ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
物流産業論
3PLの基礎知識

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2006 80 物流アウトソーシングとは? 近年、「アウトソーシング」が重要 な経営戦略の一つとして位置づけられ ています。
アウトソーシングは直訳す ると「外部委託」です。
現在、アウト ソーシングは様々な事業領域で実践さ れています。
そしてアウトソーシング は物流分野においても進展を見せてい ます。
もっとも、物流のアウトソーシング は決して目新しいものではありません。
例えば、輸送をトラック運送業者に委 託したり、一部製品の保管を営業倉庫 業者に任せるといった具合に、物流の アウトソーシングは日常的に行われて きたからです。
ただし、現在のアウトソーシングは、 例示したような伝統的外部委託ではな く、物流システムなど根幹的な部分の アウトソーシング、あるいは全面的な アウトソーシングである点が特徴です。
単に物流作業を効率化するといった現 場レベルでの話ではなく、企業経営の 中核をなす戦略的な意味合いで物流の アウトソーシングに踏み切る企業が増 えています。
物流のアウトソーシングが拡大して きたのは、競争環境が厳しくなる中、 限られた経営資源をコア部分に集中さ せ、かつ物流を含めた顧客サービスの 面でライバル企業に差をつけたいとい う狙いがあったからです。
そしてその 受け皿として機能してきたのが3PL 企業です。
3PL企業とは、従来のよ うに保管や輸送といった単機能サービ スを提供するのではなく、輸送・保 管・梱包・流通加工・荷役・在庫管 理、さらに情報処理といった物流業務 を包括的に請け負うことができるプレ ーヤーを指します。
3PLビジネスにはトラックや倉庫 のような資産(アセット)を自らで所 有してサービスを提供するケースと、 商社やコンサルティング会社のように 自らは資産を持たず、顧客企業のニー ズに合わせてアセットをアレンジする ことで総合的物流サービスを提供して いるケースがあります。
前者をアセッ ト型、後者をノンアセット型と呼びま す。
3PLはこの二つのパターンに分 類することができます。
日本において3PLが注目されるよ うになったのは九〇年代後半からです。
すでに物流業界では3PLという言葉 が広く使われるようになっていますが、 実は3PLには統一的な定義というも のが存在していません。
とはいえ、こ れまでに多くの団体や企業がそれぞれ に定義づけを試みています。
以下に代 表的なものをいくつか挙げておきまし ょう。
?「荷主に対して物流改革を提案し、 包括して物流業務を受託する業務」 (総合物流施策大綱、九七年) ?「荷主に対して物流改革を提案し、 包括して物流業務を受託する業務。
荷主でもなく、運輸業でもない第 3番目の物流事業者が、荷主企業 から、情報システムを中心とした物 流支援システムの実施を包括的に 第9回 物流アウトソーシングの受け皿として機能し、急速に拡大している のが3PL(Third Party Logistics:サードパーティ・ロジスティク ス)です。
3PLの浸透によって日本の物流は大きく変化する可能性 があります。
今回は、単なるネーミングとしてではなく、物流における 機能、あるいはビジネスモデルとしての3PLについて解説します。
3PLの基礎知識 もり・たかゆき流通科学大学商学 部教授。
1975年、大阪商船三井 船舶に入社。
97年、MOL Di stribution GmbH 社長。
2006年4月より現職。
著書 は、「外航海運概論」(成山堂)、「外 航海運のABC」(成山堂)、「外航 海運とコンテナ輸送」(鳥影社)、 「豪華客船を愉しむ」(PHP新書)、 「戦後日本客船史」(海事プレス社) など。
日本海運経済学会、日本物流 学会、日本港湾経済学会、日本貿易 学会CSCMP(米)等会員。
81 DECEMBER 2006 受託し、ある部分は、専門の輸送 業者に受託し、また、ある部分は 自己で行い、荷主単独では、でき ない混載による専門的かつ高度な 物流を代行する業務」(「2001 日本物流年鑑」物流問題研究会/ 監修・ぎょうせい二〇〇一年) ?「サードパーティロジスティクスは、 輸配送、輸配送管理、在庫・資材 管理、受注管理、顧客サービスマ ネジメント、輸出入管理、ロジステ ィクス情報サービス、ロジスティク ス総合管理など、これらのサービス 2つ以上を組み合わせて提供する こと」( W ・C・コパチーノ稿「4 PL=フォースパーティロジスティ クス」アクセンチュア/輸送経済新 聞社「流通設計」九八年) 企業の物流アウトソーシングニーズ の高まりとともに、3PL市場も成長 していることは間違いありません。
し かし、その市場規模は正確に把握され ていないのが実情です。
矢野経済研究 所が「注目される3PL市場の実態と 将来展望」(二〇〇三年)というレポ ートの中で、二〇〇五年の日本の3P L市場は一兆一四〇〇億円に拡大する と分析しましたが、この数字はあくま でも推定値にすぎません。
日本よりも早く3PLの普及が始ま った米国では、3PLビジネスを展開 する部門がある程度明確に区分されて いるため、市場規模を把握しやすいと されています。
3PLに関する調査研 究も継続的に実施されています。
ある 調査によると、米国の3PL市場はお よそ九兆円で、九〇年代後半以降、毎 年二桁の伸びを記録しています。
米国 の物流市場は全体で約一一〇兆円です から、3PLが全体に占める割合は 八%強となります。
欧米3PLの歴史 米国での3PLは、七〇年代に実施 された規制緩和の影響を受けて誕生し たと言われています。
CLM(Council of Logistics Management=米国 ロジスティクス管理協会、現・CSC MP)が八九年に調査報告書の中で 「Third Party Provider」という用 語を使用して以来、3PLという言葉 への注目度が高まりました。
米国の運輸業は長年、州政府やIC C(州際交通委員会)による厳しい規 制下に置かれてきました。
輸送モード ごとに参入や運賃を規制するとともに、 複数輸送モードの兼営を禁止。
さらに トラック輸送に関しては州をまたぐ運 行を制限するなど規制はかなり厳しい 内容でした。
しかし、七七年の航空貨物規制緩和 法を皮切りに、運輸業を対象にした規 制緩和政策が矢継ぎ早に打ち出されま した。
具体的には、新規参入規制緩和 (免許制から登録制へ)、運賃規制緩和 (運賃タリフ廃止)、複数輸送モードの 兼営制限の撤廃、トラック輸送の州を またがる営業制限の撤廃などです。
一 連の規制緩和は九五年のICC解体ま で続きました。
規制緩和を推進した結果、米国では 運輸業への新規参入が一気に増加。
同 時に運賃自由化や事業者間競争の激化 による運賃水準の低下が始まりました。
八〇年には約一万八〇〇〇社だった物 流企業の数が、新規参入の激増によっ て八六年には約三万六〇〇〇社にまで 拡大しましたが、その後の競争激化で 淘汰も加速。
物流企業の売上高上位三 〇社のうち、二一社が倒産や合併など を通じて市場から姿を消しました。
こうした環境変化の中で、複合一貫 輸送など新たな物流サービスが相次い で誕生するとともに、より付加価値の 高いサービスを提供する物流企業、す なわち3PLが出現しました。
前述し た通り、米国では3PLが登場して以 来、そのマーケット規模は拡大を続け ています。
一方、欧州の3PLはEU統合後の 一連の規制緩和と、それによってもた らされた競争激化を背景に発展を遂げ ました。
EUでは共通運輸政策を通じ て域内輸送の自由化を推進。
九三年に は域内通関業務が廃止されました。
同 年以降、トラック運賃も順次自由化さ れ、九八年にはカボタージュが撤廃さ れました。
こうした状況の中で、欧州の物流企 業たちは米国と同様、より付加価値の 高い物流サービスを提供することで、 荷主企業との関係を密にし、顧客の囲 い込みを図る戦術に出ることになりま した。
その結果、欧州でも相次いで3 PLが誕生しました。
日本の3PL市場は九〇年代後半以 降、徐々に拡大していると言われてい ます。
ただし、日本において3PLが 発展することになったのは、米国や欧 州のように規制緩和が主因ではありま せんでした。
日本での3PL普及の背 景には九〇年代初めに起こったバブル 経済の崩壊があります。
不況によって 業績悪化を余儀なくされた荷主企業が コスト削減策の一環として物流業務の アウトソーシングに踏み切ったことで、 3PLが開花しました。
中国の3PL事情 発展途上国でも3PLの普及は進ん でいます。
例えば、経済発展の著しい 中国では多くの現地物流企業が3PL への転身を図ろうとしています。
現在、 百貨店など流通系企業の物流部門が分 社化を実施、あるいは分社化を計画し ており、しかもそのほとんどが将来は 外資系物流企業とのアライアンス(戦 略的提携)などを通じて3PLビジネ スに進出する意向を示しています。
依然として中国は自家物流が中心で、 物流が産業として未発達の状態にあり ます。
それでも中国の現地企業が3P Lを口にするのは、政府が3PLを奨 励しているからです。
政府の奨励は、 3PLを目指す物流企業に対して政府 から何らかの補助があることを意味し ます。
つまり中国の物流企業は補助金 を目当てに、3PLを唱えているとい うのが実情のようです。
全体として物流の発展が遅れている とはいえ、一部の中国物流企業は最先 端設備の導入を積極化するなど先進的 な取り組みを展開しています。
このよ うに前近代的な企業と、3PLとして 機能できる実力を備えた物流企業が混 在するなど、二極化が顕著なのが、中 国の物流市場の特徴の一つと言えるで しょう。
日系では日本通運をはじめ佐川急便、 ヤマト運輸など大手物流企業が中国進 出を加速しています。
総合商社も中国 での物流ビジネスに力を注いでいます。
また、UPSやDHL、TNTグルー プなど欧米系の進出も相次いでいます。
日系および欧米系はいずれも中国進出 を果たす顧客企業を追いかける格好で、 中国における物流ビジネスを強化して いるのが現状です。
したがって今後、中国では外資系物 流企業を中心に3PLが発展していく 可能性があります。
中国の現地物流企 業の物流投資が依然として輸送インフ ラの整備に重点が置かれていることを 考慮すると、3PLが中堅クラス以下 にまで浸透するにはまだまだ時間が掛 かると言えそうです。
一方、東南アジア諸国の物流市場は 国ごとに細分化されているとともに、 政府による規制なども強固なため、成 熟化が遅れています。
しかし、一部ス タートしたAFTA(ASEAN自由 貿易地域)による貿易の自由化は運 輸・交通分野の規制緩和をもたらすこ とが確実視されています。
もっとも、 現地物流企業が育っていないため、東 南アジアにおいても中国と同様、3P Lは外資主導で進展していく可能性が 高いでしょう。
優秀な人材の育成が不可欠 3PLの主な業務内容をまとめた図 2 からも明らかなように、3PLサー ビスはあらゆる物流機能を対象に含ん でいます。
従来、3PLは生産から販 売までの領域を主にカバーしてきまし たが、現在では調達や返品、リサイク ルといった機能の提供も求められるよ うになりました。
物流診断などコンサ ルティングサービスもメニューとして 用意されており、利用者にとっては物 流をアウトソーシングしやすい環境が 整いつつあります。
物流機能をすべて3PLにアウトソ ーシングする企業も出始めています。
例えば、ドラッグストアのマツモトキ ヨシでは物流業務全体を戦略的にアウ トソーシングしており、統括責任者と しての役員以外は自社内に物流担当者 を一人も置いていません。
マツモトキ ヨシのように徹底した物流アウトソー シングに踏み切っている企業は稀です が、今後はこのようなケースも増えて いくことでしょう。
3PLを受注するためには、従来の 下請的な日常業務を遂行する能力だけ では不十分です。
高度な物流知識はも ちろん、顧客企業のビジネスについて も精通する必要があります。
3PLに は、?高度な物流専門知識と高いサー ビス能力、?荷主ニーズの理解と、よ DECEMBER 2006 82 り高度な提案能力、?情報システム (IT)能力、?フルサービス提供能 力(国際複合一貫輸送など)、?分析・ コンサルティング能力││が求められ ます。
そのためには何よりも優秀な人材が 欠かせません。
3PLビジネスを展開 する物流企業は数多く存在しますが、 各社とも十分な人材を擁しているとは 言えません。
しかも高度で専門的な物 流知識を身につけた人材の教育および 人材の供給体制も必ずしも十分ではあ りません。
大学教育を含めて物流教育 の充実が必要です。
日本での3PL発展の条件 日本において早い段階で3PLとし て名乗りを上げたのは、物流子会社と トラック運送会社、倉庫会社などでし た。
いずれもトラックや倉庫などの資 産を有しています。
つまり日本の3P Lはアセット型からスタートしたと言 えます。
このうち物流子会社は存在そのもの が日本独特です。
海外では物流子会社 がほとんど見当たりません。
日本で物 流子会社が3PL市場に参入すること は、独立系物流企業にとって脅威であ ることは間違いありません。
しかし、 豊富な業界知識や人材、資産を持つ物 流子会社の存在は3PL市場の活性化 に役立っています。
日立物流は日本の3PLの代表格で す。
同社はもともと日立製作所の物流 子会社としてスタートしましたが、い まや3PL事業の収入が売上高全体の三割以上を占めています。
その一方で 日立グループ向け業務の収入は全体の 三割以下にすぎません。
最後に、今後日本において3PLが どのように発展していくかについて触 れておきましょう。
第一に、物流アウ トソーシングの拡大につれて3PLも 発展し、その市場規模も膨らんでいく ことが予想されます。
ただし、定着す るまでには、しばらく時間が掛かりそ うです。
欧米のような「契約がすべて」 というドライな商慣習が日本には馴染 まないためです。
顧客企業が3PLに 対して必要な情報をオープンにしない ことも、日本における3PL定着の足 かせとなる可能性もあります。
第二に、既存の物流企業、商社、コ ンサルティング会社などの異業種が、 現状の3PLサービスとは異なる切り 口を武器にして3PL市場に新規参入 することが見込まれます。
金融・決済 機能が新たなキーワードの一つとなり そうです。
最後は発展どころか、逆に市場の伸 びは鈍化するという見方です。
物流の アウトソーシングは、自社内に長年蓄 積してきたノウハウを失うことを意味 します。
それを避けるとともに、機密 情報保持の観点から、物流を内製化す る企業も少なくありません。
83 DECEMBER 2006

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