ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年7号
判断学
解体屋』がやってくる

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 第38回『 解体屋』がやってくる JULY 2005 50 大企業が外資を中心とするファンドに乗取られ、解体される時代がやって きた。
大きくなりすぎた企業には、解体されるべき必然性があるからだ。
そ うなる前に自らの手で事業の再構築をして行くことがこれからの企業の課題 となるだろう。
解体される西武王国 とうとうと言うか、予想通りと言うか、西武王国は解体 されることになった。
総会屋への利益供与事件から始まって、やがて大株主の 偽装(名義借り)事件へと発展し、それがさらにインサイダ ー取引事件となって西武王国の総帥、堤義明が逮捕、起訴 され、これによって西武鉄道グループは解体されることにな った。
堤康次郎が作りあげた西武王国は二代目の堤義明でさら に巨大化し、その義明はかつてアメリカの雑誌「フォーブ ス」で「世界一の大富豪」とされたこともあり、そして自民 党の政治家たちとも親しく、日本オリンピック委員会の委 員長にもなった人物だが、あっけなく転落し、西武王国を 解体に導いてしまった。
『淋しきカリスマ堤義明』(講談社)の中で立石泰則氏は、 これらの事件で義明が「自分を見失ってしまった」と書いて いるが、それにしても、ひところは?ワンマン経営者〞と騒 がれた男がなぜ「自分を見失った」のだろうか。
総会屋事件で摘発された会社は他にもたくさんあるし、株 主を偽装していたことがばれた会社もたくさん出ている。
そ してインサイダー取引であげられた会社も多い。
それなのに なぜ西武鉄道だけがこのような羽目に陥ったのだろうか。
はじめから誰かが意図して西武王国を解体しようとしてい たのではないか、と疑う向きもある。
そう言えば?陰謀物語〞 のように聞こえるが、しかしマスコミをはじめこの事件を契 機に書かれた多くの?西武もの〞の本はすべて堤康次郎か ら清二、義明の異母兄弟につながる複雑な家族関係や女性 関係、そして義明の性格などに焦点を当てるだけで、なぜ西 武王国が解体されるに至ったか、ということを解明したもの はない。
それはつぶれるべくしてつぶれたのか、それとも誰 かの手によってつぶされたのか。
?陰謀物語〞か ?西武グループ経営改革委員会〞という正体不明の委員会が この西武王国の解体計画で大きな役割を果たしたことはよ く知られている。
太平洋セメントの諸井虔相談役を委員長とするこの委員 会は西武鉄道、あるいはコクドの株主から依頼されたもので はなく、外部から勝手に作ったものであり、従って初めから その性格について疑義が呈されていた。
一方、この改革案が発表されると、それを待っていたかの ようにモルガン・スタンレーやゴールドマン・サックスなど が西武鉄道グループを買収する意向だと伝えられている。
も ちろんこれらの投資銀行は西武鉄道やプリンスホテル、さら にゴルフ場やスキー場などを自分たちで経営するのではない。
いったん買収したあと、これをバラバラにして転売すること によって利益を得ようとしているのである。
西武鉄道グループに対して最大の債権者になっているの は言うまでもなくメインバンクであるみずほフィナンシャ ル・グループである。
彼らが不良債権処理を政府からせまら れており、そのためあえて西武鉄道グループを解体し、それ が外国資本に渡るということになるのだろうか。
このように考えると西武王国解体の主役はメインバンクで あり、それに乗ったのが外国資本ということになる。
そうな れば、これは?陰謀物語〞として筋が通るのだが、しかしそ れだけではこの西武王国解体劇の真相にせまることはできな い。
大事なことは、西武王国自体の中に解体されなければな らない必然性があったのではないか、ということである。
そしてこのことは西武鉄道だけでなく、ダイエーやその他、 経営危機に見舞われている大企業に共通することであり、さ らに日本の大企業全体ついてもあてはまることではないか、 ということである。
・ ・ 51 JULY 2005 解体屋の時代 一九八○年代、アメリカでM&Aが大規模に行われ、そ のなかでLBO(レバレッジド・バイ・アウト)というやり 方が流行したことがある。
これは簡単に言えば、借金してそのカネで株を買占め、そ の会社を乗取ったあとバラバラにして売り飛ばして儲けると いうやり方である。
その借金の方法としてジャンクボンド (ぼろ屑債権)を発行するということが流行し、M・ミルケ ンなどがそれで大儲けした。
乗取られた会社としてはRJR ナビスコなどが有名だが、このように大企業を解体してバラ バラにして転売することで利益を得るというやり方はすなわ ち大企業を解体することが経済的合理性に適っているとい うことを意味する。
同じことがいま西武王国についても言えるのである。
大企 業が大きくなりすぎたことがこのようなことを起こさせてい るのである。
そこを狙って外資系のハゲタカ・ファンドやプ ライベート・エクイティ・ファンド、そして投資銀行が行動 を起こしているのである。
このようにみると、西武グループだけではなく、今後、日 本では外資系ファンドによる株の買占め、乗取り、そして解 体、転売が盛んになっていくことが考えられる。
いや、現に そのような動きがあちこちで展開されているのだ。
そして国内でもそのようなファンドが生まれてくることが 考えられる。
村上ファンドなどにはまだ会社を乗取るだけの 資金はないが、いずれ大きくなればそういうこともやりはじ めるかもしれない。
そこで重要なことは、このように外部勢力によって解体さ れる前に、各企業がそれぞれ自力で自発的に解体し、それ ぞれの部門を独立化させることをなぜ考えないのか、という ことである。
乗取られる前に自分たちで自立することこそが これからの企業の行き方だ。
おくむら・ひろし 1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『最新版 法人資本 主義の構造』(岩波現代文庫)。
解体される必然性 西武王国の解体は今回の総会屋事件よりずっと前に始ま っていた。
それは一九七○年、堤清二が西武流通グループ をセゾングループとして西武鉄道から分離した時に始まって いたと言ってもよいかもしれない。
よく知られているように堤康次郎が作った西武鉄道グル ープを相続したのは義明だが、異母兄の清二は西武百貨店 を拠点にして流通グループを作りあげていった。
その清二が セゾングループを独立させたのは、多くの?西武もの〞の本 ではもっぱら異母兄弟の相克としてとらえられている。
もち ろんそういう面もあったのであろうが、しかしそれは経営者 としての清二の合理的判断だったといえる。
なにより西武グループが大きくなりすぎて?大企業病〞に かかっている。
そして鉄道からホテル、ゴルフ場、スキー場 から不動産業、さらに百貨店、スーパーなどとコングロマリ ット化して経営の合理性が失われていた。
おそらくそういう 経営判断から清二は流通グループを独立させたのであろうが、 しかしその流通グループもまたその後、肥大化して?大企業 病〞にかかった。
そしてバブル経済の中で流通グループも不 動産業に手を出し、見事に失敗してしまった。
その結果、西武百貨店は倒産したそごうと統合し、西友 ストアはアメリカのウォルマートに買収され、そしてファミ リーマートは伊藤忠商事に、良品計画は三菱商事の系列に 入れられ、バラバラにされてしまった。
こうしてまず西武流 通グループが解体され、そのあと本家筋にあたる西武鉄道グ ループも解体されることになったというわけである。
そのな かには会社自体が解散に追い込まれたものもあるが、多くは 西武グループから他の大企業、あるいは外国資本の手に移 り、事業は続けている。
ということは、西武王国は解体され、 バラバラになったが、それぞれの企業は生き残っている。
た だ、資本系列が変わっただけということである。
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