(ROA)、株主資本比率のどれをとっても 家電専門店の業界では一番高い( 図6 )。
表面的な株主資本比率は四七・九%で上新 電機、ラオッ クスの次だが、 有利子負債残 高に四九四億 円の転換社債が含まれてお り、この社債 の株式への転 換が進めば株 主資本比率は 六〇%に達す る。
有利子負債 残高が売上比 で一〇%以下 なのは、有力 な家電販売店 で は ヤ マ ダ 、 株主資本 当期利益率 (%) 総資本経常 利益率 (%) 株主資本 比率 (%) 有利子負債 残高 (百万円) 売上比 2004年度 (%) 図6 家電販売各社の財務指標(単体) ヤマダ電機13.6 11.9 47.9 ※74,015 6.9 コジマ3.0 2.7 31.2 86,605 17.7 エディオン(連結) 4.9 4.9 45.6 61,456 14.0 ベスト電器▲12.1 0.5 42.0 60,630 17.5 ギガスケーズデンキ9.5 8.6 54.9 13,156 4.9 上新電機4.1 2.1 33.6 39,457 15.5 ラオックス▲31.0 ▲0.5 49.7 20,000 16.8 デンコードー8.5 7.0 43.5 9,816 8.4 ※うち社債494億円。
2002年7月にスイスフラン建転換社債を発行し500億円調達 57 JULY 2005 ギガスケーズデンキ、デンコードーの三社だけ。
有利子負債は七四〇億円と、金額としてはコジ マに次いで大きい。
だがコジマの二倍の売上規 模を考えれば、売上比六・九%が示すように決 して多いわけではない。
このように強固な財務体質を、ヤマダはどう やって作りあげてきたのか。
これは同社が、設 備投資のための資金を調達する場として、資本 市場を積極的に活用した結果だ。
同社の幹事証 券である、野村證券の適切なアドバイスが大き かったという。
株式を公開している小売業の中には、株式公 開そのものが目的化して、戦略展開のために必 要な資金調達を行うという姿勢が感じられない 企業が少なくない。
ヤマダの場合はそうではな かった。
まず強烈な事業拡大の意欲があって、 そのための資金がいくらでも欲しいという状況 で株式を公開した。
もっともヤマダに対する市場の評価が、これ まで一貫して高かったわけではない。
八九年に 株式を店頭公開した直後には、同じ北関東を本 拠地とするコジマ(本社・宇都宮)との激しい 価格競争の結果、九三年三月期から二期連続 で営業赤字に陥るという苦しい経験をした。
広 島のダイイチ(現デオデオ)がヤマダの本拠地 である高崎地区に進出するという危機もあった。
そして、こうした経験が、ヤマダのその後の成 長につながる強力なバネになった。
業績が持ち直した九五年三月期以降、ヤマダ の財務戦略は一層活発になった。
その決定打と もいうべき一打が二〇〇二年三月期に放たれた。
大店法の緩和をチャンスととらえて、売場面積 二〇〇〇〜三〇〇〇平方メートルの大型店の大 量出店をスタートしたのである。
その結果、さらにダイナミックな成長が始まった。
当時、売上高がまだ五〇〇〇億円だったにも かかわらず、三年後くらいをメドに一兆円に到 達する道筋が見えてきた。
そして、そのための 出店資金を確保する必要が生じた。
この頃、ヤ マダの大型店は全国規模で猛威を奮っており、 業績も絶好調だった。
当然、株価も高かった。
同社はこの機会を見逃さなかった。
二〇〇一年六月に三〇億円の公募増資を行 うと、翌二〇〇二年七月には前述したスイスフ ラン建転換社債を発行。
総額五〇〇億円を調 達した。
すでにこの時点で、ヤマダの業界内で の首位は揺るぎないものになりつつあった。
そ こに五〇〇億円を調達して大型店の積極展開を 加速したことが、同社の独り勝ちを決定的なも のにした。
このときの資金調達の背景には、ライバルが まったく準備をしていない段階で大型店の出店 を加速し、それが好業績と高株価を生み出した という伏線があった。
小売業は出店によって成 長するため、出店資金の確保は成長戦略の要だ。
そのためには資金調達のための戦略が欠かせな い。
要は財務戦略という点でも、ヤマダは、ラ イバルより秀でていたのだ。
小売事業者を評価する場合に、商品戦略やオ ペレーションに目を奪われがちだ。
しかし、決 して見落としてはならないのが財務戦略だ。
旺 盛な事業欲は財務戦略につながる。
その意味で 旺盛な資金需要は、企業の生命力や成長しよう という意欲を表すことになる。
もちろん、必要 のない資金を手にするだけでは?猫に小判〞に 過ぎないのだが。
資金調達で重要なのはタイミングと規模だ。
戦略を遂行するために、必要なタイミングで、 有利な条件で調達する必要がある。
しかも中途 半端な規模ではなく、成長の加速を鮮明にイメ ージさせるような金額であることが好ましい。
五〇〇億円の資金調達は、まさにこうした条件 を満たしていた。
だからこそヤマダの圧勝が、 これで決定的になった。
急成長企業の創業者の多くは優れた商人だ。
山田昇社長の場合は、それに止まらず、優れた 経営者の目も持っている。
多くの人たちはヤマ ダを安売りで天下を取った企業と見ているが、そうではない。
経営という一段高い視点を持つ 企業と認識する必要がある。
同社のオペレーションを評価するときには、 一方でこうした認識も忘れてはならない。
飛躍を支えた五つの戦略 ヤマダには、低い売上総利益率であっても、 業界一の利益率を実現するという経営姿勢があ る。
しかも目先の利益を追うのではなく、仕組 みで利益を生み出そうとする意識が強い。
実際、 前述した物流体制と情報システムの整備は、在 庫効率の向上、機会損失の減少、粗利益率の JULY 2005 58 ?物流体制と情報システムの構築によって「稼 ぐしくみ」を作った。
家電販売に特有の低利 益率構造にあっても利益が出せる企業体質を、 物流とITを一体化したロジスティクスの高 度化によって実現した。
?ライバルに勝つための徹底的な低価格戦略。
同一商品を扱う家電専門店にとって最も効果 のある差別化戦略は価格だ。
大多数の競合他 社がビジョンなき安売りを続けていた時代か らヤマダは、低価格を継続できるコスト構造 の改革に取り組んだ。
?八〇年代後半の大規模小売店舗の段階的な 規制緩和を、千載一遇のチャンスととらえて 大々的に大型店を出店した。
競合他社にはこ のような大胆な発想が欠けていたため、ここ からヤマダの劇的な成長が始まった。
?パソコンブームに乗ったこと。
他社にさきが けて九〇年に、パソコンのハードとソフトの 販売を前橋で実験的に開始した。
当初はパッ としなかったものの、九五年のウィンドウズ 95 のブームに乗ることができ情報家電の売上 拡大で先行した。
?規模拡大を実現した財務戦略。
前掲のように 二〇〇二年七月にスイスフラン建転換社債を 発行して、五〇〇億円の資金を調達した。
二 〇〇二年三月期にコジマを抜いて売上高で業 界トップを奪取した直後の大胆な資金調達が、 売上高一兆円に向けた出店やM&Aを支える ことになった。
向上、そして人件費の合理化につながった。
人事・給与体系に手を加えることも仕組みに よる利益追求の一環だ。
ヤマダは人事制度と給 与体系を一体で扱い、人件費をコントロールし ている。
店舗の開店時の在庫補充作業は、一年 更新の契約社員と、営業補助員と呼ばれる五五 歳以上の再就職者が手掛けている。
定期採用の プロパー社員は全社員の約三分の一。
社員の資 格制度が給与と連動しており、レベルの高い社 員を育てることによって、売上と利益の増大に つなげようとしている。
商品分野においては、「SCM(サプライチ ェーン・マネジメント)商品」と呼ぶ契約商品 の扱いを拡大している。
同商品の売場への投入 は二〇〇一年秋に開始した。
ヤマダが商品の需 要を予測してメーカーに発注する。
完全買取制 で販社を通さない一種の直接取引である。
発注 数量は一アイテムにつき月間一万台。
粗利益率 は、従来と比べて最大一〇%高い。
SCM商品に関してヤマダは、メーカーの生 産計画の段階から絡む。
中国などの海外で生産 している商品が多いが、ヤマダの物流センター に直納される。
返品なしの完全買い取りで、し かもヤマダは、利益を生み出す仕組みづくりに 取り組んできた。
売上規模の拡大を貪欲に進め てきたのも、メーカーと対等に利益を分け合え る体制を構築するためだ。
それは家電流通の価 格決定権を握ることを意味していた。
現在に至るヤマダの飛躍は、次に挙げる五大 戦略とも言うべきものに支えられてきた。
逆境がヤマダを鍛え上げた ヤマダが成し遂げてきたことを日本の産業界 における?偉業〞と表現しても、もはや言い過 ぎではあるまい。
では、なぜヤマダにだけ、こ のようなことが可能だったのだろうか。
次はそ の点を考えてみたい。
偉業の裏には、必ずといっていいほど大きな バネがある。
人々はときに結果としてのサクセ スストーリーにばかりに興味を示すが、こうし た見方をしているうちは、表面的な技術の習得 はできても、本質を理解することができない。
偉業の出発点となった体験や精神を辿ることで 初めて、何がそうさせたのかが分かる。
ヤマダの創業者である山田社長は、筆者と同 年の一九四三年生まれ。
日本ビクターで品質管 理の仕事に携わっていたが、自分の能力を高める方法を組織内で見出すことができずに退社。
経理にいた職場結婚の奥さんと三〇才のときに 個人で電気店を創業。
松下電器産業の系列店 として営業活動をしていた。
創業三年目には持 ち家を構えるほど、商売は順調だったという。
しかし、他メーカーの商品も扱う混売店へ事 業を拡大したところから困難が始まった。
松下 電器からはすべての支援を絶たれた。
このとき メーカー系列店から混売店へ業態転換したのは、 系列店は高粗利だが高経費率で利益拡大に限 界があり、しかも他メーカーの商品を希望する 消費者のニーズに応えられなかったからだ。
だが混売店に転換したとたん商品の確保が困 59 JULY 2005 難になり、大変な苦労をした。
その上に商品の 仕入れ条件も悪かった。
売上高一兆円を突破し た今でこそ、メーカーも同業他社もヤマダの存 在を無視するわけにいかない。
しかし、業界の 既成秩序を破壊する同社は、つい最近までさま ざまなイジメや悪条件、取引上での差別などと 闘ってきた。
その困難な闘いのさなかにあって、山田社長 の持ち前の反骨精神は、不利な条件化でも利益 を出せる仕組みづくりへと向かうことになった。
そして単なる戦う商人ではなく、自らの経営を 通じて、日本の家電流通を変える変革者へと変 身していった。
当初、ヤマダは弱い立場にあったため、高い 仕入コストを前提に経営をするしかなかった。
ここで同社が競合他社と決定的に違ったのは、 仕入コストが高くても儲かる仕組みを追求した 点だ。
他社よりも高く仕入れながら、それでも 安く売ろうとした。
実はヤマダの仕入コストが他社より高いという状況は、二〇〇〇年に東証一部に上場してか らも続いた。
NEBAの加盟店よりヤマダの売 上高の方が大きいにもかかわらず、バイイング パワーなどというものはほとんど効かなかった。
売上規模が小さいNEBA会員企業のほうがヤ マダより仕入コストが安いことは、家電業界の 公然の秘密だった。
メーカーべったりが招いた苦戦 業界のアウトローとして既成秩序や非合理と 戦いながら、逆境を生き抜いてきたのがヤマダ の歴史だ。
そうしなければ生き延びることがで きなかったわけで、NEBAに加盟している二 代目経営者たちとは、置かれている立場がまっ たく違った。
それしか選択肢がなかった。
NEBAの加盟企業がメーカーとべったりの 関係を続けているときに、ヤマダは儲かる仕組 みづくりという困難な課題に取り組んでいた。
これが業界で最も先行する情報システムと物流 体制の構築につながった。
いわば逆境がヤマダ を鍛え上げ、強力な企業に育てたのだ。
家電業界では、ヤマダの攻撃的な体質が問題 視されることがある。
たしかに、そういう側面 はあるかもしれない。
しかし、それを言うので あれば、業界全体が、とくにメーカーがヤマダ にかけた圧力も批判しなければ不公平というも のだろう。
ヤマダの破竹の快進撃は、家電専門店業界の 勢力図を激変させた。
この業界では近年、経営 破綻が続いており、これほど多くの民事再生法 企業が出た業界は他にはない( 図7 )。
主要な 企業だけで一〇社を超えていて、ここに未上場 企業を加えれば破綻数は飛躍的に多くなる。
こ のことは、すでに業界の淘汰が最終段階に入り つつあることを示唆している。
当面はヤマダ、エディオン、ギガスケーズデ ンキの三社が、業界再編の柱になると考えられ る。
そして、この他にカメラ系と呼ばれるヨド バシカメラとビックカメラの都市型企業からも 目が離せない。
いずれせよ家電販売業界が、七 兆五〇〇〇億円の市場をめぐって一気に淘汰・ 再編の最終段階へと進もうとしていることだけ は間違いない。
(すずき・たかゆき)東京外国語大学卒業。
一九六八年 西友入社。
店長、シカゴ駐在事務所長などを経て、八九 年バークレーズ証券に入社しアナリストに転身。
九〇年 メリルリンチ証券入社。
小売業界担当アナリストとして 日経アナリストランキングで総合部門第二位が二回、小 売部門第一位が三回と常に上位にランクインし、調査部 のファーストバイスプレデント、シニアアナリストを最 後に二〇〇三年に独立。
現在はプリモ・リサーチ・ジャ パン代表。
著書に『イオングループの大変革』(日本実業 出版社)ほか。
週刊誌などでの執筆多数。
図7 家電販売店業界における経営破綻・支援・統合の動き 01年 8月 中川無線電機がキョウデンと資本提携 02年 1月 星電社が民事再生法の適用を申請 02年 2月 そうご電器が民事再生法の適用を申請 02年 4月 第一家庭電器が民事再生法の適用を申請 03年 4月 和光電気が民事再生法の適用を申請 03年 9月 マツヤデンキが民事再生法の適用を申請 03年 11月 ギガスとケーズデンキ事業統合 04年 4月 八千代ムセン電機とギガスケーズデンキが事業統合 04年 5月 ミドリ電化とエディオンが事業統合 04年 11月 ラオックスを投資ファンドのMKSが支援 05年 1月 ニノミヤが会社更生法の適用を申請

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