ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
ケース
3PL長野通運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

マルコメの物流業務を一括受託 長野通運は長野市に本社を置く一九五〇 年創業の物流会社だ。
その社名からも容易に 想像できる通り、同社はもともと鉄道貨物輸送の集配部分を担う通運業を主力としてきた。
しかし、六〇年代後半以降は徐々にトラック 運送事業へと軸足を移していき、現在では物 流センターの運営から配送までを一括で請け 負う3PL事業にも力を注いでいる。
二〇〇 六年三月期の売上高は約二四億円だった。
同社の主要荷主は長野県内に生産拠点を 構える食品メーカーや飲料メーカーだ。
その 中でもとりわけ味噌メーカー最大手のマルコ メと結びつきが強い。
長野通運にとってマル コメは創業当時からの大株主であるとともに、 売り上げ比率の高い大口取引先の一つでもあ るという。
そのマルコメは現在、長野市の本社に隣接 する工場で生産した製品を、工場から車で一 〇分ほど離れた場所にある物流センターに横 持ち輸送した後、全国各地に供給している。
販売先である卸や、小売業の一括物流センタ ーへの配送は、?北海道、関東三カ所、関西 二カ所、九州の計七カ所の配送デポを経由、 ?物流センターから直送、?路線便を利用 ――のいずれかのパターンで処理している。
販売物流の領域でマルコメ自身が担当して いるのは、生産ラインから出てきた製品をパ レタイズする作業まで。
以降で発生する物流 業務はすべて物流業者にアウトソーシングし ている。
そのうち工場での荷役、工場〜物流 センター間の横持ち輸送、物流センターでの 入出荷作業、各デポへの配送、路線便業者の 管理といった物流業務を一手に引き受けてい るのが長野通運だ。
従来、マルコメでは工場から直接、全国各 地に製品を供給するとともに、工場での出荷 業務をすべて自社戦力で処理してきた。
とこ ろが、度重なる工場の増設や売り上げ拡大に 伴う出荷量の増加などで工場内スペースが手狭となったため、新たに物流センターを用意。
そこから出荷する体制に切り替えた。
同時に 物流業務の外注化に踏み切った。
もともと長野通運は工場から各地への配送 業務のみを担当していた。
しかし物流センタ ーの建設と運営を任されたのを機に、マルコ メの元請け物流業者として機能するようにな った。
「物流センターの運営がスタートした のは九五年。
ちょうど日本で3PLという言 葉が出始めた頃だった」と長野通運の宮崎一 治社長。
単にモノを運ぶだけの商売では生き 残れないという危機意識のあった同社にとっ 3PL 長野通運 技術畑出身の社長が独自に開発した スルー型拠点向け倉庫管理システム 49 FEBRUARY 2007 年商約24億円の地場物流会社。
食品メーカー向 け物流センターで活用する倉庫管理システムを自社 で開発・導入した。
「作業員に考えさせない」オペ レーションの仕組みを構築することで、誤出荷など 作業ミスの発生を防いでいる。
長野通運の宮崎一治社長 FEBRUARY 2007 50 午後は出荷のみといった具合に、入出荷のス ケジュールにメリハリがあれば、作業は比較 的進めやすい。
ところが、マルコメの場合、 工場から物流センターへの入荷は午後になっ ても断続的に行われる。
そのため、物流セン ターでは入荷と出荷の作業を同時並行で進め ていく必要があった。
一般的なスルー型セン ターに比べオペレーションは複雑だった。
「いつどのタイミングでどのアイテムがどれ だけのボリュームで入荷されるのか。
その情 報を事前に把握することができなかった。
そ のため、物流センターでは作業の予定が組め ないなど制約が多かった。
物流センターの運 営は想像以上に難しい仕事だった」と長野通 運の宮崎秀夫常務は振り返る。
実際、センターではスタート当初、ピッキ ングや方面別仕分けといった作業をすべて紙 ベースで処理していたこともあって、製品の 先入れ先出しが徹底できなかったり、誤出荷 など作業ミスが頻発していたという。
そこで 同社では新たに倉庫管理システムを導入。
物 流センターでのオペレーションのやり方を刷 新することにした。
パレット荷姿を最適化 現在、長野通運が活用している倉庫管理シ ステムにはいくつかの特徴がある。
その一つ は、作業員が指示通りに動きさえすれば、自 動的に効率的な荷揃えを完了できる仕組みに なっている点だ。
例えば、納品先Aに一〇〇 アイテムで計一〇トンの製品を供給するとし よう。
その場合、従来は一枚のパレット上に どのアイテムを積み合わせるかという判断を 作業員がに委ねていた。
そのため、パレット ごとに重量のバラツキが発生。
トラックの積 載効率を悪化させる要因となっていた。
これに対して、システム導入後は指示に従 て、マルコメからセンター運営を任されたこ とは、運送業から3PL業へ経営の舵をきる 大きなキッカケとなった。
生産即出荷で工場在庫ゼロ マルコメでは味噌を?生鮮食品〞と位置づ けている。
出来たての美味しい味噌を素早く 消費者に提供するため、工場側では在庫を持 たず、生産後すぐに出荷する体制を続けてき た。
それによって製品を生産・出荷して店頭 に陳列するまでのリードタイムを、他の味噌 メーカーに比べ二〜三日短縮。
より鮮度の高 い味噌を市場に供給することで、商品競争力 を維持してきた。
「物流センター設置後もその方針を変える つもりはなかった」とマルコメの坂口昭弥取 締役SCM本部長。
そこで新設した物流セン ターにも在庫は置かず、スルー型として機能 させ、工場から横持ち輸送した後、すぐに出 荷するオペレーションを引き続き展開してい くことにした。
マルコメの製品アイテム数は約六八〇。
出 荷量は一日平均六〇〇トンに及ぶ。
物流セン ターでは工場から運び込まれる大量の製品を 荷受け・検品し、ピッキングや方面別仕分け を済ませて、その日のうちに出荷しなければ ならなかった。
新たに横持ち輸送が加わった 分、物流センターではよりタイトなスケジュ ールでの作業を余儀なくされることになった。
例えば、工場からの入荷が午前中で終了し、 長野通運の宮崎秀夫常務 ってピッキング作業を進めていけば、一パレ ットにつき「重さ一トン、高さ一・七メート ル」という荷姿を自動的に作れるようになっ た。
しかもピッキング作業は重量のあるアイ テム→軽いアイテムという順番で進んでいく ようにあらかじめ設定されている。
誤って軽 い製品の上に重い製品を載せてしまい、荷傷 みを引き起こす心配がなくなったという。
「作業員の経験や勘に頼るのではなく、新 人でもミスなく作業を進められるようにする ためには、『作業員に考えさせない』仕組み を用意する必要があった。
各アイテムの最適 な組み合わせを弾き出すプログラムを徹底的 に作り込んでいくことで、それを実現した」 と宮崎社長は説明する。
物流センターでの入荷から出荷までの作業フローを見ていこう。
まず入荷作業。
フォークマンは物流センタ ーに到着した製品のバーコードをハンディ端 末で読み取り、パレットの段数(ケース数) を入力。
工場出荷時にハンディで読み取った 情報と照合することで入荷検品を行う。
次に フォークマンは検品が完了した製品を一時保 管スペースまで運び、製品を置いた場所(ロ ケーション番号)をハンディで入力する。
こ れで入荷が完了する。
続いて出荷作業だ。
ピッキングの指示はハ ンディを通じてフォークマンに伝達される。
フォークマンは指示されたケース数をピッキ ングした後、そのパレットの残ケース数をハ ンディで入力する。
残ケース数を基にピッキ ングした数が正しいかどうかを確認する仕組 みだ。
すべてのピッキングが終了すると、フ ォークマンはハンディに表示された「集積場 所」(荷揃えの済んだ製品を一時保管するス ペース)に製品を搬送する。
最後に配送トラックへの積み込み。
フォー クマンはハンディで作業対象となるトラック の車番を入力する。
ハンディには取りにいく べき集積場所が表示される。
フォークマンは 集積場所で荷揃えの済んだ製品をピックアッ プしてトラックに載せる。
社長自ら開発を主導 長野通運ではITを駆使したオペレーショ ンに切り替えたことで、大きな成果を上げて いる。
センターでは誤出荷など作業ミスがほ とんど発生しなくなったほか、製品の先入れ 先出しも徹底できているという。
マルコメからも高く評価されている。
「卸 さんなど顧客から求められる受注〜納品まで のリードタイムは年々厳しくなっている。
こ れに応えられているのは、物流センターの運 営がうまくいっているからだ。
長野通運さん には随分と努力をしてもらっている」と坂口 SCM本部長は満足する。
実は長野通運では今回導入した倉庫管理シ ステムを自社で開発した。
投資額は約一億円 で、開発には約三年を要した。
開発を主導したのはかつてコンピュータ会社の技術者だっ た宮崎社長自身だ。
地元長野のシステム会社 と試行錯誤を繰り返しながら共同で開発を進 め、ようやく理想とする倉庫管理システムの 完成に漕ぎ着けたという。
「システムは半分、社長の趣味でつくった ようなもの」と宮崎常務は苦笑する。
現在、 長野通運では自社開発した倉庫管理システム の外販にも力を注いでいる。
システムの開 発・販売事業が3PL事業とともに新たな収 益の柱の一つとして成長することに大きな期 待を寄せている。
( 刈屋大輔) 51 FEBRUARY 2007 ITを駆使したオペレーションに切り替えることで、作業ミスがほとんど発生しなくなった

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