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海上輸送における在庫問題
在庫問題で考えなければならないのはサプ
ライチェーン全体の在庫量の削減である。 国
内の工場で生産されたものが海外の小売店
で売られるまでを考えてみよう。 生産ライン
を出てきた商品は、梱包され、バンニングさ
れ、コンテナヤードに輸送される。 港では輸
出のための各種手続きを経て船積みされる。
いざ出港し、船が港に着いた後、在庫は
陸揚げされ、輸入手続きを経て、目的地の
倉庫に搬入される。 そこでしばらく在庫は保
管される。 その後、小売店からのオーダーを
受けて、在庫が倉庫から出荷され、小売店
の店頭に並ぶ。 そして店頭にしばらく並んだ
後に最終的に消費者が購入する。
本来、SCMで検討すべき管理の対象は、
この一連のプロセス上にあるすべての在庫で
ある。 しかしながら現実には、連結決算の対
象となっているグループ企業の在庫ですら管
理の対象となっていないケースが多い。 実際、
海外の現地法人や取引先との間の国際輸送
における在庫問題を改革のテーマに取り上
げている企業は稀だ。
国土の狭い日本国内の輸送は、陸送であ
ってもほとんどが一日以内に届けられる。 在
庫という形で資金が固定化する要因は、輸
送よりはむしろ生産の仕組みや物流の仕組
みなどにある。 それに対して国際物流は、国
内物流と比べ輸送リードタイムが著しく長
い。 通関等の各種手続きが発生することに
加え、物理的な輸送に時間がかかる。 さらに現地で見込在庫を持つ場合には、そのリ
ードタイムに対応する分の安全在庫が必要
になる。
在庫は資金を固定化する。 それにより発
生するコストは、通常の管理会計では把握
しにくいものの、決して小さくない。 そのた
め高額な商品や陳腐化の激しい商品につい
ては、輸送費が高くついてもリードタイムの
短い航空輸送を使うことで、それらを回避
している。
これに対して低価格帯の商品では、海上
輸送をとらざるをえない。 海上輸送のリード
タイムは航空輸送に比べ圧倒的に長いため、
グローバル・ロジスティクスへの挑戦?
国際輸送のプロセスを改革する
グローバル・ロジスティクスにおいては、輸送リードタイムが在
庫に大きな影響を与える。 しかし、国際輸送のプロセスの改革に取
り組んでいる荷主企業はまだ少ない。 とりわけ海上輸送の場合には、
リードタイム短縮の余地が大いに残されている。
第22回
梶田ひかる
アビームコンサルティング
製造・流通事業部
マネージャー
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それだけの在庫が必要になるが、それを考慮
しても低価格帯の商品では航空輸送のコス
トを吸収できない。
しかしながら、海上輸送をとらざるをえな
い場合でも、在庫を削減する方策はある。
一九八〇年をターニングポイントとし、I
Tは急速に進化した。 そればかりが注目され
ているが、実は同じ時期に海上輸送技術も
大きく進化している。 船の性能が向上した
ことで海上輸送に要する時間そのものが大
幅に短縮されたことに加え、通関手続きの
IT化、荷役事業者のサービス充実などに
よって、輸出から輸入までのトータル時間の
短縮が可能になっている。
ところが、個々の企業を見ると、それらの
技術を十分に活用できているとは言いがたい。
海上輸送の在庫を必要最小限でオペレーシ
ョンすることのできている企業は、まだ少数
である。 輸出入プロセスの見直し
改革ポイントのひとつ目は輸出入に関わ
る各種プロセスである。 工場のラインを出て
から出港までと、仕向地の港についてから現
地の倉庫に入るまでのプロセスに、多くの企
業が必要以上の時間をかけている。
出港までをとってみると、時間の短い企業
では、生産計画に合わせて予め船腹予約を
行い、ラインを出たらただちにバンニングし、
輸出手続きも電子化している。 これによって
ラインを出てから二日程度で出港を行って
いる(
図1)。 これに対して時間を要してい
る企業は、いったん外部倉庫に輸送してか
ら梱包作業を行なっている。 バンニングまで
に時間がかかっている。 さらに通関事業者が
書類を入力しているなど、プロセス上に無駄
が見られる。
バンニングまでの問題については、時間短
縮という観点で細かくプロセスを見直すこと
により改善できる。 トータルのフローを考慮
した上での委託事業者の選定、梱包方法の
改良、積み付けシミュレーションシステムの
活用など、条件に応じて工夫を行っている
企業が散見される。
輸出入手続きについては、すでに効率化
の素地はできている。 国際輸送の場合、航
空輸送と海上輸送では手続きが大きく異な
る。 航空輸送では通関など輸出入に必要と
なる各種手続きはシンプルであり、かつ手続
きのIT化も進んでいる。 実際に輸送され
ている時間のみではなく、ドア・ツー・ドア
の時間も短くなるように、国や事業者が力
を入れている。
しかしながら海上輸送の場合、歴史のあ
る分、それに関わる事業者の種類は多様で、
経営規模の小さい事業者が多い。 手続きは
複雑かつIT活用の十分に図られていない
ケースがよく見られる。
もちろん状況は徐々に改善されつつある。
次頁の図2にあるように、日本発着の海上
貨物については「Sea
―NACCS(通関
情報処理システム)」の拡充によって、既に業務を包括的にカバーするようになってい
る。 同様に海外でも、各国とも通関情報シ
ステムの整備を進めている。 それらを活用
することにより、処理時間の短縮を図るこ
とができる。
輸出入処理のための荷主企業向けサービ
スやパッケージソフトも、船腹予約、書類作
成、貨物追跡などを支援するものなど数多
く存在している。 荷主企業における、こうし
た輸出入処理に要するコストは、間接業務
であるがゆえに正確に把握している企業は少
ない。 しかし実際には、かなりな額になって
いる。 それらの効率化に向け、各種のサービ
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スやツールを適切に選択・活用することによ
り、処理時間短縮のみではなく、処理コス
ト低減を図ることができる。
在庫所有権の検討
改革ポイントの二つ目は、在庫の所有権
の問題、すなわちどの在庫を誰のものとする
かである。 海上輸送に伴う在庫を?持たな
い〞方法もある。 典型的な方法のひとつが
「VMI(Vendor Managed Inventory:
ベン
ダー主導型在庫管理)」である。 輸入品につ
いては、使う直前まで輸出者側の在庫とす
るのである。
日本においては二〇〇三年四月一日の関
税法の改正によって「DDP(Delivered
Duty Paid:関税込み仕向地持込渡条件)」
という貿易条件が認められたことから、輸出
者が日本在住でなくてもVMIが可能とな
った。 これを、非居住者在庫を活用したV
MIという。
国際VMIでは、この「DDP」もしく
は「DDU(Delivered Duty Unpaid:関
税抜き仕向地持込渡条件)」という貿易条件
を採る。 輸入者近隣の保税倉庫に輸出者が
所有権を持つ在庫を置いておく。 輸入者が
その在庫を必要になった時点で通関処理を
行い、輸入者の元へ届けるのである(
図3)。
これにより、輸入者は使用する直前まで在
庫を持たなくて良いことになる。
グローバル・ロジスティクスであっても、
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VMIは国内のものと同様、納入者側の輸
送効率化、納入者側のきめ細かな在庫管理
による欠品の削減などの効果を生む。 ただし、
安易なVMIは、納入者への在庫リスクの押
し付けとなり、本来目指すべきサプライチェ
ーン全体の在庫削減にはつながらない。 トー
タルでの在庫削減・コスト低減という観点を
常に考慮することが望まれることは言うまで
もない。
またグループ内会社間での取引の場合は、
VMIを導入してもさして大きな効果はない。
いずれが持ち主であっても連結で見ればグル
ープ内に在庫という形で資金が固定化されて
しまう。 せいぜい使わなかった在庫の通関処
理費用をセーブできる程度である。
そのようなケースでは、国際輸送中の在庫
を第三者に持ってもらうという方法がある。
将来的にはすべての在庫を輸入者が引き取る
必要はあるが、輸出から使用するまでの間に
相当するキャッシュは改善する。 グローバル
化が急速に進んだ現在、資金に十分なゆとり
のない企業のために、商社や3PL事業者な
ど、このようなサービスを行う事業者は増え
ている。
第三者を一時的に介するこのような取引は、
大手企業でも活用している。 荷主企業側の
資本コストがその第三者の課す手数料相当
分よりも高いのであれば、第三者を介した取
引とした方が良いという判断になる。 直接取
引の方向に向かってきた国際取引ではあるが、
目標ROA等の値が高くなっている現在、商
社的な機能が見直されてきている。
オーダープロセスの見直し
改革ポイントの三つ目は、販売計画―在
庫計画―生産計画―調達計画という一連の
プロセスの連携を見直すことである。 輸入港
から倉庫に入り、出庫されるまでの間の在庫
は、輸入者側の在庫管理レベルに大きく左右
される。
この一連のプロセスで、輸入者が工場であ
る場合、つまり部品の調達物流の場合は、さ
して大きな問題となっていない。 二〇〇〇年
頃からこの方、多くのメーカーが生産計画サ
イクルの短縮化に取り組んだことで、過剰な
部品在庫や、部品調達の制約を原因とする
完成品の作り過ぎは少なくなってきている。
現時点で過剰在庫がクローズアップされて
いるのは、グループ内の販社に輸出される完
成品の在庫である。 過剰在庫を招いている要
因は多岐にわたりまた複雑である。 そのひと
つに、販売計画の問題がある。
販売計画は多くの場合、月次で立てられ、
また売上全体の目標達成に主眼が置かれてい
る。 アイテム別の販売予実の管理は残念なが
ら弱いといわざるを得ない。 しかし、それに
基づいてアイテム別の生産計画を策定するの
であるから、在庫問題が発生するのは必然で
ともいえる。
グローバル在庫を決めるスタートポイントになるのが、販売計画である。 その整備なし
ではグローバル在庫削減は実現しないといっ
ても過言ではない。 グループ内の生産と販売
がそれぞれグローバルに展開している場合、
販売計画の精度、それにより発生する在庫へ
の責任を明確化することが、在庫削減に必要
不可欠と言えよう。
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