ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年1号
グローバルSCM
サプライチェーンを統合する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

別化とお客様への高い価値の提供を実 現し、お客様とIBMの成長を継続す る。
そして、プロセスの効率化と経済 性の飛躍的な向上により、成長を持続 させる。
お客様の期待にお応えし、激しいビ ジネス競争に打ち勝つには、これを実 現する新しいビジネスモデルの確立が 必要であった。
IBMは、「テクノロジー・リーダ ーシップに裏付けられた深い洞察力で ビジネス・プロセスを変革していく時 代が来る」と考えていた。
社内の供給 方法の改善にとどまらず、会社全体、 サプライヤー、ビジネス・パートナー、 そしてお客様を含めたEnd to End(E2E)で統合されたサプラ イチェーンを確立することで、サプラ イチェーンを競争力の優位性を発揮で きるレベルにまで高めることが必要と 考えていた。
初めに、ビジョンに基づき「ISC (Integrated Supply Chain)」の組織 を形成する必要があった。
変化を促し、 継続的に成果を出し続けるために、 ?E2Eでの能力を確立するとともに、 それぞれの機能の変革・強化を行 う ?固定費を削減し、インフラを柔軟な 構造へと変える ?グローバルに共通のプロセスとテク ノロジーを導入する ?ガバナンスを確立し、パフォーマン ス・ゴールと報告手順を徹底する ?カルチャーの変革を行い、変革を担 う人財を重視し、そのスキルの向上 を図る ――という流れで進めていった。
一万七〇〇〇人のSCM部隊 二〇〇二年一月、IBMはそれまで 事業部ごとに管理・運営していたサプライチェーンをグローバルで一つの組 織に統合することを発表した。
IBM 自らが変革し、その成果をお客様にお 届けする試みの第一歩であった。
この統合された組織をIBMではI SCと呼んでいる。
サプライチェーン を、IBMがビジネスを拡大するため の重要な領域として位置づけた。
ISCはIBMの大部分の機能を抱 合し、そのプロセスは一つの統合され ITバブル崩壊を出発点に 二〇〇〇年初頭、ネットバブル崩壊 の影響から、多くのIT企業が厳しい 業績を余儀なくされていた。
一方でお 客様はビジネスの継続的な成長とその ための投資を望んでいたが、IT分野 に投資することの価値には懐疑的にな っていた。
こうした背景を受け、IBMは業界 のリーダーとして自身が変革し、変革 の効果を実証することで、お客様に新 たな価値をお届けすることを目指した。
IBMの具体的な「変革」の取り組 みのひとつが、サプライチェーンの統 合である。
この統合は、次のような考 え方に基づいている。
変革することで製品やサービスの差 JANUARY 2007 78 統合管理とは何か。
どうすれば実現できるのか。
それによって何がも たらされるのか――IBMは四年間にわたるグローバルなサプライチェ ーン改革によって、約二五〇億ドルのコストを削減し、十五億ドル以 上のキャッシュを生み出すことに成功した。
その軌跡を振り返り、サプ ライチェーン統合の方法論を解説する。
サプライチェーンを統合する 第1 回 たチェーンで構成されている。
プロセ ス統合の結果、組織構成は事業部ご との縦型の構図ではなく、それぞれの プロセスが連携しあって、どのように お客様に価値をお届けするかを示す 横型のものになった( 図1)。
ISCの設立以前、IB Mにはグローバルレベルで のサプライチェーンという 名称の組織はなく、同じよ うな機能が各事業部に分散 していた。
各事業部では製 造や購買などの部門が限ら れた範囲のサプライチェー ンを構成しており、事業部 全体の統轄にしてもサポー ト機能としてアドバイスや ガイダンスを行う役割が中 心であった。
そのため、実際のビジネ スを行っている組織の中に サプライチェーン・マネジ メント(SCM)はあまり 浸透していなかった。
世界 でトップクラスの製造、調 達、グローバル・ロジステ ィクスを持っていたが、サ プライチェーンの機能は統 合のレベルにまで達してい なかった。
IBMはハードウエアや ソフトウエアの開発・製造、 ITソリューション、コン サルティングによるビジネ スソリューションの提供を行い、世 界で最大規模のサプライチェーンを 構成している企業である。
世界中に 三万三〇〇〇のサプライヤーと四万 五〇〇〇のビジネス・パートナーを 持ち、毎年七万八〇〇〇製品に対し て三〇〇万件に及ぶコンフィギュレ ーションを行い、年間で二〇億ポン ド(九〇万トン)を超える製品と部 品の輸配送を行っている。
ISCはIBM全体のコストと費用の約半分を管理している。
その機 能は五六カ国一〇〇拠点に配置され、 延べ八〇以上の言語を話す一万七〇 〇〇人の社員が支えている。
サプラ イチェーンの統合は、このような大規 模なオペレーションの統合であった。
二五〇億ドルのコスト削減 改革に着手した二〇〇二年当時は、 機能の統合やサプライヤーとの連携 による効率性の向上、費用の削減が 中心だった。
機能の統合により五〇 億ドルのコストと費用を削減し、e ‐プロキュアメント(電子調達)ツ ールの導入により四億三〇〇〇万ド ル以上の費用を削減した。
また、お 客様からの引き合いに対する見積り 依頼から発注までのリードタイムを 二〜三週間から二時間に短縮したほ か、売上金の回収期間を四日間改善 した。
さらに二〇〇三年、IBMは「オ ンデマンド・ビジネス」を新たなビジ ネス戦略として発表した。
それに合 わせ、「統合されたサプライチェーン」 を変化に機敏に適合できる「オンデ マンド・サプライチェーン」へと進化 させた。
また、二〇〇二年度の成功を経て、 二〇〇三年度以降はISCの統合化 範囲を製造、プロキュアメント、グロ ーバル・ロジスティクスから、カスタ マー・フルフィルメント、GARS ( Global Asset Recovery Service 注1)、ソフトウエア・デリバリー& フルフィルメント、BTO ( Business Transformation Outsourcing 注2)、サービスパー ツ・デリバリーへと積極的に拡大し ていった。
これにより二〇〇二年から二〇〇 五年の四年間で約二五〇億ドルのコストを削減し、一五億ドル以上のキ ャッシュを創出した。
また、過去三 〇年間で最も少ない在庫水準を達成 し、セールス関連の生産性を二五% 向上させた。
さらに、九五%のオン タイム・デリバリーとほぼ一〇〇% のVMI(Vendor Management Inventory:ベンダー主導型在庫管 理)を実現した。
79 JANUARY 2007 を一つずつ持っていた。
しかし、ビジ ネス環境が大きく変化し、組立中心 の製品からテクノロジー主導の製品 にシフトした。
製品の高付加価値化のために継続 的な設備改善の投資が必要になって きた。
その結果、ものづくりは、世界 中で最もコスト効果のある場所で、事 業間の垣根を越え一極集中で運営す ることが効率良くなってきた。
EM S(電子機器の受託製造サービス)か らの購入が増加し、材料や部品単位 の購入よりもユニット品の購入が増 えた。
こうした環境下では、ソーシング 戦略が最重要である。
事業を高いレ ベルで行うために、全社に渡るグロー バルなソーシングの一元化が必要に なった。
ISC設立以前は、ソーシングは 事業部ごとにプランを策定し、各事 業部の統括部門であるPMC (Product Management Center)が グローバルに協議してそれを承認・ 管理していた。
しかし、どこの事業 部でも自身の事業や工場を投資先と して優先してほしいという考えが強く 働き、結果として自身の事業や工場 の価値を正当化する案が多かった。
そ のため、全社的な観点で最適な判断 に基づいた投資が行われていない場 合もあった。
ソーシングを戦略的に決定し、工 場の再編や最適なソーシングを実施 するには、本社の強いリードで各事 業部を大きく取りまとめることが必 要であった。
全社的な変革を行うにあたり、最 も難しいのは戦略の確実な実行だ。
会 社を成長させるためには、戦略的に 重要なエリアに最適な資源を投入す る必要がある。
社内の他活動から必 要な資源を吸い上げ、優先順位の高 い活動に投入する。
単純だが、実行 が極めて困難な仕事である。
こうし た資源の配分を適切かつ確実に実行 する力がないと、どんなにすばらしい 戦略を描いても「絵に描いた餅」で 終わってしまう。
ソーシングを行う上でコスト効果 を享受できる地域は、労働賃金、税 金、ロジスティクスのコストが安い所 だ。
例えば、現在ではハンガリー、チ ェコ、中国などになる。
野洲(日本)、 マインツ(ドイツ)、ボルドー(フラ ンス)、ベルリン(ドイツ)などの工 場を閉鎖し、世界で約四〇あった工 場を一〇工場程に集約した( 図2)。
新しいソーシング戦略のもと、「一 プラント・コンセプト」として、製品 ブランドや事業に直接的に影響され ない工場造りを行った。
ハイエンドか らローエンドまで、製品デザインの共 通化も徹底した。
また工場だけではなく、事務オペ レーションも低コストの地域に展開 した。
例えば、資産管理はチェコ、購 買のオペレーションは大連、総務や これらの成果により、二〇〇二年 にはSupply Chain Technology News 社のサプライチェーンのランキングで テクノロジー・インダストリーにおい て一位、二〇〇四年にはお客様満足 度調査で一位、二〇〇五年にはAM Rリサーチ社のサプライチェーンTO P二五社で第三位を獲得した。
オペレーションの統合 サプライチェーンを統合するに至っ た大きな理由の一つは、ソーシング (製造場所・調達先)の判断、つまり 投資や売却(Invest/Divest)の判 断をさらに戦略的に行う必要があっ たからだ。
IBMは株主への還元を重視し、高 い利益率を目指している。
他社と差 別化できる製品の提供に注力し、液 晶、ハードディスク、PC等のコモデ ィティー化した事業は、他社に委託 するか売却し、IBM本体の事業か ら分離する戦略を実行してきた。
高 い利益率を維持するためには事業の 選択が重要であり、ソーシングの判 断は長期的視点で、戦略的かつ迅速 に対応してきた。
かつては内製化が主体で、地域に よって生産場所を管理する目的で、ア メリカ、欧州、アジア太平洋といっ た地域ごとに製品ブランド別の工場 JANUARY 2007 80 人事の手続きはフィリピンなどだ。
日 本向けのコールセンターはオーストラ リアにあり、電話やメールで問い合わ せると日本語で対応してくれる。
サプライチェーン革命 IBMの考えるオペレーション統 合とは、ビジネスを実行するための一 つひとつのプロセスを変革し、我々の あらゆる行動がお客様への利益に貢 献することだ。
お客様に価値を提供 するためには、他の部門と緊密に連 携することが不可欠だ。
部門間の壁 を越え、主要なパートナー企業とオ ペレーションを連携することも重要に なる。
ISCの実現にあたっては、会社 全体のサプライチェーンを最適化す るというニーズと、自部門のサプライ チェーンを最優先に考えている各ビ ジネス・ユニットのニーズとの整合性 を図り、両立させることが必要であ った。
IBM自身の変革のために、業 務オペレーションをマネージする新し いビジネスモデルを作ることをビジョ ンとし、ビジネスのやり方を変えるこ とに注力してサプライチェーンの統合 を始めた。
コスト削減や業務効率の向上だけ ではなく、全社的にサプライチェーン を変革することによって、どのように 生産性を向上させ、会社を成長させ るか、そしてお客様にご満足いただけ るか、これらの点を考慮し実践した。
セールス・オポチュニティー(販売 機会)の確認からキャッシュの創出 まで、サプライチェーン全体の機能と E2Eな連携にフォーカスし、チェ ーン全体を通して各機能の結び付き を理解しアウトプットを最大化すべ く、各機能間のインターフェイスの 連携について徹底的に考えた。
これ はサプライチェーン革命であり、サプ ライチェーンのコンセプトをIBMの すべての部門に浸透させ、オペレーシ ョンを飛躍的に向上させることでも あった。
まずはサプライチェーンの複雑なプ ロセスを簡素化することから始めた。
例えば、注文書処理システムの統合 では、最初のセールス・オポチュニテ ィーの確認から製品の出荷・請求ま での数百におよぶプロセスの統合を 行った。
具体的には、オポチュニティーの 確認、オーダーの生成、価格の設定、 お客様情報の取得、与信の管理、オ ーダーの検証、スケジューリング、ス テータス情報の配信、出荷、請求に 及ぶ一連のプロセスとシステムをまた がって、業界標準となるようなオーダ ー情報のフローを確立した。
ISC の各機能、IBMの各組織、主要な パートナー企業のコラボレーション (協働)に基づく正確な情報の流れが 必要であった。
統合されたプロセスの確立により、 人手を介することなくオーダーを受 領し、処理することが可能になった。
また、情報の精度も飛躍的に向上し、 お客様に必要な情報をお答えするま での時間が大幅に短縮した。
プロセ スを簡素化し無駄な再処理を減らすことにより、大幅なコスト削減が実 現できた。
製造からお客様サイドでの製品の 設置まで、プロセスを細かく観察し お客様視点ですべてを見直した。
ま た、ラベル位置の移動やパッケージの 変更など小さな改善も継続的に行っ た。
このような小さな積み重ねがお客 様の満足度向上をもたらしたと確信 する。
現在では、お客様サイドで製品の 設置をする社員が、どんな作業を行 い、何を求めているのかをスタッフ全 員が理解しようとしている。
例えば、 ある社員が製品にホイールを付けた らお客様の設置が楽になるかもしれ ないと提案すると、それについてスタ ッフ全員で考え、その日の終わりに は実行する。
これがIBMの目指す、 お客様視点に立った変革であり、サ プライチェーンの統合なのだ。
注1:GARS(Global Asset Recovery Service) IGF(IBM Global Financing)がお客様 にリースで提供し返却されてきたIT機器 を、IBMが保守可能な品質なレベルに再 生して再販したり、または機器を分解しパ ーツとして修理や保守に再利用したりする サービス。
お客様のIT資産を買い取り、再 生、再販するARS(Asset Recovery Solution)も提供している。
GARSは、リ ユース・リサイクルを通じて環境問題に貢 献している。
注2:BTO (Business Transformation Outsourcing) 単なる業務受託ではなく、お客様との長期 に渡るパートナーシップのもとで、ビジネス モデル・デザインから個々の業務の運営、継 続的なBPR(ビジネス・ プロセス・リエ ンジニアリング)、ITシステムの実現・支 援・運用までを引き受け、業務プロセスの 抜本的な変革および、その継続的な改善を 実施することによりお客様のビジネスに直 接的に貢献する包括的な「企業変革を目的 とした業務委託」サービス。
81 JANUARY 2007 もうり・みつひろ シニアマネージングコンサルタント 製造業、外資系コンサルティング会 社を経て日本IBMに入社し、IBMビ ジネスコンサルティングサービスに 出向中。
現在、ロジスティクス・サ ービスの日本及びアジア・パシフィ ック地域のリーダー。
これまで多く のSCM/ロジスティクスの改革に従 事。
上流から下流まで幅広いプロジ ェクト経験を持ち、グローバルに展 開するプロジェクトの経験が豊富。

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