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を支援したいと考えていた。
世界中で高品質のサービスを提供で
きる、適応性(Adaptive)や即応性
(Responsive)の最も高い企業になる
ことを目標に、?サプライチェーンを
シームレスにし、その即応性を向上さ
せる、?お客様が何かを必要とされた
とき、一瞬の遅れもなくお客様にお届
けする、?お客様にとって真に競争力
があり即応性のある企業である――こ
とを目指した。
強いサプライチェーンは、オンデマ
ンド・ビジネスには欠くことのできな
い本質的な要件だ。 絶えず変化する環
境に迅速に対応すべく、コア・コンピ
タンスを明確にし、他社と差別化でき
るビジネス・プロセスを確立する。 そ
して、IT資源の活用度を飛躍的に改
善して、業界をリードするベスト・プ
ラクティスを描くことが必要になる。
まずは、「オンデマンド・ビジネス」
の実現へ向け、オンデマンド企業に必
要な要件と「オンデマンド・サプライ
チェーン」のゴールを次のように定義
した。
グローバルに展開する
オンデマンド企業に必要な要件
?お客様により近いところで意思決定
を行う
?人財の確立を行い、その人財をグロ
ーバルに展開する
?成長領域にリソースを迅速に投入す
る
?イノベーションのカルチャーを醸成
する
?共通の価値観に基づいて業務を遂行
する
「オンデマンド・サプライチェーン」
のあるべき姿
?お客様の要求に応え、市場のいかな
る変化にも迅速に適応できるサプラ
イチェーン
?お客様の要求に対して切れ目なく柔
軟に対応できるサプライチェーン
?お客様のニーズを発掘し活用するな
ど、お客様を起点としたサプライチ
ェーン
?様々なプロセス間の相互依存性をコ
ントロールし、生産性、効率、即応
性を向上させるサプライチェーン
?購買見積りから売掛金回収まで、E
2E(End
to
End)にプロ
オンデマンド・サプライチェーン
IBMは二〇〇三年一月、e‐ビジ
ネスの次なる段階として「オンデマン
ド・ビジネス」を提唱し、バリューチ
ェーン全体にわたる改革の必要性を訴
えた。
企業が必要としているのは、需要・
供給・価格・消費者の嗜好の変化・資
本市場・金利・石油価格・ハッカーか
ら自然災害にいたるまでの予測不可能
な事態に迅速に対応できる力であり、
あらゆる環境の変化を敏感に感じ取り、
チャンスを逃さずに対応できる力を持
つ企業が優位に立つと考えたのだ。
自らが「オンデマンド企業」として
変革し、その成功と経験をお客様に広
く展開していくことで、お客様の変革
FEBRUARY 2007 100
「オンデマンド・サプライチェーン」を実践する世界で最初の企業に
なるーーそれが新たな目標だった。 その実現のために、?戦略、?オペ
レーション、?人材を担当する三つのマネジメントチームを組織した。
そこではSCM担当者のキャリアパスまで作成された。
マネジメントチームを組織する
第2 回
セスとシステムが統合されたサプラ
イチェーン
オンデマンド・ビジネスの戦略に
合わせ、IBMのサプライチェーンを
統括する組織であるISC
(Integrated Supply Chain)の戦略
も大きく進化した。 統合やサプライ
ヤーとの連携による効率の向上、コ
ストの削減から、グロスマージンの向
上や競争優位性の確立へと発展した。
会長兼CEOのパルミサーノは当
時、「サプライチェーンはこれから主
戦場の一つになる。 そして我々は業
界で最も効率的かつ生産的なプレー
ヤーになる。 そのためには、ビジネス
の実行コストを削減するだけではなく、
グロスマージンそのものを向上させる
必要がある。 それなしには、ビジネス
環境は今以上には決して良くならな
い」と変革の必要性を強く訴えてい
る。
また、シニア・バイス・プレジデン
トでISCトップのボブ・モファット
は、「サプライチェーンのすべてのピ
ースが一つになった時にどんなことが
出来るのか。 それを実践して示して
いく必要がある。 重要なのは、大き
なコスト削減を目指すことではない。
サプライチェーンそのものを、オペレ
ーションコストの世界から競争優位
性の世界へと変革させることだ」と
述べている。
モファットはさらに、「オンデマン
ド・ビジネスに要求される俊敏性と
スピードを実現するためには、サプラ
イチェーンをどのように構築し、どう
オペレーションするのか、そしてそれ
をネットワーク化されたアライアン
ス・パートナーにどのように展開し、
どうマネージしていくのか、すべての
ビジネスにおいてサプライチェーンそ
のものを考え直さなければならない。
世界で最初のオンデマンド・サプラ
イチェーンを実践する企業となる。 そ
のために、プロセスを統合して新しい
ものに変革させるという長い道のりの
101 FEBRUARY 2007
第一歩を踏み出した」とも述べてい
る。
三つのリーディングチーム
二〇〇三年八月、オンデマンド・
サプライチェーンの実現を目指し、
?
ストラテジー
、
?オペレーティング、
?タレントの三つのリーディングチー
ムを組織した(
図1)。
?ストラテジー・チームは戦略策
定部隊であり、新規投資案件とオンデマンド・ビジネス戦略との整合性
を検討する役割を担っている。 新規
投資の策定は、外部環境を分析し、そ
の後の方向性を示唆するものだ。
例えば、我々の業界に何が起きて
いるのか、テクノロジーはどのように
変化しているのか、他社はサプライチ
ェーンでどのような試みを行っている
のかなどに対して深い洞察を行う。 事
業部門が策定する戦略を現実的な分
析で裏付け、当を得た実行可能なも
のにする。 価格や市場の成長率など、
意思決定に大きな影響を与える要素
を冷徹に検討する。
とはいえ当初、改革の多くは効果
が出ているとは言い難かった。 事実、
それぞれのサイロ(個々の事業部や
組織)の中でのみ議論が行われてい
た。 プロセスやデータを重視せず、人
財やカルチャーについての議論も行わ
ず、プラットフォームのIT化だけを
行ったからだ。
重要なのは、サイロ的な部分最適
メンタリティーを壊すことだった。 ま
た、当初に得られた効果の多くは各
サイロにおける改善から生まれており、
サプライチェーンの統合とは異なるも
のもあった。
こうした状況を考慮して、オペレ
ーティング・チームを作った。
?オペレーティング・チームはワー
ルドワイドのサプライチェーンを横断
的に監督するシニアなメンバーで構
成されるチームで、問題点を見つけ、
適切な解決策を導き実行する責任と
権限を持つ。
多くの場合、発見された問題の原
因は、サプライチェーンをまたいだ他
の組織や機能にあった。 こうした問
題を解決するため、オペレーティン
グ・チームはすべてのサプライチェー
ンのプロセスに包括的にアクセスする権限を持ち、問題の本質的な原因を
突き止め、E2Eの視点で総合的に
判断する役割を担った。
大企業のスタッフ部門は官僚的と
の批判を受けることが多い。 だが、ス
タッフ部門はいくつか重要な機能を
果たしている。 様々な性格を持つラ
イン組織間の調整を行い、重複、混
乱、衝突を回避する。
させることを目指した。
これを担うのが
?タレントチームだ。
ISCに所属する一万七〇〇〇人の
多種多様な社員を一つにまとめる必
要があった。 タレントチームの最初の
仕事は、ISC全体に戦略を浸透さ
せることだった。 それは戦略を長々と
書いて全社員に送ることではない。 そ
のようなアプローチに効果のないこと
は、過去の経験から分かっていた。
まずは誰にでも分かる簡潔で明快
な六つのPrincipals(行動原則)を策
定し、これに基づき四つの戦略目標
を定めた(
表1)。 これらはISCの
すべての活動の指針となっている。
次に、これらの行動原則と戦略目
標の全社員への浸透を図った。 IS
Cがやろうとしていることを社員に正
確に理解してもらい、自身の新しい
役割を認識して貰うことが重要だ。 タ
レントチームはこの行動規範の策定
と浸透を行った。
SCMを担う人財を育てる
IBMでは、多様なメンバーを人
種、地域を越えて一つの組織にまと
めることでビジネスを成長させてきた。
多様な特性を持つメンバーを統合す
るのは簡単ではないが、多様であるか
らこそ、より多くのアイデアやリーダ
ーを輩出してきた実績があった。
ISCの競争力向上に貢献すべく、
長期的な視点で新しいビジネス環境
に対応できる人員とスキルの開発を
行ったのもタレントチームである。
IBMは優秀な人財で支えられて
いる。 人財の育成が競争力の源泉で
ある。 最高のサプライチェーンを実現
するためには、社員のやる気を引き
出し、正しく育成するための、サプラ
イチェーンマネジメントとしてのキャ
リアパス(以下、SCMキャリアパ
ス)の確立が必要であった。
元来、IBMには評価体系やキャ
リアパスを重要視するカルチャーがあ
る。 組織と社員を変革するには、目
標や教育の徹底だけでなく、同時に、
社員の大きな関心事である給与につ
ながる評価体系やその中で成長して
いくためのSCMキャリアパスが必
要だと強く認識していた。
キャリアパスの基礎となるしくみは、
ガースナー前CEOによる九三年以
降の改革で確立されていた。 そこで
は、SCMの各職種(購買・製造・
ロジスティクスなど)について、職位
のレベル、業務内容、必要なスキル
が明確に定義されている。
各職種ともに、最上位をプロフェ
ッショナル職位と位置づけ、所有ス
キルとビジネス貢献額に基づいて、高
とりわけIBMでは、お客様の業
種(金融、製造、流通など)、製品/
ソリューション(サービス、ハードウ
ェア、ソフトウェアなど)、地域(南
北アメリカ、欧州/中東、アジア・
太平洋地域など)の三つの次元でマ
トリックスの経営管理を行っており、
この調整機能は非常に重要である。 ま
た、こうした調整を様々な側面で行
うためには、会社全体での標準の確
立が必要である。
一九九三年以降行ってきた変革に
おいてIBMは、国ごと/事業ごと
の経営から、グローバル/
事業ごと
の経営へと舵取りを大転換した(二
〇〇七年一月号図1参照)。 その新し
いグローバルな経営モデルに相応した
実行力を身につけるため、このような
マルチマトリックス型の経営管理を
確立した。
オンデマンド改革を迅速に実現す
るためには、カルチャーの変革が不可
欠だった。 変化にいかに対応し、変
化への対応をいかに浸透できるか。 た
だ変化に対応するだけではなく、変
化に対応する文化を多くの社員に浸
透させることを重視した。 サプライチ
ェーンが持つ従来の限界を、積み重
ねた知識や経験を活用して超えてい
くことを社員に考えさせる。 さらにこ
れをビジネスの多くの領域にも浸透
FEBRUARY 2007 102
位の職位への昇進を行う。 スキル育
成のための、体系的に確立された教
育プログラムを用意している。 スキル
インベントリ調査を通じて、ISC
部門全員のキャリアを確認し、ロー
ドマップにマッピングする。 スキル開
発計画はキャリア開発とも連携して
おり、トレーニングへの参加がキャリ
アアップのための条件となっている。
SCMキャリアパスを作るのは大
変な仕事だった。 これからのISC
社員は、製造、購買、グローバル・
ロジスティクス、カスタマー・フルフ
ィルメントという個別のキャリアの中
で育っていくのではなく、サプライチ
ェーンというキャリアパスの中で成長
していく。 これは大きな挑戦であった。
試行錯誤の末にできあがったのが、
図2のSCMキャリアパスだ。 IS
Cの各機能で経験を積んだマネージ
ャー以上のスキルを持つ社員を対象
とし、次の三つのレベルで構成される。
?
Supply Chain Management
Professional
・アドバイザリー・レベル(一般的
な企業における課長クラス)
・ISCにおける二つ以上の機能の
経験が必要
・標準業務経験年数は七.八年
?
Supply Chain Management
Professional and Manager
・シニア・レベル(一般的な企業にお
ける部長クラス)
・ISCにおける三つ以上の機能で、
うち一つ以上はストラテジーやビジ
ネス開発といった部門横断型の機
能の経験が必要
・標準業務経験年数は一〇.十三年
?
Supply Chain Management
Professional and Manager
・コンサルティング・レベル(一般的
な企業における理事クラス)
・ISCにおける三つ以上の機能で、
うち二つ以上は部門横断型の機能
の経験が必要
・シニア・エクゼクティブやシニア・
テクニカル・スタッフによるグロー
バル共通の年一回のレビューボード
で認定される・標準業務経験年数は十二.一六年
保有スキルは十三のファンデメン
タル・スキル(基礎スキル)と二〇
のマネジメント・スキル(管理スキ
ル)から構成され、それぞれのスキル
について五段階の能力レベルが厳密
に定義されている。
戦略的な組織への転換に伴い、持
つべきスキルは大きく変わり、スキル
育成の重要性がますます高まった。 新
たなスキルをもった人財を効果的に
育成するため、トレーニングに投資を
行い、世界規模で教育コースを充実
させた。 ミシガン州立大学の教育機
関と連携し、シニアやエグゼクティブ
に対する教育プログラムも作成した。
重要なのは、こうしたキャリアやス
キルの開発を、グローバル共通に行
っていることだ。
ISCは世界で最高のサプライチ
ェーンを目指す、高度な機能を果た
すプロフェッショナル集団である。 そ
のプロフェッショナルを、世界的に事
業を展開するお客様に合わせて、必
要な時に、いつでも素早く、効率的
に、必要な場所へ移せるようにしな
ければならない。 そのためには、人事
制度も含めたすべての体系がグロー
バルで共通化されていなければならな
い。 こうしたインフラが、オンデマン
ド・サプライチェーンには欠かせない
のである。
103 FEBRUARY 2007
もうり・みつひろ
シニアマネージングコンサルタント
製造業、外資系コンサルティング会
社を経て日本IBMに入社し、IBMビ
ジネスコンサルティングサービスに
出向中。 現在、ロジスティクス・サ
ービスの日本及びアジア・パシフィ
ック地域のリーダー。 これまで多く
のSCM/ロジスティクスの改革に従
事。 上流から下流まで幅広いプロジ
ェクト経験を持ち、グローバルに展
開するプロジェクトの経験が豊富。
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