*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
事業と資産を分離して買収
――資生堂の物流子会社の売却で、日立物流と新た
なスキームを組んだ経緯を説明して下さい。
「実は我々自身、以前から物流子会社の買収を仲介す
る会計事務所やM&Aを手がける企業再生ファンド
などと同様のスキームを検討していました。 実際、企
業再生ファンドのカレイド・ホールディングスがレナ
ウンを買収した時にも、レナウンの物流子会社が所有
していた習志野市の大規模な物流施設を我々が買収
している。 今回は相手が企業再生ファンドではなく3
PLであるだけでスキームとしては同じです」
――日立物流としては、不動産まで抱え込むのは荷が
重過ぎた?
「資生堂のケースであれば、日立物流が自分でお持
ちになることも可能だったでしょう。 それよりも今回
の提案の趣旨は、日立物流・プロロジス連合によるパ
ッケージ化したスキームによって、メーカーと物流子
会社を切り離したことにあります。 今後、我々は同じ
スキームを使った物流子会社売却を、他のメーカーに
対しても提案していける」
――そこでパートナーとなるのは日立物流だけですか。
「そんなことはありません。 ただし信頼できる相手
でなければ組めない。 M&Aの交渉は必ず相対になる。
途中で機密が漏れてはいけない。 とくに買収される側
は、いつ破談になるか分からないわけですから、社内
も含め、ギリギリまで話を表に出したくない。 入札と
は違います」
――他の物流不動産ファンドも同じスキームで追随し
てきそうです。
「そうかも知れません。 ただし我々から見たときの
こうした案件の難しさは、買収する施設が全国に散ら
ばっていることです。 しかも特定企業の専用施設であ
るため、なかには汎用性の期待できないものもある。
しかし我々が欲しいと思う施設だけを買うわけにはい
かない。 一括して買収しなければ話がまとまりません。
それでも当社の場合は全国展開を目指しているので比
較的対応しやすい。 新設していくより展開のスピード
が速まるのでむしろ歓迎しますけれど、投資の対象地
域を絞っているファンドにとっては難しさがある」
――資生堂との資産譲渡の話し合いはスムースにまと
まったのですか。
「譲渡価格とその後の賃料と契約期間については何
度も議論を重ねました。 簡単に言うと、土地建物の譲
渡価格を高く設定すれば、賃料もそれに応じて高めに
するしかない。 逆に賃料を下げるには、譲渡価格自体
を低めに設定してもらう必要があった。 結果的に、資
生堂さんは後者をお選びになった」
――二〇〇二年六月に日本で組成した「プロロジス・
ジャパン・プロパティ・ファンド1」の一五〇〇億円
は予定より早く投資を終了しています。 その結果は?
「ファンド1は当初四年で投資を完了する予定でし
た。 それを一年以上前倒しすることができました。 さ
らに二〇〇五年八月には二つ目のファンドを立ち上げ
ることができました。 今度は三〇億ドル規模(約三五
〇〇億円)です。 この事実からファンド1の評価は明
らかでしょう。 ファンド1で当社はリスクをとりまし
た。 ファンド1を組成した当時、日本の不動産業界は
不況のまっただ中にありました。 そんな環境下でマル
チテナントの大規模な物流施設を建てて、本当にテナ
ントがつくのかと心配する声はあった。 しかし景気の
悪い時のほうがむしろ、物流施設を集約しようという
ニーズは高まる。 不動産の取得も安く済む。 我々には
自信がありました」
プロロジス――
3PLと組んで物流子会社の売却を促す
JANUARY 2007 18
山田御酒プロロジス日本共同CEO
資生堂の物流子会社売却で、事業と従業員を3PLの日立物流
が、物流施設をプロロジスが、それぞれ買収する新たなスキー
ムを実現した。 物流子会社を所有する他のメーカーにも同じス
キームを提案していくことで、物流子会社のM&Aを促進してい
こうと考えている。 (聞き手・大矢昌浩)
日本の物流資産を始末する
――物流ファンドが登場するまで、日本には倉庫の買
い手などいませんでした。
「そのためにずいぶん苦労させられました。 まず物
件の評価ができない。 例えば一〇年の長期リース契約
の付いたセンターの価値を担保としてどう評価すれば
良いか。 一般のオフィスや商業施設、欧米の事例など
を参考に、銀行と議論を重ね、評価方法から作り上
げていく必要があった。 当初、銀行はリスクを恐れ、
貸し出し金利も高かった」
「広報戦略にも頭を悩ませました。 我々の活動を一
切オープンにしないことも考えました。 そうすれば競
争者が現れない。 しかし、結局そうはせずに、我々の
活動を大いに宣伝し、手法も全てオープンにすること
にしました。 案の定、次々に競争者が出てきた。 ただ
し、マーケット自体が急拡大したことで、金融機関や
投資家が我々の活動を理解してくれるようになった。
その結果、調達金利が下がっていった」
――ただし、物流不動産の倉庫用地は高騰しました。
「地価の上昇も緩やかに上がっていくぶんにはマイ
ナスではありません。 不動産の取得コストが上がれば、
いずれ賃料にも反映される。 もっとも、賃料水準がマ
ーケットから乖離して上がり過ぎてしまうことは我々
も危惧しています。 ピンポイントで見れば、この数年
で倍以上になった場所もある。 そうした極端な動きは
今後、沈静化していくと見ています」
日本でも圧倒的なトップに立つ
――ファンド1の出口戦略は。
「長期保有が原則です。 売却等は考えていません。 投
資家もそれを望んでいない。 我々はあくまでも物流施
設の開発運営会社です。 フィービジネスであって、資
産運用を商売にしているわけではない。 ファンドの組
成は資金を調達するオプションの一つに過ぎません」
――ファンド1とファンド2を足すと、日本における
投資総額は五〇〇〇億円規模にも達します。 それを
消化するだけのニーズはありますか。
「日本における当社の保有資産総額は発表ベースで
も既に約三二〇〇億円に上っています。 しかも完成し
た施設の入居率は現状一〇〇%で、他社と比べて契
約期間も長い。 またファンド2で終わるわけでもない。
その次の展開も考えています。 新しいタイプの物流施
設を求めるニーズはまだまだある。 欧米市場でそうで
あるように、ここ日本でも我々は圧倒的なシェアを握
るつもりです。 当社のスピードについてこられるライ
バルがいるとは思えません」
――その理由は?
「このままいけば二〇一〇年には当社は、物流施設
だけでなくオフィスや商業施設も含めた不動産開発会
社として世界最大の資産規模を持つプレーヤーになる
はずです。 当社のほかに本当の意味でグローバル展開できている不動産開発会社を私は知りません。 不動産
事業とは本来、極めてドメスティックなビジネスです。
オフィスであればテナントは必要な場所にある不動産
を借りるなり買うなりするだけで、それが誰の持ち物
であるか、あるいは誰が仲介するかは意味を持たない。
要は場所であり、物件が全てです。 そのため通常の不
動産会社はグローバル展開ができない」
「当社の施設に入居するというのは、それとは意味
が違います。 当社は顧客の物流ニーズから入って、必
要な立地を選択し、施設をデザインする。 当社は物流
施設に特化した不動産開発会社であって、単なる不
動産会社や不動産ファンドとは違います。 そのために
グローバル展開が可能なのです。 その意味ではライバ
ルはまだいません」
19 JANUARY 2007
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