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FEBRUARY 2007 2
るのですが、思うように前に進んでい
きません」
――その理由は?
「これは当社に限った話ではありま
せんが、M&Aを検討している企業
はどこでも黒字の会社を手に入れた
いと思っている。 ところが、黒字の会
社ほどM&Aの対象にはならない。 『近
鉄さんにわざわざ助けてもらわなくて
も平気だ』というわけです。 日本の景
気が良くなって企業の業績は回復し
つつある。 それがM&Aの進展を阻
害しています」
「とはいえ今後も引き続きM&Aには
前向きに取り組んでいくつもりです。
ただし、一つの案件についてじっくり
と時間を掛けていけば、成功すると
は限らない。 個人的には、案件が持
ち上がってから三〜四カ月で決着が
つかなければ、その後いくら交渉を進
めても無理だと思っています。 スピードが肝心です」
――どのような企業を買収のターゲッ
トにしているのですか?
「当社の弱い部分を補強するのが狙い
です。 とくに海上貨物に関連したサ
ービスに強い会社に興味があります。
最近は海外の企業からも『買収して
ほしい』といった提案がいくつも舞い
込んできますが、まずは日本企業か
ら手をつけていきたいと考えていま
アジア発米州向けを強化
――右肩上がりの業績が続いていま
す。
「二〇〇七年三月期も増収増益を見
込んでいます。 連結の営業収入は計
画の二八五〇億円をやや下回るかも
しれませんが、経常利益は計画値に
五億円上乗せして一一〇億円を達成
できる見通しです。 業績が堅調に推
移しているのは中国を中心としたア
ジア地域での取り扱いが拡大してい
ることが寄与しています。 アジアでの
ビジネスは利益貢献度も高い」
「日本発着の航空貨物の取扱量は増
加しているとはいえ、その伸び率は
八%程度と鈍化しています。 これに
対してアジア、とりわけ中国は悪くて
も二〇%、いい年には四〇%くらい
の成長率で取扱量が拡大し続けてい
ます。 日本に軸足を置いたままでは
もはや商売にならない。 中国を中心
としたアジア発の貨物をどうやって取
り込んでいくかが大きなテーマとなっ
ています」
――アジア発米州、欧州向けを強化
する方針を打ち出しています。
「当社は比較的早い時期からアジア各
国に進出していますが、これまではア
ジア域内や、アジアー日本間のビジ
ネスが圧倒的に多かった。 アジア発
米州・欧州向けの業界内でのシェア
はごく僅かです。 この領域は欧米の
フォワーダーたちに握られています。
このままではいかんということで、昨
年一〇月にアジア発米州・欧州向け
の拡販を担当する専門部隊を立ち上
げました。 『TPD(Trans Pacific
Development
)』と呼んでいます。 今
年一月から本格的な活動をスタート
しました」
「まずは米州向けの開拓に力を入れま
す。 昨年、当社のアジア発米州向け
の取り扱いシェアは二%程度でした。
これを二年で五%にまで高めるつも
りです。 米州向けから手をつけること
にしたのは、欧州向けの競争相手に
はDHLやシェンカーといった有力
プレーヤーが多いためです。 彼らと互
角に渡り合っていくには、もう少し時
間が掛かると判断しました」
――中期経営計画では二〇〇八年三
月期に営業収入三二〇〇億円の達成
を目標に掲げています。
「増収分のうち約三〇〇億円はM&
Aで達成する計画です。 しかし、肝
心のM&Aがなかなか成立しません。
金融機関などから案件が持ち込まれ
るのをただ待っているのではなく、こ
ちらからも積極的にアプローチしてい
近鉄エクスプレス
辻本博圭
社長
「M&Aに乗り遅れると外資にやられる」
日本では物流企業のM&Aがなかなか成立しない。 その間に
欧米の国際インテグレーターはM&Aを通じて着々と事業規模
を拡大させている。 このままでは、日本の物流企業は国際市場
での競争力を完全に失ってしまう恐れがある。
(聞き手・刈屋大輔)
す」
――日本企業に的を絞る理由は?
「海外の企業を買収しても構わないの
ですが、買収した会社には当然、当
社から人を送り込む必要があります。
しかも派遣するのは誰でもいいという
わけではない。 会社を切り盛りしてい
くわけですから、優秀な人材でなけれ
ばならない。 優秀な人材となると、当
社にも限りがあります。 これに対して
日本企業の場合、たとえ業種が違っ
ていても組織文化や習慣は似ている
でしょうから、海外企業に比べ買収
後の会社運営が比較的容易です」
――日本では物流子会社をめぐるM&
Aが活発です。 物流子会社を取り込
むという選択肢は?
「例えば日立物流さんは日本国内で
の3PLビジネスを拡大する目的で
物流子会社の買収を進めている。 こ
れに対して当社は国際物流をターゲ
ットにしている。 物流子会社にまっ
たく興味がないわけではありませんが、
当社の場合はあくまでも国際物流の
強化につながるM&Aに重点を置い
ています」
――同業である日系航空フォワーダ
ーの買収は?
「もちろん視野には入れています。 し
かし現実には難しい。 日本の航空貨
物市場のシェアはすでに当社と日通、
郵船航空の三社で五割近くにまで達
しています。 買収の対象となる四位
以下の航空フォワーダーの親会社は
鉄道会社や海運会社であるケースが
ほとんど。 親会社の経営基盤はしっ
かりとしている。 最近は業績もいい。
そのため、子会社については『利益
さえきちんと出していれば、売却する
必要もないだろう』という判断になり
ます。 逆に親会社の業績が悪ければ、
売却してしまおうという話になるかも
しれません」
三角合併解禁でも加速しない
――自社が買収されるリスクは?
「買収されるリスクがゼロというわ
けではありません。 当社の株式は親
会社の近畿日本鉄道をはじめ近鉄グ
ループ各社が四割強を握っています。
親会社のもとには世界の有力プレー
ヤーから『プレミアムをつけて買うの
で、グループで保有する株式をすべて
譲って欲しい』という要請が相次い
でいるようです。 もちろん親会社は好
業績を続けている当社を手放すつも
りはない。 それでも当社はM&Aを
仕掛ける側であると同時に、買収される可能性もある会社だと言えます。
だから買収提案を拒絶する会社の気
持ちも理解はできる」
――欧米では日本に比べM&Aが活
発に行われています。
「欧米の国際インテグレーターや有
力フォワーダーはM&Aを通じて着々
と実力をつけてきています。 しかもそ
のスピードは当初の想定よりも格段
に速い。 これに対して日本には有力
なインテグレーターが存在しません。
航空貨物の分野では日本が先進国の
中で一番遅れているのではないでしょ
うか。 このままだと日本の物流企業
は国際市場での競争力を失ってしま
います」
――なぜ欧米ではM&Aが進むので
しょうか?
「海外ではある程度規模の大きい会社
がどんどん身売りしている。 しかも業
績がいい会社でも買収提案を受け入
れる。 これは会社経営に対する考え
方の違いだと思います。 海外のオー
ナー経営者には、『業績が好調なうち
に会社を売却し、それによって得た
おカネでのんびりと余生を送ろう』と
いう発想がある。 ボードメンバーや従
業員たちもストックオプションで株式
を手に入れているため、買収に反対
しません」
「これに対して日本の場合、企業とい
うのは永遠に続いていくべきだという
考え方がある。 買収されることにマイ
ナスのイメージを抱いている。 従業員
は終身雇用が前提です。 間もなく三
角合併が解禁され、それによって日
本でもM&Aが加速すると言われて
います。 しかし依然として日本企業
のM&Aに対する拒否反応は根強い。
買収を成立させることは容易ではな
いと見ていますが、国際競争で勝ち
残っていくためにも、粘り強く交渉を進めていきたいと考えています」
3 FEBRUARY 2007
つじもと・ひろかず
1941年生まれ。 65年
近畿日本ツーリストに入
社。 70年同社からの分離
独立に伴い、近鉄エクス
プレスに入社。 88年輸出
営業部長、90年取締役、
99年専務取締役を経て、
2001年6月に代表取締
役社長に就任。
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