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経験頼みの管理に限界
売り上げは着実に伸びていた。 だが、それ
以上のペースで在庫が増えていた。 「倉庫を
増やしても増やしても足りなかった。 規模の増加に物流の対応が追いつかなくなっていた」
と、スーパー・コンビニ向け簡易食品トレー
で四割近いシェアを握るエフピコの物流子会
社・エフピコ物流の久保隆徳社長は振り返る。
エフピコの二〇〇六年三月期の連結売上高
は一二六八億円、一〇期以上連続で増収を
達成している。 ただし棚卸資産回転期間は二
〇〇〇年三月期の一・三六カ月から〇一年
三カ月期には一・五一カ月、〇二年三月期
一・六四カ月、〇三年三月期は一・七四カ
月と膨らんでいた。 外部倉庫を借り増して、
保管スペースの不足をしのぐという対処療法
を繰り返した結果、それに比例して保管費用
がかさみ、周辺に分散した拠点の状況を把握
することも困難になっていた。
生産計画と在庫の配分に問題があった。 同
社は北海道から九州まで全国十三カ所に工場
を配置し、工場の近隣に計八カ所の物流拠点
を構えている。 取り扱いアイテムは規格品約
八〇〇〇、別注品約四四〇〇の計約一万二
〇〇〇で、販売先は約二〇〇社。 納品先は数
千件に及ぶ。
どの工場でいくつ生産するか、どの倉庫に
何を在庫するかを、こうした各種の制約条件
を勘案し、担当者が経験に基づいて判断して
いた。 九九年に経営戦略室長として入社し改
革プロジェクトの担当役員となった佐藤守正
副社長は、「人間の頭じゃ無理な話。 最適化
ソフトも使わずによくやっていたと思うが、
全体最適からはほど遠かった」と率直に言う。
また従来の体制では、営業/工場/物流の部門間でお互いの情報が見えていなかった。
在庫管理は物流拠点ごとに行い、過去の実績
に基づいて設定した安全在庫数を割り込まな
いよう、拠点間で在庫を横持ちして欠品を防
いでいた。
物流部門からは工場の生産計画が見えない
ため、完成品在庫の範囲でしか在庫管理がで
きなかった。 安全在庫として設定している三
日分の在庫を割っても、隣接する工場から二
日以内に製品が入ってくるのであれば欠品は
しない。 しかし工場からの入荷予定が把握で
きないために、他拠点から不要な横持ちをか
情報システム
エフピコ
IT刷新で情報を「見える化」
年間物流コストを30億円削減
JANUARY 2007 44
33億円を投じて社内の情報システムを刷新した。
SCMソフトを活用し、全国13工場の生産活動と在庫
配分を最適化。 欠品を抑えると同時に在庫量を大幅
に圧縮し、年間30億円の物流コストを削減した。 情
報の「見える化」によって納期回答の精度が上がり、
顧客満足度も向上した。
けるようなケースも珍しくなかった。 拠点間
の横持ち費用は年間二〇億円を超えていた。
三三億円投じてITインフラを刷新
二〇〇〇年、社内の情報システムの刷新に
着手した。 従来は八三年に導入した基幹業務
システムを使っていた。 受発注や請求、支払
いなど、経理的な機能を中心に構成されたシ
ステムだったため、実際の業務をサポートす
る機能は不十分だった。
これまで担当者のカンやコツに頼っていた
業務を高度化し、さらに各部門の情報を全社
的に統合し、情報を経営に生かす仕組みを構
築することを目指した。 計画業務(SCM)、
物流業務(WMS、TMS)、基幹業務(E
RP)、営業支援(SFA)を備えた、戦略
的統合システムだ。 投資額はトータルで三三
億円に上った。
このうち販売計画(需要予測)と生産計画
を立案するSCMソフトには、米アスペンテ
ック社の「MIMI」を採用した。 採用のポ
イントは、金型の移動コストまで計算できた
ことだ。 マニュジスティックスやi2テクノ
ロジーのソフトも検討した。 だが、これらの
ソフトは製品そのものを作るコスト、製品の
移動コスト、製品の保管コストは計算できて
も、生産設備としての金型を移動したらどう
か、その場合の移動時間やコストはどうかと
いった部分まで管理する機能がなかった。
「当社の場合、製品在庫の移動コストを弾
くだけでは、導入の効果は薄いと考えた」と
佐藤副社長は語る。 材料の種類やトレーを成
型するための金型を工場間で融通すれば、生
産する工場を移動したり分散したりすること
が可能だ。 金型を移動して消費地に近い工場で生産すれば、製品の移動コストは抑えられ
る。
ただし、生産ロット、金型の移動コスト、
リードタイム、倉庫のキャパシティー、さら
に各工場の生産スケジュールと欠品が発生し
たときのペナルティーまでを考慮して、最適
な計画を立てる必要がある。 その計算をMI
MIによってシステム化しようという狙いだ。
パッケージを社内のシステム部がカスタマイ
ズし、〇三年六月から導入を開始した。
ソフトの基本的な構成は、需要計画、供
給・生産計画、スケジューラーの三つ。 これ
らの機能を活用した業務の流れは次の通りだ。
まず過去の出荷実績から統計的に需要予測
を行い、それを参考にして営業担当が販売計
画を立案しデータを入力する。 次にSCM本
部が販売計画をもとに出荷計画を策定する。
供給・生産計画機能を使ってトータルコスト
が最小になるようシミュレーションを行い、
生産工場、金型移動、在庫横持ち計画を確
定する。 さらにスケジューラーの機能で各工
場の生産ラインの工程計画を確定する。
SCM本部は、〇一年一〇月に既存の生
産企画部を核に新設した。 当初は生産企画部
をSCM本部と改称しただけで規模も小さか
ったが、機能を拡充しながら、現在は三〇人
が所属するに至っている。
SCM本部内をSCM企画部と生産企画
部に分け、それぞれの役割を、販売計画の確
定や様々なシミュレーション等の計画系を主
体に行う部署、工程管理・資材調達などの実
戦部隊と位置づけた。 各部の下に販売計画や
生産計画、調達などの各業務に特化した課を
置き、新たに導入した情報システムを最大限
に活用するための体制を組んだ。
玉突き欠品で現場が大混乱〇三年六月から八月にかけての新システム
導入当初、現場は大きく混乱した。 新しい業
務プロセスへの理解不足やシステムエラー、
マスターデータの不備などが原因だった。 中
でも、本部で把握していた金型情報が実態と
ずれていたことは大きなトラブルを招いた。
従来は移動対象になる金型は限られており、
移動の頻度もそれほど多くなかった。 そのた
め、現地で金型を改造して生産対応するとい
ったことが珍しくなかった。 だが、そうした
情報を本部では把握していなかった。 本来で
45 JANUARY 2007
エフピコ物流の久保隆徳
社長
JANUARY 2007 46
の運搬及び保管費率は一〇・六四%で前期
より〇・二一ポイント上昇した。
各現場の担当者がシステムを信頼するよう
になるのに伴い、在庫減、欠品減、横持ち減
などの効果が現れてきた。 営業担当が一分単
位の詳細な生産計画を把握できるようになっ
たことで、計画通りにモノが出てくると信じ
られるようになった。 もしもに備えて多めや
早めに確保しようという動きが収まり出した。
「ちゃんと入力すればちゃんとモノが出てくる
んだということを現場が実感できるようにな
ってから、システムの導入効果が着実に現れ
てきた」と佐藤副社長は言う。
年間三〇億円のコスト削減
在庫回転期間は〇五年三月期に一・七二
カ月に、〇六年三月期には一・三七カ月にま
で短縮し、対売上高の運搬及び保管比率は〇
五年三月期に八・九八%、〇六年三月期に
八・三九%まで減少した。 人件費も含んだ、
物流子会社に支払うトータルの物流費の製品
売上高比率では、システム導入前の〇三年三
月期と比較して三・二ポイント下がり年間三
〇億円の削減効果をあげている。
生産計画のサイクルは新システムの導入に
伴い、それまでの月次から週次に変わった。
計画策定と調整のサイクルを短縮することに
より、予測値と実際の出荷の差異を早めに捉
え、生産の増減を早い段階で調整できるよう
にした。 実需が計画を下回っていれば、生産
計画を下方修正することで在庫が膨らむのを
食い止められるようになり、計画以上の実需
が発生すれば、生産計画を上方修正すること
で欠品の発生を抑えられるようになった。
欠品状況は日次で管理している。 受注済み
か未受注かに関わらず、在庫がゼロになった
アイテムはSCMソフトを使ってすべてリス
トアップする。 リストには、該当品の生産予
定が表示される。 直近で生産予定がなければ
前倒しするなど、計画を調整して対応する。
欠品そのものが減り、欠品発生時の生産対応も速くなった。 欠品が発生しやすい繁忙期で比較すると効
果が分かりやすい。 ゴールデンウィークの繁
忙期における欠品は、規格品約八〇〇〇アイ
テムのうち、ピーク時で〇五年度は一五五ア
イテムあった。 〇六年度は六四アイテムで五
九%縮小した。 〇六年度の六四アイテムの欠
品には、同週三日間の生産で八〇%対応した。
お盆の繁忙期における欠品は、ピーク時で〇
五年度四二アイテムから〇六年度一九アイテ
ムに、五五%縮小した。 繁忙期を除けば、欠
品の発生は平均で一桁台にまで減っている。
あれば金型を移動して生産対応できるはずが、
持って行ったら設備と合わずに使えないなど、
想定外のトラブルが頻発した。
計画通りに生産が進まない。 当然、欠品が
発生した。 緊急生産のため、もとの生産計画
が先延ばしになる。 先延ばしになった製品が、
また欠品する。 あるいは、ある製品が欠品す
るとその代替製品が欠品する。 さらにその代
替製品が欠品するという、玉突き欠品が起こ
った。
年に三回ある繁忙期の一つであるお盆には
欠品がピークに達した。 「最大欠品二五〇ア
イテム、一五〇〇ケースというひどい有様だ
った。 新しい仕組みが悪いと、ずいぶん非難
された」と佐藤副社長は苦笑いする。
一転して、年末の繁忙期には在庫問題が発
生した。 お盆の繁忙期に欠品で苦い思いをし
た営業担当者の多くが、欠品を防ごうと需要
予測データを多めに入力したからだ。 例えば
本来一〇〇ケースと入力するところを一五〇
ケースと入力するといった具合だ。 新システ
ムに対する現場の不信感が、過剰在庫という
形でもろに現れた。 膨らんだ在庫は、その後
しばらく減産して調整した。
システムが安定稼働し、社内に根付き、そ
の効果が現れるまでには時間がかかった。 移
行期の混乱は、財務諸表上でもマイナスの効
果として示されている。 新体制に移行した〇
四年三月期の在庫回転期間は一・七六カ月
で前期より〇・二カ月分長くなり、対売上高
エフピコの佐藤守正代表
取締役副社長
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情報の見える化は、顧客満足の向上にもつ
ながっている。 受注に対する欠品が生じた場
合でも、該当製品が何日何時何分にどの工場
で出来上がるかが一目で分かるので、営業担
当者が客先に迅速かつ明確に状況説明を行え
る。 「欠品対応に関しては、客先からもこの
二年で大きく変わったと評価されている」と
佐藤副社長は効果を語る。
従来は拠点単位でバラバラに行っていた横
持ち管理も、SCM本部で一元的に行う体制
に改めた。 製品と金型の移動コストを総合的
に判断して製品の横持ちを最小限に抑える仕
組みに改めたことで、SCMシステムを導入
しない場合の理論値と比較して累計一九億円
の横持ち運送費削減効果をあげているという。
配送関連のクレームが激減
物流拠点には、二〇〇〇年に東芝の倉庫管
理システム「LIGNS‐R」を導入し、庫
内レイアウトの見直しによる保管効率の改善
や、作業動線の見直しによる作業効率の改善
を進めた。 在庫の管理制度も高めた。 また、
二〇〇二年から日立の配車支援システム「N
EUPLANET」を導入して運行時間帯
の見直しや運行計画立案の整備を行い、運行
時間の短縮や積載率の改善を進めた。 荷下ろ
し時間や待ち時間まで含めて現状を把握し、
配送委託先との契約を全面的に見直した。
誤配や遅配、荷傷みといったトラブルを最
小限に抑えてサービスレベルを向上させるた
め、配送委託先の管理も強化した。 例えば、
従来は納品先ごとの細かな注意事項はドライ
バーの経験として蓄積され、担当ドライバー
の交代時には前任者から後任者へ口頭で伝達
していた。 「納品先管理カード」を導入し、納
品手順や構内の見取り図といった納品時の注
意事項をデータとして管理する仕組みを整え、
納品ルールの徹底を進めた。
路線便利用時には、積み替え回数の多さか
ら荷傷みが発生しやすい。 とはいえ、納品先
が密集していない地域など量のまとまらない
出荷にまで貸し切りのルート便を使っては、
積載率が低くムダなコストが発生する。 そこ
で、出荷拠点からの幹線輸送には貸し切り便
を使い、配送先エリアの路線業者の拠点まで
持って行き、そこから先の配送の部分だけ任
せるという「スルーデポ配送」方式を導入し、
破損クレームを削減している。
二〇〇二年には出荷ケース数あたりのクレ
ーム発生率が二〇〇PPM(PPMは百万分
の一)を超える月もあったが、〇四年以降は
毎月一〇〇PPMを切り、〇六年では五〇P
PM前後にまで下がっている。 一〇万ケース
出荷してクレーム発生が約五件の計算だ。 ケ
ース内の内袋単位で出荷する分に限れば、一
〇PPM前後、一〇万袋の出荷で一件のレベ
ルにまで下がっている。 内部の管理はもちろ
ん、配送委託先との協力関係を強化して、ケ
ース単位での出荷でもクレーム発生率を一〇
PPMレベルに落とすことを当面の目標にし
ている。
「現在一カ月分を超えている製品在庫の回
転期間は、今後二年を目処に二〇日〜二五日分まで減らしていくつもりだ。 だが、ただ
在庫を減らすことが目的ではない。 要はトー
タルコストをいかに抑えるかだ」と、佐藤副
社長はあくまで全体最適を強調する。
現在は、関東(茨城県結城郡)と本社のあ
る福山(広島県)の東西二拠点を中心に全国
で生産と在庫を回している。 これを完全に東
西で分けて運営することも考えている。 「東
西間の横持ちを一切禁止したら、在庫は増え
るかもしれない。 だが、トータルで安くなる
ならやる価値はある」と更なる取り組みに意
欲を見せている。
(
森泉友恵)
エフピコ全体の約4割
を出荷する「東日本ハ
ブセンター」
ITを活用してオペレー
ションの効率を上げて
いる
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