*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
日本にも3PLが浸透してきたといわれる。 確かに
外資系や中堅以上の荷主企業のロジスティクス担当
者であれば、今や誰でも3PLを知っている。 しかし、
それ以下の規模の荷主となると話は違ってくる。 3P
Lという言葉は聞いたことがあるけれど、具体的に何
を指すのかわからない、あまり興味もない、といった
ところが多くの荷主企業の実情ではないか。
理由の一つは、3PLの導入メリットがはっきりし
ないことにある。 3PLの本当の成果は、運営開始か
ら一定期間を経てみないとわからない。 通常で数年は
かかる。 その間にも当然、荷主の物流環境は変化する
ため、成果の数値化が難しい。 それに加えて、運営開
始後の継続的改善が、多くのケースで荷主の期待通
りには進んでいない。
日本の3PLも提案のプロセスはかなり充実してき
た。 しかし、後工程にはまだ多くの課題を残している。
そもそも現状の改善によるコストダウンは、3PLに
とって単に売り上げ規模が小さくなるだけだ。 ゲイ
ン・シェアリング(成果配分方式)を導入していない
限り、3PL側には継続的な改善への動機付けがな
い。 しかも現場の運営ノウハウは、元請けの3PLよ
りも、実際に現場を運営している下請け企業のほうが
上である場合が多いのである。
地域性のしがらみ
先日、化学品メーカーA社の物流コンペをサポート
した。 A社は外資系ながら、国内の某地方港のそばに
自社工場を構えている。 そこから海外や国内市場向け
に出荷する製品の管理を3PLに一括して委託しよ
うというコンペだった。 A社の支払い物流費は年間約
六億円。 3PL案件としてミドルクラスの規模はある
が、最終的にパートナーとなった3PLには、A社が
工場の隣接地に所有する土地を物流センター用地と
して賃借することが期待されていた。
コンペの開催に当たってA社は工場の既存の協力
物流会社に参加を呼びかけるとともに、我々日本ロジ
ファクトリー(NLF)にも候補となる3PLの推薦
を依頼した。 我々はA社の求める業務内容や地域性
に配慮して、大手特積み会社や物流子会社、港湾系
物流企業など、タイプの違う有力3PLを数社ピック
アップして、候補に挙げた。
個人的には、そのうち大手化学品メーカーの物流子
会社B社で決まるだろうと予想していた。 もともとB
社は親会社向け業務の経験があるため、化学品のオペ
レーションに慣れている。 A社の工場のそばに親会社
が工場を構えているので土地勘もある。 しかも親会社
とA社の製品は市場でバッティングしていない。 A社
の所有する土地を使うという話も、事前のヒアリング
から問題ないという感触を得ていた。
条件は揃っていたはずだった。 ところがコンペの直前になって、B社から「今回は辞退させていただく」
との連絡が入った。 聞けば、B社がアンダーで使おう
と考えていた地場の運送会社が、A社のコンペに既存
協力会社として多数参加することが分かったからだと
いう。 B社の提案は、そうした地場の運送会社のコス
トにマージンを加えたものにならざるを得ない。 コス
ト面での勝算がないという判断だった。
地域的な制約もあったようだ。 東京や大阪などの大
都市とは違って、地方の物流市場には、いまだに縄張
り的なしがらみが存在する。 地元の有力物流企業が受
託していた仕事をコンペで奪いとる格好になった3P
Lが、事業者間の調整で下手にシコリを残せば、新体
制移行後の日常業務に支障をきたす恐れがある。
私はB社の話を聞いて、まだまだ日本には3PLが
孫請け管理で現場に差がつく
荷主と3PLとのパートナーシップの重要性は既に繰り返し
指摘されている。 しかし3PLと現場運営を担う協力会社との
パートナーシップには、いまだ十分な配慮がされていない。 そ
こをクリアしない限り、日本の3PL市場は期待されているほ
ど拡大しない。
DECEMBER 2006 32
事例に学ぶ現場改善《特別編》
日本ロジファクトリー青木正一代表
33 DECEMBER 2006
根付いていないと痛感せざるを得なかった。 3PLに
は高度な管理機能が求められる。 A社のコンペでも地
場の物流企業側からB社に対してアンダーで使って欲
しいと依頼してくるのが、本来の姿であるはずだ。 と
ころが実態は逆だ。 3PLよりも地場運送企業のほう
が優位に立っているのである。
フリーアセットを目指せ
ノンアセット系の3PLが日本市場では機能してい
ない。 ノンアセット系をうたっている3PLの多くは、
荷主と下請けを仲介するだけの、いわゆる?水屋〞
(運送の仲介)の域を出ていない。
本来、3PLはアセット系かノンアセット系かでは
なく、フリーアセットが最も適している。 緊急輸送や
繁忙期の物量に対応するためには、一定のアセットを
持っていたほうが有利だ。 しかしアセットを持ち過ぎ
ると今度は自由度がなくなる。 自社倉庫を埋めること
や、自社配送網の活用が先に立ってしまう。
目安としては一〇〇の仕事に対して五〇のアセット
を所有していれば、フリーアセット型の3PLが成立
する。 これは3PLに限った話ではない。 私は日頃か
ら倉庫会社などには一〇〇の倉庫スペースに対して一
五〇の仕事を受託するようにアドバイスしている。 足
りない五〇は借庫でまかなう。 そして仕事が減った時
は返せるようにしておく。 それによって安定的に利益
を確保できる。
輸送も一〇〇%を傭車でまかなうのは危険だ。 マク
ロ的にみて物量は低迷しているといっても繁忙期には
車両が足りなくなる。 傭車率を高くしたいのであれば、
協力輸送会社との関係作りに日頃から配慮しておく
必要がある。 大手メーカーの物流子会社の場合、親
会社のブランド力や信用力があるため比較的傭車の確
保も容易だ。 ただし、専属的に使っている小規模な協
力輸送会社の車両は、自社アセットと事実上ほとんど
変わりがない。 協力輸送会社を力で囲い込むのではな
く、繁忙期でも優先的に車両を回してもらえるような
関係を仕組みとして作っておくべきだ。
名古屋にM社という中堅運送会社がある。 年商は
五〇億円規模だが、水屋業がメーンで自社保有車両
台数は五台程度。 しかし繁忙期でも、きっちり車両を
確保している。 M社の社長は暇さえあればインターチ
ェンジの駐車場に足を運び、休憩しているトラックド
ライバーに名刺を配って回る。 「荷物がないときは連
絡してこい。 配車係に名刺を渡しておいてくれ」とい
うわけだ。 ここまではそれほど珍しい話でもない。
それに加えて、M社は協力会社に対する支払いを他
の運送会社よりも前倒しで処理している。 元請け運送
会社と協力会社の間の支払いサイトは通常一カ月以
上。 それに対してM社は仕事の終わった翌日に協力会
社の口座に現金を振り込む。 そのため資金繰りがタイトになる繁忙期ほど、M社の仕事には車がつく。
一方で大手3PLの下請け現場は赤字の場合が少
なくない。 もちろん赤字の仕事など受ける方が悪いと
いう理屈はあるだろう。 しかし、協力会社としては売
り上げ規模が大きいため容易には手を引けない。 元請
け3PLに足元を見られている。 赤字を他の仕事で穴
埋めすることで、何とか食いつないでいるというのが
多くの下請け会社の実情だ。 それでは長続きはしない。
しかし荷主企業側には、そうした3PLの実力を見
極める力がない。 そのためブランドに頼る。 荷主企業
と3PLの双方が両輪となってスキルを上げていかな
いと、日本の3PL市場の拡大はおぼつかないだろう。
その意味で日本の3PLは、まだ創生期を脱していな
い。
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