ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2007年2号
現場改善
物流子会社L社の3PL事業強化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2007 104 割高な人件費が負担に L社は電機メーカーの物流子会社である。
全 国一〇カ所に物流センターおよび営業所を展開 している。
うち四カ所は親会社の工場に隣接す るかたちで拠点を構え、工場の構内物流、在庫 管理、出荷処理、輸配送、一部近隣のサプラ イヤーからの調達物流までを手がけている。
他 の六カ所の拠点は物流需要のある東京、名古 屋、大阪のほか、北海道、中四国、九州に配 置している。
現在の年商は約三〇〇億円。
売り上げの内 訳は親会社向け物流事業が約半分。
残りの半 分は親会社以外の外部荷主向け、いわゆる ?外販〞で稼いでいる。
さらに来期から始まる 中期経営経計画では、現在の年商の約三〇% に当たる九〇億円の売り上げ拡大を、3PL 事業の強化によって達成するという目標を掲げ ている。
そんなL社のY専務から連絡が入った。
L社 と弊社日本ロジファクトリー(NLF)とは既 に五年ほどの付き合いがある。
先代社長の時代 に我々が課題解決を請け負ったのをきっかけに、 その後も現場改善、人材紹介、研修など、様々 なテーマでコンサルティングを行ってきた。
Y専務とも当然、面識があった。
L社のキー マンである。
物流子会社の通例として、L社で も社長をはじめとした経営陣の多くは親会社か ら赴任し、定期的に交代している。
それに対し てY専務はL社のプロパー社員として入社し、 役員まで上り詰めた叩き上げで、L社をこれま で引っ張ってきた実務面でのリーダーであった。
次期経営計画の達成は、Y専務の手腕にかか っていると言っていい。
我々は改めてL社の本社を訪問した。
その席 でY専務は「今までも当社なりに提案力の強化 や、現場改善には積極的に取り組んできた。
しかし自社だけではもう限界にきている。
さらに 競争力のある会社にするために、社外の力も活 用したい」と、今回のプロジェクトの背景を説 明した。
これまでのコンサルティングを通して我々は、 L社の強みと課題について、かなりのレベルで 把握しているつもりであった。
そのため今回は、 過去のプロジェクトで対象外となっていた現場 や、各種内部情報を確認することから進めてい った。
具体的には東京、大阪以外の八カ所の物 流センターを視察し、現場運営力や管理職の資 質などをチェックした。
また内部情報としては、 コスト構造に焦点をあて、様々な数値資料を検 証した。
第49回 中期経営計画で3PL事業の強化による大幅な売り上 げ拡大を目標に打ち立てた。
その達成には、提案営業力 の強化と物流子会社特有とも言える高コスト体質の改善 が必要であった。
社内の力だけでは改革は難しい。
経営陣 はそう判断した。
物流子会社L社の3PL事業強化 105 FEBRUARY 2007 仕方には二つのパターンがある。
?自社ではア セットを全く所有せず、全て傭車し、管理のみ に専念する。
?一定量(一般的には一〇〇台 〜二〇〇台まで)を基準に自社所有し、それ以 上の物量は傭車で対応する、というやり方であ る。
L社は後者だった。
一〇トン車、四トン車、 二トン車を中心に、約一五〇台の車両を自社 で所有していた。
そのドライバーの給与水準は 相場の約一・三倍となっていた。
提案失敗のパターン これらの調査の後、Y専務と再び打合せを行 った。
我々は以下の三つの改革テーマを提示し た。
いずれも、基本的な内容である。
?提案営業力の強化 ?全社レベルでの現場運営力の強化 ?ローコストオペレーション このテーマを見て、L社が本当に3PL事業 で九〇億円もの売上げを作れる会社なのか、は なはだ疑問だと感じる読者もいるだろう。
しか しL社には、物流コンペで負け越さない一定の 提案力が既に確立されていた。
大手日雑卸のセ ンター運営など、実績もあった。
つまり実力は あった。
ただし、その力は会社の一部に偏在し ており、全社的に敷衍されてはいなかった。
そ こに、さらなる改善余地があると我々は判断し たわけである。
具体的な取り組みとしては、まず「? 提案 営業力のさらなる強化」と「? 全社レベルで の現場運営力の強化」を同時に進めて、その後 現場視察、スタッフへのヒアリング、そして データチェックなどの一連の作業には、約一カ 月半を要した。
その結果、我々がそれまで認識 していたL社の概要と、現場の実態には、かな りのズレがあることが分かった。
今回の実地調査をするまで我々は、L社の現 場運営能力を特別に強いとは言えないまでも、 一定の対応力はあるものと認識していた、実際、 親会社の工場に隣接する四拠点では、メーカー 系ならではとも言える高いレベルの品質管理が 徹底されていた。
また残りの東京と大阪の二つ の拠点も、競争の激しい地域だけに一定のレベ ルにはあった。
ところが、それ以外の地方の四拠点の現場運 営能力は、はっきりと?弱い〞と言わざるを得 ないほどレベルが低かった。
現場は乱れていた。
「整理」、「整頓」をはじめとした「5S」どこ ろではない状態であった。
商品の取扱いや在庫 管理においても、現場のスタッフが基本を教え られていないため、その日の入出荷をこなすだ けになっていた。
これでは全国展開している大 手の荷主企業に対して、3PLを提案するのは 不可能であろう。
またL社のコスト構造も想定外の内容であっ た。
具体的な数字は明らかにはできないが、「人 件費」そして「自社配送費」「減価償却費」が 大きな負担となっていた。
総じて物流子会社の 一人当たりの人件費は一般の物流会社よりも 高い。
L社の場合、それが他の関東圏の地場物 流会社と比べて約一・四五倍の水準にあった。
「自社配送費」も、その中身の過半は人件費 である。
一般に物流子会社の輸送力の確保の で「?ローコストオペレーション」に着手する という計画を立てた。
「?提案営業力のさらなる強化」については、 今回のプロジェクトの前年に、東京と大阪に分 かれ、我々NLFが営業スタッフに対する実務 研修を行っていた。
その演習の様子などから、 少なくとも主要メンバーの提案のスキルは、か なりのレベルまで引き上げられていることが確 認済みだった。
そこで今回は「実践」をテーマ に置いた。
スキルレベルが中級クラスのメンバーを対象 にして、提案営業に我々NLFが同行すること にした。
我々も「企画室長代理」という肩書き でL社の名刺を持ち、営業に出向いた。
営業交 渉中の荷主を事前に「既存拡大」先と「新規 開拓」先に分けてリストアップした。
そのうち 「既存拡大先」二社、「新規開拓先」二社の計 四社に同行した。
「既存拡大」では、既に業務を請け負ってい る荷主に対して新たな提案をして、業務委託範 囲を拡大するというアプローチをとる。
現状業 務の「前工程」や「後工程」など、作業連動性 の強い業務の外注化を提案するというのが正攻 法である。
ところが、L社の営業スタッフの提案は、自 社開発した「WMS(W a r e h o u s e Management System:倉庫管理システム)」 の導入を勧めようという意識が強過ぎた。
これ は失敗する提案営業の典型であった。
本来、荷 主のニーズに対して提案しなければならないと ころを、自社の都合から提案してしまっている のである。
FEBRUARY 2007 106 「既存拡大」の提案のベースになるのは、そ の荷主企業の物流現場の具体的な将来イメー ジである。
既に顧客となっている荷主の物流を、 今後どのように展開すれば良いのか。
業務フロ ーの流れ、拠点のあり方、外注化の度合いとそ の内容、システム化を行うとすれば、どの業務 から行うかなど、3PL事業の営業スタッフは 明確にイメージできていなければならない。
そ こで必要とされる構想力がL社の営業スタッフ の共通の課題であった。
一方、「新規開拓」にあたっての提案書の作 成力、プレゼン力などは申し分なかった。
ただ し荷主からの質問に対して、しどろもどろにな る場面も少なからず見られた。
特に「誤出荷を なくしていくには、L社ではどのような方法を 取っているのか」、あるいは「緊急出荷やイレ ギュラーな業務が発生した場合の対応はどのよ うにしているのか」など、現場の運営品質に関 わる質問への応答が、全くと言えるほどできて いなかった。
L社の場合、営業スタッフにも全員現場作 業を経験させている。
ただし、その期間は六カ 月から三年までとバラつきがあり、営業スタッ フが現場を熟知しているとは言い難い。
現場作 業が本人の中できちんと整理され、ルール化さ れていなければ、先のような運営品質に関する 質問にはスムースに対応できない。
とはいえ営業スタッフに現場運営の品質およ び管理の具体的な手法を教え込ませるのには相 当な時間がかかる。
向き不向きなど個人差も出 てくる。
いかに優秀な営業スタッフといえども 万能ではない。
そこでY専務にこれらの状況を 報告し、我々NLFが提唱する「現場はショールームである」という原則を実践に活かしたい と提案した。
具体的には、提案が現場運営のテーマに差し かかる二次営業と三次営業の間の期間に、荷 主の担当者にL社の東京もしくは大阪の物流セ ンターを見学してもらうように働きかけるので ある。
それによってL社の現場品質を荷主にア ピールしようというわけだ。
Y専務は諸手を挙 げて賛成してくれた。
営業会議でその旨を伝え、 実践するようすぐに指示を出した。
社内コンサルタントを育成 「?全社レベルでの現場運営力の強化」に関 して、方法は一つしか見当たらなかった。
東京、 大阪両物流センターの持つノウハウの横展開で ある。
両センターの現場運営力を向上させた改 善担当者に残り四カ所の現場を改善させるので ある。
そのために当初は東京、大阪のセンター 長補佐クラスで、かつ独身者の二名の地方転勤 をY専務に提案した。
しかし「本人たちの抵抗 が強い」という理由から、この人事異動は見送 られた。
それに代えて、改善実績のある東京のセンタ ー長M氏と、大阪のセンター長補佐T氏を「社 内コンサルタント」として位置付けることにし た。
M氏は北海道と名古屋、T氏は中・四国 と九州を担当し、それぞれの改善責任者を現業 と兼務させるわけである。
彼らが本籍を置くセ ンターには幸いにして若手メンバーが育ってい る。
またこれを機に若手の引き上げを図るとい うY専務の方針も出た。
それでも東京、大阪の両センターでは、キー マンの不在による品質低下の懸念がぬぐえない。
そのため社内コンサルタントの日数管理を行っ た。
東京のセンター長のM氏は出勤日数の三分 の一を地方の二カ所の改善日に充てる。
同様に 大阪のセンター長補佐T氏は最大で二分の一ま でを改善日に充てることができる、という形で 上限を設けたのである。
「?ローコストオペレーション」は困難な改革 であった。
物流子会社のコスト競争力を阻害し ている最大要因が「人件費」であるのは動かし がたい事実である。
しかし、いくら一人当たり 人件費が割高だといっても、物流子会社の賃金水準自体にメスを入れるケースは稀だ。
少なく とも私は耳にしたことがない。
それは親会社を 含めた企業グループのプライドであり、そこま での改革が避けられないくらいであれば、むし ろ物流子会社の売却という方法を採るのが普通 なのだろう、と私は捉えている。
そこでL社のローコスト化では、現状のコス トをいかに削減するかというアプローチではな く、現状のコストでどれだけの売り上げをつく れるかということに照準を定めた。
具体的には、 まず既存拠点の保管効率を高めることで空きス ペースをつくり、外部荷主を入れるという取り 組みを進めた。
107 FEBRUARY 2007 一般に物流子会社のコストは割高とされるが、 逆に物流子会社であるがゆえに、コスト的なメ リットを享受できている場合もある。
例えば親 工場の隣接地や親会社が所有する土地に物流 センターを建設する際、安価で土地を借りるこ とが多いため、地代家賃は相場の二分の一から 三分の一に設定するケースが珍しくない。
しか しL社の場合は違った。
とりわけ東京センター の倉庫賃料は土地取得を自社で行ったため、月 当たり坪七〇〇〇円と、周辺の倉庫賃料と比 較して三割も高い。
これでは競争力どころでは ない。
新規獲得は困難である。
L社は親会社の経営方針の影響もあり、安 全対策には特に力を入れている。
そのため庫内 のレイアウトも作業スペースにかなりの余裕を 持たせていた。
そのメリットは活かしつつも、 パレットを多層積みするためのネステナーラッ クや重量ラックを購入し、面だけでなく縦を活 用することで保管許容量を増加させた。
その結 果、満庫状態にあった東京物流センターで新た に約八〇〇坪の空きスペースを生み出すことが できた。
これによって新規荷主を受け入れる体制が整 った。
同時に今までは最低でも二〇〇坪クラス からの荷主を営業のターゲットにしていたが、 一般の営業倉庫が対応している一〇〇坪未満 の中小規模の荷主の仕事も積極的に受注する ように企業方針を改めた。
輸送に関しては自社車両台数に一五〇台と いう枠があるため、傭車比率を上げる方向に動 いた。
ただし、長年にわたる取引実績のあるL 社専属の数社の運賃水準は相場より一割程度 高かった。
積載効率の面でも帰り荷の確保がで きていなかった。
そのため協力運送会社の数を 増やすことにした。
我々NLFの紹介や入庫車 両会社などを中心に相見積りをとり、新たに三 社と契約し、配車の選択肢を増やした。
右記のようにL社のローコスト化を進めた。
同時に営業面では、「工場並の品質」と、「準工 業化センターとしての付加価値のある流通加工 業務」をL社の売りとして明確に位置づけた。
また相場に対して割高な賃貸料を吸収するため、 流通加工業務と組み合わせた新たな料金表を 作成した。
取り組みから半年が経ち、L社のコンペでの 勝率は上がってきた。
しかし高コスト体質の改 善はまだ道半ばである。
物流会社の3PL展開 ――それは子会社から、自立した別会社への脱 皮を条件とする。
容易なことではない。

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