*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。
JULY 2005 16
顧客の声をサービスに反映
昨年末あたりから今年四月にかけて、物流各社には
既存の荷主企業から個人情報保護法に関連した問い
合わせが相次いだ。 最も多かったのは運送委託契約の
中身を早急に見直したいという話。 簡単に説明すれば、
これは運送委託契約書の中に「輸送中などに個人情
報が漏えい場合には物流企業がすべて責任を負う」と
いった内容の一文を新たに盛り込んでほしいという依
頼であった。
そして次に多かったのが「個人情報を含んだ貨物を
安全・確実に輸送してくれるサービスはないのか」と
いう問い合わせ。 盗難や紛失などの事故から貨物を守
るのに最適なのは警備輸送だが、そこまでコストは掛
けられない。 もう少し手軽に、しかも万一の時にはあ
る程度の金額が補償されるサービスがいい。 宅配貨物
の三〇万円という補償額では少なすぎる――といった
内容だった。
こうした顧客企業からの要望に応えようと、物流各
社は個人情報を含んだ貨物を対象にした新サービスの
開発、販売を急いでいる。 業界最大手の日本通運は
昨年一月、書類や磁気テープ、CDなど個人情報を
含んだ貨物に焦点を当てた新サービス「プライバシー
ガード」を開始した。 このほかにも阪急交通社や名鉄
ゴールデン航空などが既にこの分野に進出している。
各社の新サービスの特徴は一般的な貨物輸送サー
ビスに比べ事故発生時の補償額を大幅に引き上げて
いる点だ。 例えば、CDが破損した場合、これまでの
サービスではCDそのものの実損額しか補償されなか
ったが、新サービスではCDに記録されているデータ
も補償の対象に加わるようになった。 補償額は各社に
よってバラバラだが、おおよそ一〇〇〇万〜五〇〇〇
万円程度に設定されている。
近鉄エクスプレスのグループ会社、近鉄ロジスティ
クス・システムズ(KLS)も今年四月に個人情報
貨物を対象にした新サービス「プロテクト・エクスプ
レス(プロテックス)」を発売した。 ちょうど同じタ
イミングで個人情報保護法が施行されたこともあって、
サービスを開始して以来、「金融機関や情報処理会社
など個人情報を扱っている企業から新サービスに対す
る問い合わせが殺到している」(小池信一営業部開発
グループ担当課長)という。
「プロテックス」は法人のみが利用できるサービス
で、対象エリアは関東・関西・中部・九州・北海道
の主要都市。 利用者は一般貨物での運送契約とは別
に、新たにKLSと「プロテックス」の運送契約を交
わす必要がある。 料金は一般貨物の運賃プラス一〇
〇〇円。 事故発生時には一〇〇〇万円を上限に補償
する。 利用者は補償金を事故後に生じる法律相談費
用や見舞金費用などに活用することができる。 オプションサービスも充実している。 貨物が開封さ
れていないかどうかを確認できる「改ざん防止ラベル
(封印シール)」を用意した。 価格は一枚五〇円。 一度
ラベルを剥がすと「開封済み」の文字が浮き出る仕組
みだ。 さらにメールバッグやジュラルミンケース用と
して「インシュロック(封印バンド)」を開発。 こち
らは一本一〇〇円で提供している。
盗難事故に遭ってしまった場合に備えて、貨物の位
置情報をリアルタイムで把握できるシステムも用意し
た。 対象貨物の中に電波を発信する機器を同梱、P
HS通信網を利用して貨物の現在位置を特定すると
いうものだ。 一輸送当たり五〇〇円で利用できる。 P
HSを採用したのは地下に貨物が移動しても発信機
からの電波をキャッチできるためだという。
Case Study――近鉄ロジスティクス・システムズ
個人情報に特化した新サービスを開発
今年4月、個人情報を含む貨物を対象にした新サービス
を開始した。 通常の運賃プラス1000円で、事故発生時には
最大1000万円まで補償する。 さらに今年7月からはグルー
プ会社と連携して輸送から保管、破棄までを一括して請け
負うサービスにも乗り出すという。 (刈屋大輔)
第2部法規制をビジネスチャンスに転化
17 JULY 2005
特集1 個人情報保護法の衝撃
一般貨物とは別にオペレーション
「プロテックス」の集荷〜配送までの流れはこうだ。
まずKLSのドライバーが顧客企業から貨物を預か
る。 その際、貨物を出す側とドライバーは必ず専用チ
ェックシート(マニフェスト)で授受確認を行う。 誰
から誰へ貨物が手渡されたのかをシートにきちんと記
すことで、責任の所在を明確にしている。
続いて発ターミナルでの仕分け。 顧客企業から集荷
した貨物の仕分け作業は一般貨物とは別のスペース
(PVルーム)で処理される。 PVルームには監視カ
メラを設置。 さらに登録者以外はPVルームに出入り
できない仕組みにした。 紛失防止のため、仕分け作業
はすべて手作業で行い、自動仕分け機は使用しない。
次に方面別に仕分けられた貨物を「プロテックス」
専用のコンテナに格納する。 その後、貨物は幹線輸送
を経て着ターミナルへ運ばれる。 幹線輸送では「プロ
テックス」の貨物と一般貨物を混載するが、トラック
内では双方の貨物を別々のコンテナで管理している。
着ターミナルでは発ターミナルとほぼ同じ作業が行
われる。 施設のセキュリティレベルも発ターミナルと
同じ水準が保たれている。 作業は監視カメラ付きのP
Vルームで処理。 仕分け作業後、着ターミナルのドラ
イバーが「プロテックス」の貨物を配送するが、その
際にもドライバーはきちんと授受確認してから届け先
に荷物を手渡すようにしている。
KLSでは業務システムの「ルーパス(Logistics
Providing and Solutions System
)」を通じて集荷〜
配送までの流れをトレース(追跡)している。 利用者
はインターネットでホームページにアクセスし、同シ
ステムに伝票番号を入力すれば、「集荷」、「配達開始」、
「配達完了」といった作業状況を照会できる。
輸送〜保管〜破棄までを提供
「プロテックス」は販売開始からまだ三カ月程度し
か経過していないこともあって、「一日当たりの取扱
件数は外部に公表するほどでもない」(同社)。 ただし、
企業からの引き合いは日を追うごとに増えており、拡
販の手応えは掴んでいるという。
当初、KLSでは「プロテックス」の対象貨物とし
て主に紙媒体やデータ媒体などを想定していた。 しか
し、最近になって新たにパソコンやサーバーなどコン
ピュータ関連機器のやり取りに「プロテックス」を利
用したいという声が寄せられるようになった。
「故障したパソコンを修理会社に送ったり、異動な
どに伴うオフィス間の移動で利用できないかという打
診だった。 確かにパソコンには個人情報が蓄積されて
いるケースが多い。 こうした要請を受けてパソコンも
対象に加えている」と小池課長は説明する。
さらにKLSでは今年七月から個人情報の入った貨物を物流センターで保管するサービスも開始するこ
とにした。 保管場所は東京・品川の「KLS東京タ
ーミナル」だ。 同施設は監視カメラや電気錠を導入し
ているほか、有人警備の実施などセキュリティ体制が
整っている。 KLSでは利用者のオーダーに応じて同
施設から個人情報の入った貨物を「プロテックス」を
使って出し入れするサービスを提供していく計画だ。
また、オプションサービスとして?破棄〞も請け負
う。 同じくグループ会社で、リサイクル事業など環境
関連ビジネスを展開している近鉄エコロジスティクス
と協力して、個人データを抹消したり、媒体そのもの
を処理する。 KLSでは最終的に「個人情報の輸送
から保管、処理までをワンストップで提供できる体制
を目指している」(小池課長)という。
KLSの小池信一営業部
開発グループ担当課長
「プロテックス」の料金は一般貨物の運賃プラス
1000円。 封印シールなどオプションサービス
も充実している
|