ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2006年12号
特集
3PL白書 日本型3PLの事業モデル

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

物流子会社の買収が突破口に 図1は3PLが荷主企業から求められている役割 をまとめたものだ。
ロジスティクスの「改革・改善」、 「設計」、「情報システム構築」など、オペレーション の運用自体よりもコンサルティング機能を問われる項 目が上位に並んでいる。
しかし実際の取引でコンサル ティングフィーの支払われるケースは稀だ。
先進国とされる米国でさえ、3PL事業の売上構 成は、輸送管理とセンター業務、それに付随する情報 システム運営費の三つで占められている( 図2)。
コ スト削減や効率化の成果を、荷主と3PLで分け合 う「ゲイン・シェアリング(成果配分方式)」も定着 はしていない。
3PLによる改革提案は見積書の裏付 けとして評価されているに過ぎない。
提案自体への対 価や、その後の継続的改善を担保する仕組みは現状 では機能していない。
それでも米国では今やフォーチュン五〇〇社の三分 の二が3PLを導入している。
ロジスティクスにコ ア・コンピタンス(競争力の中核)を置かず、ロジス ティクス部門を社内に抱えることにコストメリットを 見いだせない荷主企業にとっては、3PLを活用する ことが既に常識になっている。
一方、物流企業は3PL事業に新たな収益源を期 待している。
規制緩和に伴う競争激化によって輸送や 保管など単機能サービスの収益性は限界まで落ち込ん だ。
しかし宅配便や物流プラットフォーム事業など付 加価値の高いサービスは、シェアがモノを言うため、 各市場カテゴリーで上位三社までに入らなければ生き 残れない。
苦境に喘ぐ物流企業が新たな有望市場の 登場に目を向けるのは当然といえる。
物流業の規制緩和を契機とした運賃の下落、激し 日本型3PLの事業モデル 輸送は傭車中心だが、物流センターは案件ごとに判断 し資産として所有することもいとわない。
荷主との平均 契約期間は3年未満。
決して儲かる仕事ではない。
それで も今後の市場規模拡大が必至な有望市場であり、経営の 最重要課題としてとらえている。
それが日本の3PL企業 の基本的認識だ。
(大矢昌浩) DECEMBER 2006 16 い淘汰、そして3PLの台頭による業界再編というシ ナリオは、日本だけでなく欧米の物流市場にも共通し ている。
ただし3PL企業のビジネスモデルは、その 地域の市場特性や労働環境に大きな影響を受ける。
実 際、米国と欧州ではかなりの違いが見られる。
米国では自らは車両や土地などの資産(アセット) を持たないノンアセット型の3PLが一定のシェアを 確保している。
3PLの普及を追い風に物流市場に 新規参入したベンチャー企業も珍しくない。
米国の労 働力市場が柔軟で、物流不動産の賃貸市場も成熟し ていることが反映されている。
一方、欧州では大手フォワーダーや輸送キャリアか ら3PLに転じたアセット型が3PL市場でも中心 的地位を占めている。
独や仏など欧州の有力国は労 働者保護の傾向が強い。
荷主企業は既存従業員の雇 用問題をクリアしない限り3PLを導入できない。
再 雇用の受け皿となるうえで、老舗物流企業のブランド と資本力が重要な役割を果たしている。
日本は欧州型に近い。
日本の大手荷主の多くはグ ループ内に物流子会社を抱えている。
自家物流の比 率も高い。
しかも九〇年代までは解雇に対する社会的 反発が強かった。
そのため3PLを導入する荷主は、 日本市場に新規参入した外資系や業績の急拡大で物 流まで手が回らないベンチャーなど、雇用問題を心配 する必要のない企業に限られていた。
国内大手メーカーに3PLが普及し始めたのは二 〇〇一年以降のことだ。
ゴーン改革の一環で、日産 自動車がバンテックとゼロ(旧・日産陸送)をMBO (Management Buy Out :子会社経営陣による買収) で売却。
これを皮切りにTDK、富士通、雪印など、 国内主要メーカーによる子会社の売却が始まった。
買い手は国内外の有力3PLだ。
子会社を買収し 分析 17 DECEMBER 2006 既存従業員の雇用を維持することが、親会社の3P L案件を受託する条件となっている。
今後も物流子 会社のM&Aは加速することが予測される。
これによ って3PLが産業界のアウトサイダーからメーンスト リームへと広がっていく。
傭車率は現状五〇%以上 本誌の今回の調査では、3PL案件で使用する物 流拠点と輸送のアセット所有率も尋ねている。
輸送に ついては七割の企業が使用車両の五〇%以上を傭車 に頼っている( 図3)。
運賃が低迷している現状では、 輸送力と品質を維持できる限り、自社で車両やドライ バーを抱える意味はないという判断だ。
一方で物流拠 点の自社所有率については回答が分かれた( 図4)。
日本国内の物流不動産は流動性に欠け、賃貸市場も 整備されていない。
荷主の必要とする物件の確保は容 易ではない。
それだけに物流拠点を資産として所有す ることが競争上有利に働くケースが少なくない。
今後、日本の3PL市場では、その市場環境を反 映して、物流子会社の買収と既存従業員の雇用の受 け入れ、さらには物流拠点の所有もいとわないアセッ ト型の3PLが主導権を握ることになりそうだ。
ベン チャー的なノンアセット型3PLの入り込める余地は、 今のところほとんどない。
しかし環境は常に変化する。
物流不動産ファンドの 乱立によって物流拠点の賃貸事情は急速に柔軟性を 増している。
逆に傭車市場はドライバー不足と景気回 復の影響で需給の逼迫が顕著になってきた。
輸送力の 安定供給を維持するために、3PLは近く傭車比率 の見直しを迫られる可能性がある。
市場環境に合わせ て柔軟にビジネスモデルを修正する適応力が、3PL に求められている。

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