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JANUARY 2007 82
大卒社員の定着率が悪化
今回紹介するB社は中・四国地方を地盤と
する年商一〇〇億円規模の食品メーカーである。
各種調味料を中心に健康食品やレトルト食品
などをラインナップしている。
我々日本ロジファクトリー(NLF)にとっ
て、B社に対する物流コンサルティングは今回
が二度目となる。 最初の依頼はNLFを創業し
て間もない一〇年近く前のことだ。 物流コスト
削減をテーマに、我々が調査・分析・ヒアリン
グなどを行い、診断書と改善提案書を提出した。
しかし当時のB社は、創業者であるオーナー
経営者が健在で、地場の馴染み客に対する思い
入れが強く、改善活動に対する制約が多かった。
これは地方の老舗企業に特有の傾向ともいえる。
またB社の社内も変化を受け入れようとする土
壌に欠け、組織体制が整っていなかった。 その
ため我々の提案は内容の半分くらいを消化した
だけに留まった。 それでも支払物流費の削減を
中心に、何とか約一〇%のコストダウンにこぎ
着けた、という経緯があった。
この時に改善活動のキーマンだった役員のM
氏から、久しぶりに連絡が入った。 その後、B
社では経営者が代替わりし、経営環境も大きく
変化したため、改めて改善を図りたいとのこと
であった。 既に組織にもメスを入れたという。
前回のコンサルティングで我々NLFが執拗に
提案した「本社物流部門の発足」は一昨年前
に実現していた。
一部の外注化にとどまっていたTC(トラン
スファーセンター:在庫を一時保管せず、入荷
後すぐに仕分けて出荷する)業務の完全外注化
も、途中、協力会社の変更等はあったものの実
施されていた。 ただし全国の主要物流拠点、特
にDC型(在庫保管型)拠点の運営外注化は、
うまく機能しているところがある一方で、外注に失敗し、自社運営に戻している拠点があると
いうことであった。
私は久しぶりにB社の本社を訪れた。 二度目
となる今回の依頼の主旨は、「ルート」と呼ば
れている小規模商店向け、いわゆるパパママス
トア向け納品業務の商物分離と、物流費の削
減であった。
一般的に食品メーカーの販路は大きく三つに
分かれる。 ?大手スーパー/量販店ルート、?
卸/問屋ルート、?商店直販ルートである。 こ
のうち商店直販ルートは、B社の場合、営業マ
ンがライトバンに乗り、営業と納品を行ってい
たのであるが、a残業時間の拡大、b提案・
企画営業の不徹底、c大卒社員の定着率の悪化
第48回
営業マンがライトバンで小規模店を回るルート営業の商物
分離を図った。 これに合わせて営業活動自体にもメスを入れ
た。 営業マンを物流業務から開放するだけでは、顧客にとっ
て単なるサービスの低下になってしまうからだ。
中堅食品メーカーB社の商物分離
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発足されており、責任部署が明確になっていた
こと、そして何と言ってもB社のキーマンであ
るM氏と物流部のT部長が、改善活動の負の
側面を理解している点が大きかった。 商物を分
離して、営業マンが納品を行わなくなることで
取引が切れてしまう店が出てくること、つまり、
ある程度の売上ダウンを二人は覚悟していた。
これが売上構成比の高い量販ルートや卸ルー
トなら、そうはいかなかっただろう。 今後の成
長が見込めない販路だからこその決断である。
もともとB社は売り上げとしては全体の約一
五%を占めているに過ぎない商店直納ルートに、
三〇%近くの営業マンを割いていた。 著しく営
業効率が悪かった。
B社の改善メンバーと我々は、まず営業マン
のあるべき業務の姿を整理し、社内で行う業務
と外部の物流会社に委託する業務を線引きする
ことにした。 営業担当者からのヒアリングを行
い、他社の事例も参考にして検証を行った。 同
時に外部に委託する業務が、物流会社に対応
できるものなのかどうかも検討した。
B社のような常温品を扱う食品メーカーの商
物分離では、委託対象となる物流会社は三つの
タイプに分かれる。 ?地の利を活かしたエリア
性の強い物流会社、?食品に強い物流会社、?
サービス面で小回りが効く地場物流会社の三つ
である。
通常、食品の納品には単なる輸送だけでなく、
「a
陳列」、「b
先入れ先出しによる賞味期限
管理」、「c在庫管理による定数納入」、「d注
文取り」、「e空容器の回収」、「f鍵預かりによ
る開店前納品」などの付帯業務が求められる。
などの障害が出ていた。 商物分離によって、そ
れを解消しようという狙いだった。
物流費の削減は、本来であれば社内物流費
を含めたトータル物流費を対象にして施策を検
討すべきである。 しかしB社では、外注化が進
んだことや、従来から支払い物流費が社内指標
として根付いているとの理由から、支払い物流
費そのものを指標に使うことにした。 ただし、
商物分離に伴う外注費の増加分はその対象外
とすることで改善の大枠を決めた。
食品物流の基本原則
食品メーカーの物流は「長い距離を運ばな
い」が、基本原則である。 食品は重量や容積が
かさむ割に単価が安く、粗利も少ない。 長く運
べば物流コストだけで赤字になってしまう。
そのため全国ネットでTVコマーシャルを打
っているようなナショナルブランドメーカーで
は集中生産ではなく、エリア別・ブロック別に
工場を設置しているケースが多い。 それによっ
て「長い距離を運ばない」を実践しているので
ある。 一つの工場のまま販売エリアを拡大しよ
うとする地方の食品メーカーも時折見受けられ
るが上手くいくことは稀だ。
また食品メーカーには物流コストの削減を最
大の目的として物流子会社を設置するところも
多い。 他社の物流を取り込んで共同配送を行う
ことで、親会社の売上高に占める物流比率を下
げようという狙いだ。 これも運賃負担力の低い
商品を売っていくための工夫だといえる。
さて、B社の新たな改善活動は前回の時と比
べ比較的スムースに展開していった。 物流部が
実際、食品に特化した物流会社はこれらの対応
に日々悪戦苦闘している。
B社メンバーとの協議を重ね、外部委託先に
は「注文」や「在庫管理」など多くのことを求
めず、配送〜納品〜陳列までを外注化し、それ
以外の業務はB社の営業マンが対応するという
方針を立てた。 これによって顧客対応の強化を
図ると同時に、外注する業務の難易度を下げる
ことで、委託先物流会社の候補の幅を広げたわ
けである。
次のステップは、物流会社の選定だ。 コンペ
方式を採った。 商店直販ルートの売上構成比の
低い東海エリアから着手した。 リスクヘッジと
競争意識を持ってもらうため、全部で八ルート
ある業務を一社ではなく二社に委託することに
した。 コンペの末、パートナーに選んだのは、
一社は全国ネットを持ち食品に強いY社、もう
一社は地場の物流会社でサービス面での小回りの効くX社であった。 繁忙期がピークを越えた六月から外注に移行
した。 案の定、いくつかのトラブルが発生した。
最も頻度の高かったのは「商品の降ろし間違
い」であった。 配送員が商品名を覚えきれてい
ないことが原因だった。 開始月の六月には計一
七件ものミスが発生した。 また、なかには「運
転手に売り場にまで入ってきてもらいたくない」
という女性店主からの厳しいクレームもあった。
対策として営業マンからのフォローに加え、
配送員に対する商品説明会を実施した。 さらに
配送員にはB社の社名が入ったジャンパーを配
布することにした。 開始後約三カ月でトラブル、
商店からのクレームはほとんど収まった。 心配
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していた客離れと売上ダウンも、物流業務から
開放された営業マンが奮闘することで、ダメー
ジはほぼゼロであった。
仮説を検証する
先に述べたように商物分離に並ぶ、もうひと
つの大テーマが「支払物流費の削減」でああっ
た。 これについて我々は以下の仮説をB社に提
示した。
(1)3PL活用
(2)配送日の絞り込み
(3)共同配送
(4)営業改革
(5)発注方法の改善
この一つひとつを検証し、実行に移すか否か
を決定していった。
(1)3PL活用
B社の関東工場では支払い物流費が年間二
億八〇〇〇万円に上っていた。 それに対して協
力物流会社は十二社であった。 協力物流会社
の数を絞ることでボリュームディスカウントを
狙った。 コンペ方式は採らなかった。 現状の主
力協力会社であり、対応力があると工場長が評
価している特別積み合わせ事業者のT社を3P
Lのパートナーに選び、他の物流会社の集約方
法やコストなどを協議した。
既存の協力会社のうち、諸処の事情からB
社として契約を切ることができない二社につい
てはT社のアンダー(下請け)として取引を継
続することにして、残り九社の業務をT社に集
約するかたちとなった。 それによって一〇%の
コストダウンを見込んでいたが、燃料高騰とドライバー不足のあおりから六・二%、約一七〇
〇万円の削減という結果となった。
(2)配送日の絞り込み
東海エリアと同様、商店直納ルートを対象に
して、納品頻度の適正化を検討した。 従来から
関東エリアでは納品先店舗を、週一回納品、二
週間に一回、月一回という形で分類していた。
しかし、その判断は各営業マンが恣意的に決め
ていたり、昔からのやり方を踏襲しているだけ
だったりで、ルールとして機能しているわけで
はなかった。
その結果、販売量の多い商店であるにもかか
わらず、月一回しか納品しないために欠品が出
ていたり、逆にほとんど売れていない商店なの
に陳列スペースが小さいという理由から週一回
の納品を行うといった矛盾が生じていた。
我々は営業マンから過去二年分の店別・月
別販売数量と、各店の陳列可能数量の調査デ
ータをもらい、商店の販売見込(需要予測)と
欠品の発生リスクを分析して、必要納品回数の
ABCランクを設定した。 販売見込数量÷陳
列および在庫可能数量=必要納品回数という
計算である。
こうしてAランク納品先は週一回、Bランク
納品先は二週間に一回、Cランク納品先は月
一回を?物流ルール〞として設定した。 その結
果、既存の八ルートのうち一ルートは他の七ル
ートに吸収することができた。 納品回数が減る
商店は営業マンにフォローさせることで、売り
上げも維持することができた。
しかし営業マンのなかには月末の営業数字の
締め日が近づくと必要量以上に商品を押し込も
うとするものもいた。 それがスポットの増車を
招いていた。
(3)共同配送
共同配送については、次のステップの検討課
題とした。 現在、取り組んでいる改善が終了す
る六カ月後に改めて着手することになった。
(4)営業改革
営業の本来あるべき姿(業務内容)の線引き
と、客単価やインストアシェアの向上などのハイレベルな目標設定について検討した。 これは
商物分離を行うに当たって最も重要なテーマで
あった。 物流の外注化と営業マンの高付加価値
目標の設定は、商物分離の?両輪〞である。 そ
して多くの企業がこの部分で失敗を犯してしま
っている。
ある印刷会社では、商物を分離したものの単
に営業マンの負担が減っただけに終ってしまっ
た。 またある機械部品メーカーでは、それまで
?御用聞き〞で数字を作っていた営業マンに対
し、簡単な研修を行っただけで、急に提案営業
をやれと命じたことで、数名の営業マンが会社
を去ってしまった。
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そうした失敗を避けるため、B社では営業の
高付加価値活動をどのように展開するかについ
て協議を重ねた。 調整は難航した。 B社には従
来から提案営業を行う「営業企画」と企画を
行う「販促」という部署がある。 同じ機能を全
ての営業マンに持てと命じても現実的ではない。
結局、五回にわたる協議を経て、「在庫管理」
と「新商品の案内」そしてこの後に説明する
「発注方法の改善」の三点に特化して、営業活
動の付加価値を高めることに決まった。 それほ
ど難易度の高い業務ではない。 しかし、従来は
営業マンが納品業務を兼務していたため片手間
になっていた仕事だった。 それだけに営業マン
の混乱も少なかった。
(5)発注方法の改善
商物分離をするまで商店直納ルートでは、全
受注件数の六五%を電話もしくはファクスで、
残り三五%を営業マンが直接注文をとっていた。
「物流は受注段階で九〇%決まる」というのが、
我々NLFの基本的な考え方だ。 これに基づい
て電話やファクスの発注、(B社にとっては受
注)比率をどうしても下げなければならなかっ
た。
商店主にインターネットで発注してもらえれ
ば、B社側では電話応対や転写作業の人件費
を削減し、受注ミスを抑制することができる。
問題は商店側のネット環境の有無と協力への理
解である。 営業マンを通して調査を行ったとこ
ろ、世代交代をした若手店主を中心に既に全
体の約半分の店がネット環境を備えていること
が分かった。
しかし、インターネットを使って発注する作
業については「手間がかかる」「邪魔くさい」
「そんなことができるわけがない」といった否定
的な意見が大半を占めた。 そこでインターネッ
トでの発注にインセンティブをつけることにし
た。 具体的には?インターネットで発注した場
合の値引きと、?受注締め切り時間の延長だ。
以前に我々NLFが、ある紙メーカーの改善で
効果を発揮した仕組みだった。 B社に沿ったか
たちでアレンジした。
当初の反応は非常に悪かった。 しかし文書で
の通知や営業マンのPR活動により、その後じ
わじわと普及が進み、ネット環境を有する顧客
のうち一五%がネット発注を利用するようにな
った。 その後も、この比率および件数は毎月わ
ずかずつながら上昇を続けている。
右の五つの改善はB社に大きなコストダウン
と効率化をもたらした。 取り組み初年度は全社
支払物流費を十二%削減できた。 さらに二年
目は改善前のそれと比較して約二五%削減とい
う効果が得られた。 同時に営業マン一人一日当
たりの残業時間は従来の二・五時間から一・
二時間に大幅に短縮された。
商物分離は非常にデリケートなテーマである。
顧客にサービスの低下と受け止められることが
多いからである。 しかし過度なサービスは必要ない。 やはりサービスとコスト、そしてその品
質のバランスが重要なのである。
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