ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年1号
SOLE
存在感増すSPA型アパレル成功のカギは?リアジャル〞

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

や市場に関する情報を豊富に持つ ようになった消費者は次々と商品 選別の基準を更新していく。
その 結果、プロダクト・ライフサイクル はますます短期化することになる。
こうした成熟市場において競争 力を獲得するためには、従来のよ うな、サプライチェーンにおいてム ダな在庫を極力削減するリーン (lean:贅肉の無い)なSCMを目 指すだけではなく、めまぐるしく変 化する市場環境に俊敏に対処でき るアジャイル(agile:俊敏な)S CMを同時に実現しなければなら ない。
コストダウンによる価格競 争力の向上に加え、価値ある商品 の市場への迅速な投入が重要にな ってくる。
こうした傾向はわが国に 限らず世界的な流れといえよう。
マーティン・クリストファーとデ ニス・トゥイルは、競争のみならず 変化も激しい市場環境では単一の SCM戦略は通用せず、ハイブリ ッドなSCM戦略が必要であると 主張。
リーンでアジャイルな統合 的SCMを実現することの重要性 SOLE日本支部では毎月 「フォーラム」を開催し、会員相 互の啓発に努めている。
十一月 のフォーラムでは、近年成長著 しい製造小売型(SPA)の衣 料品小売業における国際調達の 仕組みについて横浜商科大学の 橋本雅隆教授が報告した。
ハイブリッドなSCM SPAと呼ばれる、製造小売型 のアパレル小売チェーンの業績が 好調だ。
衣料品部門を抱えるGM S(総合スーパー)が低成長と低 収益性に喘いでいるのとは対照的 である。
好調なSPA企業の特徴 は、粗利益率と在庫回転率の改善 を同時に進めてきたことにある。
こ こに、SPA型アパレル小売チェ ーンの躍進の仕組みがみてとれる。
わが国の消費市場は極めて成熟 しているといえる。
低価格でも質 の悪い商品は売れないし、また高 品質であっても十分に競争力のあ る価格でないと売れない。
しかも 潜在的に供給過剰の状態で、商品 JANUARY 2007 86 SOLE日本支部フォーラムの報告 存在感増すSPA型アパレル 成功のカギは?リアジャル〞 The International Society of Logistics を説いている(参考文献1)。
近年、こうしたハイブリッドな SCMを、リーンとアジャイルを 合成し?リアジャルSCM〞と称 している。
また、クリストファー、ロバー ト・ローソン、ヘレン・ペックは、 近年、ファッション関連企業が人 件費節減のために海外調達を行っ た結果、リードタイムが長期化し ていると指摘した。
ファッション市場における競争優位性を確保する ためには、 ? 市場ニーズを発見してから、そ れを商品やサービスに具現化し て市場に投入するまでのリード タイム(タイム・トゥー・マーケ ット) ? 受注してから商品を小売店頭に 届けるまでのリードタイム(タイ ム・トゥー・サーブ) ? 需要の移り気な変化に対応する ためのリードタイム(タイム・ト ゥー・リアクト) ――の三つのリードタイムを管理 する必要があるとしている。
(参 考文献2) 急成長ハニーズもリアジャル SPA型アパレルチェーンの好 87 JANUARY 2007 業績を可能にしている仕組みを、リ アジャルSCMの観点から分析し てみよう。
事例としてハニーズを取 り上げてみる。
福島県いわき市にある株式会社 ハニーズは婦人衣料のSPA企業 で、ショッピングセンター内など全 国に五五〇店舗を展開している(二 〇〇六年六月現在)。
売上高は四一 四億四三〇〇万円(二〇〇六年五 月期)で対前年比三八・八ポイン ト増の伸びを示しており、営業利 益率も一五・九七%と良好だ。
同 社の急成長の要因は、二〇〇〇年 二月以降に製品の調達先を韓国や 中国に移転したことにある。
?延期的なオペレーション体制 商品企画・開発は基本的に自社 で行う。
商品企画は週単位のサイ クルで行い、自社内のデザイナー と中国工場の担当者との密接な連 携により、発注後三〇〜四〇日程 度で生地調達、染色、裁断、縫製、 整理仕上げ、検品・検針を行う。
い ずれにしても、一週間サイクルの 商品開発は、市場の動向をぎりぎ りまで見極める延期的(注1)な 体制を実現している。
?海外生産と国際直接物流 生産は中国の上海と青島の縫製 工場に委託している。
海外の物流 拠点は上海と青島に置き、国内で は福島県いわき市に自社物流セン ター(福島DC)を設けている。
発注時点で生地調達・生産着 手・裁断・縫製・染色・仕上げ・ 出荷・3PL物流センター入荷・ 船積み・入港・荷揚げなどの各段 階の日程と納期を決定し、福島の 本社で中国の工程進捗状況をモニ タリングする。
青島、上海の工場から中国の3 PL物流センターに集荷した商品 は、検針・検品の後、日本国内の 店舗別に仕分け梱包(?店舗パッ ケージ〞と称する)し、日本国内の 店舗に近い港にコンテナ満載で混 載輸送する。
港に荷揚げされた商 品は特積貨物運送業者の配送拠点 を経由して、当該特積貨物運送業 者のネットワークで日本全国の店 舗に直接納品される。
この初回投入から一週間後に、福 島DCに残りの発注分を総量納品 しておき、各店舗の売れ行きに従 って補充する。
このように、生産開始から市場 への投入はスピーディーで、なおか つ小ロット混載型の国際直接物流 によって無駄な在庫を持たず、ハ ンドリング・コストも最小化する 仕組みが整っているといえよう。
?売り切り型の販売戦略 ハニーズでは現在四ブランドを 展開しており、各店舗はこれら四 ブランドを複合した品揃えを行っ ている。
販売消化をみながら福島 DCから追加補充するので、各店 舗は常に売れ筋ラインを確保でき る。
また、四ブランドのバランスを 自動的に調整して、商圏ごとの需 要特性を店舗での品揃えに反映できる。
一部の定番商品以外は中国の委 託工場に対して追加発注をかける ことはほとんどなく、「売り切り不 補充」が原則で、商品の消化状況 をみながら早め・小幅の価格調整 を行う。
さらに売れ残りは福島の 物流センターに回収して店舗間の 移送を行うが、その比率は極めて 低い水準に収まっている。
仕組みで販売リスクを吸収 ハニーズの例から、リアジャルS CMの要点を整理してみよう。
まず、極めて延期的で迅速かつ 多サイクルの自社商品開発体制で ある。
これがクリストファー等の指 摘する?タイム・トゥー・マーケ ット〞の短縮につながる。
また、小ロットで迅速に商品を 市場に投入するためのすばやい意 思決定、CAD(C o m p u t e r Aided Design:コンピュータ支援 によるデザイン)・CAM (Computer Aided Manufacturing: コンピュータ支援による製造)の 活用、検針・検品・流通加工の現 地集約化、現地物流センターでの 店舗パッケージ仕分け、コンテナ 混載海上輸送と国内特積貨物業者 の個配ネットワーク活用による店 舗までの直接物流の仕組み等は、 ?タイム・トゥー・サーブ〞の短 縮を実現する。
さらに、店舗での売り切りの仕 JANUARY 2007 88 に対して延期と投機のバランスをとるこ と。
■参考文献 ? Martin Christopher and Denis Towill, (2001) “An Integrated model for the design of agile supply chain”, International Journal of Physical Distribution & Logistics Management, Vol.31 No. 4, pp. 235-246. ? Martin Christopher, Robert Lowson and Helen Peck, (2004) “Creating agile supply chain in the fashion industry”, International Journal of Retail & Distribution Management, Vol. 32 No. 8, pp. 368- 376. ?橋本雅隆、小林二三夫、加藤孝治、今 井利絵(二〇〇六)『小売業のグロー バル化と国際調達ネットワークの方向 性』日本貿易学会年報第四三号七六〜 八六ページ ?橋本雅隆、小林二三夫、加藤孝治、今 井利絵(二〇〇六)『小売業の国際調 達ロジスティクス戦略』日本物流学会 組みと次の変化に対応する商品の 切り替えスピードの速さは、?タ イム・トゥー・リアクト〞の短縮 を意味している。
このように、小売業の側で販売 リスクを吸収できるメカニズムをは じめから事業の仕組みに組み込ん でいる点に着目すべきであろう。
これらは、「確定情報によるネッ トワーク制御」ということに他なら ない。
どの商品をいつからどの店 舗でいつまでに何枚売るかが発注 時点で確定しているため、現地の 物流センターで店別のピッキング とコンテナ混載輸送(バイヤーズ・ コンソリデーション)を実現できる のである。
これは、不確実な予測・ 計画情報に基づく大まかな総量調 達と事後的な販売処理とは全く異 なる事業システムだ。
このことは、グローバルSCM においては、マーケティング戦略と ロジスティクス戦略を統合した仕 組みが不可欠になることを示唆し ていると考えられる。
注:延期と投機 実需の発生ギリギリまでオペレーショ ンをひきつけるのが延期(postponement)。
見込みでまとめてオペレーションし、規 模の経済性を発揮して効率化するのが投 機(speculation)。
SCMの基本は実需

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