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創業直後から海外進出
ベアリング製造の大手であるSKFは、今
からちょうど一〇〇年前の一九〇七年にスウ
ェーデンのヨーテボリで創業しました。 エン
ジニアであり、かつ起業家でもあったスベン・
ウィングイストは、独自のベアリングを開発
して会社を興しました。 社内には、創業して
間もない頃にSKFのベアリングを使ってス
カニア社が作った最高時速三五キロで走るト
ラックに乗ったウィングイスト氏の写真が残
っています。
創業者の発明した新しいタイプのベアリン
グはユーザーから好評でした。 スウェーデン
だけでは市場が狭すぎるため、SKFは創業
直後に、フランスやドイツ、フィンランドな
どヨーロッパ諸国に販売店を設立しました。
さらに一九一一年には、イギリスに国外最初
となる工場を立ち上げ、生産を始めました。
その後、フランスやアメリカにも生産拠点
を持ちました。 一九二〇年までに、世界二四
カ国で販売店を持つようになります。 六〇年
代の終わりには四六カ国、九〇年代後半には
それが六九カ国に増え、現在では一〇〇カ国
以上でビジネスを展開しています。 物流拠点
としては、世界九カ所に主要な物流センター
を持ち、また国ごとに在庫を抱える倉庫を持
っています(
図1)。
SKFが当初から独自のセールス部門を海
外に持ったのには、二つの理由があります。 一
つはベアリングの特許を守るためで、もう一
つは各国から直接注文を本社に集めて生産計
画や輸送計画に反映させるためでした。
SKFの現在の売上高は約五〇〇億スウェ
ーデン・クローナ(八五〇〇億円)で、二四
カ国に一〇〇工場を持ち、従業員は四万人弱
です。 ベアリング市場では約二〇%のシェア
があり、ドイツのイナや日本の日本精工、東
京光洋ベアリングと並ぶ世界のトップメーカ
ーの一つです。 ベアリングからはじまって、現
在では、鉄鋼製品、潤滑製品、メカトロニク
ス製品など多岐にわたる製品を生産・販売し
ベアリング大手のSKFは七〇年代に高コスト体質から脱するための大規模なリストラに踏み
切った。 このリストラは生産効率を高める反面、同社のロジスティクス業務を複雑にした。 その
後、ロジスティクス業務の変革を経て、物流子会社としてSKFロジスティクス・サービシーズ
を設立した。 同社のラス・フスム副社長が、親会社であるSKFのロジスティクス業務の変遷と、
子会社の今後の課題を語った。
(取材・編集
本誌欧州特派員横田増生)
欧州SCM会議報告
SKFロジスティクス・サービシーズ
親会社は二〇%のコスト削減を要求
国際ロジスティクス業務で外販獲得へ
〈第五回〉
ラス・フスム
SKFロジスティクス・サービシーズ
副社長
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ェーデンは製品A、イギリスは製品B、フラ
ンスは製品C、ドイツは製品Dだけを生産す
るといった具合に改めました。
サプライチェーンが広がった分だけ、より
正確な生産計画と輸出入を中心とする新たな
ロジスティクス業務が必要となりました。 当
時の組織図を見ると、ロジスティクス部門は、
生産部門、販売部門、マーケティング部門と
並んで位置するほど重要だとみなされていた
ことがわかります。
八〇年代に入ると、社内のコミュニケーシ
ョンを密にするITシステムを導入して、さ
らなる効率化を図りました。 同時に、ロジス
ティクス業務にも複数のKPI(重要業績評
価指標)を使って、われわれ自身が設定した
目標をどれだけ達成できたのかを測定するよ
うになりました。
九五年に物流子会社を設立
九〇年代に入り、ロジスティクス業務はさ
らに変化しました。 SKFの役員会は九二年
二月に主要マーケットであるヨーロッパのロ
ジスティクス業務を大幅に再編することを決
定しました。 再編の柱は三つで、一つは客先
への輸送サービスの品質向上、二つ目は在庫
削減、三つ目は輸送コストの削減です。
製造業者であるSKFにとって、ロジステ
ィクス業務はコアビジネスになりえません。 そ
んなSKFがロジスティクス業務を大幅に変
革するには、役員会の後押しが欠かせません
でした。 七〇年代に一カ国で一つの製品を生
ています。
七〇年代のリストラで再生
当社の売上高を地域別に見ると、西ヨーロ
ッパが五一%、アメリカが二〇%、アジアが
一七%、そのほかの地域が十二%となります。
創業以来、海外進出を進めてきたために、本
国スウェーデンでの売り上げは五%にも達し
ません。
私がSKFに入社した七〇年代は、当社に
とって大きな転換期でした。 それまでの国ご
とに生産とロジスティクス業務が完結する部
分最適のスタイルから、国の枠を取り払った全体最適の方法を導入したのです。 各国ごと
の部分最適を積み上げていった結果、生産や
人員にムダや重複部分が発生し、コスト高と
なり、競争力の低下を招いていました。
SKFのロジスティクス業務内容は、七〇
年代にはじまるリストラに歩調を合わせて大
きく変貌してきました。 社内でグローバル・
フォーカスティング&サプライ・システム(G
FSS)と呼ばれたリストラです。 このリス
トラにより、SKFはそれまで二万八〇〇〇
人だった従業員を四〇%減の一万七〇〇〇人
にまで絞り込むことができました。 このリス
トラがなければ、SKFはおそらく今日まで
生き残ることはできなかったでしょう。
七〇年代のリストラ以前は、たとえば、ス
ウェーデン、イギリス、フランス、ドイツの
各国でフルラインの製品を生産して、国内で
販売していました。 ロジスティクス業務は各
国の国内だけにとどまり比較的簡単でした。
しかし、限られた生産能力で、フルラインの
生産を行うために、大きなムダが生じるよう
になりました。 それを、各国で作る製品は一
つに絞ることで、生産規模を大きくして効率
化を図ったのです。 それまで各国の工場で、
製品A・B・C・Dを作っていたのを、スウ
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産することで、輸送網は複雑になり大きなム
ダが生じていたのです。 その頃の製品は工場
に隣接する七つの大型倉庫に保管され、各国
にある一七倉庫に運ばれるのですが、それは
「みんなが、全部の方向に輸送している」とい
った状態でコントロールが利いていませんで
した(
図2)。
ヨーロッパでの輸送を建て直すため、専用
便を使って毎日定期的に配送するルートを用
意しました。 ルートとともに輸送スケジュー
ルも作りました。 リードタイムも短縮し、コ
ストも削減することができました。 いずれの
倉庫からも、ヨーロッパ全土の輸送時間を距
離に応じて二四時間以内、四八時間以内、七
二時間以内に分けました。
また、スケジュールを組む際、注文を三つ
のタイプに分けました。 一つは顧客からの注
文が入って生産する製品。 これは工場から直
送します。 もう一つは事前の計画通りの注文。
これは工場隣接の大型倉庫から配送します。
三つ目は、客先からの急ぎの注文で、これは
各国にある倉庫から配送します。 こうして三
つのタイプの注文と配送を組み合わせること
で、効率的な輸送スケジュールを組むことが
できました。
輸送スケジュールを固定すれば、それまで
のように集荷・配送の時間を直前になって変
更したり、急便を仕立てることはできなくな
り、製造部門や販売部門などにとっては、窮
屈に感じる場面も出てきます。 しかし、ここ
で先の役員会の決定が社内を説得するのに役
立ちました。
ヨーロッパ内のロジスティクス業務の全社
的変革が軌道に乗った一九九五年に、社内の
ロジスティクス部門がSKFロジスティクス・
サービシーズという物流子会社となりました。
本社は、地理的にヨーロッパの中心となるベ
ルギーのトングレンにおきました。 二八カ所
に物流拠点を持ち、従業員は九〇〇人です。
一日に三万件の注文を受けて、二〇〇〇トン
の貨物を取り扱います。 輸送する国は一七〇
カ国で、配送先の顧客数は五万件です。 直近
の売上高は、約二億五〇〇〇万スウェーデ
ン・クローナ(四二億五〇〇〇万円)です。
SKFロジスティクスの業務内容は、イン
バウンドでは、海上輸送などを使った長距離
の輸出入業務。 アウトバウンドでは、工場か
ら出てきた製品を、ハブ拠点に搬入し、物流
センターを経由して、自社のセールス部門や
ディーラーに配送する業務と、エンドユーザ
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ーへの配送があります(図3)。 実際の輸送や
構内作業などの現場業務はパートナーである
3PL業者に任せて、SKFロジスティクス
は、全体を統括するコントロール・タワーの
役割を果たします。
外販比率は一〇%
SKFロジスティクスの組織としては、e
コミュニケーション部門、ビジネス・コント
ロール部門、パッキング&情報品質部門など、
八つの本社機能があり、私はそのなかでビジ
ネス開発部門を率いています。 それ以外に、
スウェーデンやフランス、アジアなどの七カ
所に現場を統括する部門があります。
親会社であるSKFからの、三年〜五年の
うちに、ロジスティクスにかかるコストを二
〇%削減することを要請されています。 現在
のロジスティクスコストの内訳としては、現
場業務にかかる費用が一番多く全体の七〇%
を占めています(
図4)。 これはITによる通
信費やピッキング・パッキング費用、輸送費
用などです。 次が戦術的な活動にかかる費用
で二〇%、それに戦略的な活動にかかる費用が一〇%。 戦術的な活動費用とは、どうやっ
て日々の業務を遂行するかを考える、いわば
ハウツーの部分に必要な費用のことで、戦略
的な活動費用とは日々の業務を離れた包括的
な全体像を考えるための費用です。
二〇%のコスト削減を達成するには、最も
大きな部分から手を付けていくのが定石です
から、現場費用を現在の半分以下に抑えよう
と思っています。 しかし現場費用を削るだけ
では、業務の品質低下につながる恐れがあり
ますので、IT技術を含めた戦術的な費用や、
サプライチェーン全体を見直すための戦略的
な費用の割合を増やすことで、コストを下げ
ながらも品質を維持していきたいと考えてい
ます。
こうした考えを一言でいうと、「バーチャ
ル・ロジスティクス」となります。 業界では
4PLとも呼ばれていますが、パートナーと
なる複数の3PL業者のノウハウを持ち寄っ
て、その時々で最適な業務をくみ上げていく
というものです。 ノンアセット型ですので、手
持ちの資産に縛られることもありません。
当社には、大手3PL企業からジョイン
ト・ベンチャーを立ち上げようとか、買収オ
ファーなどもきていますが、現時点ではSK
Fの物流子会社という立場を保っていくつも
りです。 そうした外部のオファーについては、
まだ機が熟していないと考えているからです。
SKFからの支払いコストを下げるためには、
外販を取り組むことでスケールメリットを出
すことも重要になります。 数年前から外販に
取り組んできた結果、現在では売上高の一
〇%が外販から上がるようになりました。
当社の競争優位性は、?インバウンドから
アウトバウンドまでのサプライチェーン全体
の業務を統括できること、?製造業に特化し
た高いノウハウを持っていること、?世界規
模でのインフラを持っていること、?ISO
9000シリーズやISO14000シリー
ズの取得によって業務の標準化が完了してい
ること――などが挙げられます。
SKFロジスティクスは現在、二〇社以上
の企業、主にメーカーのロジスティクス業務
を請け負っています。
たとえば、グラコ(Graco)というアメリカに本社を構えるスプレーメーカーの場
合、当社のトングレンの倉庫を、グラコ・ヨ
ーロッパのハブ拠点として使っています。 グ
ラコの工場から毎日シャトル便で運ばれてく
る製品を、仕分けして、ヨーロッパ全域へ輸
送しています。
またコンピュータ部品のメーカーであるフ
ィンランドのEVOXRIFA社やフランス
では板ガラスのメーカーであるサンゴンバ社
などにも同様のサービスを提供しています。 今
後も、外販の取り組みに一層力を入れていき
たいと思っています。
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