ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
SOLE
RAMS技術の実践例原発プラントの運用保全

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

在の保有基数は九基であるが、今後 二〇基まで増やすことを計画してい る。
日本初の設備は一九六三年に稼 動した東海の試験炉で、商業設備は 一九六六年に運転を開始した。
原子力発電の役割を認識するため に、火力発電との比較をする。
それ ぞれの発電コストは、キロワット時 画している。
さて、講演に際し、膨大な技術 を集約したシステムを素人の我々 が二.三時間で学ぼうとしても不 可能な話である。
とはいえ、主題 の原子力発電プラントの運用保全 だけを聞いても要領を得ない。
そこで講師にご配慮を頂き、? 原子力発電設備とその原理、?炉 心および核燃料、?原子炉の設計 と審査、?原子炉の運転と定期検 査、?放射線管理、?プルトニウ ムと核査察、および?まとめ――の 順でお話をお願いした。
当然ながら内容は豊富であった が、素人が原子力発電プラントを 理解するのに必要なポイントを絞 って、分かりやすく説明してくださ った。
本稿では、内容を抜粋して その概要を述べる。
世界の原子力発電プラント 世界で初めて実用規模の原子力 発電所が稼働したのは一九五六年 で、現在は全世界で四三四基あり、 建設・計画中は七一基ある。
総設 二〇〇六年十二月度のフォー ラムは、RAMS技術の実践を テーマとして、「原子力発電プラ ントの運用保全」を主題に、井 村功氏(元東京電力柏崎刈羽原 子力発電所副所長)に、現況や ロジスティクス技術の適用状況、 今後に向けた課題などにつきご 講演を願った。
RAMSとは、Reliability(信 頼性)、Availability(運用・利用 性)、Maintainability(保全性)、 Supportability(支援性)の頭文字 を取ったもので、RAMS研究会 では、長年、自衛隊での航空機運 用、その支援者としての民間航空 機製造会社のビジネスなどを研究 してきた。
現在、この分野のロジスティク スの技術書として有名な書である " LOGISTICS ENGINEERING and MANAGEMANT " (米国バージニ ア工科大学名誉教授・ブランチャ ード博士著)の要約を進めており、 その作業にSOLE有志が共同参 FEBRUARY 2007 108 SOLE日本支部フォーラムの報告 RAMS技術の実践例 原発プラントの運用保全 The International Society of Logistics 備容量は約三億七九二〇万キロワ ットに及ぶ。
運転中の原子力発電 所を持つ国は三一カ国である。
国別の設備保有基数のトップは 米国で約一〇〇基、二位がフラン スで約六〇基、日本は三位で五五 基だ。
日本の総設備容量は約四七 〇〇万キロワットである。
注目さ れているのは十二位の中国で、現 109 FEBRUARY 2007 あたりで原子力が約九円(うち燃 料費二〇%)、火力が約九.一〇円 (うち燃料費六〇.八〇%)である。
使用する燃料の重量は、年間で 火力発電が石炭二三〇万トン、石 油一四〇万トンで、原子力発電は ウラン約三〇トンである。
価格的にはどちらも大差ないよ うに見えるが、火力は原油価格や 輸送費の変動の影響が大きいとい う問題がある。
一方の原子力は、設 備コストや保全コストが高いもの の、安定操業向きで、運転期間が 長くなるほどコスト的なメリットが 増す。
原子力発電設備は敷地の広さが 一万.二万二〇〇〇平方メートル (東京ドームのグラウンド面積相当) で、主要な建物として原子炉建屋 (高さ八〇メートル)の中に原子炉 圧力容器(七〇〇トン)と炉周り の設備が収納されている。
この他 にタービンおよび発電機(一万一 〇〇〇トン)の建屋がある。
原子炉は直径約六.七メートル・ 高さ約二二メートルで、炉心や気 水分離器、湿分分離器、非常用炉 心冷却水用ノズル類が納められて いる。
この圧力容器の鋼材厚さ(一六 センチメートル)が原子力発電プ ラントの運転寿命(約四〇年)の 決め手となる。
運転寿命は圧力容 器の製造技術限界と中性子による 鋼材の脆化速度との兼ね合いで決 まってくる。
炉心は一一〇万キロワット級の 設備で七六四体の燃料集合体(原 子炉で使用される核燃料の最小単 位)や制御棒、中性子検出器、中 性子源のほか、ウランの核分裂速 度をコントロールするための再循 環ポンプ又は一〇台のインターナ ルポンプ(新しい原子炉)などが 納まっている。
これらの付帯設備として数多く の機器、配管設備、計装設備、電 気設備がある。
主要なところを列 記すると、熱交換器が一四〇基、ポ ンプが三六〇台、弁が三万台、モ ーターが一三〇〇台、計器が一万 個、配電盤が一二〇〇、配管が一 万トン・一七〇キロメートル、溶 接点数が六万五〇〇〇点、モニタ が二万カ所――などである。
原子炉の設計と審査こうした設備を安全に使用する ために、如何に安全性を重視して 設計しているか、その方策などに ついて説明する。
原子力発電プラント放射線を扱 う性質上、企画の最初から?放射 線の危険性への対処、?事故が起 きた際の地域住民への配慮などを 念頭に置いて施設設計に当たる。
こ の点は石油プラントなどの設備と 違う大きく異なる点である。
安全設計の考え方は「多重防護」 を基本にしている( 図1)。
多重防 護の柱は、「異常発生の防止」、「異 常拡大の防止」、「放射性物質の異 常放出の防止」である。
余裕のあ る安全設計、フェイルセイフ、イ ンターロックなどの予防措置も施 している。
さらに、事故の影響を 最小限に止めるための処置機能と して「止める」「冷やす」「閉じ込め る」の考え方も取り入れている。
また、放射性物質の漏れが発生 しないように、防護策として五重 の障壁、即ち第一:燃料ペレット (焼結)、第二:燃料被覆管、第三: 原子炉圧力容器、第四:原子炉格 納容器、第五:原子炉建屋――の 段階で放射線を封じ込めている。
これに加え、原子炉自体が持っ ている自己制御性の機能を設計に 取り入れている。
具体的には、? 原子炉は出力上昇に対して負の反 応度フィードバックによる固有の 自己制御性を有している、?制御 機の異常な引き抜きなどの異常操 作に対してボイド効果、ドップラ ー効果で核分裂を抑えるなどの自 己制御機能を有している( 図2)。
設計に対しては数多くの要求事 項や審査の指針およびその手続き、 環境評価の手続きが整備されており、安全設計を目指している。
原子炉の運転と定期検査 原子力発電設備の保全について は、その考え方をJEAC420 9(社団法人日本電気協会原子力 規格委員会)で規定している。
その要点は、 ?原子力発電所を安定・安全に運 転していくために原子力発電施 FEBRUARY 2007 110 業が占めている。
この背景として、 プラントの運転期間が米国に比べ て短いことと、停止中の作業量が 多いことが主として挙げられる。
具体的な分解点検作業の例を挙 げると、原子炉建屋に関しては原 子炉格納容器・原子炉圧力容器の 開放、燃料交換の実施、制御棒駆 動機構の取り外し、分解点検など があり、タービン建屋に関してはタ ービンを分解、開放して点検・手 入・検査、ポンプ類に関してはケ ーシング内面の点検・手入、イン ペラ・シャフトの点検・手入、弁 類に関しては弁体・弁座・弁棒の 点検・手入・グランド・パッキン の取替、熱交換器に関しては伝熱 菅の点検・手入・フランジ面の点 検・手入などがある。
保全に関する今後の取り組み わが国において、原子力発電プ ラントの設備利用率は低い。
これ を発電コストで見ると、原子力発 電と火力発電では一日当たり約三 億円の差が生じる。
これは原子力 発電に対する、実用以上の運転停 止や保全実施によるところが大き い。
そこで下記二点の動きが興っ てきた。
?「従来の保全」から「信頼性重 視保全」へ 運転中の機器の状態と設備の重 要度や部品・部材等の劣化状況に 応じて保全内容や頻度を適正化し ていく、「信頼性重視保全」を導入 していくことが重要との考えに移 ってきた。
?「高経年化対策」 運転開始後三〇年を迎える前に 機器・構造物の経年劣化事象を技 術的に評価し一〇年ごとに見直しを実施するガイドラインが、二〇 〇五年十二月に制定された。
右記の二点を実現するためには、 「研究開発の推進」、「規格基準類の 整備」、「保全高度化の推進」等、産 官学が有機的な連携を保ちつつ「技 術情報基盤の整備・運営」を行っ ていく必要がある。
講演のまとめとして、井村氏は 次のメッセージを提起した。
●地球を守り、人類の発展の為に 原子力エネルギーの平和利用を 推進しなければならない。
●放射性廃棄物や核兵器への拡散 等技術的、政治的課題があるが、 それらを克服する必要がある。
●我が国は特にエネルギーセキュリ ティの観点から、原子力発電を 基幹エネルギーとして位置づけ ており、しっかり技術的に支え なければならない。
●原子炉の設計、立地にあたり当 初より放射線を扱うことを前提 とし、国際ルールや設計基準な ど、きめ細かな配慮がなされて いる。
●運転及び保守の考え方も、基本 的に安全裕度を多めに取ってい る。
●そのことが結果として原子力発 電コストを若干引き上げている 面がある。
さらに安くて良いも のにして行く努力が不可欠であ る。
●原子力発電所の保守にあたり、安 全性の確保の上、より経済性を 向上させる為に、制度の改善や ITのより高度化を図って行く 必要がある。
設について重要度に応じた保全 の対象範囲を決定する ?決められた保全の対象範囲に対 し、点検の方法(予防保全(時 間計画保全、状態監視保全等)、 事後保全)、並びにそれらの実施 頻度および実施時期を具体的に 定めた点検計画を策定する ?補修、取替および改造を実施す る場合は、その方法および実施 時期を定めた計画も策定する ││の三点である。
現実には、原子力発電所は新し い知見を取り込まねばならないた め、改造を鋭意行ってきている。
東 京電力は一七プラントを保有して いるので、定期検査の停止時に常 時三〇%程度は何らかの改造をし てきている。
このような改造工事 をタイムリーに入れることが、運転 計画や予算計画などのバランスを 取る上でもポイントとなる。
わが国の保全活動の実績・特徴 としては、?原子炉の計画外自動 停止が諸外国に比べて低いこと、? 定期検査に要する日数が諸外国に 比べて多いことが挙げられる。
最近の設備利用率は、米国約九 〇%、日本約七〇.八〇%である。
被曝線量を見てみると、諸外国は 我が国に比べて低い。
我が国では 年間線量の八.九割を定検中の作

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